相談事例

同一労働同一賃金における「手当」の見直しをする際の注意点を教えてください。

役職手当

ガイドラインの考え方

3 手当

(1)役職手当であって、役職の内容に対して支給するもの

 役職手当であって、役職の内容に対して支給するものについて、通常の労働者と同一の内容の役職に就く短時間・有期雇用労働者には、通常の労 働者と同一の役職手当を支給しなければならない。また、役職の内容に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた役職手当を支給しなけ ればならない。

(問題とならない例)

  • 役職手当について、役職の内容に対して支給しているA社において、通常の労働者であるXの役職と同一の役職名(例えば、店長)であって同一の内容(例えば、営業時間中の店舗の適切な運営)の役職に就く有期雇用労働者であるYに対し、同一の役職手当を支給している。
  • 役職手当について、役職の内容に対して支給しているA社において、通常の労働者であるXの役職と同一の役職名であって同一の内容の 役職に就く短時間労働者であるYに、所定労働時間に比例した役職手当(例えば、所定労働時間が通常の労働者の半分の短時間労働者にあっては、通常の労働者の半分の役職手当)を支給している。

(問題となる例)

  • 役職手当について、役職の内容に対して支給しているA社において、通常の労働者であるXの役職と同一の役職名であって同一の内容の役職に就く有期雇用労働者であるYに、Xに比べ役職手当を低く支給している。

 

(「厚生労働省|短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」9、10頁より抜粋)

実務上の対応

役職手当や資格手当は、特定の役職・資格に対して支給される手当である以上、同一の役職・資格であるにもかかわらず正社員と短期・有期社員との間で待遇に相違が生じている場合、その待遇の相違が不合理ではないと説明することは困難と思われます。

したがって、役職手当や資格手当は、正社員に支給している場合、同一の役職・資格を有する有期短期契約社員に対しても支給するべきといえます。

もっとも、短期・有期社員を同一の役職に就任させないという対応は、企業の人事権の一内容として、原則として許容されると考えられます。

業務の危険度又は作業環境に応じて支給される特殊作業手当

ガイドラインの考え方

(2)業務の危険度又は作業環境に応じて支給される特殊作業手当 通常の労働者と同一の危険度又は作業環境の業務に従事する短時間・有 期雇用労働者には、通常の労働者と同一の特殊作業手当を支給しなければ ならない。

(「厚生労働省|短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」10頁より抜粋)

実務上の対応

基本的運用

特殊作業手当等は、特定の作業を行った対価として支給されるものであり、作業そのものを金銭的に評価して支給される性質の賃金であると解されます。

同一の作業に対して支給する特殊作業手当等は、正社員と短期・有期社員ともに同額である必要があると考えられます。

手当の名目について

もっとも、裁判例をみる限り、特定の作業に対して支給される金銭の名目は、必ずしも正社員と短期・有期社員とで同一である必要はないといえます。

交替制勤務等の勤務形態に応じて支給される特殊勤務手当

ガイドラインの考え方

(3)交替制勤務等の勤務形態に応じて支給される特殊勤務手当

 通常の労働者と同一の勤務形態で業務に従事する短時間・有期雇用労働 者には、通常の労働者と同一の特殊勤務手当を支給しなければならない。

(問題とならない例)

  • A社においては、通常の労働者か短時間・有期雇用労働者かの別を問わず、就業する時間帯又は曜日を特定して就業する労働者には労働 者の採用が難しい早朝若しくは深夜又は土日祝日に就業する場合に時給に上乗せして特殊勤務手当を支給するが、それ以外の労働者には時給に上乗せして特殊勤務手当を支給していない。
  • A社においては、通常の労働者であるXについては、入社に当たり、交替制勤務に従事することは必ずしも確定しておらず、業務の繁閑等生産の都合に応じて通常勤務又は交替制勤務のいずれにも従事する可能性があり、交替制勤務に従事した場合に限り特殊勤務手当が支給されている。短時間労働者であるYについては、採用に当たり、交替制勤務に従事することを明確にし、かつ、基本給に、通常の労働者に支給される特殊勤務手当と同一の交替制勤務の負荷分を盛り込み、通常勤務のみに従事する短時間労働者に比べ基本給を高く支給している。A社はXには特殊勤務手当を支給しているが、Yには支給してい ない。

(「厚生労働省|短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」9、10頁より抜粋)

実務上の対応

基本的運用

特殊勤務手当は、特定の勤務(交替制勤務等)に対して支給される手当であることから、基本的には同一の勤務に対して支給される手当は正社員・短期・有期社員ともに同一である必要があります。

手当の名目について

もっとも、支給される金銭の名目は、必ずしも正社員と短期・有期社員とで同一である必要はないと考えられます。

精皆勤手当

ガイドラインの考え方

(4)精皆勤手当

 通常の労働者と業務の内容が同一の短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の精皆勤手当を支給しなければならない。

(問題とならない例)

  • A社においては、考課上、欠勤についてマイナス査定を行い、かつ、そのことを待遇に反映する通常の労働者であるXには、一定の日数以上出勤した場合に精皆勤手当を支給しているが、考課上、欠勤についてマイナス査定を行っていない有期雇用労働者であるYには、マイナス査定を行っていないこととの見合いの範囲内で、精皆勤手当を支給していな い。

(「厚生労働省|短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」11頁より抜粋)

実務上の対応

職務内容が同一である場合、正社員と短期・有期社員ともに同一の支給が必要であるといえます。

もっとも、同一労働同一賃金ガイドラインの「問題とならない例」にあるように、正社員には欠勤についてマイナス査定を行っているのに対し、短期・有期社員には当該査定を行っていないといった事情があり、正社員にのみ精皆勤手当を支給することが不合理ではないと説明できるような場合には、そのような待遇差も認められるものと考えられます。

皆勤手当を支給しない代わりに合理的な代償措置を講じている場合、その待遇差は不合理なものとは認められない可能性もありますが、裁判例(ハマキョウレックス事件(差戻審)大阪高判平成30年12月21日)では結果として正社員のみに皆勤手当を支給することは違法と判断されていますので、厳格に判断される可能性があることは留意する必要があります。

時間外労働手当

ガイドラインの考え方

(5)時間外労働に対して支給される手当

 通常の労働者の所定労働時間を超えて、通常の労働者と同一の時間外労働を行った短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者の所定労働時間を超えた時間につき、通常の労働者と同一の割増率等で、時間外労働に対して支給される手当を支給しなければならない。

(「厚生労働省|短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」11頁より抜粋)

実務上の対応

正社員と同一の時間外労働等を行った短期・有期社員には、所定労働時間を超えた時間につき、正社員と同一の割増率等で、時間外労働等に対する手当を支給しない限り、不合理であると判断される可能性が高いといえます。

したがって、時間外労働に対する割増率は、正社員と短期・有期社員に対して差異は設けないことが無難といえます。

深夜労働手当または休日労働手当

ガイドラインの考え方

(6)深夜労働又は休日労働に対して支給される手当

 通常の労働者と同一の深夜労働又は休日労働を行った短時間・有期雇用 労働者には、通常の労働者と同一の割増率等で、深夜労働又は休日労働に対して支給される手当を支給しなければならない。

(問題とならない例)

  • A社においては、通常の労働者であるXと時間数及び職務の内容が同一の深夜労働又は休日労働を行った短時間労働者であるYに、同一の深 夜労働又は休日労働に対して支給される手当を支給している。

(問題となる例)

  • A社においては、通常の労働者であるXと時間数及び職務の内容が同一の深夜労働又は休日労働を行った短時間労働者であるYに、深夜労働又は休日労働以外の労働時間が短いことから、深夜労働又は休日労働に対して支給される手当の単価を通常の労働者より低く設定している。

(「厚生労働省|短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」11頁より抜粋)

実務上の対応

正社員と同一の時間外労働等を行った短期・有期社員には、所定労働時間を超えた時間につき、正社員と同一の割増率等で、時間外労働等に対する手当を支給しない限り、不合理であると判断される可能性が高いといえます。

したがって、時間外労働に対する割増率は、正社員と短期・有期社員に対して差異は設けないことが無難といえます。

通勤手当または出張旅費

ガイドラインの考え方

(7)通勤手当及び出張旅費

 短時間・有期雇用労働者にも、通常の労働者と同一の通勤手当及び出張旅費を支給しなければならない。

(問題とならない例)

  • A社においては、本社の採用である労働者に対しては、交通費実費の全額に相当する通勤手当を支給しているが、それぞれの店舗の採用である労働者に対しては、当該店舗の近隣から通うことができる交通費に相当する額に通勤手当の上限を設定して当該上限の額の範囲内 で通勤手当を支給しているところ、店舗採用の短時間労働者であるXが、その後、本人の都合で通勤手当の上限の額では通うことができないところへ転居してなお通い続けている場合には、当該上限の額の範 囲内で通勤手当を支給している。
  • A社においては、通勤手当について、所定労働日数が多い(例えば、週4日以上)通常の労働者及び短時間・有期雇用労働者には、月額の定期券の金額に相当する額を支給しているが、所定労働日数が少ない(例えば、週3日以下)又は出勤日数が変動する短時間・有期雇用労 働者には、日額の交通費に相当する額を支給している。

(「厚生労働省|短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」12頁より抜粋)

実務上の対応

正社員と短期・有期社員との間で同一の支給条件にて通勤手当を支給しない限り、不合理であると判断される可能性が高いといえます。

もっとも、同一労働同一賃金ガイドラインの「問題とならない例」で示されているように、正社員と短期・有期社員とで採用対象とした地理的範囲が異なること等を理由として、通勤手当の支給条件に差異があることが不合理ではないと認められるような場合には、そのような取り扱いが違法ではないと判断される余地もあります。

食事手当

ガイドラインの考え方

(8)労働時間の途中に食事のための休憩時間がある労働者に対する食費の負担補助として支給される食事手当

 短時間・有期雇用労働者にも、通常の労働者と同一の食事手当を支給しなければならない。

(問題とならない例)

  • A社においては、その労働時間の途中に昼食のための休憩時間がある通常の労働者であるXに支給している食事手当を、その労働時間の途中に昼食のための休憩時間がない(例えば、午後2時から午後5時までの勤務)短時間労働者であるYには支給していない。

(問題となる例)

  • A社においては、通常の労働者であるXには、有期雇用労働者であるYに比べ、食事手当を高く支給している。

(「厚生労働省|短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」12、13頁より抜粋)

実務上の対応

勤務時間中に食事を取ることの必要性等は職務の内容とも直接関係しないと思われます。

勤務時間内に食事のための休憩時間がある勤務時間制の場合、正社員と短期・有期社員ともに同一の食事手当を支給することが無難といえます。

なお、ハマキョウレックス事件(第1審)大津地判彦根支部平成27年5月29日、ハマキョウレックス事件(第2審)大阪高判平成28年7月26日、ハマキョウレックス事件(第3審)最高裁平成30年6月1日では、1審と2審以降では判断理由が正反対であることも注目に値します。

同一労働同一賃金ガイドラインが公表される前とはいえ、裁判所の判断の予測可能性が立ち辛いことの一例といえます。

単身赴任手当

ガイドラインの考え方

(9)単身赴任手当

通常の労働者と同一の支給要件を満たす短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の単身赴任手当を支給しなければならない。

(「厚生労働省|短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」13頁より抜粋)

実務上の対応

実際に単身赴任を行う労働者に対して支給される単身赴任手当については、正規従業員・非正規従業員間で差異を設ける根拠が見出し難く、仮に非正規従業員が単身赴任を行うことになったにもかかわらず、正規従業員とは異なる待遇とした場合には、不合理であると判断される可能性が高いといえます。

地域手当

ガイドラインの考え方

(10)特定の地域で働く労働者に対する補償として支給される地域手当

 通常の労働者と同一の地域で働く短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の地域手当を支給しなければならない。

(問題とならない例)

  • A社においては、通常の労働者であるXについては、全国一律の基本 給の体系を適用し、転勤があることから、地域の物価等を勘案した地域 手当を支給しているが、一方で、有期雇用労働者であるYと短時間労働者であるZについては、それぞれの地域で採用し、それぞれの地域で基本給を設定しており、その中で地域の物価が基本給に盛り込まれている ため、地域手当を支給していない。

(問題となる例)

  • A社においては、通常の労働者であるXと有期雇用労働者であるYにはいずれも全国一律の基本給の体系を適用しており、かつ、いずれも転勤があるにもかかわらず、Yには地域手当を支給していない。

(「厚生労働省|短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」13頁より抜粋)

実務上の対応

労働者の勤務地ごとに物価等を勘案した地域手当を支給している企業では、正社員と短期・有期社員との間で待遇差を設けることは合理性がないと判断されやすいと思われます。

もっとも、同一労働同一賃金ガイドラインの「問題とならない例」にあるように、地域の物価等を勘案して支給される金銭の名目は、必ずしも正社員と短期・有期社員で同一である必要はないといえます。例えば、正社員に支給される地域手当が短期・有期社員には支給されないとしても、短期・有期社員の基本給が地域の物価等を勘案して設定されていることが客観的な資料をもって具体的に説明できるのであれば、そのような取り扱いは違法とはならないものと考えられます。

ご相談のケースについて

同一労働同一賃金ガイドラインに掲載された各手当については、まず同ガイドラインを参照し、各手当に関する基本的な考え方を把握するようにしましょう。

同ガイドラインに示された考え方だけでは自社のケースで判断に悩む場合には、関連する裁判例も参照するようにしましょう。

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