相談事例

建設業でもコンプライアンスが重要だといいますが、建設業特有のコンプライアンスリスクとしてはどのようなことが考えられるのでしょうか。

解説

建設業におけるコンプライアンスリスク

建設業とは

建設業とは、建設業法において「元請、下請その他いかなる名義をもってするかを問わず、建設工事の完成を請け負う営業をいう」と定められています。

なお、建設業法では、建設工事の種類を土木一式工事と建築一式工事の2種類の一式工事と、とび・土工工事や舗装工事等の27種類の専門工事の計29種類に分類しています。

建設業の特徴① 入札・契約制度

建設業では、発注者が国や地方公共団体である公共工事が少なくありません。建設業では、受注時における入札・契約制度が特徴の一つといえます。

建設業の特徴② 受注請負産業

建設業は、発注者からの注文を受けて建造物を完成させて引き渡すという受注請負産業といえます。

建設業の特徴③ 重層下請構造

建設業においては、工事全体の総合的な管理監督機能を担う元請のもと、中間的な施工管理や労務の提供その他の直接施工機能を担う一次下請、二次下請、さらにそれ以下の次数の下請企業から形成される重層下請構造が存在しています。

重層下請構造は、個々の企業において、工事内容の高度化等による専門化・分業化、必要な機器や工法の多様化への対応等のため、ある程度は必然的・合理的な側面があるとされる一方、重層的な施工体制では、施工に関する役割や責任の所在が不明確になること、品質や安全性の低下等、様々な影響や弊害が指摘されています。

建設業におけるコンプライアンスリスク

このような建設業の特徴から、建設業におけるコンプライアンスリスクとしては、以下のようなケースが挙げられます。

  • ① 独占禁止法違反によるコンプライアンスリスク
  • ② 建設業法違反によるコンプライアンスリスク
  • ③ 多重取引に伴う契約管理上のコンプライアンスリスク
  • ④ 労務管理上のコンプライアンスリスク

独占禁止法違反によるコンプライアンスリスク

不当な取引制限(入札談合等)

独占禁止法は、事業者が相互に連絡を取り合い、各事業者が自主的に決めるべき商品の価格や販売・生産数量などを共同で取り決め、競争を制限する行為を「不当な取引制限」(カルテル)として禁止しています。これは、紳士協定、口頭の約束など、どんな形でも禁止されています。

入札談合は、公共工事の入札の際、入札に参加する事業者たちが事前に相談して、受注事業者や受注金額などを決めてしまう行為であり、不当な取引制限の一つにあたります。

不公正な取引方法の規制

独占禁止法は、公正な競争を阻害するおそれのある行為を「不公正な取引方法」として禁止しています。入札談合との関係では、例えば、受注予定者が落札できるように取り決めた場合について、これに従わない事業者に対して取引を妨害したり、差別的な取扱いを行ったりする行為が、独占禁止法に違反することとなります。

独占禁止法に違反した場合の処分

排除措置命令

違反行為をした企業に対し、速やかにその行為をやめ、その旨を周知し、再発防止策を講じるよう命じられます。

課徴金納付命令

不当に得た利益をもとに算出された課徴金を国庫に納付するよう命じられます。

刑事罰

違反行為が悪質である場合等には、刑事罰が科されます。

建設業法違反によるコンプライアンスリスク

建設業法には、請負契約の原則を示す規定が設けられており、国土交通省では、建設業者が守るべき下請取引上のルールとして「建設業法令遵守ガイドライン」を策定しています。

上記ガイドラインでは、以下の行為が規制されています。

  • 見積条件の提示等建(設業法第20条第3項、第20条の2)
  • 書面による契約締結
    • 当初契約(建設業法第18条、第19条第1項、第19条の3、第20条第1項)
    • 追加工事等に伴う追加・変更契約(建設業法第19条第2項、第19条の3)
  • 工期
    • 著しく短い工期の禁止(建設業法第19条の5)
    • 工期変更に伴う変更契約(建設業法第19条第2項、第19条の3)
    • 工期変更に伴う増加費用(建設業法第19条第2項、第19条の3)
  • 不当に低い請負代金(建設業法第19条の3)
  • 指値発注(建設業法第18条、第19条第1項、第19条の3、第20条第3項)
  • 不当な使用資材等の購入強制(建設業法第19条の4)
  • やり直し工事(建設業法第18条、第19条第2項、第19条の3)
  • 赤伝処理(建設業法第18条、第19条、第19条の3、第20条第3項)
  • 下請代金の支払
    • 支払保留・支払遅延(建設業法第24条の3、第24条の6)
    • 下請代金の支払手段(建設業法第24条の3第2項)
  • 長期手形(建設業法第24条の6第3項)
  • 不利益取扱いの禁止(建設業法第24条の5)
  • 帳簿の備付け・保存及び営業に関する図書の保存(建設業法第40条の3)

多重取引に伴う契約管理上のコンプライアンスリスク

建設業は、受注請負産業という

複数・複雑な工程への分業化が進んでいるという業務の性質上、多重下請、多重取引関係となることは避けられない現状にあります。

また、近時の深刻な人手不足も相俟って、外部業者へ委託をしたり、労働者を派遣する等、外部の労働力に頼らざるをえない側面もあります。

この時、その契約内容が業務委託(いわゆる人工契約)なのか、請負契約なのか問題となる事案は多い上、工期が迫ってから契約締結に至ることも多く、建設業法上、作成義務があるにも関わらず、契約書自体が作成されていない事態も散見されます。

このように、建設業は、その業務の性質上、多重下請や業務委託、派遣労働等の契約関係となる傾向にあるために、複数・複雑な多重取引関係となるところ、労務管理や取引関係をめぐって、法的リスクが生じやすい傾向にあるといえます。

労務管理上のコンプライアンスリスク

慢性的な人手不足

少子高齢化により労働力人口が減少する中、建設業は現在、若年入職者の減少や就業者の高齢化が進行するなどの構造的な問題に直面しています。

建設業は、慢性的な人手不足や高齢化に悩まされるために、外国人労働者を雇用する場面も少なくありません。

しかしながら、外国人労働者を雇用する場合には、日本人労働者を雇用する場合と異なり、入管法の規制も受けるなど、特有の労務管理上の問題が生じることになります。

労働時間管理の困難さ

建設業は、建設現場への直行や、建設現場からの直帰など、長距離かつ頻繁な移動も生じるなど、労働時間の管理に困難を伴う業務特性が挙げられます。

もっとも、建設業であっても、使用者は適正に労働時間を管理しなければなりません。

また、建設業は、工期に間に合わせるために長時間労働を余儀なくされる場面も少なくありません。

このような長時間労働に対し、適正に残業代を支払わなかったり、労働時間管理をしたりしなければ、労働基準法違反に問われるリスクもあります。

労働基準法違反に問われることは、使用者にとって行政責任や刑事責任にも繋がり、大きなリスクとなりますが、さらには企業としての対外的な信用も毀損されることになります。

労働災害の発生リスク

前記のとおり、建設業は長時間労働を余儀なくされることもあり、労働者の健康管理上にもリスクがあります。

また、建設業は、建設現場において、重機や危険物を扱ったりするほか、高所等の危険な場所での作業も求められるため、労働災害が発生する潜在的なリスクがあります。

しかも、デスクワーク中心の業務と異なり、労働災害が発生した場合には深刻化するリスクも少なくありません。

建設業では、労働災害が発生するリスクが他業種に比べても高いだけでなく、深刻化するおそれもあるため、企業としてはできる限り労働災害リスクを低減できる措置を講じる必要があります。

ご相談のケースについて

企業の社会的責任やSDGsの重要性が叫ばれる昨今において、建設業でもコンプライアンスを意識することは一層求められることになります。

建設業では様々な経営課題がありますが、コンプライアンスを意識した経営を実践することは、企業の社会的価値を増大させ、信用性を向上し、売上の改善や人手不足の改善等、建設業の経営課題の解決にもつながります。

わたしたちは、多数の建設事業者をサポートしてきた実績があります。コンプライアンス経営の実現を目指す建設事業者は、是非一度ご相談をご検討ください。

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