債権回収 初動対応の実務

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INDEX


はじめに

  1. 債権回収の心構え
  2. 債権回収が問題となる場面
  3. 債権回収の予防策
  4. 債権回収の方法
  5. 結語

 はじめに

債権はあるのに回収できない……

  • 「用意できたら払うから」と言われたけれどいつまで待てばいいのだろうか…
  • 毎回支払いが遅れている取引先をいつも催促しないとならないのだろうか…
  • 取引先が倒産してしまった…

このような問題でお悩みの企業は少なくありません。これらの問題は、いわゆる「債権回収」が問題となる場面といえます。

企業間取引ではもちろん、個人相手の請負契約などでも、債権が回収できないという問題は、容易に起こり得ます。

相手は「お金がないから払えない」「用意できたら必ず払うから待ってほしい」と繰り返したり、場合によっては一切連絡を絶ってしまったりすることもあります。

しかし、ここで諦めてしまっては、本来得るべき正当な報酬が得られないばかりか、今後の事業運営にも支障を来しかねません。

本当に債権回収の可能性がないか、慎重に検討する必要があります。

私たちは、債権回収の案件には数多く携わってきました。

クライアント自身の交渉では一切支払おうとしなかった相手が、弁護士が交渉に携わったことで態度が急変し、支払に応じるというケースもあります。

債権回収を円滑に進めるためにはいくつものポイントがあります。 そこで、本コラムでは、債権回収の基本を解説するとともに、債権回収リスクが生じた場合における初動対応について解説することといたします。

なお、本コラムにおける法規制及び法解釈については、今後の法改正・解釈の変遷や議論の集積等により変更される可能性があることにご留意ください。

 1. 債権回収の心構え

1. 企業法務の目的


債権回収は、企業法務の一場面となります。

そこで、債権回収について説明する前に、まず企業法務の目的について解説いたします。

企業法務は、究極的には企業活動を法務の側面から支援していくことが目的といえますが、方向性に応じて3つの目的に整理することができます。

  1. 戦略法務
    コンプライアンス体制を構築するとともに、より合理的な経営方針を選択する
  2. 予防法務
    債権回収・紛争防止の事前準備を行い、裁判で勝利する
  3. 臨床法務
    債権回収・紛争解決を実行する

 債権回収 初動対応の実務

債権回収も、この企業法務の3つの目的に沿って整理していくことで、債権回収の予防策(=予防法務)、債権回収の解決方法(=臨床法務)、そして契約相手の選択・交渉方法等、経営戦略(=戦略法務)を適切に選択することが可能となります。

2. 逆算の企業法務


債権回収 初動対応の実務

企業法務を検討するにあたっては、企業経営と同様、ゴール(目標)から考える必要があります。

通常の企業経営では、予算管理等、具体的な数値目標や達成度を設定し、この実現に向けて事業運営を行うことになります。

企業法務でも、企業経営と同様、企業法務の目的(ゴール)から逆算して考えていく必要があります。

紛争が発生してからの場当たり的対応は禁物といえます。

債権回収の場面でも、紛争が発生してから慌てて対応するのではなく、契約交渉の時系列に沿って、債権回収リスクが生じない取引相手の選定、債権回収リスクの予防策の構築等を設定して、事前に対応することが求められます。

3. 債権回収の主体


債権回収 初動対応の実務

① 債権回収は弁護士に任せればよい?

また、債権回収のご相談でよくある誤解ですが、債権回収は問題が起きたときには、すべて弁護士に一任すればよいと考えている企業は少なくありません。① 債権回収は弁護士に任せればよい?

ですが、債権回収の方法は法的手続だけではありません。また、法的手続きによりさえすれば100%成功するというものでもありません。

したがって、債権回収は、弁護士に一任すればそれだけで解決するわけではないということをご理解いただく必要があります。

② 債権回収の成否は当事者意識にある

むしろ、債権回収の成否は、弁護士任せにすることではなく、いかに当事者意識をもってこの問題に取り組んでいただくことができるか、によるといえます。

債権回収は情報戦です。例えば、相手方の預貯金の口座を差し押さえるという方法がありますが、預貯金の差押を成功させるためには、相手方の使用している預金口座に関する情報を入手する必要があります。また、取引先に対する売掛金を差し押さえるためには、取引先に関する情報を入手する必要があります。

また、債権回収はスピードが重要です。相手方の預貯金があったとしても、差押を警戒して預金を引き出されたり、他の預金口座に移動されたりすれば差押も奏功しません。少しでも早く債権回収に動くことがポイントといえます。

③ 債権回収の役割分担

このように、債権回収のメインはあくまでも当事者にあるということをご理解いただきたいと思います。

その上で、弁護士は債権回収の予防策の構築や、債権回収の解決としての交渉や裁判等、法的手続の対応を行っていくという役割分担を意識していくことが、債権回収の成功率を高めることになります。

なお、債権回収では、ともすれば回収率を上げるために、強硬な取り立て等、無理をしてしまうこともあるかもしれません。

ですが、あまりにも強引な取り立てをしたり、場合によっては反社会的勢力の力を借りてまで取り立てをしようとしたりすれば、債権者であっても強要罪等の刑事責任や、行政処分等を受けることになりかねません。

どこまでの債権回収行為が許されるのかということも、弁護士に相談して対応していく必要があります。

4. 債権回収のポイント


債権回収のポイントは以下の3つとなります。

  1. 債権回収は情報戦
  2. 債権回収はスピード重視
  3. 債権回収は無理をしない(刑事責任のリスク/行政法規違反のリスク)

5. 債権回収のポイント


債権回収が問題となる一場面をみて、実際にどのように債権回収を進めていくべきなのかをご説明します。

【概要】

建築設計会社A社がB社から新築工事を受注し、工事を完成させたが、B社は工事代金の一部を期日までに支払わなかった。

未払工事代金は約500万円にのぼっていた。

A社からB社に対して、何度催促しても、弁解ばかりで進展はなかった。

【対応】

まず、①交渉の継続をするかどうか、ということですが、交渉を継続したとしても、B社の対応の変化は期待できません。

次に、②弁護士による請求をした場合、B社の対応の変化は期待できますが、弁護士が間に入ったことで、A社が本格的に債権回収に着手したことを察知され、財産を隠されてしまうかもしれません。

また、③訴訟を提起するという方法も考えられますが、強制力はあるものの、判決が出るまでには相当の時間を要します。判決が出るまでの間に、B社の財産が維持できていないおそれも懸念されます。

そこで、このケースでは、④仮差押の選択をすることが望ましいといえます。

【ポイント】

この事例でのポイントは以下の3つにあります。

債権回収は、個別の事例によってどのような方法を選択することが最適かは異なります。

適切な債権回収の方法を選択するためにも、以下の3つを意識して対応していく必要があります。

  1. 債権回収は情報戦
    B社の財産がどこにあるのかの見極め
    B社の資力がいつまで維持できるのかの見極め
  2. 債権回収はスピード重視
    他の債権者に先んじて対応する必要
    B社が財産を移動する前に対応する必要
  3. 債権回収は無理をしない
    弁護士に依頼しても無理強いはできない

 2. 債権回収が問題となる場面

1. 債権回収が問題となる場面


債権回収が問題となる場面は、契約締結交渉の時系列に沿って整理するとイメージしやすいといえます。以下では、それぞれの場面ごとの留意点をご説明します。

債権回収 初動対応の実務

  1. 契約締結準備段階
    企業調査を徹底する
  2. 契約締結段階
    契約書を活用する
  3. 契約履行段階
    債権管理を行う
  4. 紛争の発生
    紛争発生の予兆を把握する

2. 契約締結準備段階:企業調査の重要性


① 企業調査を怠った場合のリスク

契約締結準備段階では、企業調査を行うことが重要です。企業調査を怠った場合には、以下の3つのリスクが想定されます。

  1. 企業不祥事に巻き込まれるおそれ
  2. 債権不払いのおそれ
  3. 債権回収失敗のおそれ(担保の設定不存在等)

したがって、契約締結準備段階における企業調査は、コンプライアンス・債権管理の観点からも必須といえます。

② 契約締結交渉前に行うべき調査

契約締結準備段階で行うべき企業調査の一例としては、以下の調査が考えられます。

  1. 法人登記簿謄本の調査
    ▶ 登記情報提供サービスで取得可能
  2. 不動産登記簿謄本の調査
    ▶ 登記情報提供サービスで取得可能
  3. インターネット上の調査
    ▶ ホームページ
    ▶ フェイスブック
    ▶ ツイッター
    ▶ ブログ
  4. 業界新聞、業界雑誌等
  5. 調査報告書(㈱帝国データバンク、㈱東京商工リサーチ等)

3. 契約締結段階:契約書の重要性


① 契約とは

次に、契約締結段階では、契約書によってリスク管理をすることが重要です。

ところで、そもそも契約とは「二人以上の複数の当事者の意思表示が合致することによって成立する法律行為」と定義されます。

契約のポイントは、以下の2点に整理できます。

  1. 当事者の意思表示の合致(一方が独断で決めるわけではない)
  2. 法律行為 = 法律効果が発生する

この2点を当事者間で確認するために、契約書を作成することになります。

② 契約書の重要性

契約書を作成する目的は、4点に整理できます。

  1. トラブルの防止
  2. リスクコントロール
  3. 担保の設定
  4. 証拠の作成

この4つの目的を意識して契約書を作成・管理することによって、債権回収のリスク管理は相当程度実施することが可能となります。

契約書は企業にとって「楯」であると同時に「武器」でもあるという意識をもって、契約書は積極的に作成・管理していただく必要があります。

4. 契約履行段階:債権管理


① 契約の有効性の確認

契約書を作成し、実際に契約書記載のとおり債権を回収しようとする場合には、当然のことながら契約自体が有効かどうかを確認していただく必要があります。

契約の有効性の判断にあたってはいくつも検討事項がありますが、少なくとも以下の形式的な事項は事前にチェックしておく必要があります。

  1. 有効期限が切れていないか
  2. 適法な署名権限を有する者による署名捺印がなされているか
  3. 合併等で当事者に変更が生じていないか

 

② 契約の履行条件の確認

また、契約書の形式面に問題はなくとも、契約の履行条件を満たしているかどうかも別途確認する必要があります。

  1. 履行時期の確認
  2. 同時履行の抗弁の有無
  3. 停止条件の有無

 

 3. 債権回収の予防策

1. 新規取引の際の注意点


 

債権回収を予防するためには、そもそも契約締結交渉時点から注意しておくことが望ましいといえます。

特に、債権回収の問題が生じやすいケースは、新規取引の場面です。

そもそも、新規取引先の信用・資力は未知数です。したがって、新規取引先に何らかのトラブルが生じた場合、高額の取引を行っていたとしても問題なく支払いが可能か、不明と言わざるを得ません。

また、新規取引であるにもかかわらず高額な取引を持ちかけてくる場合には、取り込み詐欺の手口である可能性も考えておく必要があります。

2. 新規取引の際の注意点


① 取引先の情報を取得しやすい時期

そこで、新規取引を開始する場合、特に取引先の情報管理を徹底することを意識する必要があります。

取引先の情報を取得しやすい時期は「平常時」といえます。

平常時こそがもっとも情報を取得することが可能です(警戒されない)。

平常時に取引先の事務所を訪問するなどすれば、従業員が何名くらい実働しているのか、また取引先の売掛先に関する情報等を入手できることもあります。

② 取引先の情報を取得する方法

また、取引先の情報を取得する方法としては、以下の方法も挙げられます。

  1. 法人登記簿謄本の調査
    ▶ 登記情報提供サービスで取得可能
  2. 不動産登記簿謄本の調査
    ▶ 登記情報提供サービスで取得可能
  3. インターネット上の調査
    ▶ ホームページ
    ▶ フェイスブック
    ▶ ツイッター
    ▶ ブログ
  4. 業界新聞、業界雑誌等
  5. 調査報告書(㈱帝国データバンク、㈱東京商工リサーチ等)

③ 紛争発生の予兆

このように、債権回収の予防策としては事前の情報収集が重要です。

そして、債権回収のリスクは、時系列に沿って高まっていくことを意識しておく必要があります。

債権回収 初動対応の実務

以下では、債権回収のリスクを判断するポイント、要因、留意事項を整理しています。

債権回収リスクが懸念される取引先について、以下の項目のどれがあてはまるかを整理する際にご利用ください。

債権回収 初動対応の実務

 4. 債権回収の方法

1. 債権回収の方法


債権回収の方法の代表的なものを整理すると、以下の7つとなります。

いずれの方法を選択するかは、ケース・バイ・ケースで判断することになりますが、⑦担保権実行を行うためには、事前に抵当権等の担保権を設定しておく必要があります。

  1. 口頭による催促
  2. 請求書の送付
  3. 内容証明郵便
  4. 支払督促・少額訴訟・通常訴訟
  5. 仮差押
  6. 強制執行
  7. 担保権実行

以下では、債権回収の各方法で留意していただきたい点をご紹介します。

2.相殺による債権回収


債権回収 初動対応の実務

① 相殺の効果

自己の相手方に対する債権(自働債権)と、相手方が自己に対して有している債権(受働債権)とを、対当額で消滅させることが可能となります。

② 相殺の意義

相殺の意義は、以下の2点です。

  1. 簡易迅速な決済の実現
  2. 相殺の担保的効力(債権回収の実現)

相殺可能であれば、1通の通知書のみで解決が可能ですので、債権回収の方法の中でも、非常に強力かつ簡易といえ、利便性の高い手続といえます。

③ 相殺の要件

相殺の要件は以下の3つです。

  1. 当事者双方が同種の債権を対立させていること
  2. 双方の債権が弁済期にあること
  3. 債権が相殺できるものであること

そこで、実務上は、いかにしてこの相殺の要件を創出するか、ということに留意することになります。

3. 相殺による債権回収


① 代物弁済とは

既存の債務で債務者が本来的に負担することとなっている給付に代えて他の給付をなすことで既存の債務を消滅させる債権者と債務者との契約をいいます(民法第482条)。

② 代物弁済の効果

代物弁済によって債務は消滅することになります。

したがって、代物弁済が可能であれば、実質的に債権回収を行ったことと同様の効果を得ることが可能となります。

③ 代物弁済の要件

  1. 当事者間に債務が存在すること
  2. 本来的に負担していた給付と異なる給付が現実になされること
  3. 弁済に代えてなされること
  4. 債権者の承諾があること

4. 債権譲渡による債権回収


債権回収 初動対応の実務

債権譲渡による債権回収の方法では、既存の債権をディスカウントして売却することになります。

ディスカウントはしますが、回収のコスト・回収不能のリスクを回避することが可能となります。

この方法を選択する場合には、ディスカウントのデメリットと回収コストのメリットを秤にかけることになります。

5. 債権譲渡による債権回収


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債権譲渡による債権回収の応用例として、債権譲渡と相殺を組み合わせるという方法もあります。

債務者に対して負債を有している者に対して債権譲渡を行うことで、新債権者は債務者に対して相殺をすることで優先的に回収を図ることが可能となります。

この方法によることで、より有利な条件で債権譲渡が可能となります。

6. 刑事告訴の検討


債権回収 初動対応の実務

取り込み詐欺に該当するような場合、民事による債権回収と並行して刑事告訴を検討することもありえます。

7. 今後の取引の中での回収


① 新規取引開始による相殺適状の作出

回収困難な債権に対応する債務(買掛金等)を相殺する方法が考えられます。

② 新規取引の契約条件の修正

債務者からすれば債務を履行できていない状態にあります。

そこで、債務者に対して優位な立場にあることを利用して、交渉を有利に進めていき、今後の新規取引での契約条件を有利に修正させていくという方法も考えられます。

 5. 結語

これまでに債権回収の心構え、債権回収の予防策、そして再関係集の方法について解説いたしました。

債権回収リスク管理のポイントを整理すれば、以下のとおりです。

1 債権回収の心構えの重要性

  • 債権回収は弁護士任せにしない
  • 債権回収の成否は当事者意識にある
    • 債権回収は情報戦
    • 債権回収はスピードが重要
  • 債権回収の役割分担

2 平常時こそ債権回収の予防策を講じる必要がある

  • 取引先の情報を取得しやすい時期
  • 紛争発生の可能性は時系列に沿って高まっていく

3 債権回収の方法を理解し、場面に応じて使い分ける必要がある

当事務所では、債権回収でお悩みの企業様のご相談・ご依頼は随時お受けしています。

債権回収は企業の健全・安定的な運営を維持するために必要不可欠な要素といえます。

債権回収でお悩みの企業様は、お気軽にご相談ください。

 
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