相談事例

同一労働同一賃金における基本給の見直しをする際の注意点を教えてください。

解説

ガイドラインの考え方

1 基本給

(1)基本給であって、労働者の能力又は経験に応じて支給するもの

基本給であって、労働者の能力又は経験に応じて支給するものについて、通常の労働者と同一の能力又は経験を有する短時間・有期雇用労働者には、能力又は経験に応じた部分につき、通常の労働者と同一の基本給を支給しなければならない。また、能力又は経験に一定の相違がある場合において は、その相違に応じた基本給を支給しなければならない。

(問題とならない例)

  • 基本給について、労働者の能力又は経験に応じて支給しているA社において、ある能力の向上のための特殊なキャリアコースを設定している。通常の労働者であるXは、このキャリアコースを選択し、その結果としてその能力を習得した。短時間労働者であるYは、その能力を習得していない。A社は、その能力に応じた基本給をXには支給し、Yには支給していない。
  • A社においては、定期的に職務の内容及び勤務地の変更がある通常の労働者の総合職であるXは、管理職となるためのキャリアコースの一環として、新卒採用後の数年間、店舗等において、職務の内容及び 配置に変更のない短時間労働者であるYの助言を受けながら、Yと同様の定型的な業務に従事している。A社はXに対し、キャリアコースの一環として従事させている定型的な業務における能力又は経験に応じることなく、Yに比べ基本給を高く支給している。
  • A社においては、同一の職場で同一の業務に従事している有期雇用労働者であるXとYのうち、能力又は経験が一定の水準を満たしたYを定期的に職務の内容及び勤務地に変更がある通常の労働者として登用し、その後、職務の内容や勤務地に変更があることを理由に、Xに比べ基本給を高く支給している。 ニ A社においては、同一の能力又は経験を有する通常の労働者であるXと短時間労働者であるYがいるが、XとYに共通して適用される基 準を設定し、就業の時間帯や就業日が日曜日、土曜日又は国民の祝日に関する法律(昭和23年法律第178号)に規定する休日(以下「土日祝日」という。)か否か等の違いにより、時間当たりの基本給に差を設けている。

(問題となる例)

  • 基本給について、労働者の能力又は経験に応じて支給しているA社において、通常の労働者であるXが有期雇用労働者であるYに比べて多くの経験を有することを理由として、Xに対し、Yよりも基本給を高く支給しているが、Xのこれまでの経験はXの現在の業務に関連性を持たない。

(2)基本給であって、労働者の業績又は成果に応じて支給するもの

基本給であって、労働者の業績又は成果に応じて支給するものについて、通常の労働者と同一の業績又は成果を有する短時間・有期雇用労働者には、業績又は成果に応じた部分につき、通常の労働者と同一の基本給を支給しなければならない。また、業績又は成果に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた基本給を支給しなければならない。なお、基本給とは別に、労働者の業績又は成果に応じた手当を支給する場合も同様である。

(問題とならない例)

  • 基本給の一部について、労働者の業績又は成果に応じて支給しているA社において、所定労働時間が通常の労働者の半分の短時間労働者であるXに対し、その販売実績が通常の労働者に設定されている販売目標の半分の数値に達した場合には、通常の労働者が販売目標を達成した場合の半分を支給している。
  • A社においては、通常の労働者であるXは、短時間労働者であるYと同様の業務に従事しているが、Xは生産効率及び品質の目標値に対する責任を負っており、当該目標値を達成していない場合、待遇上の不利益を課されている。その一方で、Yは、生産効率及び品質の目標値に対する責任を負っておらず、当該目標値を達成していない場合にも、待遇上の不利益を課されていない。A社は、待遇上の不利益を課していることとの見合いに応じて、XにYに比べ基本給を高く支給している。

(問題となる例)

  • 基本給の一部について、労働者の業績又は成果に応じて支給しているA社において、通常の労働者が販売目標を達成した場合に行っている支給を、短時間労働者であるXについて通常の労働者と同一の販売目標を設定し、それを達成しない場合には行っていない。

 

(3)基本給であって、労働者の勤続年数に応じて支給するもの

基本給であって、労働者の勤続年数に応じて支給するものについて、通常の労働者と同一の勤続年数である短時間・有期雇用労働者には、勤続年数に応じた部分につき、通常の労働者と同一の基本給を支給しなければならない。また、勤続年数に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた基本給を支給しなければならない。

(問題とならない例)

  • 基本給について、労働者の勤続年数に応じて支給しているA社において、期間の定めのある労働契約を更新している有期雇用労働者であるXに対し、当初の労働契約の開始時から通算して勤続年数を評価した上で支給している。

(問題となる例)

  • 基本給について、労働者の勤続年数に応じて支給しているA社において、期間の定めのある労働契約を更新している有期雇用労働者であるXに対し、当初の労働契約の開始時から通算して勤続年数を評価せず、その時点の労働契約の期間のみにより勤続年数を評価した上で支給している。

(4)昇給であって、労働者の勤続による能力の向上に応じて行うもの

  • 昇給であって、労働者の勤続による能力の向上に応じて行うものについて、通常の労働者と同様に勤続により能力が向上した短時間・有期雇用労働者には、勤続による能力の向上に応じた部分につき、通常の労働者と同一の昇給を行わなければならない。また、勤続による能力の向上に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた昇給を行わなければならない。

(注)

1 通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間に賃金の決定基準・ルールの相違がある場合の取扱い

 通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間に基本給、賞与、各種手当等の賃金に相違がある場合において、その要因として通常の労働者と短時間・有期雇用労働者の賃金の決定基準・ルールの相違があるときは、「通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間で将来の役割期待が異なるため、賃金の決定基準・ルールが異なる」等の主観的又は抽象的な説明では足りず、賃金の決定基準・ルールの相違は、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものの客観的及び具体的な実態に照らして、不合理と認められる ものであってはならない。

 

(「厚生労働省|短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」5-8頁より抜粋)

実務上の対応

基本給の制度設計の分類

基本給の制度設計は、以下の3パターンが考えられます(同一労働同一賃金ガイドライン参照)。

  1. 能力または経験に応じて支給するもの
  2. 業績または成果に応じて支給するもの
  3. 勤続年数に応じて支給するもの

1、2、3それぞれに応じた支給金額(基本給に占める割合)が具体的に特定可能であることを前提とした記載がされています。

「職務評価を用いた基本給の点検・検討マニュアル」の参照

実務上は、具体的な賃金テーブルが存在しないために各要因に応じた支給金額の特定が困難なケースや、正社員と短期・有期社員との間の賃金の決定要因が異なるケースなどもあり、ガイドラインの考え方をそのまま当てはめることは難しい場合が多いことが予想されます。

実務上の対応としては、正社員と短期・有期社員ともに具体的な要因に応じた支給金額が明確になっているようなケースを除き、基本的には、両者に待遇差がある場合、両者の職務の内容、当該職務の内容および配置の変更の範囲からそれが不合理ではないことを客観的・具体的に説明できるかどうかがポイントとなると思われます。

厚生労働省では、基本給に関し、「職務評価を用いた基本給の点検・検討マニュアル」を公表しています。こちらのマニュアルは、評価上の項目等をわかりやすく整理しているため、基本給の見直しにあたっては参考となります。

ご相談のケースについて

同一労働同一賃金における基本給の見直しにあたっては、自社の基本給の制度設計を見直した上で、同一労働同一賃金ガイドラインが分類する3つのパターンのいずれに近いのかを検討しましょう。

また、基本給の見直しは、他の手当の見直し以上に社員に与える影響が大きいことが予想されます。

基本給の見直しにあたっては、「職務評価を用いた基本給の点検・検討マニュアル」(厚生労働省)も参考にしながら、慎重に検討しましょう。

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