解説動画

こちらのコラムは、当事務所のYouTubeチャンネル「リーガルメディア企業法務TV」で解説動画が公開されております。

この動画の視聴にかかる時間:約16分
  • 00:00:ごあいさつ
  • 01:04:相談事例
  • 02:30:結論
  • 03:36:職場内で無断録音・秘密録音が行われる背景
  • 05:36:無断録音・秘密録音に対する懲戒処分の可否
  • 08:43:無断録音・秘密録音の証拠能力
  • 09:36:無断録音・秘密録音の証拠能力 否定例①
  • 10:24:無断録音・秘密録音の証拠能力 否定例②
  • 13:11:無断録音・秘密録音の証拠能力 肯定例
  • 13:43:結論
  • 15:25:メールマガジン登録のご案内
  • 15:44:本動画をご視聴時のご留意事項
  • 15:55:お問い合わせ方法のご案内

「リーガルメディア企業法務TV」では、リーガルメディアの人気コラムを、代表弁護士の長瀬佑志が自ら解説している動画を定期的に公開しております。興味のある方は、チャンネル登録をご検討下さい。

相談事例

当社の従業員Aは、事あるごとに上司に反発ばかりしており、業務命令にも従ってくれません。

また、Aは、職場内でも常にボイスレコーダーを持ち歩いているという報告もあり、同僚たちもAに会話内容を録音されるのではないかと心配しています。

当社では、職場の雰囲気も悪化することから、社内での録音は禁止することを通知した上で、Aに対し、態度を改めるよう注意指導しようとしました。

すると、Aは、「会社から自分の身を守るためにボイスレコーダーは使います」と明言し、録音しないよう伝えているにもかかわらず無視して録音を続けました。

  • (1)会社が社内での録音を禁止すると伝えているにもかかわらず録音を続けたことに対し、何らかの処分をすることはできないのでしょうか。
  • (2)Aは、会社が懲戒処分などをしてきた場合には裁判で争うとも主張しています。裁判になった場合、Aが無断で録音した内容も証拠として認められてしまうのでしょうか。

回答

  • (1)職場内の録音を禁止しているにも関わらず従業員が無断録音をした場合には、使用者の指揮命令権及び施設管理権に違反するものとして、懲戒処分に付すことも可能と考えられます。
  • (2)職場内の会話内容を無断録音した場合、録音内容について裁判での証拠能力が否定される可能性があります。ただし、裁判での証拠能力が否定されるかどうかは、個別の事案によって判断が異なり得るため、慎重に検討する必要があります。

解説

職場内で無断録音・秘密録音が行われる背景

職場内での無断録音・秘密録音は、労働紛争では散見されます。

セクシャルハラスメントやパワーハラスメントでは、被害者に対する言動が実際に行われたのか、また具体的にどのような内容だったのかが争点となりますが、録音データはこのような言動を立証する証拠の一つとなります。

また、不当解雇や退職強要が争点となる場合でも、使用者から解雇の通知や退職強要が行われたかどうかが問題となりますが、この場合にも録音データが有効な証拠となり得ます。

このように、労働者からすれば、自身の権利を守るために職場内での会話を録音する必要があるといえます。

一方、使用者からすれば、労働者が自由に職場内での会話を録音することができるということになると、会社の秘密情報が漏洩するおそれがあるほか、他の労働者も無断で会話を録音されてしまい、どのように使用されるか分からないという不安を抱き、職場内の雰囲気が悪化する懸念があります。

このように、職場内の無断録音・秘密録音が許容されるかどうかは、労使双方の必要性をどのようにみるかによって変わってくることになります。

無断録音・秘密録音をしたことに対する懲戒処分の可否

使用者が労働者に対し、職場内で録音することを禁止する旨を通知しているにも関わらず、労働者がこれを無視して録音した場合には、使用者の指揮命令権及び施設管理権に違反するといえるかどうかが問題となります。

この点、参考となる裁判例として、東京地判立川支部平成30年3月28日労働経済判例速報2363号9頁があります。

同裁判例は、使用者の労働者に対する普通解雇の有効性が争点となった事案です。同裁判例では、使用者が労働者に対しボイスレコーダー所持の有無を確認したり、録音禁止の指示をしたりしたにもかかわらず、労働者は、答える必要はない,自分の身を守るために録音を止めることはできないなどという主張を繰り返していました。

同裁判例は、使用者には就業規則に明文があるかどうかにかかわらず、職場の施設内での録音を禁止する権限があると述べた上で、使用者の労働契約上の指揮命令権及び施設管理権に基づき,上司らから録音禁止の正当な命令が繰り返されたのに,これに従うことなく,懲戒手続が取られるまでに至ったにもかかわらず,懲戒手続においても自らの主張に固執し,譴責の懲戒処分を受けても何ら反省の意思を示さないばかりか,処分対象となった行為を以後も行う旨明言したものであって,会社の正当な指示を受け入れない姿勢が顕著で,将来の改善も見込めなかったといわざるを得ないと判示しました。

同裁判例は、労働者が無断録音を繰り返したことも、普通解雇の正当事由の一つとして評価しています。

同裁判例からすれば、使用者が労働者に対し、職場内で録音することを禁止する旨を通知しているにも関わらず、労働者がこれを無視して録音した場合には、使用者の指揮命令権及び施設管理権に違反し、懲戒処分の対象になると考えられます。

ただし、同裁判例は、労働者の勤務態度に問題があった事案であり、労働者がパワハラやセクハラなどの被害に遭っていたり、不当解雇や退職強要を訴えたりしているケースにも同様に当てはまるとまでは言い切れない点にご留意ください。

無断録音・秘密録音の証拠能力について

無断録音・秘密録音が懲戒処分の対象になりうるとしても、裁判になった場合に録音内容の証拠能力が認められるかどうかは別途検討する必要があります。

無断録音・秘密録音の証拠能力が認められるかどうかについては、裁判例をみると結論が分かれています。

証拠能力を否定した裁判例

大分地判昭和46年11月8日

上記裁判例では、相手方の同意なく対話を録音することは、公益を保護するためあるいは著しく優越する正当な利益を擁護するためなどの特段の事情がなければ相手方の人格権を侵害する不当な行為であると判示した上、録音録取書の証拠能力を否定しています。

東京高判平成28年5月19日

上記裁判例では、録音内容の証拠能力に関し、以下のような判断基準を定立しました。

民事訴訟法は,自由心証主義を採用し(247条),一般的に証拠能力を制限する規定を設けていないことからすれば,違法収集証拠であっても,それだけで直ちに証拠能力が否定されることはないというべきである。しかしながら,いかなる違法収集証拠もその証拠能力を否定されることはないとすると,私人による違法行為を助長し,法秩序の維持を目的とする裁判制度の趣旨に悖る結果ともなりかねないのであり,民事訴訟における公正性の要請,当事者の信義誠実義務に照らすと,当該証拠の収集の方法及び態様,違法な証拠収集によって侵害される権利利益の要保護性,当該証拠の訴訟における証拠としての重要性等の諸般の事情を総合考慮し,当該証拠を採用することが訴訟上の信義則(民事訴訟法2条)に反するといえる場合には,例外として,当該違法収集証拠の証拠能力が否定されると解するのが相当である。

その上で、

委員会の審議内容の秘密は,委員会制度の根幹に関わるものであって,特に保護の必要性の高いものであり,委員会の審議を無断録音することの違法性の程度は極めて高いものといえること,本件事案においては,本件録音体の証拠価値は乏しいものといえることに鑑みると,本件録音体の取得自体に控訴人が関与している場合は言うまでもなく,また,関与していない場合であっても,控訴人が本件録音体を証拠として提出することは,訴訟法上の信義則に反し許されないというべきであり,証拠から排除するのが相当である。

と判示し、録音内容の証拠能力を否定しました。

証拠能力を肯定した裁判例

東京高判昭和52年7月15日

上記裁判例では、著しく反社会的な手段を用いて、人の精神的肉体的自由を拘束する等の人格権侵害を伴う方法によって採集されたものであるときは違法と判示した上で、録音テープの証拠能力を認めています。

職場内の無断録音・秘密録音は違法か

以上のように、職場内の無断録音・秘密録音は、使用者の指揮命令権及び施設管理権に違反し、懲戒処分の対象になる可能性があるといえます。

また、無断録音・秘密録音の証拠能力は、必ずしも常に認められるとは限らないといえます。

特に、上記大分地判昭和46年11月8日をみると、原則として無断録音・秘密録音は証拠能力が否定されるようにも思われることから、証拠能力が肯定されるとは安易には言い難いところがあります。

したがいまして、労働者側からした場合、将来の労働紛争のための立証準備や予防のためというだけで、常に無断録音・秘密録音が許容されるとは限らないことに留意が必要です。

一方で、労働者がパワハラやセクハラなどの被害に遭っていたり、不当解雇や退職強要を訴えたりしているケースについても、録音が一切許容されないとまではいえません。

したがいまして、具体的な状況次第で、どのような態様での録音であれば許容されるのかを個別に検討していく必要があるといえます。

メールマガジン登録のご案内

  • セミナーの最新情報を知ることができる
  • 弁護士執筆の人気コラムを知ることができる
  • 実務に使用できる書式の無料ダウンロードが可能

「弁護士法人 長瀬総合法律事務所」では、定期的にメールマガジンを配信しております。

セミナーの最新情報や、所属弁護士が執筆したコラムのご紹介、実務に使用できる書式の無料ダウンロードが可能になります。メールマガジンに興味を持たれた方は、下記よりご登録下さい。

 

顧問サービスのご案内

長瀬総合法律事務所の顧問弁護士サービス

私たち「弁護士法人 長瀬総合事務所」は、企業法務や人事労務・労務管理等でお悩みの企業様を多数サポートしてきた実績とノウハウがあります。

私たちは、ただ紛争を解決するだけではなく、紛争を予防するとともに、より企業が発展するための制度設計を構築するサポートをすることこそが弁護士と法律事務所の役割であると自負しています。

私たちは、より多くの企業のお役に立つことができるよう、複数の費用体系にわけた顧問契約サービスを提供しています。

 

リーガルメディア企業法務TVのご案内

リーガルメディア企業法務TVチャンネル登録はこちら

弁護士法人 長瀬総合法律事務所のYouTubeチャンネル「リーガルメディア企業法務TV」では、弁護士がリーガルメディアのコラムを解説する動画を定期的に公開しております。