相談事例

当社の勤続3年目の正社員が、家庭の事情により、来月に退職することになりました。

この社員は、一度も年次有給休暇を使用することがなかったので、退職時に未精算分の年次有給休暇を買い取ってほしいと主張してきました。

当社は未精算分の年次有給休暇を買い取らなければならないのでしょうか。

解説

年次有給休暇の繰越

年休が未消化の場合、労基法上の請求権の時効が2年であることから(労働基準法115条)、未消化の年休は翌年度に繰り越しが認められると解されます(国際協力事業団事件・東京地判平成9年12月1日労判729号26頁)。

使用者による年休の買上げ

年次有給休暇が繰り越された上で、未消化の有給休暇について、使用者が買い取るべき義務があるかどうかが問題となります。

この点、使用者が法定の年次有給休暇を買い上げることは、原則として認められていません。使用者は、法律に定められた有給休暇を社員に与えなければならないためです。

使用者による年休の買上げとして、事前に年休を放棄する旨の約定は無効であると解されます(住之江A病院(退職金等)事件・大阪地判平成20年3月6日労判968号105頁)。

退職時における年休の精算

もっとも、職時における年休の買上げは、制度上の弊害も少ないので、有効と解されます。

ただし、有給休暇の買い上げについて法律上は何も規定していません。

したがって、退職時であっても、使用者が従業員の要求に応じて年次有給休暇を買い取るべき義務があるわけではありませんのでご留意ください。

ご相談のケースについて

年次有給休暇は繰り越されることになるため、40日分の法定年次有給休暇の未消化分が生じていることになります。

従業員の退社にあたり、未精算の年次有給休暇を買い取る義務はありませんが、買い取る判断をしたとしても、無効と解されることはないと考え、従業員のために買い取るという判断をすることも考えられます。

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