正社員と契約社員との間での作業手当や通勤手当等に格差を設けることが不合理な相違として、労働契約法20条に違反するとされた事例

はじめに

東証一部上場企業である大手物流会社の支店において、有期雇用契約に基づき勤務する契約社員(一般貨物自動車の運転手。原告)が、被告会社に対して、正社員と同一の権利を有する地位にあるとして、労働契約法20条に基づき、正社員に対して支給される賃金との差額、無事故手当、作業手当、給食手当等の諸手当及び正社員に認められる定期昇給、賞与、退職金の支給を求めていた事案について、平成28年7月26日、大阪高等裁判所は、平成28年9月16日大津地裁彦根支部第一審判決(以下「本件一審判決」といいます)を一部変更し、原告の請求を一部認め、被告会社に77万円の支払を命じる旨の判決を下しました(以下「本件高裁判決」といいます)。

本件一審判決は、正社員は将来支店長等として被告会社の中核を担う可能性があること等の責任を有する一方、契約社員は事業の中核を担う人材として育成されるべき立場にはないこと等から、通勤手当以外の諸手当については、将来被告会社の中核を担うべき人材ではない契約社員に対しては不支給としても不合理な相違とはいえないとして、労働契約法20条違反の主張を認めませんでした。

これに対して、本件高裁判決は、本件一審判決と同様の判断枠組みに立ちつつも、通勤手当以外の無事故手当や作業手当、給食手当等についても契約社員に対して不支給とすることは不合理な相違として労働契約法20条に違反すると判示し、本件一審判決を一部変更して原告に有利な判決を下しました。

本件高裁判決は「重要判例解説 長澤運輸事件」に続き、労働契約法20条に関する論点を高裁レベルで初めて取り扱った裁判例です。また、本件高裁判決は、諸手当の性質ごとに労働契約法20条の適用を検討していることから、業務の内容がほとんど同じであるにもかかわらず、正社員と契約社員との間で諸手当の支給の取扱いに差異を設けている会社にとって、自社での対応に問題がないか確認する必要があり得るなど、実務上大きな影響を持つ裁判例といえます。

I.       事案の概要

本件は、東証一部上場企業の物流大手である株式会社ハマキョウレックス(以下「本件被告」といいます)との間で有期雇用契約[1]を締結している契約社員(以下「本件原告」といいます)が、以下に掲げる正社員と契約社員との間の労働条件(以下「本件労働条件」といいます)の格差は、契約期間の定めがあることによる「不合理な」相違であり、労働契約法20条に違反するものとして、正社員と同一の権利を有する地位にあることの確認及び正社員が通常受給するべき賃金との差額の支払い等[2]を求めて本件被告を提訴した事案です。

【正社員と契約社員との本件労働条件の相違】

本件労働条件 正社員 契約社員
基本給 月給制 時給制
無事故手当 1万円 なし
作業手当 1万円 なし
給食手当 3500円 なし
通勤手当 通勤距離に応じて5万円を限度に支給(本件原告と同じ支店市内居住者は5000円) 3000円
住宅手当 2万円 なし
皆勤手当 1万円 なし
家族手当 あり なし
定期昇給 原則あり 原則なし
賞与 原則あり 原則なし
退職金 原則あり 原則なし

争点

労働契約法20条は、「有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲 その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない」と規定しています。

本件における争点は、端的には、本件労働条件に関する正社員と契約社員との間の格差が、期間の定めがあることによる不合理な労働条件の相違を禁止した労働契約法20条に違反するか、にあります。

本件一審判決及び本件高裁判決の比較

上記争点について、本件一審判決と本件高裁判決の判断は分かれています。労働契約法20条違反に関する両判決の内容を比較すると、概要以下のとおりです。

【本件争点に関する両判決の判断内容】

本件労働条件 本件一審判決 本件高裁判決
① 無事故手当 違反しない 違反する
② 作業手当 違反しない 違反する
③ 給食手当 違反しない 違反する
④ 通勤手当 違反する 違反する
⑤ 住宅手当 違反しない 違反しない
⑥ 皆勤手当 違反しない 違反しない
⑦ 家族手当 違反しない 判断せず(※)
⑧ 定期昇給 違反しない 判断せず(※)
⑨ 賞与 違反しない 判断せず(※)
⑩ 退職金 違反しない 判断せず(※)

(※)本件高裁判決は、⑦〜⑩については、「(これらの)労働条件が同条(注:労働契約法20条)に違反するものであるとしても、同条違反の民事的効力として、当然に正社員(無期契約労働者)の労働条件と同一になる補充的効力を有するものとは認められない」ことから、労働契約法20条違反該当性について判断するまでもなく、本件原告は⑦〜⑩について正社員と同一の権利を有する地位にあることの確認を求めることはできない、と判示しています。

以上のとおり、本件高裁判決は、本件一審判決と基本的に同じ判断枠組みを採用しているものの、結論として、④通勤手当だけでなく、①無事故手当、②作業手当、③給食手当についても、契約社員と正社員との間で格差を設けることは、期間の定めがあることによる不合理な相違であり、労働契約法20条に違反するものとして、本件一審判決を一部変更し、本件原告の請求の一部を認めています。ただし、本件高裁判決も、①〜④以外の諸手当等については本件原告の請求を棄却しており、本件労働条件の全部について契約社員に正社員と同一の権利が認められたわけではないことに注意が必要です。

以下、本件一審判決及び本件高裁判決の概要について検討していきます。

本件一審判決の概要

労働契約法20条違反の判断基準

本件一審判決は、労働契約法20条における「『不合理と認められるもの』とは、有期契約労働者と無期契約労働者間の当該労働条件上の相違が、それら労働者間の職務内容や職務内容・配置の変更の範囲の異同にその他の事情を加えて考察して、当該企業の経営・人事制度上の施策として不合理なものと評価せざるを得ないものを意味すると解すべき」と判示し、上記規範に照らして正社員と契約社員との間の労働条件の相違が不合理か否か、判断すべきとしました。

正社員と契約社員の立場の相違

正社員

(正社員)

「従業員のうち正社員は、業務上の必要性に応じて就業場所及び業務内容の変更命令を甘受しなければならず、出向も含め全国規模の広域異動の可能性があるほか、Y社(注:本件被告)の行う教育を受ける義務を負い、将来、・・・Y社の中核を担う人材として登用される可能性がある者として育成されるべき立場にある」

契約社員

(契約社員)

「契約社員は、業務内容、労働時間、休息時間、休日等の労働条件の変更があり得るにとどまり、就業場所の異動や出向等は予定されておらず、将来、・・・Y社の中核を担う人材として登用される可能性がある者として育成されるべき立場にあるとはいえない

そして、本件一審判決は、正社員と契約社員の業務内容自体に大きな相違は認められないとしつつ、正社員と契約社員の立場について以下のように判示しました。

通勤手当以外の本件労働条件と労働契約法20条違反

このように、本件一審判決は、正社員は出向等による異動の不利益を甘受しなければならないものの、本件被告の中核社員として育てられるべき立場にある一方、契約社員は出向等の不利益はないものの本件被告の中核社員として育てられるべき立場にはない、という地位の違いを理由に、①無事故手当、②作業手当、③給食手当、⑤住宅手当、⑥皆勤手当及び⑦家族手当、⑧定期昇給、⑨一時金並びに⑩退職金の支給に関する正社員と契約社員との労働条件の相違は、本件被告の経営・人事制度上の施策として不合理なものとはいえず、労働契約法20条に反するということもできない、と判示し、本件原告の請求のほとんどを棄却しました。

通勤手当と労働契約法20条違反

ただし、本件一審判決も、④通勤手当に関しては、正社員の場合は配置転換により長距離通勤が予定されているとしても、正社員の下限の金額が契約社員の上限の金額を上回っていることの説明にならないとして、「労働者間の職務内容や職務内容・配置の変更の範囲の異同にその他の事情を加えて考察すると、公序良俗に反するとまではいえないものの、被告の経営・人事制度上の施策として不合理なものであり、・・・労働契約法20条の『不合理と認められるもの』に当たるというべきである。」として、通勤手当に関する正社員と契約社員との格差は不合理であり、労働契約法20条に違反する、と判示しました[3]

本件高裁判決の概要

これに対して、本件高裁判決は、労働契約法20条違反の判断基準については基本的に本件一審判決と同様の基準を採用しつつ、より踏み込んだ内容を示すとともに、本件労働条件の個別の労働契約法20条違反該当性について、以下のとおり判示しました。

労働契約法20条違反の判断基準

本件高裁判決は、「労働契約法20条・・・にいう「期間の定めがあることにより」との文言は、ある有期契約労働者の労働条件がある無期契約労働者の労働条件と相違していることだけを捉えて当然に同条の規定が適用されるというものではなく、当該有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違が、期間の定めの有無に関連して生じたものであることを要する趣旨であると解される。」と判示しており、平成28年5月13日東京地方裁判所(長澤運輸事件)と同様、労働契約法20条の適用範囲を広めに解釈しているものと思われます[4]

本件労働条件と労働契約法20条違反

上記判断基準に照らして、本件高裁判決は、本件労働条件について個別に労働契約法20条違反該当性を検討しています。

無事故手当

無事故手当は、優良ドライバーの育成や安全な輸送による顧客の信頼獲得という目的を有するところ、正社員の人材活用の仕組みとは直接の関連性を有するものではなく、むしろ、正社員・契約社員双方に共通して要請されるべきものであることから、正社員に対してのみ支給することは、期間の定めがあることを理由とする相違であり、「不合理と認められるもの」に該当し、労働契約法20条に違反する

作業手当

本件被告は、作業手当は基本給の一部として支給されるものであり、かかる相違は不合理なものではないと主張しているものの、作業手当が実質上基本給の一部をなしている側面があるとしても、給与規程上、特殊業務に携わる者に支給すると明示している以上、作業手当を基本給の一部と同視することはできない

したがって、正社員に対してのみ作業手当を支給し、契約社員には支給しないという相違は、期間の定めがあることを理由とする相違であり、「不合理と認められるもの」に該当し、労働契約法20条に違反する

給食手当

給食手当は、給与規程においてあくまで給食の補助として支給されるものであり、正社員の職務の内容や当該職務の内容及び変更の範囲とは無関係に支給されるものであることから、これが契約社員に支給されないという相違は、期間の定めがあることを理由とする相違であり、「不合理と認められるもの」に該当し、労働契約法20条に違反する

通勤手当

通勤手当は、通勤のために要した交通費の全額又は一部を補填する性質のものであり、本来職務の内容や当該職務の内容及び変更の範囲とは無関係に支給されるものであり、正社員と契約社員との相違は、期間の定めがあることを理由とする相違であり、「不合理と認められるもの」に該当し、労働契約法20条に違反する

住宅手当

正社員のみ転居を伴う配転(転勤)が予定されており、配転が予定されない契約社員と比べて、住宅コストの増大が見込まれることからすると、正社員へ住宅費用の補助及び福利厚生を手厚くすることによって有能な人材の獲得・定着を図るという目的に照らして、正社員に対してのみ住宅手当を支給することは「不合理と認められるもの」に該当せず、労働契約法20条に違反しない

皆勤手当

契約社員については勤務成績は契約更新時の時間給の見直し(時間給の増額)が行われることがあり得ることから、正社員にのみ精勤に対するインセンティブを付与する目的で皆勤手当を支給することは、「不合理と認められるもの」に該当せず、労働契約法20条に違反しない

その他(⑦家族手当、⑧定期昇給、⑨賞与、⑩退職金)

本件高裁判決は、⑦家族手当、⑧定期昇給、⑨賞与、⑩退職金については、仮に本件被告の契約社員就業規則及び有期労働契約上の関連規程が労働契約法20条に違反するとしても、正社員就業規則及び正社員給与規程の該当規程が適用されることにはならない、として、労働契約法20条の補充的効力を否定しました。

したがって、労働契約法20条に違反するか否かにかかわらず、そもそも⑦家族手当、⑧定期昇給、⑨賞与、⑩退職金の支給については、本件原告は正社員と同一の権利を有する地位にあるとの確認を求めることはできない、と判示し、結論として本件原告の請求を棄却しています。

まとめ

本件高裁判決は、直近に出たばかりの長澤運輸事件(平成28年5月13日東京地裁判決)と同様、労働契約法20条の適用範囲を画する「期間の定めがあることにより」を広めに解釈したものと思われます。

その上で、本件高裁判決は、本件一審判決で同条に違反しないとした諸手当の一部について判断を覆し、契約社員に有利な判断を下しています。

これら長澤運輸事件や本件高裁判決からすると、裁判所は労働契約法20条の適用に際して、契約社員に有利な方向で解釈する傾向が伺われるように思われます。

今後は正社員と契約社員とで諸手当の支給等に差異を設ける場合、当該差異に合理的な理由があるか、より慎重な判断が求められることになろうかと思います。

補足

[1] 本件原告が本件被告との間で締結した有期雇用契約の内容は以下のとおりです。

  • 期間:平成20年10月6日から平成21年3月31日まで(ただし、更新があり得る)
  • 業務内容:配車ドライバー
  • 勤務時間:午前5時から午後2時まで
  • 賃金:時給1150円、通勤手当3000円
  • 昇給・賞与:原則として昇給・支給しない。

[2] 本件原告は、本件被告との間で月額手取賃金を30万円以上とする期限の定めのない労働契約の合意が成立していたと主張し、正社員と同一の権利を有する地位にあることの確認等も求めていましたが、本件高裁判決の中核ではないため、本稿では当該主張に関する詳細な検討は省略しております。

[3] 加えて、本件一審判決も、本件高裁判決と同様、「特別の定め・・・もないのに、無効とされた労働契約の条件が無期契約労働者の労働条件によって自動的に代替されることになるとの効果を同法20条の解釈によって導くことは困難というべき」として労働契約法20条の補充的効力を否定するとともに、同条に違反する場合は会社は不法行為責任を負う場合があるにとどまる、と判示しています。

[4] 長澤運輸事件においても、原告・被告間で労働契約法20条の適用範囲を画する「期間の定めがあることにより」の解釈が問題となりましたが、裁判所は、「労働契約法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違が不合理なものであることを禁止する趣旨の規定であると解されるところ、同条の労働契約法20条の「期間の定めがあることにより」という文言は、当該有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違が、期間の定めの有無に関連して生じたものであることを要するという趣旨であると解するのが相当である。」と判示し、本件高裁判決と同様の見解に立っているものと思われます。

出典

こちらは、2016年10月に発行された「NS NEWS LETTER vol.7」に掲載されたものと同内容です。