相談例

2020年4月1日から、民法が改正されていると聞いています。

今回の民法改正は、私たち運送会社・運送事業者にとって、どのような影響があるのでしょうか。

解説

民法改正の狙い

民法(債権関係)改正法は、121年ぶりに、債権関係の規定について、取引社会を支える最も基本的な法的基礎である契約に関する規定を中心に、社会・経済の変化への対応を図るための見直しを行うとともに、民法を国民一般に分かりやすいものとする観点から実務で通用している基本的なルールを適切に明文化することとしたものです。

民法改正の施行時期

改正後の民法は、基本的に、一括して2020年4月1日が施行日となっています。施行日の例外として、定型約款と公証人による保証意思の確認手続きの2つがあります。

定型約款について

定型約款に関しては、施行日前に締結された契約にも、改正後の民法が適用されますが、施行日前(2020年3月31日まで)に反対の意思表示をすれば、改正後の民法は適用されないことになります。

この反対の意思表示に関する規定は2018年4月1日から施行されます。

保証契約について

事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約は一定の例外がある場合を除き、事前に公正証書が作成されていなければ無効となりますが、施行日から円滑に保証契約の締結をすることができるよう、施行日前から公正証書の作成を可能とすることとされています。

この規定は2020年3月1日から施行されます。

改正民法と労働法の関係

民法改正の影響は多岐にわたりますが、労務管理に影響を及ぼすものは、以下の3つが挙げられます。

消滅時効

起算点の改正(原則として、従前の「権利行使できることができる時」から10年に加え、「知った時」から5年を新設)。ハラスメント等の損害賠償請求の消滅時効期間の相違が解消されます。

賃金等の請求権については、消滅時効期間が従前は2年間であったところ、3年間に延長されます[1]

[1] 厚生労働省|平成30年度個別労働紛争解決制度の施行状況

身元保証

身元保証とは、労働者の行為によって使用者が受ける損害の担保を目的とした保証をいいます。実務上、企業が労働者を採用する際に、主としてその家族や近親者との間で特段極度額を定めることなく身元保証契約を締結しています。

身元保証契約には、身元保証法(身元保証ニ関スル法律)による規制が課されています。

法定利率・中間利息控除

法定利率

民法改正後は、賃金不払いの場合の遅延損害金の率が年3%(変動制)となります。

ただし、退職した労働者に係る賃金(退職手当を除く)の全部または一部をその退職の日(退職の日後に支払期日が到来する賃金にあっては、当該支払期日)までに支払わなかった場合に、当該退職の日の翌日からその支払いをする日までの期間について、年14.6%の遅延損害金を支払わなければならないと定める賃金の支払の確保等に関する法律6条の利率に変更はありません。

中間利息控除

法定利率の変動制は、損害賠償請求における中間利息控除(改正民法417条の2、722条1項)にも影響します。

例えば、労働災害等に起因して安全配慮義務違反に基づいて損害賠償請求をする際の逸失利益など、将来において取得するべき利益について計算する場合です。

労災事故によって後遺障害を負った場合、将来の労働能力が減少することがあり、後遺障害逸失利益が損害賠償の項目の一つとなりますが、本来は将来受領するはずの賃金相当分を現在受領することから、将来賃金としてもらえたはずの金額を、現在の値に引き直して計算する必要があります。

中間利息控除の規律について改正民法417条の2において明文化され、中間利息控除の割合は、法定利率(年3%)を基準とすることが明確にされました。

ご相談のケースについて

  1. 改正後の民法は、原則として2020年4月1日から施行されます。
  2. 労務管理の分野では、民法改正の影響は、①消滅時効の期間、②身元保証、③法定利率・中間利息控除、の3つにあります。

民法改正の影響は多岐にわたりますが、労務管理を検討する上では、①消滅時効の期間、②身元保証、③法定利率・中間利息控除、の3つから押さえるようにしましょう。

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