相談事例
同一労働同一賃金を意識して、正社員と有期・短期契約社員の賃金や手当を考えたほうがよいと聞いています。
もっとも、運送会社である当社では、基本給のほかに、歩合給や、精勤手当、通勤手当や家族手当など、様々な賃金項目を設定しています。
また、各賃金項目に応じて、正社員と有期・短期契約社員との間で待遇差を設けていました。
このように設定してきた当社の賃金項目すべての待遇差が、同一労働同一賃金に違反するということになってしまうのでしょうか。
解説
同一労働同一賃金ガイドラインの総論のポイント
同一労働同一賃金ガイドラインは、「厚生労働省HP|短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に 関する指針」をご参照ください。
以下では、「同一労働同一賃金ガイドライン」の総論におけるポイントについて説明します。
同一労働同一賃金ガイドラインの目的
同一労働同一賃金ガイドラインには、「まずは、各事業主において、職務の内容や職務に必要な能力等の内容を明確化するとともに、その職務の内容や職務に必要な能力等の内容と賃金等の待遇との関係を含めた待遇の体系全体を、短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者を含む労使の話合いによって確認し、短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者を含む労使で共有することが肝要である。」と記載されています。
上記記載からは、あくまでも賃金体系の設計は、労使の話し合いで決めることが原則とされていることがうかがわれます。
同一労働同一賃金ガイドラインの基本的な考え方
次に、同一労働同一賃金ガイドライン「第2 基本的な考え方」についてみていくと、以下の2つがポイントになります。
「事業主が、第3から第5までに記載された原則となる考え方等に反した場合、当該待遇の相違が不合理と認められる等の可能性がある」
上記記載からすれば、同一労働同一賃金ガイドラインに示された考え方に違反したとしても、直ちに違法とまでは断言できるわけではないといえます。
結局のところ、待遇の相違が不合理といえるかどうかは、個別のケースによって判断されることになります。
そこで、本稿でも取り上げるように、労働契約法20条に違反するかどうかを検討した裁判例の分析が今後の実務の動向を考える指針になるといえます。
「この指針に原則となる考え方が示されていない退職手当、住宅手当、家族手当等の待遇や、具体例に該当しない場合についても、不合理と認められる待遇の相違の解消等が求められる」
上記記載からすれば、同一労働同一賃金ガイドラインに掲載されていない手当等についても個別具体的に検討する必要があります。
したがって、労働契約法20条に違反するかどうかを検討した裁判例の分析をする必要があるといえます。
同一労働同一賃金ガイドラインの性格
なお、前述したように、同一労働同一賃金ガイドラインは、裁判所の法的判断を拘束するものではありません。
もっとも、裁判所が同一労働同一賃金ガイドラインを踏まえて不合理性の判断を行う可能性は高く、事実上同ガイドラインに沿った内容の判決が出ることが予測されます。この点、メトロコマース事件(2審)(東京高判H31.2.20)では、時間外労働割増賃金の割増率の相違の不合理性を検討する中で同一労働同一賃金ガイドラインの内容に言及し、結果的には本指針の内容に沿った判断をしていることが参考となります。
同一労働同一賃金ガイドラインの検証
以上が同一労働同一賃金ガイドラインの総論となります。
以下では、同一労働同一賃金ガイドラインの各論として、今後の賃金項目の見直しにあたって留意すべき実務上のポイントを紹介していきます。
より詳しく知りたい方は、「弁護士が解説 37の裁判例からみる同一労働同一賃金の原則 実務と対策」もご参照ください。
検討順序
- 基本給
- 賞与
- 手当
- 役職手当
- 業務の危険度又は作業環境に応じて支給される特殊作業手当
- 交替制勤務等の勤務形態に応じて支給される特殊勤務手当
- 精皆勤手当
- 深夜労働手当または休日労働手当
- 通勤手当または出張旅費
- 食事手当
- 単身赴任手当
- 地域手当
- 福利厚生
- 福利厚生施設
- 転勤者用社宅
- 有給の保障
- 病気休職
- 法定外の有給の休暇その他の法定外の休暇
- その他
- 教育訓練
- 安全管理に関する措置及び給付
- ガイドラインに掲載のない手当
- 退職手当
- 住宅手当
- 家族手当
- 調整手当
ご相談のケースについて
同一労働同一賃金ガイドラインにもあるように、賃金体系の設計は、労使の話し合いで決めることが原則とされていると考えられています。
そして、同一労働同一賃金に違反する不合理な待遇差といえるかどうかは、個別のケースに応じた判断が求められます。
したがって、相談企業の正社員と有期・短期契約社員の間におけるすべての賃金項目の待遇差が、当然に同一労働同一賃金に違反するというわけではありません。
もっとも、各賃金の待遇差が同一労働同一賃金に違反するかどうかは個別のケースに応じた判断が必要であるため、同一労働同一賃金ガイドラインを参考にしながら、裁判例も参照しながら慎重に検討する必要があります。
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