ポイント
  1. 製品偽装の事例は、調査委員会が作成した報告書が適正かつ公正であることが重要です。
  2. 製品偽装の被害に対する損失を補填するだけでは、企業の社会的責任を果たしていません。
  3. 製品偽装は、数年以内で問題が収束するものではありません。数年以上の継続した対応が求められ、常に責任ある対応が求められ続けます。

本稿では、近年で製品偽装が問題となった東洋ゴム工業株式会社(2019年1月よりTOYOTIRE株式会社に変更)(以下、「T社」といいます。)の事例を紹介します。

まずは、事例を通じて製品偽装が企業に与える影響にどのような種類のものがあるか、結果として企業活動にどのような影響を与えたのかを実例を通じて学びます。

T社の製品偽装事例の概要

T社は、免震積層ゴムという免震材料の性能評価・大臣認定の取得に際し、データを改善した製品の試験結果を提出し、新たな性能評価・大臣認定を受ける等して製品を偽装しました。

具体的には、何らの技術的根拠なく数字を算出し、さらに試験を実施せずに数字を記載し、検査成績書を恣意的な数字に書き換えて顧客に交付するなどの行為がありました(以下、「本件偽装事例」といいます。)。

T社に起きた実際の出来事

調査報告書(公表版)2015年6月19日

長島・大野・常松法律事務所の合計10名の弁護士による本件偽装事例を調査するための社外調査チームが結成されました(以下、「調査チーム」といいます。)。

調査チームは、2015年2月8日からT社の製品偽装に関する調査を行い、同年6月19日に調査報告書として提出しました(以下、「本件報告書」といいます。)。

本件報告書に対して、第三者委員会格付け委員会が2016年2月16日付けを評価日として公表した総合評価(以下、「本件総合評価」といいます。)では、9名の委員中4名がF(内容が著しく劣り、評価に値しない報告書)をつけました。

Fをつけた主な理由として、調査チームは、日弁連が作成したガイドラインに準拠しておらず、さらに事件対応について助言をした弁護士が調査チームに加わっているため調査の独立性・中立性を認めることができないとするものでした。

本件総合評価をうけて、調査チームの代表である小林英明弁護士は、2016年3月1日、「格付け委員会グループの評価に対する調査チーム代表のコメント」と題する書面にて反論を行いました(以下、「本件反論」といいます。)。

本件反論をうけて、第三者委員会報告書格付け委員会は、同年3月30日、「当委員会の見解」と題する書面にて、再反論を行いました。

このように、調査チームの選定にあたっては、本件偽装事例について助言をした弁護士を調査チームに入れないように法律事務所の選定を慎重に決定しなければ、調査自体に疑義が呈され、調査チームが作成した調査報告書の信頼性が著しく損なわれるコンプライアンス上のリスクがあります。

民事裁判(東京地判平成29年2月27日判決・平成27年(ワ)22249号)

事案の概要

不動産等の売買等を目的とする株式会社(以下「A社」といいます。)は、共同住宅に用いる予定であったT社の完全子会社である東洋ゴム加工品株式会社(以下、「B社といいます。」が製造した免震ゴムに欠陥があったために、共同住宅の売買契約を解除及び解除に伴う違約金の支払を余儀なくされました。

結論

結論として、B社は、A社に対して、3億284万4854円の損害賠償を支払え等とする内容の判決となりました。

法律上の主な論点

本件の法律上の主な論点としては、A社が手付解除をして生ずる損害を1億45万円に留めることができたにもかかわらず、手付解除をせずに債務不履行解除に伴う違約金20%を支払ったことについて、A社に損害軽減義務違反が認められるかが論点となりました。

本件は、損害軽減義務の判断基準を「法律上手付解除を行うことが妨げられないとしても、個別具体的な事実関係の下で、その手段を執らないことが不合理でない事情がある場合には、損害軽減義務違反を認めることはできないと解するのが相当である」としました。

そして、「本件免震ゴムの交換が約定の引渡期限に間に合わないことを説明しなければならなくなった以上、原告において伊豆から手付解除を行うという話を持ち出すこと自体、買主からの非難を招くおそれが否定できない」等と現場の実情に応じた事実認定を丁寧に行い、手付解除を行う説明をした場合に「特に買主からの不信が生じ、ひいては原告の企業としての社会的評価が損なわれるリスクである」として「手付解除という損害軽減の手段をと執らないことが不合理ではない事情が認められる」と判断しました。

小括

このように、製品の取引先との信頼関係を損なうだけではなく、多額の損害賠償責任を巡る法廷闘争に発展するコンプライアンスリスクがあります。

刑事裁判(枚方簡裁平成29年12月12日判決・平成29年(ろ)第3号)

犯罪事実

裁判所は、犯罪事実として「免震積層ゴム19基につき,実際には,同ゴムは大臣認定に係る性能評価基準に適合していないにもかかわらず,同ゴムが同基準に適合しているとの内容虚偽の性能検査成績書を作成し,〜前同様の内容虚偽の立会検査性能試験成績書を作成した上〜免震積層ゴム支承検査成績書を〜交付し,もって商品の品質について誤認させるような虚偽の表示をしたものである。」と認定しています。

結論

罰金1000万円

罰条 平成27年法律第54号附則4条により同法による改正前の不正競争防止法22条1項,21条2項5号

量刑理由

偽装発覚後の事情

裁判所は、「調査の結果,偽装が発覚し,平成26年3月ころから順次,親会社〜にも伝えられたが,その後も出荷停止等の措置がとられることなく偽装が続けられ,本件犯行に至った。このような経緯によれば,本件犯行は,個々の行為者の不正に止まらない会社ぐるみの犯行といえ〜企業グループの社会的責任,企業倫理に関わるものといえる。」と判断しています。

社会的事情

裁判所は、「免震積層ゴム支承は,震災時の建物の安全に極めて重要な,国土交通大臣の技術基準適合認定を要する指定建築資材であると同時に高度に専門技術的な製品であり,その性能評価基準の適合性判断は,建築設計の専門業者でも困難であって,メーカーが作成する検査成績書に頼るほかはない。これを偽装することは,同業他社との公正な競争を害するばかりか,関連業者の信頼を裏切り,業界全体の社会的信用を失墜させ,さらには,社会一般に免震建造物に対する不安・不信感を蔓延させる行為といえ,その影響は大きい。」と判断しています。

小括

不正競争防止法違反による刑事処分として1000万円という金額ではありますが、刑事処分として罰金を支払う判決が出た影響は、金銭等の経済的制裁だけではなく、企業のブランドを著しく損なうものとなります。

株主代表訴訟

個人株主は、平成28年5月17日、監査役に対して、東洋ゴム工業株式会社に生じた損害として466億7400万円及び遅延損害金の支払いを求める責任追及の訴え提起理由書を送付した(会社法第386条、同第847条参照)。【T社の平成28年5月18日付け「株主からの提訴請求について」と題する書面参照】

東洋ゴム工業株式会社は、調査し、対応を検討した結果、監査役全員一致の意見として「当社取締役19名に対し責任又は義務違反があるとして提訴はしないことを決定」しました。【T社の平成28年5月18日付け「株主からの提訴請求に対する当社監査役会からの不提訴理由通知ついて」と題する書面参照】

その後、平成28年8月に株主代表訴訟が提起され、会社は訴訟に補助参加しない対応を発表しました。【T社の平成28年8月26日付け「株主代表訴訟に関する当社の対応について」と題する書面参照】

このように、製品偽装により株主からの責任追及の訴えにも企業として適切に対応し、報道関係者に対する事実上の説明責任を果たす等の対応が求められます。

行政指導

国土交通省は、平成27年3月13日付け「東洋ゴム工業(株)が製造した免震材料の大臣認定不適合等について」と題するプレスリリースにおいて、T社に対して、建築基準法上の不適合状況の確認、構造安全性の検証結果の報告をすること等を指示し、特定行政庁に対して検証結果を踏まえた是正指導を行うよう要請しました。

さらに、国土交通省は、平成27年7月30日付け「東洋ゴム㈱が製造した免震材料の不正事案に係る物件の違反是正について(技術的助言)」と題する書面において、違反是正の手順として交換改修計画の提出を求める等し、免震材料の不正事案に係る物件の違反是正のフローを示しました。

T社は、2020年2月14日時点においても、進捗状況をホームページ上で報告しています(https://www.toyotires.co.jp/responsibility/menshin/repair/progress/)。

社会的制裁

各種新聞の一面を飾り、テレビ放送等で報道されるとともに、上記1ないし5の経緯もあいまって、社会に対し非常に大きな衝撃を与えた事件となりました。

T社は、2016年12月連結決算で免震ゴムの性能偽装関連で特別損失として1134億円もの金額を計上し、著しい損失を被りました。さらに、T社は、事業を売却し、2019年1月から商号を変更するなどしました。