1 契約法概論–契約用語1

【質問】

当社でも今後は少なくとも重要な契約については契約書を作成していこうと思いますが、契約書に度々出てくる「又は」「若しくは」ですとか、「及び」「並びに」といった、細かい用語の使い分け方や読み方がよくわかりません。「又は」や「若しくは」というのはどちらも同じ意味で、書き手の気分に応じて使い分けても特に問題ないですよね?

それとも、これらの用語の使い分けには何か意味があるのでしょうか?

【回答】

契約書において、法律上、「必ずこの用語・用語ルールに従わなければならない」といった決まりはありません。

もっとも、読み手によって文書の読み方が変わることがないよう、法令用語は厳密なルールに則って整理されており、「又は」「若しくは」ですとか、「及び」「並びに」といった用語も厳密に使い分けられています。そのため、当事者間で契約内容の解釈にズレが生じないよう、法令用語のルールに則って契約書も作成することをお勧めします。

【解説】

契約書における用語・用語ルール

契約書において、法律上、「必ずこの用語・用語ルールに従わなければならない」といった決まりはありません

もっとも、契約書の作成においては、表現のわかりやすさはもちろん、表現の正確さが最も重要な要素の一つとされるところ、契約当事者のみならず、国民全員を規律する立法の世界においては契約書の場合以上に表現の正確さが重要視されていると言えます。そして、法令用語においては、読み手によって文書の読み方が変わることがないよう、法令用語は厳密なルールに則って整理されており、「又は」「若しくは」ですとか、「及び」「並びに」といった用語も厳密に使い分けられています。

したがって、当事者間で契約内容の解釈にズレが生じないよう、法令用語のルールに則って契約書も作成することをお勧めします

以下、民法等の条文や、契約書においても頻出といえる代表的な用語について数回にわたって簡単にご紹介していきます。

「又は」「若しくは」

「又は」と「若しくは」は、意味から言えば、どちらもいわゆる選択的接続詞であり、日常用語としては差異はありません。もっとも、法令用語としては、両者は厳格に使い分けられています。

まず、数個の語句を単純に並列するだけのときは「又は」を使用します。たとえば、「A又はB」、「A、B、C又はD」といった記載をします。

「又は」は、大きな接続の段階で使用する一方、「若しくは」はその下の小さな接続において使用します。具体的には、A又はBというグループがまずあって、これとCというものを対比しなければならないような場合に、「A若しくはB又はC」と記載します。(あえて数式で表現すれば、{(A or B) or C}となります。)

「及び」「並びに」

併合的に結びつけられる語句が単純に並列的に並ぶだけのときは「及び」を使用します。たとえば、「A及びB」、「A、B、C及びD」といった記載をします。

他方、結合される語句に意味の上で上下・強弱の段階があるときは、「及び」の他に「並びに」を使用します。具体的には、「A・Bグループ」と「C」戸に分けられ、A・Bの結びつきが強いことを示す場合には、「A及びB並びにC」と記載します。

「時」「とき」「場合」

「時」と「とき」については、時点や時刻が特に強調される場合には「時」を、一般的な仮定的条件を表す場合には「とき」を使用します。たとえば、「被相続人が相続開始のにおいて有した財産」のように使います。

「とき」と「場合」については、いずれも仮定的条件を示すものであり、法文上の用法は同じです。そのため、一般には、別に意味に区別をつけずに、主としてその時々の語感によって適当に使い分けられることがあります。もっとも、仮定的条件が二つ重なる場合には、大きい条件については「場合」を、小さい条件には「とき」を使用します。たとえば、「控訴を棄却した画定判決とその判決によって確定した第一審の判決とに対して再審の請求があった場合において、第一審裁判所が再審の判決をしたときは」などと使うことになります。

「善意」「悪意」

日常用語としては、「善意」とは、道徳的に善い人、いわゆる善人のことを、「悪意」とはその逆を意味するものとして使用されていますが、法律的な意味とは大きく異なります。

「善意」とは、ある事情を知らないことをいい、「悪意」とは、ある事情を知っていることをいいます。このように、法律上の「善意」「悪意」とは、ある事実に対する知・不知を意味する用語であり、日常的に使用する意味での道徳的な意味合いは一切関係がありませんのでご注意ください。

2 契約法概論–契約用語2

【質問】

契約書の用語も法令用語にならって厳密に使い分けるべきだということはわかりましたが、「その他」や「その他の」といった言葉も意味が違うのでしょうか?どれも同じような意味合いで日常的に使っているのですが・・・

【回答】

前回解説しましたとおり、契約書において、法律上、「必ずこの用語・用語ルールに従わなければならない」といった決まりはありませんが、当事者間で契約内容の解釈にズレが生じないよう、法令用語のルールに則って契約書も作成することをお勧めします。特に注意すべき用語については後記「解説」の項目をご参照ください。

【解説】

「その他」「その他の」

「その他」と「その他の」は、日常用語としては類似した言葉ですが、法令用語としては厳密に使い分けられています。

「その他」は、前後が並列関係にある場合に使用します。たとえば、「賃金、給料その他これに準ずる収入」というように、「その他」の前にある言葉と後にある言葉とは、全部対一部の関係ではなく、並列関係にあるのが原則です。すなわち、「賃金、給料」と「これに準ずる収入」とは別の観念として並列されており、賃金や給料が「これに準ずる収入」の一部の例示として掲げられている訳ではありません。

これに対して、「その他の」は、前にあるものが後にあるものの例示である場合に使用します。たとえば、「内閣総理大臣その他の国務大臣」、「俸給その他の給与」というように、「その他の」の前に出てくる言葉は、後に出てくる言葉の一層意味内容の広い言葉の一部をなすものとして、その例示的な役割を果たす趣旨で使われます。

「直ちに」「速やかに」「遅滞なく」

「直ちに」は、時間的即時性が最も強く、一切の遅れは許されません。意味合いとしては、即時に・間を置かずに、といったイメージです。

これに対して、「速やかに」は、できるだけ早く、という意味であり、「直ちに」「遅滞なく」と異なり、訓示的な意味で使われる場合が多いと言えます。

「遅滞なく」は、事情の許す限り、最も早く、という意味です。合理的な理由があれば、その限りでの遅れは許されると解釈することができます。

いずれも時間的即時性を表す言葉ですが、昭和37年12月10日大阪高裁判決によれば、時間的即時性の強弱で言えば以下のように整理することが可能と思われます。

「直ちに」>「速やかに」>「遅滞なく」

  • 左が最も時間的即時性が強い
「みなす」「推定する」

「みなす」とは、成立が異なるものを法律上の関係において同一に取り扱うことを意味し、反証を許しません。たとえば、「胎児は、相続については、既に産まれたものとみなす。」(民法886条1項)等、私法上の規定で多くみられます。

これに対して、「推定する」とは、ある事項について一応の事実を推定し、法律効果を生じさせることを意味し、反証が許されます

どちらも日常用語の語感としては似ているように感じるかもしれませんが、法令用語としては全く意味合いが異なるため注意が必要です。なお、契約書上は、当事者の交渉力等によりますが、一般的には反対当事者の反証を許さない「みなす」を使用する例が多いかと思います。こちらにとって有利な規定であれば「みなす」の方がありがたいですが、不利な規定についても安易に「みなす」とされていないか、レビューの際は見過ごさないようにしましょう。

「解除」「解約」

「解除」も「解約」も、ともに既存の契約を解消するときに使われる用語ですが、法令上の用語とは必ずしも一致するわけではありません。

「解除」とは、契約の効力を過去にさかのぼって消滅させ、当該契約が初めから存在しなかったことと同じ法律効果を発生させることを意味します。

これに対して、「解約」とは、契約の効力を将来に向かって消滅させることを意味します。たとえば、賃貸約のような継続的な契約関係において、契約当事者の一方の意思表示により、契約の効力を将来に向かって消滅させること、をいいます。講学上、解除と区別して、「解約告知」又は「告知」ともいわれますが、法令上は、解約のことを解除という場合も多くあります。

具体的には、民法626条1項本文は、「雇用の期間が5年を超え・・・るときは、・・・当事者の一方は、5年を経過した後、いつでも契約の解除をすることができる。」と規定していますが、この場合の「解除」は、その効果が将来に向かってのみ生ずるだけですので、講学上の「解約」になります。

このように、法令上の「解除」=契約書(講学)上の「解除」とは必ずしも一致しませんので、注意が必要です。契約において「解除」と「解約」の厳密な意味での区別が重要な争点となる場合には、あらかじめ遡及効を持たせるか否か、契約書にその旨明記しておくとよいでしょう。

「無効」「取消し」「撤回」

「無効」とは、法律上の効果が初めからないことをいいます。これに対して、「取消し」とは、瑕疵のある法律行為の効力を過去に遡って消滅させることをいいます。

そして、「撤回」とは、意思表示をした者が、その効果を将来に向かって消滅させることをいいます。

3 契約法概論–契約用語3

【質問】

契約書の用語も法令用語にならって厳密に使い分けるべきだということはわかりました。その他、注意すべき用語があれば教えてください。

【回答】

前回解説しましたとおり、契約書において、法律上、「必ずこの用語・用語ルールに従わなければならない」といった決まりはありませんが、当事者間で契約内容の解釈にズレが生じないよう、法令用語のルールに則って契約書も作成することをお勧めします。特に注意すべき用語については後記「解説」の項目をご参照ください。

【解説】

「前項」「前●項」「前各項」

「前項」、「前●項」、「前各項」の関係についても紛らわしいため、以下の条項をサンプルとしてそれぞれの違いを簡単に説明します。

第●条
第1項      ・・・・
第2項      ・・・・
第3項      ・・・・
第4項      「前項に定める」/「前2項に定める」/「前各項に定める」

上記例において、第4項に規定する

  • 「前項」とは、第●条第3項のことを、
  • 「前2項」とは、第●条第2項及び第3項のことを、
  • 「前各項」とは、直前の項全てを意味し、ここでは第●条第1項から第3項までを、

それぞれ意味します。

なお、「第1項から第3項まで」のように、連続する場合は「乃至(ないし)」を使用します。この記載方法は、「項」だけでなく、「条」、「号」、「編」、「章」、「節」などにおいても同様です。

「以上」「超える」「以下」「未満」

これは日常用語としても使用されており、比較的理解しやすいかと思います。

「以上」、「以下」については、基準となる数値を含む場合に使用します。これに対して、「超える」、「未満」については、基準となる数値を含まない場合に使用します。

たとえば、「一万円以上」といえば1万円ちょうどを含みますが、「一万円を超える」と言った場合には、1万円ちょうどを含まず、1万1円以上を意味することになります。

「以前」「前」「以後」「後」

これも日常用語としても使用されており、比較的理解しやすいかと思います。

以前」、「以後」については、基準となる時点を含む場合に使用します。これに対して、「前」、「後」については、基準となる時点を含まない場合に使用します。

たとえば、「平成28年4月1日以前」といえば、4月1日を含んでそれより前の期間を意味するのに対して、「4月1日前」といえば、4月1日を含まず、3月31日より前ということになります(すなわち、「3月31日以前」と同じ意味となります。)。

「ものとする」

契約書をレビューしていますと、「・・・する。」、「・・・しなければならない。」。「・・・ものとする。」、「・・・するものとする。」といった用語が同一の契約書中で混在しているケースを頻繁に見受けます。これらの用語については、その時々の語感によって使い分けている例が多いのではないかと思います。

実際、法令においても、「ものとする。」「するものとする。」という用語は頻繁に登場しますが、その用法は必ずしも一様ではありません。

意味合いとしては、「・・・しなければならない。」又は「・・・する。」というような、一定の作為義務を表そうとする場合や一定の事実を断定的に表そうとする場合と近いといえます。

もっとも、これらの用語を使うとニュアンスが少しどぎつく出過ぎるため、もう少し緩和した表現を用いたい場合に、この「ものとする。」という表現が使われることが多いと言えます。

「この限りでない」「妨げない」

「この限りでない」や「妨げない」については、あまり違いを意識せずになんとなくの語感で使用されている場合もあるかと思いますが、両者は厳密には意味合いが異なります。

「この限りでない」とは、前に出てきている規定の全部又は一部を、特定の場合に除外することを意味します。

これに対して、「妨げない」とは、ある事項について一定の規定の適用があるかが不明確な場合に、当該規定の適用が排除されないことを明らかにすることをいいます。

「適用する」「準用する」

「適用」と「準用」については、あまり契約書中で使用することはないかと思いますが、法令の読み方としては非常に重要なのでご参考までに簡単に説明しておきます。

「適用する」とは、法令の規定を特定の事項に対してそのまま当てはめることをいいます。これに対して、「準用する」とは、ある事項に関する規定を、他の類似する事項に必要な修正を加えてあてはめることをいいます。

以上、数回にわたり契約書で頻出する用語について解説してきましたが、もちろんこれら以外にも注意すべき契約用語・法令用語は多数存在します。「良い契約書」の定義などもちろん存在しませんが、わかりやすく明快で、誰が読んでも一義的に解釈できる契約書がそれにあたることは異論がないでしょう。

本記事が契約書のドラフト・レビューに際して少しでもご参考になれば幸いです。

参考文献

林修三「法令用語の常識」(日本評論社)

(注)本記事の内容は、記事掲載日時点の情報に基づき作成しておりますが、最新の法例、判例等との一致を保証するものではございません。また、個別の案件につきましては専門家にご相談ください。