質問

新型コロナウイルス感染症の影響により、顧客への契約上の非金銭債務を履行できませんでした。その結果、顧客から損害賠償の請求を受けています。この場合、「不可抗力」を理由として、損害賠償責任を免れることができますか?

回答

不可抗力に該当する事実があれば、損害賠償責任を免れます。

しかし、不可抗力に該当するか否かは、個別具体的な状況に応じて決まるため慎重に判断する必要があります。

また、不可抗力に該当する事実がなくても、過失責任を問えない場合には、損害賠償責任を負いません。

解説

不可抗力について

まずは、不可抗力について説明します。

不可抗力とは、「例えば、災害による交通遮断のため履行地に赴けず債務を履行できなかったとか、異常な大雨に地震が重なってダムが決壊し損害を与えたなどのように、外部から発生した事実で、取引上あるいは社会通念上普通に要求される一切の注意や予防方法を講じても損害を防止できないもの」[1]と説明されています。

したがって、不可抗力に該当する事実があれば、過失責任を問えないため、債務不履行責任(民法415条)、不法行為責任(民法709条)が発生しません。

新型コロナウイルスの影響により顧客への契約上の非金銭債務を履行できず、法的責任を免れることができる不可抗力の例にはどのようなものがあるでしょうか。

例えば、質問者が商品を海外から直接運び、顧客に届ける事例を考えてみましょう。

世界各地でロックダウン等の現象が起こり、各国が入国措置制限等を行っています[2]。このような状況では、商品を約束の期限までに顧客に届けることが非常に困難です。

新型コロナウイルスの影響により交通が制限され、商品を海外から日本に運べなかったことは、「災害による交通遮断のため履行地に赴けず債務を履行できなかった」[3]という不可抗力の説明事例に準じるものと考えられます。

したがって、上記に掲げた例では、不可抗力により債務不履行責任、不法行為責任を負わないことから、顧客からの損害賠償責任を免れるという結論になると考えられます。

不可抗力と過失との関係

不可抗力は、債務不履行責任等で問われる過失よりも適用範囲が狭い概念です。

不可抗力と過失との関係については、「たとえば、鉄道施設に瑕疵があって事故を生じたような場合に、善良な管理者の注意をしても防止できないものであれば、普通の意味における過失はないということになる。しかし、企業の内部に存する原因に基づくことであるから、不可抗力とはならない。」[4]と説明されています。

つまり、不可抗力に該当しなければ必ずしも法的責任を負うものではなく、過失責任を検討し、法的責任を免れる場合があります。

例えば、ホテルでアルコール消毒、体温計を使用し入室制限をする等を徹底していたにもかかわらず、宿泊客からコロナウイルスの感染が発覚した場合を考えてみましょう。

新型コロナウイルスは、外部から発生した事実ではありますが、宿泊者が感染したことについては、ホテルの管理責任が問題となることから、ホテルの内部に存する原因に基づくものといえ、不可抗力とはいえません。

しかし、ホテルは、善管注意義務を尽くし、新型コロナウイルス対策を徹底していたことから、過失責任を負わない可能性が考えられます。

結語

不可抗力の事実に該当すれば、損害賠償責任を免れますが、不可抗力に該当する事実がなくても、過失責任を問えない場合もあることから、債務不履行責任・不法行為責任を負わない可能性があります。

検討順序としては、①不可抗力といえるか、②不可抗力といえなくとも過失責任(債務不履行責任、不法行為責任)を負うかという流れで検討するとよいでしょう。

 

[1] 高橋和之ほか「法律学小辞典[第5版]」(株式会社有斐閣、2016年、1123頁)

[2] https://www.anzen.mofa.go.jp/covid19/pdfhistory_world.html

[3]高橋和之ほか「法律学小辞典[第5版]」(株式会社有斐閣、2016年、1123頁)

[4]我妻榮ほか「第5版 我妻・有泉コンメンタール民法—総則・物権・債権」(株式会社日本評論社、2018年、782頁)