平成28年 消費者契約法改正について

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INDEX


はじめに

  1. 消費者契約法改正の概要
  2. 改正の経緯
  3. 不当勧誘規制に関する改正
  4. 不当条項規制に関する改正
  5. 終わりに

 はじめに

※ こちらのコラムは2016年9月に書かれたものです。

平成28年3月4日、「消費者契約法の一部を改正する法律案」が国会に提出され、5月25日、「消費者契約法の一部を改正する法律」(以下「改正法」といいます。)が成立しました(施行は来年2017年6月3日です(一部除く))。

消費者契約法は、一般に情報力・交渉力に劣る消費者を保護すべく、契約の取消しと不当な契約条項の無効を柱とする法律ですが、改正法では、高齢化の進展を始めとした社会経済情勢の変化等に対応し、より手厚い消費者保護に資するよう、①不当勧誘規制及び②不当条項規制等を強化・拡大する内容の改正を行うこととされました。

消費者契約法は、B to Cビジネスを規制対象とする法律ですが、一般消費者との取引を中心とするビジネス、とくにネットビジネスを展開している企業にとっては大きな影響力を持つ法律であり、改正法により、たとえばこれまで実務上一般に規定されていた、「お客様からの契約後のキャンセル・返品、交換には一切応じられません。」といった条項や、「一定期間内にお試し商品を返品しない限り、サービスを受諾したものとみなして有料サービスへ自動移行します。」といった条項は今後は無効となる可能性があり、実務上は大きなインパクトを伴う改正といえます。

そこで、本記事では、消費者契約法改正について、改正法が施行される前に要点を抑えていただくべく、その概要を解説することとします。なお、とくに重要な項目については☆マークを付しています。 

 

 1 消費者契約法改正の概要

消費者契約法とは、消費者を保護するため、①事業者が消費者契約について勧誘をするに際して、一定の不当な行為をした場合に消費者に取消権を付与したり、②消費者契約において使用された、一定の不当な条項については無効であるとしたりしている法律です。

消費者契約法は、消費者と事業者との間の情報及び交渉力の格差に鑑み、契約の取消し及び契約条項の無効等を規律しており、広く消費者契約一般に適用される民法の特則です。

今般の改正では、高齢化の進展を始めとした社会経済情勢の変化等に対応するものとされ、不当勧誘に関する規律と、不当条項に関する規律をそれぞれ拡充しています。

改正消費者契約法の概要については、下記イメージ図をご参照ください。

【改正法の概要イメージ消費者庁HP「概要」より(消費者庁サイト)

平成28年 消費者契約法改正について

【画像クリックで拡大します】

以下、本記事では、今般の改正の経緯について簡単にご紹介した後、今般の改正の骨子である、①不当勧誘規制の強化、②不当条項規制の改正を中心に、改正内容について説明していきます。

 

 2 改正の経緯

消費者契約法の改正に至る経緯をまとめると、概要以下のとおりです。

【消費者契約法改正の経緯】

2001年4月

消費者契約法施行

2014年3月〜10月

運用状況に関する検討会

2014年10月〜

消費者契約法専門調査会(2015年12月報告書)

2016年1月7日

消費者委員会による答申

2016年5月25日

「消費者契約法の一部を改正する法律」成立

2017年6月3日

改正法施行(一部規定を除く)

 

 3 不当勧誘規制に関する改正

改正消費者契約法では、不当勧誘規制に関する改正として、以下の4点が規定されています。

① 過量契約の取消権の創設(改正法4条4項)
② 重要事項範囲の拡大(改正法4条5項各号)
③ 取消権の行使期間の伸張(改正法7条)
④ 取消の効果(改正法6条の2)

以下、それぞれの改正内容について紹介していきます。

 

1. 過量契約の取消権の創設(☆)


改正法では、事業者が、消費者に対して、過量契約に当たること及び消費者に過量契約の締結を必要とする特別の事情がないことを知りながら勧誘して契約を締結させたような場合に、取消しを認める規定を新たに創設しています(改正法4条4項前段[1])。

【過量契約の取消権の要件】

①  過量契約であること
②  事業者が過量契約であることを知っていること
③  事業者の勧誘によって消費者が意思表示をしたこと

ここで、「過量契約」とは、事業者から受ける物品、権利、役務等の給付がその日常生活において通常必要とされる分量、回数又は期間を著しく超える契約をいいます。

事業者にとっては、何をもって「通常の分量等を著しく超える」(=過量)とされるかが最大の関心事となりますが、消費者契約法専門調査会での議論によれば、本規定は、公序良俗違反や不法行為で対応されてきた事案を念頭に置いたものとされており、あまりに広範に「過量」と認定されるものではないと思われます。

また、「過量」の目安として、公益社団法人日本訪問販売協会が公表している、「『通常、過量には当たらないと考えられる分量の目安』について」(平成21年10月8日)が参考になるものと思われます。

【「過量」の目安[2]】

商品・役務

内容

分量の目安

健康食品

保健機能食品を含む

1年間に10ヶ月分/人

アクセサリー

ネックレス、指輪、ブレスレット等

1個/人

寝具

掛布団、敷布団、枕等

1組/人

健康機器

家庭用医療機器を含む

1台/世帯

化粧品

化粧水、乳液、クリーム等

1年間に10個/人

学習教材

小中高の学習教材

1年間に1学年分/人

住宅リフォーム

屋根・外壁等の住宅リフォーム全般

1工事/築10年以上の1戸

また、改正法4条4項後段[3]は、事業者Aが消費者に商品を買ってもらうべく契約した際に、その消費者が既に同じ商品を別の事業者Bからも購入しており、A・Bから購入した商品を合計すると「過量」に当たることをAが知っている場合、Aとの売買契約を当該消費者は取り消すことができる旨規定しています。この場合も、「過量」の解釈について、前段と同様の議論が参考となるものと思われます。

 

[1] 具体的には、改正法4条4項前段は、「消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、物品、権利、役務その他の当該消費 者契約の目的となるものの分量、回数又は期間(以下この項において「分量等」という。)が当該消費者にとっての通常の分量等(消費者契約の目的となるものの内容及び取引条件並びに事業者がその締結について勧誘をする際の消費者の生活の状況及びこれについての当該消費者の認識に照らして当該消費者契約の目的となるものの分量等として通常想定される分量等をいう。以下この項において同じ。)を著しく超えるものであることを知っていた場合において、その勧誘により当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。」と規定している。

[2] 平成21年10月8日付公益社団法人日本訪問販売協会「『通常、過量には当たらないと考えられる分量の目安』について」(http://jdsa.or.jp/wp-content/uploads/2015/03/quantity-guideline.pdf)を参照。

[3] 具体的には、改正法4条4項後段は、「事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、消費者が既に当該消費者契約の目的となるものと同種のものを目的とする消費者契約(以下この項において「同種契約」という。)を締結し、当該同種契約の目的となるものの分量等と当該消費者契約の目的となるものの分量等とを合算した分量等が当該消費者にとっての通常の分量等を著しく超えるものであることを知っていた場合において、その勧誘により当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときも、同様とする。」と規定している。

 

2. 重要事項範囲の拡大(☆)


現行の消費者契約法(以下「現行法」といいます)4条1項1号は、不実告知による取消しとして、「重要事項」について、「事実と異なることを告げること」によって、消費者が「告げられた内容が事実である」と「誤認」した場合には、消費者は当該意思表示を取り消すことができる旨規定しています。

そして、現行法では、「重要事項」とは、

①  契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの

かつ(and)

②  (i) 物品、権利、役務その他の契約の目的となるものの質、用途その他の内容

又は(or)

(ii)物品、権利、役務その他の契約の目的となるものの対価その他の取引条件

と規定しており、たとえ契約締結に至った動機について不実告知(=ウソ)がなされたとしても、「契約の目的となるもの」自体について不実告知がなされなければ、取消の対象とならないこととされていました。

たとえば、ある男性が眼鏡店で視力検査を勧められて検査をしたところ、視力の低下が認められず、実際には運転に支障を生じるような視力ではなかったにもかかわらず、「自動車の運転に支障が出ますよ」と言われてメガネを購入した場合、「契約の目的となるもの」であるメガネそのものの効用(=視力が改善する)についてはウソはつかれていないため、現行法では取り消すことができないこととなります。

しかし、契約の締結を必要とする動機についてウソを告げられた結果、この男性は本来必要のない契約を締結しており、こうした被害も現に発生していることから、動機に関する不実告知についても取消の対象として追加すべく、重要事項に「消費者が当該消費者契約の締結を必要とする事情(=動機)に関する事項」を追加して列挙する改正を行っています。

具体的には、改正法により、「重要事項」として、以下のとおり②(iii)が追加されることとなります。

① 契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの

かつ(and)

② (i) 物品、権利、役務その他の契約の目的となるものの質、用途その他の内容

又は(or)

(ii)物品、権利、役務その他の契約の目的となるものの対価その他の取引条件

又は(or)

(iii)消費者が当該消費者契約の締結を必要とする事情に関する事項
*(改正法により追加)

かかる改正により、前述のメガネの例で言えば、メガネを購入しようとした動機(視力が低下し、運転に支障が出る)について不実告知をされたためにメガネを購入したことから、「重要事項」である「消費者が当該消費者契約の締結を必要とする事情に関する事項」についての不実告知として、男性はメガネの購入を取り消すことが可能となります。

 

3. 取消権の行使期間の延長


現行法では、取消権の行使期間について、「追認をすることができる時から6ヵ月」(短期の行使期間)、または、「消費者契約の締結の時から5年」(長期の行使期間)と規定されています。

改正法により、短期の行使期間について、6ヶ月間から1年間に伸張されることとなります(改正法7条1項)。

 

4. 取消の効果


現行法上、消費者が取消権を行使した場合の返還義務の範囲は現存利益の限度(取得したすべての利益から、費消、滅失毀損した分を差し引いて、現に利益を受けている部分)とされていますが、改正法によってもこの範囲に変更はありません

それではなぜこの改正が行われたかというと、現在議論されている改正民法121条の2では、「意思表示が取り消された場合、双方の当事者が原則として原状回復義務を負うことを定める。」と規定される可能性があるところ、もし消費者が原状回復義務まで負ってしまうとすると、たとえば消費者が受領した商品を費消してしまった場合、事業者の不当勧誘行為を理由に取り消したとしても、当該消費者はその費消した分の客観的価値を返還しなければならないこととなり、その分の代金を支払ったのと同じ結果になってしまい、結果として「やり得」を認めることになりかねません。

そこで、改正民法の規定にかかわらず、改正法においても現状どおり、給付の当時善意であった消費者が取消権を行使しても現存利益のみ返せばよいことを明確にした規定を追加しています(改正法6条の2)。

 

 4 不当条項規制に関する改正

1. 解除権を放棄させる条項(☆)


現行法10は、「民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。」と規定しており、一定の不当な条項を無効とする、いわゆるバスケット条項として機能しています。

しかし、現行法10条の要件は非常に抽象的であるため、契約当事者の予見可能性を高め、紛争を予防する観点から、具体的な条項を無効とする規定を新たに追加すべきとの議論がなされてきました。

そこで、改正法では、債務不履行又は瑕疵担保責任の規定に基づく解除権をあらかじめ放棄させる旨の条項は、例外なく無効とする旨の規定が追加されました(改正法8条の2)。

(改正法8条の2)
「次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。
 ① 事業者の債務不履行により生じた消費者の解除権を放棄させる条項
 ② 消費者契約が有償契約である場合において、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵が
   あること(当該消費者契約が請負契約である場合には、当該消費者契約の仕事の目的
   物に瑕疵があること)により生じた消費者の解除権を放棄させる条項」

かかる改正により、これまで実務上、約款や契約書等においてしばしば見られた、「お客様からの契約後のキャンセル・返品、交換には一切応じられません。」といった規定は、事業者の債務不履行等による解除権をあらかじめ放棄させる旨の条項として無効となるため、事業者サイドではとくに注意が必要といえます。

これに対して、改正法においても、解除権の「放棄」ではなく、「制限」に留まる規定であれば、なお有効と考えることができるものと思われます。たとえば、「不良品については交換する。」ですとか、「レシートがある場合には、解除することができる。」といった条件付で解除を認める規定であれば、解除権を一律に「放棄」させたものではなく、解除権の行使に「制限」を付したに留まるため、改正法の下でもなお有効と思われます。

 

2. 不作為を意思表示とみなす条項(☆)


前述のとおり、現行法10条の規定は抽象的でわかりづらいため、改正法では例示を追記することとしました。

具体的には、改正法10条では、「消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項」という文言を例示として追加することとしています。

これにより、たとえば、ウォーターサーバーレンタル契約等に関する無料お試しキャンペーン規約において、「無料お試し期間中に所定のキャンペーン終了手続が行われず、貸出しを受けたすべてのレンタル商品がA社指定の配送センターに返却されなかった場合は、本サービスを継続して利用する意思があるものとみなし、有料サービスへ自動移行するとともに月額料金の課金が発生します。」といった、実務上よく見る条項は、改正後は無効となり得るため、このような規定を置いている事業者はとくに注意する必要があります。

 

 5 終わりに

以上のとおり、今般の消費者契約法改正により、これまえ実務上、事業者側に有利な規定として一般的に規定されていた条項の有効性についても改めて検討し直し、場合によっては利用規約等を改訂する必要が生じる場合も想定されます。そのため、改正法の概要が自らのビジネスにどのような影響をもたらすか、慎重に分析・検討することが望ましいといえます。

また、今般の改正においても、消費者の一定の作為をもって意思表示があったものと擬制する条項(たとえば、「お客様が商品の包装を開封したら、契約を承諾したものとみなす。」等の条項)の有効性等については結論が出ておらず、今後も改正の議論がなされる可能性があることに留意が必要です。

 
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