相談例

同業の運送会社をみると、直接雇用するだけでなく、外部業者に委託しているケースも見られます。

直接雇用をすると、どうしても労働時間の管理などの負担が大きくなってしまうため、できれば直接雇用以外の方法も選択したいと考えています。

従業員と契約をするときには、どのような契約形態を選んだらよいのでしょうか。

解説

「労働者」性をめぐる争点の背景

運送業界における労務管理が課題となるその根底には、企業と従業員の間の契約が雇用契約と解されることがあります。

企業と従業員の間の契約が雇用契約と解された場合、当事者間には労働基準法や労働契約法等、労働関係法規が適用されることになります。

企業と従業員の間に労働関係法規が適用される場合、企業は、労働時間法制や労働条件の不利益変更、解雇権濫用法理等の規制を受けることになります。

一方、企業と従業員の間の契約が業務委託契約(請負契約や準委任契約等)と解された場合、当事者間には労働諸法が適用されないことになります。

このように、企業と従業員の間の契約関係がどのように解されるかは、企業における労務管理を左右する重要な問題といえます。

実務上、企業が労働諸法の適用を回避するために、従業員との契約を雇用契約ではなく業務委託契約等にしようとするケースがみられます。

もっとも、企業と従業員との契約が形式的には業務委託契約であったとしても(例えば、契約書の表題が「業務委託契約書」となっているようなケース)、実質的には雇用契約と変わりがない場合、企業と従業員との契約の法的性質の解釈が争われることになります。

これは、従業員が「労働者」にあたるかどうかという「労働者」性の問題と言われています。

従業員が「労働者」に該当すると判断されると、事案の解決にあたり、労働基準法、労働契約法、労働災害保険法、労働組合法等の労働関係法規が適用されることになりますが、「労働者性」が否定されると労働関係法規が適用されないことになります。

労働関係法規が適用されるかどうかによって、労務管理の在り方やコスト、また労務紛争の解決方法が異なります。

企業が労務管理を検討するにあたっては、まず従業員との間の契約がどのような法的性質に分類されるのかを整理・把握しておく必要があります。

他人の労務利用形態の種類

企業と従業員の契約関係の整理は、企業による他人の労務利用形態の種類から把握するとわかりやすいといえます。以下では、他人の労務利用形態の種類及び概要を説明します。

雇用契約

雇用する者が労働者を「使用」する形態をいいます(雇用と使用が一致)。

雇用契約

労働者派遣契約

派遣元事業主が自己の雇用する労働者を、派遣先の指揮命 令を受けて、この派遣先のために労働に従事させることを業として行う形態をいいます(雇用と使用の分離)。

労働者派遣契約

労働者供給事業

労働者供給事業とは、自己の管理下にある労働者を他人の指揮命令のもとで他人に使用させることで、そこで利益を得る形態のものをいいます。

労働者供給により、労働者を不当に支配し、中間搾取などが横行していたため、職業安定法第44条では労働者供給事業を行うこと及びそうした労働者を受け入れ指揮命令を行うことを禁止しています。

唯一、労働者供給事業が認められているのは、労働組合が無料で行う場合です。労働組合は営利を目的とせず、組合員の賃金や労働条件向上などを民主的に運営されるため、不当支配や中間搾取などが行われる余地がないからです。

雇用と使用が分離する雇用形態は、労働者保護の観点から不適正環境になる危険度が高いために原則禁止とされています。

労働者供給事業

請負契約

注文者の注文に従って請負人(受注者)が自らの裁量と責任の下に自己の雇用する労働者を使用して仕事の完成にあたり、製品の納入や役務処理の完了を行うものをいいます。

請負契約

業務委託契約

委託者(注文者)が一定の業務や事務の処理を委託し、受託者がその処理を承諾し、自己の責任において自己の雇用する労働者を使用し受託事務(業務)の処理をある程度の自由裁量をもって独立して行うことをいいます。

業務委託契約

出向

出向とは、企業が社員との雇用契約を維持したまま、業務命令によって社員を子会社や関連会社に異動させ、就労させることを言います。

出向

他人の労務利用形態の種類を区別する意義

このように、他人の労務利用形態には様々な種類がありますが、これらを区別する意義は、労務形態によって適法性自体の判断が分かれる上、法的効果も異なることにあります。各労務利用形態の違いを概観すれば、以下のように整理することができます。

他人の労務利用形態の種類を区別する意義

雇用契約・請負契約・業務委託契約の違い

実務上、よく比較対象として検討する雇用契約・請負契約・業務委託契約の法的性質の違い等は、以下の一覧表のとおりです。

  雇用契約 請負契約 業務委託契約
契約形態 雇用契約 請負契約 委任契約
従事者の呼び方 労働者 請負人 受託者
使用者の指揮命令
従事者の裁量
算定ベース 労働時間 仕事の完成 業務の遂行
支払方法 給与扱い(給与所得) 外注費扱い(事業所得)  
備品等 会社の用意・負担 請負人(受託者)の用意・負担 請負人(受託者)の用意・負担
労災補償
社保加入義務

ご相談のケースについて

企業が事業の拡大に伴い従業員を増員しようとする場合には、雇用契約だけでなく、業務委託契約や労働者派遣契約など、様々な種類があることを把握しておきましょう。

企業からすれば、労働関係法規が適用される雇用契約よりも、請負契約や業務委託契約等の方が望ましいと考えるかもしれません。ただし、形式的には請負契約や業務委託契約を選択していても、実質的には雇用契約と解される場合には、実態に照らして従業員が「労働者」に該当すると判断され、雇用契約とみなされて労働関係法規が適用されうることにご留意ください。

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