ポイント
  1. クレーム対応は、日々の企業活動に直結する重要なコンプライアンス対策です。
  2. クレーム(苦情)は、法律上の定義づけがなく、また、行政上も明確な指針が制定されていません。
  3. 日本最大の産業別労働組合が作成したガイドラインがクレーム対応の参考になります。

とある大手通販サイトを運営する会社が「送料一律無料」を打ち出した結果、出店者から多数のクレームを受け、終いには公正取引委員会が調査に乗り出し、緊急停止命令を発した出来事が令和2年2月28日に起きました。

このように、クレームに端を発した一連の出来事は、企業への社会的な信頼を損ない企業活動に多大な影響を及ぼすことになりかねません。

他方で、クレームは、日常的に接するお客様からの商品改善やサービス改善の契機にもなる大切な意見でもあります。したがって、クレームに対する適切な対応は、コンプライアンスの観点から非常に重要な位置づけとなります。

まず、法律上、クレームに関する条文としては、社会福祉法第82条に以下の規定があります。

(社会福祉事業の経営者による苦情の解決)

第八十二条 社会福祉事業の経営者は、常に、その提供する福祉サービスについて、利用者等からの苦情の適切な解決に努めなければならない。

社会福祉事業に限らず、経営者は、常に利用者からの苦情の適切な解決に努めることがコンプライアンス上も要請されます。しかし、法律の定めは、抽象的であるため、そもそも苦情とは何か、苦情をどのように解決すればよいのかについて何ら道筋を示していません。

また、判例検索システム(判例秘書)を使用してクレームについて調査した結果、クレームを定義付けたものはありませんでした。しかし、得体のしれない物音がする、有害な電波を出している等のクレームは、社会通念上の受忍限度を超えた違法なものであり、不法行為を構成すると判断した裁判例がありました(東京地判平成27年12月17日)。

厚生労働省は、クレームについて「事業主が労働者の安全に配慮するために対応が求められる点においては、顧客や取引先からの迷惑行為は職場のパワーハラスメントと類似性があるものとして整理することが考えられる。」(「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会報告書 平成30年3月」25頁)とする一方で、職場のパワーハラスメントと異なり「顧客の要求に応じないことや、顧客に対して対応を要求することが事業の妨げになる場合がある。」等と整理しています。

しかし、厚生労働省は、クレームに対する定義付けを何ら示しておらず、職場のパワーハラスメントに類似性があるとの結論にとどまり、法制化の議論も進展していません。

一方で、日本最大の産業別労働組合であるUAゼンセン(https://uazensen.jp/)が作成した「悪質のクレームの定義とその対応に関するガイドライン」(以下、「ガイドライン」という。)では、クレームを「クレームとは、商品・サービスに関して消費者から不満がおこり、会社(店舗)に責任ある対応を求められることである。」(ガイドライン3頁)と定め、悪質なクレームに対しては毅然とした対応を取るべきであると説明しています。

また、悪質なクレームとは、「要求内容、又は、要求態度が社会通念に照らして著しく不相当であるクレーム」(ガイドライン9頁)と説明しています。

UAゼンセンは、2019年8月、クレームに関する法整備を要求する署名を集めて厚生労働省に提出しました。厚生労働省は、労働政策審議会という諮問機関の協力を得てクレームの法整備を検討したが、実現するにいたっていません。

以上より、法律上、指針上も何ら明確な規定がなく、裁判例においても受忍限度論という明確な判断基準が示されていない現状があるなかで、UAゼンセンが作成したガイドラインは、各企業のクレーム対策を策定、実施するにあたり重要な参考資料となります。