相談事例

営業職としてAを採用しましたが、実績や能力がわからなかったため、まずは1年間の契約期間を定めました。

ところが、Aは、思うように成果を上げることができず、採用時に見込んでいた売上の半分も達成することができませんでした。

もう間もなく契約終了の1年間も経とうとしていたので、Aを呼び出し、「このままの成績では当社で仕事を続けてもらうことは難しいかもしれない。」と話しました。

すると、Aは、翌日から出社しなくなった上、連絡を取ることもできなくなりました。

当社としては、Aとの雇用契約を終了したいと思いますが、この場合にはAとの雇用契約の終了理由は何になるのでしょうか。

また、Aと雇用契約の終了をめぐってトラブルになった場合、どのような点に注意しておくべきでしょうか。

解説

労働契約の終了事由

労働契約の終了原因 労働契約の終了事由

労働契約の終了原因は、大別すれば以下の4つになります。

それぞれの場面毎に、いまはどのような法的原因に基づいて労働契約の終了が問題となっているのかを整理する必要があります。

  • ① 労働者 → 使用者:退職
  • ② 使用者 + 労働者:合意解約
  • ③ 使用者 → 労働者:解雇
  • ④ 使用者 更新拒否:雇い止め

上記①〜④のいずれかによって、有効とされる要件や法的効果が異なるため、いずれの労働契約の終了事由に該当するのかを整理する必要があります。

① 退職とは

①退職とは、労働者からの一方的な解約であり、使用者の承諾の問題は生じません。原則として辞めることは自由ですが、期間の定めのない契約の場合、2週間の予告期間が必要です(民法627条)。期間の定めがある場合は、「やむを得ない事由」があれば辞職できますが、損害賠償の問題が生じうることになります(民法628条)。

② 合意解約とは

②合意解約とは、労働者と使用者の合意による解約をいいます。申込と承諾によって成立します。

③ 解雇とは

使用者からの一方的な解約であり、労働者の承諾の問題は生じません。解雇の効力が問題となります。但し、解雇予告が必要です(労働基準法20条)。

④ 雇い止めとは

④雇い止めとは、期間を定めた労働契約の期間満了に際し、使用者が契約の更新を拒絶することをいいます。

雇い止めは、有期雇用契約の場合にのみ問題となる労働契約終了事由です。

労働契約には、「期間の定めのない契約」(=無期雇用)と、「期間を定めた契約」(=有期雇用)の2種類がありますが、有期雇用契約にのみ存在する労働契約終了事由である雇い止めは、無期雇用にはない特徴の一つといえます。

労働契約の終了事由別問題点

前記のとおり、労働契約の終了事由は、①退職、②合意退職、③解雇、④雇い止めに大別されます。

①〜④の終了事由ごとの主な問題点を整理すると、以下のフローチャートのようになります。各終了事由の問題点及び留意点については、後述します。

労働契約の終了原因 労働契約の終了事由

労働者側の要求事項の把握

労働契約の終了におけるトラブルの場合、労働者側の要求事項は、大別すれば以下の4つになります。

以下の4つの要求事項のうち、特に労働者側の希望が、①地位確認(復職)にあるのか、または②ないし④の金銭的請求にあるのか、を見極める必要があります。

  • ① 地位確認
  • ② 賃金請求(バックペイ)
    • 賞与
    • 昇給(自動昇給の場合、肯定されることもある)
    • 他社での就労で得た賃金額の控除は可能だが、使用者の帰責事由による休業の場合には平均賃金の6割以上の手当を保証しなければならないため(労働基準法26条)、平均賃金の6割までの部分は利益償還の対象にすることはできない
  • ③ 残業代請求
  • ④ 損害賠償請求(不当解雇による不法行為責任)

使用者側の対応方針の決定

労働者側の要求事項を踏まえ、使用者側の対応方針を決定することになります。

上記労働者側の4つの要求事項を踏まえると、使用者側の対応方針としては、概ね以下のようになることが多いといえます。

地位確認

不当解雇を争われた場合、解雇の主張が認められるかどうかは慎重に検討する必要があります。仮に、解雇の主張が認められる見通しが低い場合には、復職を認めるという選択も検討することになります。

賃金請求(バックペイ)

地位確認(復職)を認めることが難しい場合には、解決金を支払って合意退職してもらうことも検討することになります。この場合には、解決金の相場を考慮する必要があります。

残業代請求

残業代請求を受ける場合には留意すべき事項は、以下のようになります。

  • 請求額を鵜呑みにしていないか
  • 消滅時効の援用を忘れていないか
  • 実労働時間の認定を誤っていないか
  • 基礎賃金の算定を誤っていないか
  • 損害賠償請求

不当解雇を主張される場合には、解雇処分が不法行為に該当するとして、損害賠償請求もされることがあります。かかる不当解雇による不法行為責任は、必ずしも否定されるとは限りません。

また、仮に解雇を撤回して復職を認める場合、復職の条件として損害賠償責任があることを認めるよう労働者側から求められることがありますが、復職を認めつつ、損害賠償責任まで認めることでよいのか、よく検討する必要があります。

安易に支払いに応じない・回答しない

労働契約終了に関するトラブルが生じたとしても、決して安易に要求に応じるべきではありません。そもそも、労働者側が、どのような根拠に基づき、いかなる労働契約終了事由を主張しているのかを把握する必要があります。労働者側が誤解している可能性もありますので、雇用契約を終了する場面における証拠(退職合意書等)がある場合には、その写しを提示するということも考えられます。

他の従業員への影響

労働者側の不当解雇・退職強要の主張に対し、安易に応じてしまった場合、現に在籍している他の従業員にどのような影響が及ぶかということも考える必要があります。

解雇等が無効となった場合のリスクを考慮する

一方で、労働者側の主張するように、解雇無効と判断された場合には、企業側は、①バックペイ(解雇処分から現在までの未払賃金の支払い)、②慰謝料等の支払リスクを負うことになります。

労働者側の基本給が高額である場合、バックペイの総額は相当額に上る可能性も否定できません。

企業側としては、解雇の有効性を争った場合、果たして企業側の主張が裁判でも認められる可能性があるかどうかを踏まえた上で、敗訴時のリスクも考慮し、場合によっては解雇を撤回し、職場復帰の可能性もありうるのかどうかも検討しましょう。

ご相談のケースについて

ご相談のケースでは、Aは出勤をしなくなったものの、退職届を出したりしているわけではなく、①退職とまで評価できるとは断言できません。

一方、会社からAに対して雇用契約を終了するよう通知しているわけでもないため、③解雇とまでもいえないでしょう。

会社として、契約期間の満了をもってAとの雇用契約の終了を通知すれば、④雇い止めにあたることになりますが、本件では無難な選択といえます。

なお、会社がAと連絡をとることができたのであれば、後日の紛争リスクを回避する上では②合意解約を選択することが望ましいといえます。

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