Fintechと金融法 SEC調査報告書の衝撃

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INDEX


はじめに

  1. 本報告書の概要
  2. SECの見解
  3. 投資家への注意喚起書の発行
  4. 終わりに 世界各国のICO規制と今後

 はじめに

代表的な仮想通貨であるビットコインが一時1BTC=55万円程度に達するなど、仮想通貨に対する投機熱はますます沸騰しています。ビットコインだけでなく、イーサリアム等のアルトコインの人気も高く、これらの仮想通貨の価格も右肩上がりの傾向が続いています。

そして近年、以前のコラムでもご紹介した、仮想通貨を利用した新規仮想通貨公開(Initial Coin Offering:以下ICO)が注目を集めるようになってきています。ICOが盛り上がりを見せる中、2017年7月25日、米証券取引等監視委員会(SEC)は、イーサリアム上のプロジェクト「The DAO」で発行された仮想通貨(DAOトークン)について、米国証券法上の「証券」に該当する旨の報告書[1]を公表しました(以下「本報告書」といいます。)。

本報告書は仮想通貨界隈に大きな衝撃をもたらし、米国投資家もターゲットとするICOについては「証券」に該当しないか、慎重な分析が求められるようになっています。また、本報告書の公表後、中国でもICOが全面的に禁止されるなど、世界的にICOに対する規制が強化される傾向が見られます。

そこで、本コラムでは、仮想通貨界隈に大きな衝撃をもたらしたSECによる本報告書の概要を分析するとともに、同日SECから発出されたICOに対する投資家への注意喚起文書及び他国のICOに対する規制動向を紹介することとします。

なお、ICOをはじめ、仮想通貨に関する法規制の議論は不透明かつスピーディーに展開しており、今後の法改正・解釈の変遷等により、本コラムにおける記載内容が変更される可能性があることにご留意ください。

[1] 本報告書の原文についてはhttps://www.sec.gov/litigation/investreport/34-81207.pdf 参照

POINT

  • 2017年7月25日、SECは、DAOトークンについて米国証券法上の「証券」(investment contract、投資契約)に該当する旨の報告書を公表
  • ただし、上記報告書はあくまでDAOトークンに関する事例判断であって、ICOで発行されるトークン全てが「証券」に該当すると判断したわけではなく、「証券」該当性はケースバイケースで判断

現在、世界的にICOに対する規制が強化されており、日本でも金融庁に仮想通貨専門チームが設置されたことから、今後の規制の在り方に注視が必要

 


2017年7月25日、SECは、The DAOの事業体や資金調達に用いる可能性のあるその他の分散台帳システムやブロックチェーンを利用する者に対する助言として、1934年証券取引所法(Securities Exchange Act of 1934。以下「取引所法」といいます。)第21条(a)に鑑み、本報告書を発行しました。

本報告書では、DAOトークンが「証券」に該当するかという根本的な論点を含めて、DAOトークンの勧誘・販売に対する米国連邦証券法の適用に関する論点が検討されており、結論として、SECは、DAOトークンを1933年証券法(Securities Act of 1933。以下「証券法」といいます。)及び取引所法に基づく「証券」であると判断しました。

米国で勧誘・販売されるすべての「証券」は、登録免除要件を満たさない限り登録義務が課せられますが、今後、新しいデジタルトークンに対しても米国の証券に関する法律を適用する可能性が提示されたものといえます。

 1. 本報告書の概要

1. The DAOとDAO事件


本報告書公表の背景には、イーサリアムの分裂、いわゆる「DAO事件」があります。「The DAO」とは、ドイツのスタートアップであるSlock.it社が自律分散型組織(DAO)の概念を実証するためイーサリアム上に設定したプロジェクトのことです。

詳細は割愛しますが、The DAOとは、The DAOというファンドをイーサリアム上に作り、コミュニティベースで管理していこうというスマートコントラクトシステムのことです。そのスキームは概要以下のとおりです。

The DAOのスキーム】

Fintechと金融法 SEC調査報告書の衝撃 

The DAOは、2016年4月30日から5月28日までに、約1200万ETH(約1億5千万ドル、156億円相当)を調達し、DAOトークンの発行量はこの5月28日までの総発行量が上限とされ、セカンダリ市場での売買も可能とされていました。

投資家は、出資したETH(イーサリアムの単位)に応じてThe DAOの発行するDAOトークンを獲得しますが、DAOトークンには保有数に応じた一定の投票権が付与されており、提案された案件を実施するか否かは、不特定多数のDAOトークン保有者の投票により決定されることとされていました。投資案件の提案自体は誰でも可能ですが、キュレーターと呼ばれる管理者によって承認された案件に対して投票が行われることとされていました。そして、投資した案件からの利益は、事前に定められたルールに従って分配されることとされていました。

ところが、The DAOのシステムには脆弱性が存在したため、この脆弱性を衝いた不正な攻撃により、結果としてThe DAOの保有するETHの約3分の1にあたる約50億円分がThe DAOファンドから流出してしまいました。もっとも、不正に流出したETHの引き出しには一定期間が必要であったため、攻撃者はすぐにはETHを移動させることができず、その間に議論の末、ハードフォークを実施し、攻撃者によりETHが移動される直前の状況に戻すこととされ、結果として攻撃者によるETHの盗難はなかったこととされました。

このハードフォークにより、攻撃者によるEHTの盗難はなかったことにされたものの、このような手法を採用したことに対して、中央集権的であると異を唱えるコミュニティもありました。その結果、非中央集権を目指す層はハードフォークを拒否し、新しい仮想通貨であるイーサリアムクラシックを生み出すこととなり、イーサリアムは結果として2つに分裂することとなりました。

 

 2. SECの見解

1.「証券」該当性の判断基準


米国証券法上、「証券」の定義は、証券法第2条(a)(1)及び取引所法第3条(a)(10)で定められているものの、その定義は非常に広範です。そして、「証券」の類型のひとつとして、 “investment contract”(投資契約)も含まれており、DAOトークンはこの投資契約に該当するか否かが問題となりました

制定法を採用する日本と異なり、判例法を採用する米国においては、法形式よりも実質で法令に抵触するか判断する手法が多くとられているため、DAOトークンの投資契約該当性についても、Howey事件[1]における審査基準(「Howeyテスト」)によって判断されました。

Howeyテストにおいて、投資契約とは次のように定義されています。

“An investment contract for purposes of the Securities Act means a contract, transaction or scheme whereby a person [1] invests his money in [2] a common enterprise and its led to [3] expect profits [4] solely from the efforts of the promoter or a third party, [excluded factors] its being immaterial whether the shares in the enterprise are evidenced by formal certificates or by nominal interests in the physical assets employed in the enterprise.”

すなわち、資契約は、ある者が主として他者の努力によって収益を得ることを期待して共同事業に資金を出資することを勧誘される場合に該当するものとされており、Howeyテストにおける投資契約該当性の要件は以下の4つです。

①      investment of money(資金の投資)

②      investment of money is in a common enterprise(共同事業への出資)

③      an expectation of profits from the investment(収益への期待)

④      any profit comes from the efforts of a promoter or third party(他者の努力から派生する利益)

[1] Securities and Exchange Commission v. W.J. Howey Co.(328 U.S. 293(1946)).

 

2. DAOトークンへのあてはめ


DAOトークンが上記要件①~④を充足するかについて、SECは、本報告書において、以下のように述べています。

 

① investment of money(資金の投資)

投資契約が存在するかどうかを判断するにあたり、「資金」は必ずしも現金の形式をとる必要はない[1]。The DAOへの投資の際、投資家は、ETHを利用し、ETHと引き換えにDAOトークンを受け取るようになっていた。このような投資の形式は、Howey Testによれば投資契約を締結するに値する。

 

② investment of money is in a common enterprise(共同事業への出資)
③ an expectation of profits from the investment(収益への期待)

DAOトークンを購入した投資家は、共同事業体(The DAO)に投資しており、ETHとDAOトークンを交換した時点でその事業体を通じて収益獲得を合理的に期待している。Slock.it社とその共同設立者による様々な販促資料によれば、The DAOは資金調達を目的とした営利団体であると投資家に伝えている。ETHはプールされThe DAOのプロジェクトで使用するようにされていた。

前述のように、The DAOではコントラクターからプロジェクトが提案され、キュレーターが承認したプロジェクトについて、DAOトークンの保有者は、そのプロジェクトに資金を提供するかどうか投票する権利がある。プロジェクトのそれぞれの条件に応じて、DAOトークンの保有者はプロジェクトからの潜在的な利益を得ることを期待していた。よって、合理的投資家は、少なくとも部分的には、The DAOへのETH投資によって利益を得られるだろうという動機を持っていたといえる。

 

④ any profit comes from the efforts of a promoter or third party(他者の努力から派生する利益)

投資家の利益は、Slock.it社とその共同創設者、キュレーターによる経営努力から派生するものであった。実際、The DAOの運営は彼らの専門知識に頼らざるを得なかった。DAOトークンの保有者はキュレーターによって選定されたプロジェクトに投票を行うのであり、どのようなプロジェクトがホワイトリストに登録されるのかはキュレーターによるもので、利益への期待はそのキュレーターの努力に依存するものであった。

また、DAOトークンの保有者に十分な情報を提供して、それらの情報に基づいて保有者が投票を行うような仕組みは確立されていなかった。DAOトークンの保有者には議決権が付与されたがその権限は限定されたものであって、The DAOにとって何らかの影響力を及ぼすほどのものではなかった。さらに、DAOトークンの保有者は匿名であり、分散していたため、保有者同士による連帯やコントロール行使は困難な状況だった。

 

● 小括

以上の分析に基づき、SECは、DAOトークンはinvestment contract(投資契約)に該当し、米国証券法上の「証券」に該当するものと判断しました。

米国証券法上、登録義務を負う「発行者」(“issuer”)の定義は非常に広範に定義されており、「証券」を発行するすべての者が該当します(“every person who issues or proposes to issue any security”)。そして、SECは、DAOトークンが「証券」に該当することから、The DAOは、登録義務の免除要件を充足しない限り、DAOトークンの募集に際して「証券」の発行者として登録が必要であったものとしています。登録義務に違反して「証券」の募集を行った場合、証券法第5条の違反となります。

また、DAOトークンの取引に利用したプラットフォームについても、取引所法に基づき、「取引所」の定義に該当するものとして、登録義務の対象となるとしています。

ただし、SECは、「証券」に該当するかは個別事情によるとしており、本報告書はあくまでDAOトークンが「証券」に該当する、との判断を示したにすぎません。そのため、今後、ICOによって発行されるトークンがすべて「証券」に該当するとしたわけではなく、ケースバイケースで個別に「証券」該当性が判断されることとなるものと思われます。

[1] See, e.g., Uselton v. Comm. Lovelace Motor Freight, Inc., 940 F.2d 564, 574 (10th Cir. 1991)

 

 3. 投資家への注意喚起書の発行

SECは、本報告書と併せて、7月25日、投資家向けの注意喚起書[1]を公表しています(以下「本注意喚起書」といいます。)。本注意喚起書では、ICOへの投資判断を行う前に考慮すべきポイント等が警告されています。

本注意喚起書の要点は以下のとおりです。

① 事実や状況によっては、ICOは「証券」の販売を伴うことがある。その場合、仮想通貨やトークンのICOは、SECに登録されるか、登録免除要件を充足している必要がある。ICOに投資する前に、トークンが「証券」に該当するかどうか、それらの販売者がSECに登録されているか確認する必要がある。その際の留意点は以下のとおり。

  • ICOがSECに登録されている場合、登録届出書やForm S-1等の情報をEDGAR[2]を通してSEC.gov上で確認することができる。
  • 資金調達者が、ICOは登録免除されていると述べている場合や、投資家が適格投資家ではない場合、慎重な注意が必要である。ほとんどの免除要件には、自己資本や収入の条件がある。
  •  ICOはクラウドファンディング契約であると説明されることがあるが、それらはクラウドファンディングに関する規制や、連邦証券法を順守したICOではない可能性がある。

②  投資した資金が何に使われ、どのような権利がその仮想トークンによって与えられるのか質問すること。資金調達者は、投資家が理解できるような明確な事業計画を持っていなければならない。仮想通貨やトークンが付与する権利は、ホワイトペーパーや開発ロードマップの中に明確に記載されている必要がある。とくに、投資家が換金や返金を希望した場合に、いつ、どのように返還されるのか、たとえば、仮想通貨やトークンを資金調達者に返還することによって払戻しを受ける権利があるのか、または、仮想通貨やトークンを転売できるのか、その際には何らかの制限はあるのかなど、具体的に確認すべきである。

③ 仮想通貨やトークンが証券に当たる場合、連邦及び州の証券法では、投資に関して売出しや取引、助言を行う専門家や企業は、免許を取得し、または登録されることが必要となる。これらの専門家や企業の登録状況・バックグラウンドについてはInvestor.govで調べることができる。

④ ブロックチェーンがオープンでパブリックか、プロジェクトのコードは公開されているか、独立したサイバーセキュリティ監査を受けているか確認すること。

⑤ 詐欺師は、しばしばイノベーションや新たなテクノロジーを不正な投資スキームの実行に利用する。ICO投資を、最先端の世界に飛び込むための「機会」であると誇大な宣伝をしたり、ハイリターンを保証するなどと言ったりして、投資家の気を引く。投資家は、専門用語が盛り込まれたピッチや、強引な販売、常識外れのリターンには常に疑いを持つべきである。また、実際には詐欺にもかかわらず、ブロックチェーン技術を駆使して素晴らしく見えるICOを作り上げることは比較的容易なのである。

⑥ 仮想通貨取引所や仮想通貨・トークンなどを保有している組織は、詐欺や技術的不具合、ハッキング、またはマルウェアの影響を受けやすい。ハッカーによる仮想通貨やトークンが盗まれる可能性もある。

⑦ 詐欺や盗難が発生した場合、ICOによる投資手法は投資家の資金の回収を難しくする。連邦証券法において投資家に権利があったとしても、回収する手法は極めて限定的である。

もし仮想通貨やトークンが詐欺や盗難にあった場合、①資金の流れの追跡、②クロスボーダー、③中央当局の不在、④仮想通貨の凍結・保護、といった仮想通貨システム特有の課題が、盗まれた資産の回収を非常に困難にさせている。そこで、SECでは、ハイリターンの保証や依頼していない勧誘、限定的な購入機会などを謳うものには十分な警戒を持つよう促している。

このように、一般投資家向けにICOに関する注意文書を発出するということからも、SECは消費者保護の観点からもICOに対応していくものと思われます。

[1] 原文については、https://www.investor.gov/additional-resources/news-alerts/alerts-bulletins/investor-bulletin-initial-coin-offerings を参照

[2] https://www.sec.gov/edgar/searchedgar/webusers.htm

 

 4.終わりに 世界各国のICO規制と今後

【世界各国のICO・仮想通貨に対する規制の概要】

Fintechと金融法 SEC調査報告書の衝撃

(出典:http://bitlegal.io/

No.

規制の概要

米国

7/25: DAOトークンが「証券」に該当する旨のリリース(ICOの全面禁止ではない)[1]

シンガポール

8/1:シンガポール金融管理局(MAS)より、「トークンが証券先物法の対象となる場合、MASの規制対象となりうる」旨の声明発表[2]

カナダ

8/24:カナダ証券管理者(CSA)より、ICOに証券法が適用される可能性がある旨の通知を公表[3]

ロシア

9/4:ロシア中央銀行より、ICO及び仮想通貨に対して注意喚起のプレスリリース[4]

中国

9/4:中国人民銀行より、既存・新規問わずICO全面禁止の声明発表

香港

9/5:香港の証券取引委員会(SFC)より、香港設立の法人によるICOだけでなく、香港の国内・国外問わず香港人が参加するICOについて、「証券」に該当しうる旨の声明を公表[5]

韓国

現状、韓国では仮想通貨に関する法規制はないものの、公正取引委員会 (KFTC) 、国税庁 (NTS)、 金融委員会 (FSC) などを交え、規制強化に向けて検討中[6]

 

本報告書のとおり、米国は、ケースバイケースの判断ではありますが、ICOを「証券」とみなし、一定の規制を課す方向に舵を切ったものといえます。

そして、米国に続きシンガポールでも、2017年8月1日にシンガポール金融管理局(Monetary Authority of Singapore:MAS)は、資金調達の手段としてICOが増加したことを受け、トークンの売出しについて、証券先物法の規制の対象となるような金融商品と同様のものに対して規制する方向性を打ち出しました。また、トークン自体だけではなく取引所などもMASによる承認を必要とするなどの規制を受けることになる可能性があります。

さらに、米国、シンガポールに続き、8月24日には、カナダ証券管理局(The Canadian Securities Administrators)は、投資家保護の観点からICOを監督する必要がある旨公表しています。

8月30日にはイスラエル証券庁(Israeli Security Authority)がICOについて証券法の適用が可能か調査を実施するとしています。

9月4日には、中国人民銀行は、ICOの中には詐欺的なものもあり、社会経済を無秩序に至らしめるとして他国よりも厳しい対応を取り、全面的に禁止とする方向性を示し、その影響でビットコインをはじめ主要なアルトコインの価格が急落しました。

また、中国がICO禁止を明言した翌日9月5日には、香港の証券先物委員会(Securities and Futures Commission)も、増加するICOに対する懸念を示し、ICOで販売されるトークンが「証券」とみなされる可能性がある見解を公表しています。

このように、相次いでICOに対する規制の可能性を表明する国が現れてきていますが、

今後、日本でもICOに対して何らかの規制が設けられるのか注目されます。金融庁も来月10月から、専任の「仮想通貨モニタリング長」のポストを設け、30人規模の専門チームを設置することとしていますが[7]、イノベーションの育成と投資家保護のバランスのとれた規制が望まれます。

[1] https://www.sec.gov/news/press-release/2017-131 

[2] http://www.mas.gov.sg/News-and-Publications/Media-Releases/2017/MAS-clarifies-regulatory-position-on-the-offer-of-digital-tokens-in-Singapore.aspx 

[3] https://www.securities-administrators.ca/aboutcsa.aspx?id=1606 

[4] https://www.cbr.ru/press/PR/?file=04092017_183512if2017-09-04T18_31_05.htm 

[5] https://techcrunch.com/2017/09/05/hong-kong-ico-concern/ 

[6] http://btcnews.jp/47vcmhym12465/ 

[7] https://www.nikkei.com/article/DGXLASDC12H2S_S7A910C1EE9000/

 
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