【ポイント】

  1. 取引先従業員の感染情報は、「要配慮個人情報」に該当しうる
  2. 取引先からの情報提供であっても、「要配慮個人情報」に該当する場合には原則として本人の同意が必要になる
  3. 取引先の感染情報を入手した場合には、自社従業員の健康管理に留意する必要がある

【相談例】

新型コロナウイルス感染症の感染力の強さを考慮し、社内の従業員の健康管理のためにも、従業員に対して新型コロナウイルス感染症に感染したり、感染した疑いがあったりする場合には、会社に報告するよう義務付けたいと思います。

このような報告義務を設定することは可能でしょうか。

【回答】

会社には、従業員に対する安全配慮義務があるほか、従業員にも自身の健康を保持して業務に従事すべき自己保健義務があります。

新型コロナウイルス感染症のリスクを踏まえ、就業規則を設定し、従業員に感染の事実や、感染疑いについて会社に報告することを義務付けることは可能といえます。ただし、これまでに就業規則に規定がない場合には、就業規則の変更手続きを取る必要があります。

また、会社は、従業員の個人情報保護にも留意しなければなりません。

【解説】

会社の安全配慮義務

会社は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする義務があります(労働契約法第5条)。

従業員が感染により健康を害する危険性が予見され、そのような結果を回避することが可能であるにもかかわらず、会社が必要な措置を講じなければ、安全配慮義務違反となります。

従業員の自己保健義務

一方、従業員も、労働災害を防止するために必要な事項を守るほか、企業が実施する労働災害防止の措置に協力するよう努めなければならないとされています(労働安全衛生法26条)。

そこで、会社は、従業員に対する安全配慮義務を尽くすために、就業規則を設定し、従業員に感染の事実や、感染疑いについて会社に報告することを義務付けることは可能と考えられます。

例えば、就業規則上、以下のような条項を設定しておくことが考えられます。

(自己保健義務)

第●条 従業員は、日頃から自らの健康の保持、増進及び傷病予防に努め、会社が実施する所定の健康診断は必ず受診し、健康に支障を感じた場合には、進んで医師の診療を受ける等して、会社に申し出てその回復のため療養に努めなければならない。

(受診義務)

第●条 会社は、伝染病の疾病のほか、精神的疾患その他就業上影響のある疾病の疑いがある場合、配転、復職等の人事異動に伴い必要な場合、又は業務上予防することが必要な疾病の健診を行う場合には、従業員に対し産業医、嘱託医、又は会社の推薦、指定する医師の受診を命ずることがある。

なお、このような就業規則を設定していない場合、新たに就業規則を変更して条項を追加することが考えられますが、就業規則の変更手続きを取る必要があることにはご留意ください。

従業員の個人情報保護への配慮

このように、従業員の自己保健義務があることも踏まえ、会社は従業員に対する安全配慮義務を尽くすために、従業員の感染情報の報告を義務付けることは可能といえます。

ただし、従業員の感染情報は、「要配慮個人情報」に該当するため、従業員本人の同意を得て取得することが原則として必要です(個人情報保護法第17条2項)。従業員本人の同意を得ずに取得することは、例外事由に該当しなければできないことになります(個人情報保護法17条2項各号)。

仮に、従業員本人から感染情報の報告を拒否された場合には、まずは上司が健康面や業務面で気になることを伝え、面接の目的を明確に伝えることが大切です。その際には、①従業員は、業務が提供できるような健康状態を整える義務があり、上司が行う健康管理措置への協力が求められていること、②会社は、従業員が業務を遂行できるように、健康面や業務面の問題に対して適切な就業上の措置を講ずることが求められており、そのためには最小限の情報の開示を願いたいと説明することが考えられます(厚生労働省「こころの耳」「Q14:管理職が知っておくべき個人情報保護と安全配慮義務とは?」参照[1])。

従業員の自己保健義務及び会社の安全配慮義務と、従業員本人の個人情報保護とのバランスを考えて対応することが求められます。

 

[1] 厚生労働省「こころの耳」専門家が事例と共に回答~職場のメンタルヘルス対策Q&A~ Q14:管理職が知っておくべき個人情報保護と安全配慮義務とは?