はじめに

不動産を含む遺産の分割は、相続人それぞれの利害が複雑に絡み合い、残念ながら協議がまとまらないケースが少なくありません。話し合いが進まず、解決の糸口が見えないとき、法律の専門家である弁護士に依頼することは、有効な選択肢の一つです。

しかし、弁護士への依頼を具体的に検討し始めると、「この弁護士費用は、一体誰が負担するのだろうか?」「相続財産の中から支払うことはできないのか?」といった、費用負担に関する切実な疑問が生じます。他の相続人と対立している状況であれば、なおさらこの問題は、遺産分割そのものの行方を左右する最初のハードルとも言えるでしょう。

そこでこの記事では、不動産を含む遺産分割で弁護士に依頼した場合の費用負担の原則と例外、そして気になる費用の相場について解説します。

Q&A

Q1. 兄弟間の遺産分割で、私だけが弁護士に依頼しました。この費用は、他の兄弟にも請求できますか?

いいえ、原則として請求できません。弁護士費用は、弁護士と委任契約を結んだご本人様が支払うことが原則です。たとえ遺産分割という共通の問題であっても、ご自身の代理人として依頼した弁護士の費用を、当然に他の相続人に負担させることはできません。

Q2. 遺産分割を弁護士に依頼した場合、費用はだいたいいくらかかりますか?

弁護士費用は、対象となる遺産の総額や、ご自身の取得分(これを「経済的利益」といいます)によって決まるのが一般的です。ただし、これは事案の難易度や、協議で解決するか、調停・審判に進むかによっても変動します。

1.「依頼者負担の原則」

遺産分割における弁護士費用の負担を理解する上で、まず押さえておくべき原則は「依頼者負担の原則」です。

弁護士との契約関係の本質

あなたが弁護士に遺産分割協議の代理人を依頼する場合、あなたと弁護士との間で「委任契約」を締結します。これは民法第643条に定められた契約形態で、あくまで「あなた個人」と「弁護士」との間の契約です。この契約の当事者はあなたと弁護士だけであり、他の相続人は契約関係にない第三者です。

支払い義務は依頼者本人に

契約に基づき、弁護士費用の支払い義務を負うのは、依頼者であるあなた自身です。他の相続人はこの契約の当事者ではないため、法律上、あなたの弁護士費用を支払う義務はありません。これは、相手方の相続人が弁護士を立てた場合も同様で、その費用は相手方が負担します。

したがって、「自分の正当な権利を守るために弁護士を依頼したのだから、その費用は相続人全員で負担すべきだ」という主張は、心情的には理解できても、法的には認められないのです。

2.相続財産から弁護士費用を支出できるケース

原則は依頼者負担ですが、例外的に相続財産(被相続人の遺産)から弁護士費用を支払うことが認められる場合があります。

相続財産管理人

相続人が誰もいない場合や、相続人全員が相続放棄をした後などに、家庭裁判所によって選任されます。この相続財産管理人が、財産の管理・清算のために弁護士に依頼した場合の費用は、管理に必要な経費として相続財産から支払われます。

遺言執行者

遺言によって指定された、または家庭裁判所によって選任された遺言執行者が、遺言の内容を実現するために弁護士に依頼した場合の費用も、同様に相続財産から支出されます。これは民法第1021条で、遺言の執行に関する費用は相続財産の負担とすると定められているためです。

これらのケースでは、依頼者が個人ではなく、相続財産を管理する公的な立場にある者であるため、費用も財産から支出されるのです。

3.費用の内訳を解明する:料金体系と相場の詳細

実際に弁護士に依頼した場合、費用はどのくらいかかるのでしょうか。多くの法律事務所では、旧日本弁護士連合会報酬等基準を参考に、以下の体系で費用を定めています。

  • 相談料:正式な依頼の前に法律相談をする際の費用。
  • 着手金:依頼時に支払う費用。結果にかかわらず原則として返還されません。
  • 報酬金:事件解決後、得られた経済的利益に応じて支払う費用。
  • 実費:印紙代、郵便切手代、交通費など、手続きに実際にかかった費用。

これらの金額は、「経済的利益」の額、すなわち「弁護士の活動によって確保した遺産の価額」を基準に計算されます。不動産の場合、確保した持分の固定資産税評価額や時価などが基準となります。

4.費用をかけても依頼する価値はあるか

費用は自己負担が原則であるにもかかわらず、多くの方が遺産分割を弁護士に依頼するのは、それを上回るメリットがあるからです。

  • 正当な権利の実現による経済的利益の確保:感情的な対立や法律知識の不足から、本来得られるはずの遺産よりも少ない額で合意してしまうリスクを防ぎます。弁護士費用を支払ってでも、専門家が介入した方が、結果的に手元に残る財産が多くなるケースは少なくありません。
  • 交渉代理による精神的負担の軽減:親族間の争いは、精神的に大きな負担を伴います。弁護士が代理人として窓口になることで、相手方と直接顔を合わせることなく、冷静かつ法的な議論に集中できます。
  • 費用負担に関する戦略的交渉:相続財産からの費用支出には全員の合意が必要ですが、弁護士が法的・客観的な視点から「弁護士の介入がなければ、これほど円滑な解決は不可能だった」と他の相続人を説得し、合意形成をサポートできる場合があります。

まとめ

遺産分割に関する弁護士費用は、「依頼した本人が負担する」ことが原則であり、そのハードルは低くありません。

しかし、これは弁護士費用を「コスト」としてのみ捉えた場合の話です。不動産などの高額な財産が絡む遺産分割では、弁護士のサポートは、ご自身の正当な権利を確保するための「投資」と考えることができます。その投資対効果を見極めることが重要です。

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、遺産分割に関する初回のご相談は無料で承っております。ご依頼いただいた場合の費用についても、事前に詳細な見積もりを提示し、ご納得いただけるまで丁寧にご説明いたします。費用のことでお悩みの方も、どうぞ安心してご相談ください。


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