相談事例

当社の問題社員が、ユニオンに加入し、団体交渉を申し入れてきました。
ユニオンの団体交渉申入書には、様々な要求が記載されていましたが、今後も要求事項は増えてきそうな気がします。

団体交渉に臨むにあたって、テーマごとに注意したほうが良い点があれば教えてください。

解説

1 団体交渉におけるテーマ

団体交渉では、労働者側から使用者側に対し、様々なテーマを提案されることになります。特に、団体交渉では、①処遇、②懲戒処分、③解雇、④労働時間管理がテーマとされることが少なくありません。

以下では、各テーマにおける留意点を解説します。

2 処遇について

処遇については、賞与、不利益変更、人事評価などが挙げられますが、運送会社特有の問題として、配車差別が挙げられます。

(1)賞与について

賞与は、法律上当然には支払義務がありません。
したがって、賞与を減額しても不利益変更の問題は原則として発生しまないことになります。

組合・ユニオンの賞与の要求に対しては、法律上の支払義務がないことを前提として、賞与の支給の有無及び支給額は、使用者の経営判断の問題であり、要求に応じるべき義務が原則としてないという反論をすることになります。

ただし、就業規則や賃金規程等に賞与の支給が明記されている場合等には、使用者側が賞与の支給義務を負うこともありますので、就業規則等の確認をする必要があります。

(2)不利益変更について

減給や手当の減額等は、労働条件の不利益変更の問題となります。

労働条件の不利益変更の場合、①労働者の個人の具体的な同意、②就業規則による変更、③労働協約による変更の方法があります。

就業規則による労働条件の変更の場合、①変更の必要性、②変更による労働者の不利益変更の程度、③変更後の労働条件の内容の相当性、④労使の交渉の経緯等の事情を総合考慮して判断されることになります。

一概に労働条件の変更が有効無効とは判断しがたいため、使用者としては、労働組合・ユニオンに対し、有利な事情を積極的に主張し、労働組合・ユニオンにも理解してもらうよう努めることになります。

(3)人事評価について

人事評価については、原則として使用者には広い裁量があるため、労働組合・ユニオンの要求に対しても大きく譲歩する必要はないといえます。

もっとも、不誠実断交と指摘されることのないよう、労働組合・ユニオンの団体交渉に対しては適切に対応を継続していく必要はあります。

(4)配車差別等について

運送会社特有の問題ですが、配車差別・増務割当差別等については、不当な組合員差別であるとして不当労働行為であると争われるケースが少なくありません。

3 懲戒処分

懲戒処分の有効性や程度が争われるケースがあります。

懲戒処分が争われた場合、使用者側では、懲戒事由に該当する事実があること、懲戒処分として相当性があることを主張していく必要があります。

4 解雇

解雇された社員が、労働組合・ユニオンに加入し、解雇の有効性を争ってくるケースがあります。

解雇の有効性が争われた場合、社員が復職を希望しているのか、金銭解決を希望しているのかを見極める必要があります。

また、解雇の有効性は、解雇権濫用法理に基づき厳格に判断される傾向にあるため、団体交渉では解決せずに裁判に移行した場合、勝訴できる見通しがあるかどうかも考える必要があります。

解雇の有効性を争う紛争が長期化した場合、解雇が無効と判断された場合のバックペイの金額も高額になることから、対応は慎重に検討することが求められます。

5 労働時間管理

労働時間管理に伴ってよく団体交渉で要求事項として挙げられるものが、残業代請求になります。

残業代請求は、集団で使用者側に要求された場合には非常に大きな金額となりますが、一方で解雇無効に伴なうバックペイのケースと異なり、紛争が長期化したとしても、請求額が大幅に増額されるわけではありません。

そこで、使用者側としては、労働組合・ユニオンの要求する残業代が過大であれば、毅然として反論するべきといえます。

残業代請求にあたっては、固定残業代の有効性や歩合給、待機時間の扱い等が争点となる傾向にあります。

使用者側としては、就業規則や賃金規程を再度確認し、有利な規定がないかどうかをチェックする必要があります。

なお、現在も在籍する社員が労働組合・ユニオンに加入して残業代請求をしてくる場合には、従業員に対して残業をさせないということも一つの交渉材料となります。

残業は、使用者の業務命令によって行われるものであり、労働者が残業をさせるよう要求できる権利はありません。

そこで、使用者が労働者の残業をさせない・減らしていく努力をすることによって、高額な残業代を請求しようと考える労働者を牽制することが期待できます。

ただし、残業をさせない・減らしていくという場合には、組合員・非組合員の区別なく、一律に進める必要があります。組合員だけを対象にすると、不当労働行為に該当するおそれがあります。

ご相談のケースについて

ご相談のケースでも、労働組合・ユニオンの団体交渉における要求事項を整理し、それぞれの要求事項に応じた対応を事前に検討する必要があります。

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