【ポイント】

  • 派遣契約条項を確認する。
  • 不可抗力条項や免責条項が適用されるか検討する。
  • 不可抗力条項や免責条項がない場合には、民法の規定にしたがい検討する。
  • 派遣先の休業が、不可抗力によるものかが結論を分ける。

【相談例】

コロナの影響で事業場を休業せざるを得なくなりました。当社では派遣会社から派遣社員も受け入れていますが、派遣元会社への派遣料金の支払いは必要でしょうか。

【回答】

まずは、派遣契約の中に不可抗力条項や免責条項があるか確認しましょう。それらの条項が適用される場合には、派遣料金の支払義務がないと言えるかもしれません。

特別な規定がない場合には、民法の規定に従い判断します。

休業が不可抗力によるものか、という点が結論を分けるポイントになります。

【解説】

1 派遣契約の関係

派遣契約は、派遣会社と派遣先企業との間で結ばれる契約です。派遣先企業は派遣会社に対し、この派遣契約に基づいて派遣料金の支払い義務を負っています。

2 派遣先企業が休業した場合の派遣料金の支払義務

派遣契約の条項を確認する

派遣料金の支払い義務は、派遣契約が根拠になるため、原則として派遣契約の内容によって派遣先企業に支払い義務があるか否かが判断されます[1]

そこで、まずは派遣基本契約書や派遣個別契約書などを確認し、派遣先企業の事業場が休業した場合の派遣料金の支払いに関する条項を確認する必要があります。

派遣契約に不可抗力で休業した場合の条項があるか確認する

派遣契約を結んだ際に、コロナウイルスによる休業を想定して派遣料金の支払いに関する条項を定めているというケースはほとんどないと思われます。

もっとも、派遣料金を支払わなくても良い場合として、例えば「不可抗力により派遣社員が就労できない場合には派遣会社は派遣先企業に対し派遣料金を請求できない。」という趣旨の規定がおかれている場合があります。

この場合、コロナウイルスによる休業が「不可抗力」ということができれば、派遣料金の支払義務がなくなることになります(「不可抗力」については、下記3を参照ください)。

派遣契約に休業の場合の規定がない場合

派遣契約によっては、派遣先企業の事業場が休業した場合の派遣料金の支払い規定が定められていない場合もあります。

このような場合には、民法の規定(改正前民法536条、改正民法536条)に従って派遣料金の支払い義務があるか否かが判断されます。すなわち、労働者が「債務者双方の責めに帰することができない事由」により休業を余儀なくされ、債務(労働者の労働債務)を履行することができなくなったといえるかがポイントになります。

3 コロナウイルスの拡大による休業が「不可抗力」に当たるか

「不可抗力」とは

不可抗力とは、「災害による交通遮断のため履行地に赴けず債務を履行できなかったとか、異常な大雨に地震が重なってダムが決壊し損害を与えたなどのように、外部から発生した事実で、取引上あるいは社会通念上普通に要求される一切の注意や予防方法を講じても、損害を防止できないもの。[2]と定義されています。

そこで、コロナウイルスによる休業が「外部から発生した事実で、取引上あるいは社会通念上普通に要求される一切の注意や予防方法を講じても、損害を防止できないもの」といえるかによって、派遣料金の支払義務の結論が変わることになります。

裁判例

過去の裁判例では、大地震や大規模な水害が不履行の原因となったケースがあります。不可抗力に当たるかが直接判断されたものではありませんが、参考になる裁判例です。

東京地判平成26年10月8日(地震)

昭和56年頃に売買された土地に、東日本大震災がきっかけで液状化現象が生じたという事案で、当該土地、建物の販売業者が不法行為責任、瑕疵担保責任を負うか否かが争われました。

販売業者に過失が認められるか、具体的には大規模な地震が発生した場合、販売業者に液状化現象が派生することについて予見可能性があったといえるのか、という点が争点になりました。

裁判所は、①販売業者が専門家の指示のもと、販売当時は一般的ではなかった基礎工事を採用して液状化対策が行われていたこと、②地震の振動時間と液状化現象の関連性は地震発生後に初めて判明したこと、③本件分譲住宅販売時には液状化被害の判定方法も確たるものがなかったこと、などの理由から、長時間の地震が発生した場合に液状化現象が生じることを予測することは困難であったとして、予見可能性を否定しました。

東京地判平成11年6月22日(地震)

阪神淡路大震災により倉庫内の化学薬品が荷崩れにより漏出し、他の貨物から流出した水分と化合して発火した火災により貨物が消失した事故について、倉庫会社には阪神淡路大震災規模の地震の発生につき予見可能性がなく、結果回避義務違反の過失が認められないとされました。

名古屋地裁平成15年1月22日(水害)

被告が、原告所有の自動車の数理を請け負い、修理完成後、引渡未了の間に被告営業所が豪雨による浸水被害を受け、この自動車が水没して全壊したとして、原告が自動車の時価相当額の損害賠償請求を求めた事案で、被告が早期に降雨の推移を把握し、浸水被害ないし水没の予見可能性があったとはいえず、自動車の保管及び引渡義務の不履行につき、被告には過失がなかったとして、請求が認められませんでした。

東京地判平成17年4月27日(バブル崩壊)

原告の、会員であるゴルフ倶楽部を運営する被告に対する退会にともなう預託金の返還等の請求について、被告は、預託金据置期間延長の会則上の要件とする「天変地変、著しい経済変動その他会社及び倶楽部の運営上やむを得ない事情があると認めた場合」に当たり、被告取締役会の決議により、据置期間は10年間延長されているとしたが、いわゆるバブル経済の崩壊後の経済状況が、被告主張の「著しい経済変動」に当たると解することはできないなどから、被告による据置期間延長の効力を認めることはできないとして、原告請求を認容しました。

休業要請との関係

遊興施設、集会・展示施設、劇場、学習塾など、休業要請の対象となった業種については、要請を受けてやむを得ず休業しなければならなくなったというケースもあるでしょう。

休業要請の対象の業種であることをもって、不可抗力だということはできませんが、休業が不可抗力によるものであるという結論を支える一つの要素にはなるでしょう。

 

[1] 新型コロナウイルス感染証に関するQ&A(労働者派遣について)問2(厚生労働省)

[2] 法律学小辞典[第5版]1123頁(有斐閣、2016年)