相談事例

運送業界では、働き方改革関連法を意識する必要があると言われていますが、以前から改善基準を意識するように指導されてきました。

改善基準で押さえておくべきポイントを教えてください。

解説

トラック運転者等の運送業に携わる労働者は、取引先・顧客からの短納期の要請、長距離運転等の業務の特性から、長時間労働の実態もみられますが、疲労による体調不良が原因となって交通事故や災害を発生させることのないよう、厚生労働省では、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(平成元年労働省告示第7号。以下「改善基準」といいます。)を定め、業種・業界の実態に応じて、一般労働者とは異なる労働時間や運転時間、休息期間などの特別の規制を設けています。

改善基準が適用される労働者

改善基準が適用される労働者とは、労働基準法第9条に規定する労働者(26頁参照)であって、四輪以上の自動車の運転の業務に従事する者です。

つまり、事業主に雇用され、運転業務に主として従事している人をいいます。トラック運転者については、運送業のトラック運転者のほか、毎日自家用トラックで配達している人や、商店の配送部門に雇われて通常運転している人などにも改善基準が適用されます。

労働時間・拘束時間・休息時間の意義

労働時間の意義

労働時間には、労基法上の実労働時間規制の対象となる「労基法上の労働時間」と当事者が労働契約上、賃金支払義務や労働義務に関して労働時間として取り扱うこととして合意した時間である「労働契約上の労働時間」があり、両者の区別が必要です。すなわち、ある時間が、賃金が支払われる時間であるかどうかは、当事者がその時間に賃金支払を合意したかどうかで決まるので、労基法上の労働時間であるかどうかの判断と同じではありません。

拘束時間の意義

始業時刻から終業時刻までの時間で、労働時間と休憩時間(仮眠時間を含む)の合計時間をいいます。

休息時間の意義

勤務と次の勤務の間の時間で、睡眠時間を含む労働者の生活時間として、労働者にとって全く自由な時間をいいます。

改善基準の概要

改善基準の概要は、以下のとおりです。

改善基準告示等の概要
項目 改善基準告示等の概要
拘束時間  1カ月293時間
労使協定があるときは、1年のうち6カ月までは、1年間についての拘束時間が3,516時間を超えない範囲において320時間まで延長可

1日原則13時間 最大16時間(15時間超えは1週2回以内)

休息期間 継続8時間以上
トラックドライバーの住所地での休息期間が、それ以外の場所での休
息期間より長くなるよう努めること。
拘束時間・休息期間の特例 休息期間の特例 業務の必要上やむを得ない場合に限り、当分の間1回4時間以上の分割休息
で合計10時間以上でも可(一定期間における全勤務回数の1/2が限度)。
2人乗務の特例 1日 20時間以内
同時に1台の自動車に2人以上乗務(ただし、車両に身体を伸ばして休息することができる設備がある場合に限る。)の場合、最大拘束時間は1日20時間まで延長でき、休息期間は4時間まで短縮できる。
隔日勤務の特例 2暦日 21時間以内(拘束時間)
2週間で3回までは24時間が可能(夜間4時間以上の仮眠が必要)。
ただし、2週間で総拘束時間は126時間まで。
勤務終了後、継続20時間以上の休息期間が必要。
フェリーに乗船する場合の特例 フェリー乗船時間については原則として休息期間として取り扱い、勤務終了後の休息期間から減算可。減算後の休息期間は、フェリー下船から勤務終了時までの1/2を下回ってはならない。
運転時間 2日平均で1日当たり9時間以内
2週平均で1週間当たり44時間以内
連続運転時間 4時間以内(運転の中断には、1回連続10分以上、かつ、合計30分以上の休憩等が必要)
時間外労働 改善基準告示の範囲内で1日、2週間、1カ月以上3カ月以内、1年の上限時間を労使協定で締結。
休日労働 2週間に1回以内、かつ、1カ月の拘束時間及び最大拘束時間の範囲内。
労働時間の取扱い 労働時間は拘束時間から休憩時間(仮眠時間を含む)を差し引いたもの。
休日の取り扱い 休日は休息期間に24時間を加算した時間。
いかなる場合であっても30時間を下回ってはならない。
適用除外 緊急輸送・危険物輸送等の業務については厚生労働省労働基準局長の定め
により適用除外。

(出典:厚生労働省|荷主と運送事業者の協力による取引環境と長時間労働の改善に向けたガイドライン

ご相談のケースについて

改善基準のポイントは上記のとおりですが、働き方改革関連法に伴い設定された残業時間の上限規制等とあわせて、運送会社としての労務管理をチェックするようにしましょう。

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