【相談例】
運送事業は年々競争が厳しくなり、運賃単価を維持することも難しくなってきています。運賃単価を維持するためには、運送約款を利用したほうがいいと聞きましたが、運送約款とはどのようなものでしょうか。
【ポイント】
- 運送約款は、運送人と荷主との間で運送契約の内容を定めたものであり、国土交通大臣が公示する標準運送約款があります。
- 標準貨物自動車運送約款は、運送の対価としての「運賃」及び運送以外の役務等の対価としての「料金」を適正に収受できる環境を整備することを目的としており、運送事業者が運賃単価を適正に維持するためにも理解しておく必要があります。
- 運送約款は、各運送事業者が独自に設計することも可能ですが、その場合には国土交通大臣の認可を受ける必要があります。標準運送約款を利用する場合には、国土交通大臣の認可を受ける必要がないため、多くの運送事業者は標準運送約款を利用しています。
【解説】
運送約款(うんそうやっかん)とは
運送約款とは、運送人と荷主との間で運送契約の内容を定めたものであり、多数の荷送人との間での法律関係を画一的、迅速に処理することを目的とした規程を指します。荷送人と運送人との間で特に「特約」がない限り、運送契約は運送約款に従うことになります。
運送約款のうち、標準運送約款とは、貨物自動車運送事業法第10条第3項の規定に基づいて、貨物自動車運送事業者に対して国土交通大臣が定めて公示する約款の総称です。
一般貨物自動車運送事業に関する「標準貨物自動車運送約款」や、引越しに関する「標準引越運送約款」など、サービス別に複数の標準約款が定めて、公示されています[1]。
標準貨物自動車運送約款とは
本稿では、標準運送約款のうち、「標準貨物自動車運送約款」を取り上げて解説します。
標準貨物自動車運送約款とは、国土交通大臣が定める標準運送約款のうち、一般貨物自動車運送事業用を基本とする標準運送約款を指します。荷主には正当な利益を保護するため、事業者に適正な運賃・料金の収受に向け、取引に関する基本的な事項が定められています。
なお、標準貨物自動車運送約款等は、運送の対価としての「運賃」及び運送以外の役務等の対価としての「料金」を適正に収受できる環境を整備することを目的として、2017年11月、以下の改正をされています。
【改正ポイント】
- 運送状の記載事項として、「積込料」「取卸料」「待機時間料」等の料金の具体例を規定
- 料金として積込み又は取卸しに対する対価を「積込料」及び「取卸料」とし、荷待ちに対する対価を「待機時間料」と規定
- 付帯業務の内容として「横持ち」等を明確化 等
【施行日】
平成29年11月4日
このように、標準貨物自動車運送約款は、運送事業者を保護する目的で整備されたものといえます。言い換えれば、運送事業者が運送約款を理解しなければ、「荷主の言い値価格」を設定されてしまうおそれがあります。
そこで、運送事業者は、標準貨物自動車運送約款のポイントを理解し、適正な運賃・料金の収受ができるよう荷主や元請業者と話し合うことができるようにする必要があります。
標準貨物自動車運送約款のポイント
一般貨物自動車運送事業者は、運送約款を定め、または変更する場合には、国土交通大臣の認可を受けなければなりません(貨物自動車運送事業法第10条1項)。
ただし、国土交通大臣が標準運送約款を定めて公示した場合(これを変更して公示した場合を含みます)において、一般貨物自動車運送事業者が、標準運送約款と同一の運送約款を定め、又は現に定めている運送約款を標準運送約款と同一のものに変更したときは、その運送約款については、第一項の規定による認可を受けたものとみなされます(貨物自動車運送事業法第10条3項)。
したがって、運送事業者独自の運送約款を定め、国土交通大臣に認可を受けたものを採用している事業者もいますが、多くの運送事業者は、標準運送約款を採用している傾向にあります。
そこで、本稿では、多くの運送事業者が採用する「標準貨物自動車運送約款」のポイントを解説します。「標準貨物自動車運送約款」は、巻末資料をご参照ください[2]。
標準貨物自動車運送約款の全体構成
標準貨物自動車運送約款は、第一章総則、第二章運送業務(第3条〜第59条)、第三章「附帯業務」(第60条〜第62条)から構成されており、貨物の受け取りおよび引き渡し、運賃・料金、責任などについて定めています。
標準貨物自動車運送約款に定めのない事項については、法令または一 般の商慣習などによることになります(標準貨物自動車運送約款2条1項)。
標準貨物自動車運送約款の主な内容は以下のとおりです。
- 運送の順序(標準貨物自動車運送約款4条)
運送の申込みを受けた順序により貨物の運送を行います。ただし、腐敗または変質しやすい貨物を運送する場合その他正当な事由がある場合は、この限りではありません。- 貨物の種類及び性質の確認(標準貨物自動車運送約款6条)
貨物の運送の申込みがあったときは、その貨物の種類及び性質を明示するように申込者に求めることがあります。また、貨物の種類及び性質について申込者の申告が疑わしいときには、申込者の同意を得て、立会いのうえでその貨物を点検することがあります。- 運送状等(標準貨物自動車運送約款8条)
荷送人は標準貨物自動車運送約款8条1項各号記載の事項を記載した運送状を、署名または記名捺印のうえ、一口ごとに提出しなければなりません。
引受拒絶(標準貨物自動車運送約款第7条)
本条項は公益上の見地から、運送事業者の契約自由を制限する締結強制の規定です。したがって、本条項に掲げる場合を除いて運送事業者は運送契約を拒むことができません。
高価品及び貴重品(標準貨物自動車運送約款第9条)
高価品については、運送を委託するに当たって、荷送人がその種類及び価額を明告しなければ、運送人は賠償責任を負わないことになっているので(商法578条、本約款45条)、高価品に該当するものを明示した条項になります。
連絡運輸又は利用運送(標準貨物自動車運送約款第15条)
下請運送等相次運送を行うことも本条項により認められます。
運賃、料金等の収受方法(標準貨物自動車運送約款第31条)
請負契約では、報酬は仕事の完成後(運送品の引渡し後)支払われますが(民法633条)、自動車貨物運送事業では、原則として、貨物を荷受人に引き渡すまでに収受するものと特約されています。
責任と挙証(標準貨物自動車運送約款第39条)
商法577条と同趣旨の条項であり、債務不履行の場合の民法の一般原則に基づく具体的注意規定になります。
コンテナ貨物の責任(標準貨物自動車運送約款第40条)
コンテナ貨物の特質上、本約款39条と異なり、荷送人が運送人等の故意・過失を立証しなければならないものとして、挙証責任が転換されています。
特殊な管理を要する貨物の運送の責任(標準貨物自動車運送約款第41条)
運送人の責任に関する規定は強行法規でないから、本条項のように免責約款を設けることができます。
免責(標準貨物自動車運送約款第44条)
運送人の責任に関する規定は強行法規でないから、本条項のように免責約款を設けることができます。
損害賠償の額(標準貨物自動車運送約款第47条)
商法580条と同趣旨の条項になります。引渡予定日における到達地の価格を基準としたのは、被害者の通常損害を定型化するために最も客観的・合理的なものであるためです。このように、賠償額が定型化されている結果、実損害とは関係なく、運送人は定められた賠償額を払わなければならず、荷送人はそれ以上の請求はできません。
【ご相談のケースについて】
運送事業者が運賃単価を適正に維持するためには、運送約款を理解し、運用することが必要です。
運送事業者が独自の運送約款を設計することも可能ですが、国土交通大臣の認可を得る必要があるなど、手続き的な負担もあるため、まずは多くの運送事業者が行っているように、国土交通大臣の認可が不要な標準運送約款を利用することがよいでしょう。
参考資料
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