質問

新型コロナウイルス感染症の影響により、契約上の非金銭債務を履行できませんでした。顧客は契約の解除を求めています。顧客からの契約解除は、認められるでしょうか。

回答

まずは、契約書等で解除事由(約定解除)を確認します。

契約内容に解除事由がない場合

  1. 改正民法前の適用の場合(2020年4月1日より前の契約の場合)、民法543条(法定解除)により、質問者に帰責事由があれば、顧客から契約解除できます。
  2. 改正民法後の適用の場合(2020年4月1日以降の契約の場合)

質問者の帰責事由に関係なく、契約解除をすることができます(民法542条1号)。ただし、顧客に帰責事由があれば、解除できません(民法543条)。

解説

まずは、①契約内容を当事者間で定めている場合は、契約自由の原則により、当事者間で定めた解除事由に拘束されます。

②当事者間で何も解除事由の契約内容を定めていない場合は、民法の解除事由が適用されます。契約時点では、適用される法律の内容が異なるため、改正民法前(2020年4月1日より前)と改正民法後(2020年4月1日以降〜)に分けて論じます。

改正民法前

改正民法前には、契約解除に関して、以下の条文の規定があります。

(履行不能による解除権)

第五百四十三条 履行の全部又は一部が不能となったときは、債権者は、契約の解除をすることができる。ただし、その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

本件では、「債権者」(=顧客)は、契約を解除できるのが原則ですが、「債務者」(=質問者)の「責に帰することができない事由」(=質問者に落ち度が何もないこと)の場合には、顧客から解除できません。

「債務者の責めに帰することができない事由」とは、民法415条と同様の意味に解釈されています。[1]

すなわち、債務者の故意・過失、または信義則上これと同視される事由をいいます。[2]

しかし、条文を解釈した要件自体が抽象的であるため、結局のところ、帰責事由があるか否かは、個別具体的な判断になります。

つまり、新型コロナウイルスを理由とすれば全て解除が認められるという画一的形式的な判断は、できません(イベント業界とホテル業界では新型コロナウィルスによる影響が異なることから、各々の個別具体的な事情に応じて判断します)。

例えば、音楽イベントの開催は、政府・自治体がイベント中止の検討を要請していることから、音楽イベントを開催できないことが主催者側の落ち度とは考え難いことから、「その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるとき」といえ、顧客から契約解除をすることができない可能性が高いです。

しかし、当然、主催者は、顧客に対して代金の支払いを求めることができず(改正前民法536条1項)、結局は合意解約という流れになると考えられます。

他方で、ホテル業界は、リモートワーク応援プランや、各種割引を通じて営業を続けていることが多く、休業要請もイベント業界ほどの強い要請が出ているとは考え難いことから、ホテル側に帰責事由があるといえ(例えば、新型コロナウイルス感染症と関わりなく、ホテルが設備不良を起こし営業が困難となる場合)、顧客から契約を解除することができます。

改正民法後

改正民法後の規定は、債権者が解除するための要件として、債務者の帰責事由が不要されています。

(催告によらない解除)

第五百四十二条 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。

一 債務の全部の履行が不能であるとき。

本件では、顧客は、原則として、質問者の帰責事由に関係なく、契約を解除することができます(改正民法542条第1号)。ただし、顧客に帰責事由がある場合は、解除をすることができません(改正民法543条)。

(債権者の責めに帰すべき事由による場合)

第五百四十三条 債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、前二条の規定による契約の解除をすることができない。

結語

改正民法前と改正民法後では、解除できるか否かという結論が異なるため注意が必要です。

 

[1]我妻榮ほか「第5版 我妻・有泉コンメンタール民法—総則・物権・債権」(株式会社日本評論社、2018年、1114頁)

[2]我妻榮ほか「第5版 我妻・有泉コンメンタール民法—総則・物権・債権」(株式会社日本評論社、2018年、770頁)