ポイント
- 債権管理の予防策として、契約書の活用がある
- 債権管理を適切に行うための契約条項例を押さえる
契約書の活用
企業としては、契約書を活用することで、債権管理の予防策を講じることが考えられます。
以下では、債権管理の予防策として、契約書に盛り込んでおくべき一般的な条項を紹介します。なお、実際の契約交渉では、下記条項以外にも、債権管理を有効に行う上で必要な条項があることにはご留意ください。
期限の利益喪失条項
期限の利益とは、債務者が、弁済期が到来するまでは債権者から返済請求を受けないという利益をいいます。そして、期限の利益喪失条項とは、債務者(又は契約の内容によっては連帯保証人)に一定の事由(デフォルト事由)が生じた場合に、かかる期限の利益を失わせ、債権者が直ちに貸付金全額の弁済を求めることができるようにする条項をいいます。
この点、民法137条各号は、①「債務者が破産手続開始の決定を受けたとき」、②「債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき」、③「債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき」の3つを債務者が期限の利益を主張できない場合として規定していますが、これらだけでは債権者にとっては十分とはいえません。債権者にとっては、期限の利益喪失事由ができる限り多数列挙されている方が有利な内容といえます。
なお、期限の利益喪失条項には、債権者の通知によって期限の利益を喪失させる場合と、債権者の通知がなくても、デフォルト事由が生じた場合には当然に期限の利益を喪失させる場合との2種類があり、債務者にデフォルト事由解消の機会を与えるのであれば前者を、影響が重大であったり債務履行の可能性が期待できない場合であれば後者を規定することが一般的です。
第●条(期限の利益喪失)
1 乙(債務者)は、本契約に定める条項に違反した場合、甲の書面による通知により、相手方に対する一切の債務について期限の利益を喪失し、直ちに甲に弁済するものとする。
2 乙について本条各号の事項の一つにでも該当する事由が生じたときは、何らの通知、催告がなくとも当然に、乙は一切の債務について期限の利益を喪失するものとし、直ちにその債務を弁済する。
(1) 支払の停止又は破産、民事再生、会社更生手続若しくは特別清算の申立てがあったとき
(2) 手形交換所の取引停止処分を受けたとき
(3) 仮差押、仮処分、強制執行若しくは任意競売の申立て又は滞納処分のあったとき
(4) 合併による消滅、資本の減少、営業の廃止・変更又は解散決議がなされたとき
(5) 資産、信用又は支払能力に重大な変更を生じたとき
(6) その他、前各号に準ずる事態が生じたとき
契約解除条項
契約解除条項とは、一定の事由が生じた場合に、契約が解除できる場合を規定した条項をいいます。
債権者にとって有利にするのであれば、当然に期限の利益を喪失する旨の条項を設定することが考えられます。また、解除できる条件として甲(債権者)の請求も不要とすることが考えられます。
さらに、「本契約の全部又は一部を解除できる」と設定することで、甲(債権者)にとって都合のよい部分のみを残すことが可能となります。
第●条(契約解除)
1 甲は,以下の各号に規定する事由に該当した場合には,甲は何らの通知催告を要せず,直ちに本契約の全部又は一部を解除することができる。
(1) 乙が個別契約に基づく本件商品の代金の支払を行わないとき
(2) 乙が振り出し,引受,又は裏書した約束手形・為替手形・小切手が不渡りになったとき
(3) 乙が銀行取引停止処分を受けたとき
(4) 乙に対して,競売,差押え,仮差押え,又は仮処分の申立てがなされたとき
(5) 乙が破産手続開始,民事再生手続開始,会社更生手続,特別清算手続の開始の申し立てを行い,又はこれらの申し立てを受けたとき
(6) 乙の信用及び資力が悪化したと甲が認めたとき
(7) そのほか,本契約に定める各条項に違反したとき
2 前項に基づいて,本契約が解除されたときは,乙は,甲に対して,本契約の解除により乙が被った損害を賠償するものとする。
所有権留保特約
所有権留保とは、売主が売買代金を担保するため、代金が完済されるまで引渡しの終えた目的物の所有権を留保することをいいます。
債務者(乙)の支払がなされない場合のリスクに備えて、代金を完済するまでは、所有権を移転しないと定めることが考えられます。
所有権留保特約を設定することで、債務者(買主・乙)に対する圧力をかけることが期待できます。すなわち、代金を完済できない場合には商品の返却を求められることによる債務者(買主・乙)への圧力をかけることが可能となり、他の債権者よりも優先的に支払われることが期待できるといえます。
同様に、債務者(買主・乙)が売買代金の支払を怠った場合には商品を引き上げることによって債権管理を実現でき、回収可能性を高めることが可能といえます。
第●条(所有権留保)
甲及び乙は,甲が乙に対して引渡した本件商品の所有者が,乙が甲に対して代金の全額を支払うまでは,全て甲に帰属することを確認する。
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