ポイント

  1. 企業法務における法務担当者と外部弁護士の役割は異なる
  2. 企業法務における法務担当者の役割は「かかりつけの医者」であり、外部弁護士の役割は「専門医」である
  3. 法務担当者と外部弁護士の役割を明確にすることで、効率的なコンプライアンスマネジメントができる

企業法務における法務担当者と外部弁護士の役割

近時、弁護士資格を有する企業内弁護士、いわゆるインハウスローヤーも急増しており、インハウスローヤーを包摂する法務担当者と外部弁護士の相違を、弁護士資格の有無だけで説明することは困難といえます。

もっとも、インハウスローヤーが増加した現在においても、案件の性質等に応じて、法務担当者限りで法的リスクをすべて解決することが困難なケースがあることは否定できません。むしろ、法務担当者が企業活動に伴う法的リスクを洗い出す過程で、外部弁護士に依頼すべき新たなニーズを創出している側面があることは否定できません。

そこで、いかなる場合に外部弁護士を利用すべきかを検討する前提として、そもそも法務担当者と外部弁護士の役割、特徴等を整理してみることとします。

  法務担当者 外部弁護士
企業にとっての役割
  • まず相談する先
  • 案件次第では外部弁護士の利用自体不要
  • 外部弁護士利用の際のリエゾン役
  • 個別案件ごとの依頼で業務を遂行
  • 案件の重要性等に応じて利用
法的アドバイスの性質等
  • 企業に専属し、日常的な社内法律問題に常時対応
  • 企業の経営戦略、組織・業務、社内事情を踏まえた法的アドバイス
    →反面、中立性の確保が困難な場面も
  • 一定の専門性は有するものの、専門分野への特化は限定的
  • 人数は限定的
    →リソース提供には一定の限界
  • 社内事情に関係なく、中立的で独立した助言を提供
  • 分野ごとに高度な専門知識(専門分野を持つ弁護士が多い)
  • 大規模な案件(大型M&A、訴訟等)に対するリソースの迅速な提供
  • 他社事例等に基づく知識・経験を提供
特徴
  • 外部弁護士に対するチェック機能(アドバイスの内容やリーガルオピニオンのチェック)
  • 外部弁護士との連携・マネジメント、適切な外部弁護士の選定、適切な報酬に向けた交渉
  • 適切な弁護士/法律事務所の選定が必要
  • 弁護士費用は高額であり、効率的な利用が重要
    →企業の競争力を左右

企業法務における法務担当者の役割:企業の「かかりつけの医者」

企業にとっての役割

法務担当者は、企業の経営戦略や社内事情に精通している会社の内部組織の一つであることから、企業活動に伴う法的リスクが生じた場合、社内の営業部門や企画部門等がまず相談する先が法務担当者となります。つまり、法務担当者は、いわば企業にとって「かかりつけの医者」といえます。秘密保持契約の締結や取締役会資料のレビュー等、日常的な法律問題であれば、通常、外部弁護士に依頼するまでもなく、法務担当者限りで処理・解決が可能です。

また、案件の重要性や専門性等に応じて、外部弁護士を利用することが必須の場合もありえますが、その場合、法務担当者には外部弁護士との連携やマネジメント等、リエゾンの役割を果たすことが求められます。

法的アドバイスの性質等

法務担当者は、企業に専属し、当該企業の活動に伴う日常的な法律問題に常時対応しています。また、企業の経営方針や経営戦略、組織体制や各部署の業務内容、社内キーパーソンも熟知しており、社内事情に精通していることから、法的リスクを評価・判断するにあたり、社内事情を踏まえたビジネスジャッジの必要性に配慮しやすい立場にあるといえます。したがって、法務担当者は、外部弁護士以上に経営陣に近い距離から法的アドバイスを提供することが可能であり、また、そのような役割を求められるものといえます。

もっとも、経営陣のビジネスジャッジに寄り添った法的アドバイスの提供を求められるということは、同時に外部弁護士に比べてその法的リスク評価・判断の中立性の確保が困難であるという側面があることは否定できません。

また、法務担当者は企業に専属し、日常的な法律問題に精通していることの裏返しとして、当該企業の取り扱う業務分野に係る日常的な法規制等には一定の専門性を有するものの、より深い専門知識を要する領域への特化は限定的であるとともに、企業の取り扱う業務以外の分野に関する専門知識はどうしても不足しがちな傾向があります。

さらに、インハウスローヤーは増加傾向にあるとはいえ、基本的に法務担当者は社内の法務部が中心であり、100名超の弁護士を擁する大手法律事務所等に比べると、その人数は限定的です。そのため、限られたスケジュールで大量の弁護士を導入する必要のあるM&A案件や、国際カルテル案件等の不祥事・危機管理案件等については、法務担当者限りで対応することは困難といえます。

その他の特徴

法務担当者には、自ら法的アドバイスを提供するだけでなく、案件に応じて適切な外部弁護士を選定するとともに、当該外部弁護士との連携・マネジメントを行い、過大な弁護士費用負担とならないよう、効率的に外部弁護士を利用することもその役割として求められます。

さらに、外部弁護士のマネジメントの一環として、外部弁護士に依頼すればそれで法務担当者の仕事が終了、というものではなく、外部弁護士から提供された法的アドバイスやリーガルオピニオンの内容が十分に説得力あるロジックで構成されているか、自社の立場・状況を正確に把握できているか等をチェックする役割も求められます。

企業法務における外部弁護士の役割:企業の「専門医」

企業にとっての役割

外部弁護士は、基本的に案件の重要性等に応じて、個別案件ごとに企業からの依頼を受けて法的アドバイス等のリーガルサービスを提供することをその役割としており、いわば企業の「専門医」といえます。

外部弁護士はそれぞれ得意とする専門分野が細分化しており、案件ごとに適切な弁護士・法律事務所を選定することが重要です。

法的アドバイスの性質等

法務担当者と異なり、外部弁護士は依頼企業に雇用されている者ではありませんので、社内事情に関係なく中立的な立場から法的アドバイスを提供しやすい立場にあるといえます。

また、弁護士はそれぞれ独自の専門分野を得意としており、外部弁護士に依頼することによって分野に応じた高度の専門的知識・アドバイスの提供を受けることが期待できます。

さらに、基本的に社内の法務部に限定される法務担当者と異なり、特に100名以上の弁護士を擁する大手法律事務所では、短期間で多数の弁護士を要する大型M&A案件や不祥事案件にも迅速に対応できるだけの人的リソースを有しています。

また、外部弁護士に依頼することによって、当該弁護士が所属している事務所に蓄積されている他社事例等のノウハウにもアクセスすることができます。

その他の特徴等

前述のとおり、外部弁護士はそれぞれ得意とする専門分野が細分化しているため、漠然と「会社からのアクセスが便利だから」「インターネットで上位に検索されたから」といった理由だけで依頼するのではなく、案件ごとに求められる専門分野を得意とする、適切な弁護士・法律事務所を選定することが重要です。

また、当然のことながら、会社の社員である法務担当者と異なり、外部弁護士に依頼するためには別途弁護士費用が必要となりますが、この弁護士費用は決して安くはありません。契約書のドラフト・レビューであっても、巨額の売買契約や複雑なスキームに基づくファイナンス案件等では数百万円〜1千万円超に及ぶこともありますし、巨額のM&A案件においてDDも含めて依頼する場合には、億単位に上ることもあり、外部弁護士をいかに効率的に利用できるかは、企業の競争力をも左右するものといえます。

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