相談事例

当社は昔ながらの会社といいますか、男性の多い職場で長時間労働が是とされるような社風です。

近年、禁煙がブームとなっており、職場外に喫煙スペースを設ける会社が増えていることも承知していますが、深夜まで残業する社員も多く、ストレスもたまるだろうということで、積極的にではないにせよ、執務スペースでの喫煙を黙認しており、喫煙室等も設けていません。

今回、女性社員の一部から、「受動喫煙は健康に非常に悪いので、男性社員の執務スペースでの喫煙をやめて欲しい。また、会社としても社外に喫煙スペースを設ける等して対策を取って欲しい」との強い要望が寄せられました。

会社として、何か対策をとる必要があるのでしょうか。

解説

受動喫煙防止のための措置

受動喫煙は健康に対する悪影響があるとされており、健康増進法25条において、「学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店その他の多数の者が利用する施設を管理する者は、これらを利用する者について、受動喫煙(室内又はこれに準ずる環境において、他人のたばこの煙を吸わされることをいう)を防止するために必要な措置を講ずるように努めなければならない」と規定されています。

「努めなければならない」との文言から明らかなとおり、同条は努力義務を定めたものであり、法的拘束力はありません。もっとも、同条の対象には会社も含まれるものと解されるところ、実務上、会社も社内に置ける受動喫煙防止のための措置を講ずる努力義務を果たすことが求められています。

なお、職場に置ける受動喫煙防止対策については厚労省も力を入れて取り組んでおり、平成22年2月25日健発0225第2号「受動喫煙防止対策について」及び平成24年10月29日健発1029第5号「受動喫煙防止対策の徹底について」等において、従来の分煙よりも更に厳しく、全面禁煙が求められることとなったなど、国を挙げて対策に向けた取り組みが強化されていることに注意が必要です。

会社の安全配慮義務

会社は社員に対して、労働契約に伴う付随義務として安全配慮義務を負っており、社員の職場における安全を確保する義務を負っています(労働契約法5条)。

そのため、社員が受動喫煙により健康を損なった場合、会社は安全配慮義務に違反したものとして損害賠償責任を負う可能性があります(神奈中はイヤー(受動喫煙)事件(横浜地裁小田原支部平成18年5月9日労判943号))。

もっとも、安全配慮義務違反が認定されるか否かは個別の事案に応じ、ケースバイケースであり、裁判例を見る限り、一般論としては損害賠償請求が否定される場合が多いといえます(例外的に損害賠償請求が肯定された例として、江戸川区(受動喫煙損害賠償)事件(東京地裁平成16年7月12日労判878号))。

嫌煙権に基づく差止請求

受動喫煙により健康を損なった社員は、会社に対して安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求以外に、人格権(嫌煙権)に基づく受動喫煙防止のための差止請求等を行うことが考えられます。

裁判例においては、これまでかかる差止請求が認められた例は見当たりませんが、一般論として人格権に基づく受動喫煙防止のための差止請求が認められる余地が肯定されている(禁煙車両設置等請求事件(東京地裁昭和62年3月27日判時1226号))とともに、前述のとおり、受動喫煙防止のための取り組みが強化されている傾向からすると、将来的にかかる差止請求が肯定される可能性も低いとはいえないものと思われます。

会社による対策

以上のとおり、会社が社員の受動喫煙防止のための措置をとらなかった場合、たとえ健康増進法上は努力義務であったとしても、何ら対策をとらないまま放置した場合、安全配慮義務違反として損害賠償責任を負う可能性がある等、会社にとって軽視できないリスクが生じる可能性があります。

そのため、まずは社内を禁煙としたうえで、社外に喫煙所を設ける等の対策を講じることとなります。

また、執務スペースでの喫煙を止めるべく、就業規則等に喫煙所以外での喫煙を禁止するとともに、違反した場合には懲戒処分の対象とすることを明記することで、社員による喫煙を防止することが可能となります。

ご相談のケースについて

会社は受動喫煙により社員の健康が損なわれることを防ぐべく、安全配慮義務を負っていることから、何ら対策をとらずに漫然と放置した結果、社員の健康が損なわれた場合、会社は安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を負う可能性があります。

また、健康増進法等により会社は喫煙所を設けることが求められており、国を挙げて対策に向けた取り組みが強化されていることから、実務上、会社として喫煙所を設ける等の対策をとることが必要といえます。

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