今日からできる契約書基礎講座① 契約書作成上のお作法

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INDEX


はじめに

  1. 契約書作成上のお作法
    ① 契約締結と書面の要否
    ② 契約書のタイトル
    ③ 当事者名の表記
    ④ 原本の通数
    ⑤ 契約書の署名権者
    ⑥ 実印の要否
    ⑦ 印紙の要否
  2. おわりに

 はじめに

契約書のドラフト・レビューは私たち弁護士にとっては日常的に慣れ親しんでいる業務の一つですが、クライアントの皆様にとっては、そもそも契約書を頭から最後までじっくりとご覧になった経験がある方は少ないかと思います。

重要な取引先との契約であっても(むしろ、重要な取引先だからこそ、かもしれませんが)あえて仰々しい「○○契約書」という形でビジネス上の約束事を取り交わさないことは珍しくありませんし、契約書を取り交わしていても、内容も確認しないまま取引先から渡された「○○契約書」に日付と署名だけ記入して手渡しし、控えはそのまま会社のロッカーに入れっぱなし、というケースもあるかと思います。

取引が順調で、取引先が約束どおりに期日までに代金を支払、クライアントの皆様の会社の業績も好調であれば、とくに契約書に意識を及ぼす必要もないかもしれません。

しかし、ひとたび取引先とのトラブルが生じた場合、契約書の有無及びその解釈が問題となることは少なくありません。とくに、その取引先・取引が重要であればあるほど、当該取引に係る契約書の有無・条項の解釈がビジネスにとって深刻な影響を及ぼすことになります。

私自身の経験ですが、過去に担当したある案件では、大口取引先Y社との間で長年OEM(取引先Y社のブランド名による受託製造)を請け負っていたクライアントX社が、X社社員により、X社の費用で画期的な特許を発明し、単独で特許出願をすることを検討していました。

しかし、市況の悪化に伴い、Y社が他の大手競合会社に吸収合併されることが決まり、X社とのOEM契約を打ち切ることが視野に入ってくるや、Y社はX社とのOEM契約書中に特許出願に関する明確な規定がなかったこと等から、当該発明についてY社に共有権があり、共同出願すべきだ、と主張してきました。

契約書に明確な規定がなかったために紛争に発展してしまい、最終的には弁護士が間に入って事実関係を整理し、X社の単独発明と解釈することが妥当である旨の法律意見書を作成の上、Y社との交渉を重ねた末、無事にX社の単独発明であることで和解しました。

もし契約書作成段階で弁護士がドラフト又はレビューしていれば数十万円程度の費用で済んだであろうものの、法律意見書や度重なるY社との交渉に要した弁護士費用及び和解費用を含め、X社の費用負担は非常に高くつくこととなりました。

このように、紛争を未然に防ぐ観点から、契約書の重要性は強調しすぎても強調しすぎるということはありません。

とくに、法務に積極的に費用を割くことの難しい会社様にとっては、実際に紛争が生じてしまうと交渉や訴訟等に多額の弁護士費用を要する可能性があることを考えると、取引の入り口段階で当事者間の合意内容等を明確にした契約書を作成し、将来の紛争に備えておくことが非常に大切です。

そこで、本コラムでは、「今日からできる契約書基礎講座」として、数回のシリーズに分けて契約書の基本について解説していきたいと思います。

クライアントの皆様からは、契約書の内容面だけでなく、そもそも「契約書はメールではダメなのか?」、「契約書のタイトルの決め方には何かルールがあるのか?」、「契約書は何通作成すればいいのか?」といった形式面についての質問が寄せられることも少なくありません。

そこで、シリーズ第1回目の今回は、「契約書作成上のお作法」として、主に形式面を中心に、契約書作成上の基礎的な注意点についてご説明していきます。

 

契約とは?


契約とは、一般に、「二人以上の当事者の意思表示が、相対立する立場で相互の意思を表示し、これらの意思を一致させ、当事者間において権利・義務を発生させる合意」をいいます。

かかる定義から明らかなとおり、当事者間で契約締結に向けた合意があれば、原則として書面がなくても口頭のやりとりでも契約は成立します。

それでは、なぜあえて「契約書」を作成する必要があるのでしょうか。契約の内容を書面にしたものを「契約書」といいますが、契約書作成の目的・メリットは、概要以下の3点に集約することができます。

① 当事者間の合意内容等を明確化し、紛争を予防する

② 当事者間におけるリスク配分の合意

③ 将来の訴訟での証拠とする

このように、契約書は、将来的に合意内容を巡って紛争が生じた婆愛に、当初予測していた範囲内での解決を図ることを重要な目的としていますので、その内容・解釈に争いが生じないようにする必要があります。

そのためには、用語・規定の意味、内容が明確であることはもちろん、契約書の形式面に置いても齟齬が生じないよう、以下でご説明する基本的な「お作法」を抑えておくことが大切です。

 

 1 契約書作成上のお作法

以下では、「契約書作成上のお作法」として、よくご質問をいただく契約書の形式的な注意点について、契約書サンプルに沿ってご説明していきます。

契約書作成上のお作法

【画像クリックで拡大します】

 

1. 契約締結と書面の要否


前述のとおり、原則として当事者間で契約締結に向けた合意があれば、書面がなくても口頭の約束でも契約は成立します。

もちろん、FAXやメールでの約束であっても契約は成立します。

ただし、保証契約のように、法律上書面の作成が契約の効力要件とされている場合(民法446条2項)や、合併契約のように法律上一定の書面の作成・交付・保存等が義務づけられている場合もある(会社法782条1項1号、794条1項、976条8号)ことに注意が必要です。

 

2. 契約書のタイトル


法律上、契約書のタイトルの決め方について特段のルールはありません。

そのため、どのような名称の契約書にするかは当事者間で自由に決めることができ、また、契約書のタイトルと契約内容には直接の関係はありません。

ただし、たとえば契約の実態が賃貸借契約であるにもかかわらず、契約書の名称を「売買契約」とするなど、実態とあまりにかけ離れた名称をつけてしまうと、後々契約の解釈を巡って争いが生じた場合に徒に争点を増やすことになりかねません。

なお、実務上、たとえば業務提携に向けた基本条件等についての意思確認や二者間での個別の合意をする場合等に、あえて「○○契約書」という名称ではなく、「○○に関する覚書」、「○○に関する念書」といった名称で書面を作成することがありますが、法律上は「契約書」と「覚書」「念書」との間で効力に違いはありません。

あくまで当該書面の中身・実態に着目して効力が認められるため、基本条件を確認する趣旨で締結するのであれば、たとえば「第1条 本覚書の趣旨」といった条項を規定することが望ましいといえます。

 

3. 当事者名の表記


契約書における当事者名の表記についても、契約書のタイトルと同様、「こうしなければならない」というルールはありません。

一般的には「甲」「乙」「丙」などと表記する例が多いですが、もちろん「株式会社●●●」「○○○合同会社」と表記しても構いません。

もっとも、明らかに当事者の一方をとり間違えて記載している条項を見受けることもあり(契約書冒頭の「甲」「乙」と、末尾の署名欄の「甲」「乙」が逆になっているケースもありました)、そういった明らかな誤記を防ぐためには、たとえば「長瀬株式会社」であれば契約書中の当事者名を「長瀬」として簡略化して記載したり、「ベンダー」と「ユーザー」と表記する等、当事者名の表記と当事者の役割の関係を明確化して記載するといった工夫をすることも一案です。

 

4. 原本の通数


原本を何通作成するかについても、契約書のタイトルや当事者名の表記と同様、法律上特段の定めはありません。

通常は当事者の人数分作成し、それぞれが一通保管すると規定することが多いですが、たとえば当事者が3名以上等の多数にわたる場合には、当事者の一部のみが原本を保管し、他の当事者はこれをコピーした「写し」を保管するという取扱いをすることもあります。

 

5. 契約書の署名権者


個人ではなく、会社が当事者となる場合には、契約書にサインをする者が当該会社を代表して契約を締結する権限を有することが必要になります。

会社が定款等により代表取締役を定めている場合、代表取締役には会社を代表する権限が与えられている(会社法349条4項)ため、当該会社の代表取締役が契約書末尾の署名権者としてサインするのが一般的です。

もっとも、取締役以外の部長等の従業員であっても、会社から対外的代表権を与えられていれば、有効に契約を締結することができます。

ただし、実際に代表権が与えられているかどうかは外部の取引先からは把握することができないため、相手方担当者に代表権があるか疑わしい場合は、念のため契約締結権の有無を確認した方がよいでしょう。

 

6. 実印の要否


契約締結に際して、法律上、押印は実印でなければならないといった定めはありません。

そのため、実印、認印[1]いずれによる押印であっても契約の効力自体に差異はありません。

もっとも、実印と異なり認印は簡単に購入できてしまうため、権限のない者が他人になりすます等して押印をするリスクが高まるおそれがあります。

そのため、重要な契約書では実印を用いることがあり、それが実印に間違いないという担保を取るために印鑑証明書の添付を求める場合もあります。

 

[1] 「実印」とは、印鑑登録されている印鑑のことをいい、「認印」とは、印鑑登録がされていない印鑑、いわゆる三文判のことをいいます。

 

7. 印紙の要否


一定の契約書については、印紙税の納付が義務づけられており、印紙の貼付等が必要となる場合があります(課税文書、印紙税法2条、8条)。

課税文書とは、印紙税法上、印紙税を納付する必要がある文書で、課税物件表に課税物件として定められている文書をいいます(20種類)。

課税文書となるか否かについても、契約書のタイトルによって判断されるわけではなく、たとえば契約書のタイトルが「念書」となっていたとしても、内容が金銭の借用証書であれば、課税物件表1の「消費貸借に関する契約」として、契約金額に応じた収入印紙を添付する必要があります。

なお、課税文書に収入印紙が添付されていなかったとしても、その契約の効力自体に影響はありません。

ただし、納付すべき印紙税を当該文書の作成のときまでに納付しなかった場合には、納付しなかった印紙税の額とその2倍に相当する金額との合計額が、過怠税として課されるため注意が必要です(印紙税法20条1項)。

 

8. その他


その他、契約書の形式面に関して注意すべき主な点としては以下のとおりです。

 

① 誤字・脱字等はないか?

誤字・脱字等が直ちに契約書の効力に影響を及ぼすことは少ないですが、「甲」と「乙」が入れ替わっていたり、取引金額の桁を間違えていたりするなど、致命的なミスがある場合もあります。

 

② 契約書において定義付けされた用語が正しく使用されているか?

「本件取引」「本件不動産」等の、契約書において定義付けされた用語が正しく使用されているか確認する必要があります。

 

③ 日付・金額に間違いはないか?参照条文にズレ等はないか?

契約締結日付や契約内の各種条項で引用されている日付、また報酬等の金額については、最終稿となった段階で必ずドラフト段階のものとの比較を行い、内容を検証します。

 

④ 契約書に付随する「別紙」「別添」の漏れはないか?

契約書本体で概略のみを定め、事務手続や報酬額等の詳細については「別紙」、「別添」に定める場合があります。このような場合には、かかる「別紙」、「別添」等を参照する旨が契約書本体に定められ、また、「別紙」、「別添」等の内容が契約書本体の規定内容と平仄があっているか確認します。

 

⑤ 空欄にしていた箇所は埋められているか?

最終稿となった段階では必ずドラフト段階で空欄とした部分が正確に規定されているか確認します。

 

⑥ 契約書作成途中での内部コメントはきちんと削除されているか?

最終稿となった段階では必ずドラフト段階で修正履歴等を付して記載した内部コメントが漏れなく反映され、削除されているか確認します。
上記定義の正確性や空欄の補充漏れ等がないかをチェックするためには、Wordの検索機能も利用すると便利です。

 

 2 終わりに

当事者間でのリスク配分を含む合意内容を明確化し、将来の紛争を予防するともに、いざ訴訟になった場合の証拠として非常に重要な役割を果たす「契約書」ですが、そもそもの書面での作成の要否やタイトルの決め方等について、契約自由の原則のもと、当事者の合意内容に委ねられている部分が多くあります。

もっとも、かかる契約書の役割及びその重要性に鑑み、実務上主流というべき一定の「お作法」は存在します。

本記事が契約書を作成・レビューする際の一助になりましたら幸甚です。

 
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