質問

このたび、当社では10億円程度の自己株式の取得を予定していますが、「繰越利益剰余金」には3億円ほどしかなく、予定している自己株式取得を行うためには資金が不足しています。

これに対して、「別途積立金」には20億円ほどの積み立てがあることから、この「別途積立金」の勘定項目を原資として自己株式取得用の資金を捻出しようと考えていますが、「別途積立金」を取り崩して「繰越利益剰余金」に振り替えることが必要でしょうか。

また、振替が必要とした場合、取締役会決議で振り替えることが可能でしょうか。

回答

「別途積立金」は、とくに積立ての目的を定められていない会社の内部留保であり、自己株式取得のために利用することが想定されていないため、実務上、「繰越利益剰余金」へ振り替えることが一般的と思われます。

また、振替手続については、一定の要件を満たす会社であれば、定款の定めに基づき、取締役会決議により振替が可能です。

解説

貸借対照表上の「繰越利益剰余金」と「別途積立金」の位置づけ

「繰越利益剰余金」と「別途積立金」とは、いずれも「利益剰余金」を構成する「その他利益剰余金」の中の勘定項目の一つですが、会社法・貸借対照表上も似通った用語が多数使用されているため、上位概念である「利益剰余金」の貸借対照表上の位置づけ・体系とともに整理することが大切です。

まず、貸借対照表は、非常に大雑把には、以下のように整理することが可能です。


そして、「利益剰余金」とは、かかる貸借対照表の純資産の部を構成する「株主資本」の一要素であり、その分類は概要以下のとおりです。

【株主資本の構成】

  1. 資本金(注1)
  2. 資本剰余金
    (1)資本準備金(注1)
    (2)その他資本剰余金(注2)
  3. 利益剰余金
    (1)利益準備金(注1)
    (2)その他利益剰余金(注2)
    (i)任意積立金
     (a)目的積立金
      (例)技術研究積立金、修繕積立金、自己株式取得積立金等
     (b)別途積立金(無目的積立金)(☆)
    (ii)繰越利益剰余金(☆)
      注1:会社財産確保の基準数額
      注2:剰余金の配当可能

このように、「利益剰余金」は、(1)「利益準備金」と(2)「その他利益剰余金」から構成され、(2)「その他利益剰余金」は、適当な名称を付した項目に細分されます(会社法計算規則76条6項)。

そして、(2)「その他利益剰余金」は、さらに(i)「任意積立金」と(ii)「繰越利益剰余金」とに分類されるところ、これら(i)「任意積立金」と(ii)「繰越利益剰余金」は、当期純利益額が株主への財産分配(剰余金の配当・自己株式取得)又は(1)「利益剰余金」の積立てに使用されず、留保されている部分です。

また、(i)「任意積立金」は、株主総会(又は取締役会)の利益処分決議により、会社が任意に積み立てる利益の留保額をいい、(a)特定の目的がある「目的積立金」と、(b)特定の目的がない「別途積立金」(無目的積立金)とに分類することができます。

そして、(ii)「繰越利益剰余金」とは、利益の留保額のうち、その処分方法が定められていない金額をいいます。

自己株式の取得と「別途積立金」の取崩し

前述のとおり、会社が任意に積み立てた内部留保である「任意積立金」は、積立ての目的の有無によって2種類に分類されるところ、もともと(ii)「別途積立金」には積立ての目的が定められていないことから、当該勘定項目から自己株式取得目的で支出することは想定されておりません。

したがって、「繰越利益剰余金」に不足がある場合には、実務上は、一旦「別途積立金」を取り崩して、自己株式取得に必要な資金を「繰越利益剰余金」へと振り替えることが一般的と思われます。

「別途積立金」から「繰越利益剰余金」への振替の手続

前述のとおり、会社が任意に積み立てた内部留保である「任意積立金」は、積立ての目的の有無によって2種類に分類されるところ、積立ての目的に従ったものであれば、取締役又は取締役会の決定により取り崩すことができます(会社法計算規則153条2項)。

たとえば、自己株式を買い受けるために、(a)「目的積立金」のうちの「自己株式取得積立金」を取り崩す等のケースが考えられます。

これに対して、目的が定められた積立金を目的外に使用する場合、又はもともと特定の目的が定められていない「別途積立金」を取り崩す場合には、その積立ての根拠に応じて、定款変更又は株主総会決議(若しくは会社法459条に基づき取締役会決議)が必要となります。

そして、「別途積立金」を取り崩して「繰越利益剰余金」に振り替える場合のように、剰余金内の項目間の係数の変更を行うことは、「その他の剰余金の処分」として、原則として株主総会決議が必要とされています(会社法452条)。

もっとも、以下の要件をすべて満たす会社であれば、定款の定めにより、かかる「その他の剰余金の処分」について取締役会決議に委任することができる、とされています(会社法459条1項3号)。

  1. 会計監査人設置会社であること
  2. 取締役の任期が一年を超えないこと
  3. 監査役会設置会社、監査等委員会設置会社又は指名委員会等設置会社であること
参考文献

江頭憲治郎「株式会社法第6版」(株式会社有斐閣)

(注)本記事の内容は、記事掲載日時点の情報に基づき作成しておりますが、最新の法例、判例等との一致を保証するものではございません。また、個別の案件につきましては専門家にご相談ください。

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