はじめに

運送事業の安全確保と法令遵守の根幹をなす、極めて重要な役割を担う2つのポジション。それが、「運行管理者」と「整備管理者」です。これらの管理者の選任は、貨物自動車運送事業法および道路運送車両法で定められた、運送事業者の絶対的な義務であり、その職務が適切に遂行されているかは、運輸局の監査における最重要チェック項目の一つです。

管理者の選任を怠ったり、名義を借りているだけで実際には職務を行わせていなかったりした場合、会社は厳しい行政処分の対象となります。車両の使用停止や営業停止といった処分は、事業の継続に致命的な影響を及ぼしかねません。本稿では、運送事業者が必ず知っておかなければならない、運行管理者・整備管理者の選任・変更に関する法的義務、資格要件、そして行政処分を避けるための注意点について解説します。

Q&A:法定管理者に関するよくある質問

Q1. 運行管理者と整備管理者は、同じ人が兼任することはできますか?

はい、可能です。法律上、運行管理者と整備管理者を同一人物が兼任することを禁止する規定はありません。ただし、そのためには、その人が両方の資格要件を満たしている必要があります。また、兼任する本人が、それぞれの職務を適切に遂行できるだけの能力と時間的余裕があることが前提です。特に事業規模が大きくなると、一人で両方の責任を果たすのは現実的に困難になるため、監査等で実態を厳しく問われる可能性があります。

Q2. 長年勤めてくれた運行管理者が突然退職することになりました。すぐに後任が見つからない場合、どうすればよいですか?

これは非常に危険な状態です。運行管理者が一人もいない「不在」の状態は、法令違反となり、行政処分の対象となります。後任者がすぐに見つからない場合は、可及的速やかに資格を持つ後任者を選任しなければなりません。日頃から複数の資格保有者を育成しておくなど、不測の事態に備えたリスク管理が重要です。

Q3. 運行管理者が名義貸しだけで、実際には全く出社していません。どのようなリスクがありますか?

これは、運送事業の許可取消事由にもなりうる、悪質な法令違反です。運行管理者は、その営業所に常勤し、実質的に運行管理業務全般を統括しなければなりません。名義貸しが発覚した場合、長期の事業停止や車両停止、最悪の場合は運送事業許可の取消しという、最も重い行政処分が科される可能性があります。

解説

運送事業の“安全の要” – 運行管理者

運行管理者は、事業用自動車の安全運行を確保するため、点呼の実施、乗務割の作成、ドライバーへの指導監督など、輸送の安全に関する業務全般を統括する責任者です。

  • 根拠法
    貨物自動車運送事業法
  • 選任義務
    営業所ごとに、管理する事業用自動車の数に応じて、定められた員数以上の運行管理者を選任しなければなりません。

    • 29両まで:1人以上
    • 30両~59両まで:2人以上
    • 以降、30両増すごとに1人を加算
  • 資格要件
    運行管理者試験に合格した者など、法定の要件を満たす必要があります。
  • 職務と権限
    事業者は運行管理者に対し、職務遂行に必要な権限を与え、その助言を尊重する義務を負います。

車両の“安全の砦” – 整備管理者

整備管理者は、事業用自動車の点検・整備および車庫の管理を通じて、車両の安全性を確保する責任者です。

  • 根拠法
    道路運送車両法
  • 選任義務
    自動車の使用の本拠(営業所)ごとに、以下の基準に応じて整備管理者を選任する必要があります。

    • 一般貨物自動車運送事業用自動車(トラック等):5両以上
    • 貨物軽自動車運送事業用自動車:10両以上
  • 資格要件
    自動車整備士技能検定に合格しているか、2年以上の実務経験を有し、地方運輸局長が行う「整備管理者選任前研修」を修了している必要があります。

選任・変更・解任の手続きと注意点

運行管理者・整備管理者の選任や変更があった場合、会社は速やかに所定の手続きを行わなければなりません。

  • 届出義務
    選任または変更した場合、その日から遅滞なく(一般的に15日以内)、管轄の運輸支局へ所定の届出を行う必要があります。
  • 管理者不在(欠員)のリスク
    管理者が退職する等により、法定の員数を満たさない「欠員」状態が発生することは、それ自体が法令違反であり、絶対に避けなければなりません。
  • 名義貸しの厳禁
    「名義を借りているだけ」で本人が不在、または業務に全く関与していない状態は、最も悪質な違反行為と見なされます。

法令違反がもたらす深刻な行政処分

管理者に関する法令違反は、厳しい行政処分の対象となります。処分の重さは、「処分日車数」(処分日数 × 違反営業所の車両数)という単位で定められています。例えば、車両10台の営業所が「30日車」の処分を受けると、「3日間の事業停止」などが科されます。

違反区分 具体的な違反行為 初違反時の処分日車数 再違反時の処分日車数
運行管理者 未選任 30日車 60日車
名義貸し 80日車 160日車
必要員数不足 20日車 40日車
整備管理者 未選任 20日車 40日車
名義貸し 40日車 80日車

まとめ

運行管理者と整備管理者は、運送事業の“両輪”である「運行の安全」と「車両の安全」を司る、代替不可能なキーパーソンです。その選任・運用に関する法令遵守は、事業を継続するための最低条件であり、一切の妥協は許されません。「人数さえ揃えて届け出ておけばよい」といった安易な考えは、会社の存続を脅かす重大なリスクを招きます。管理者がその職務を実質的に、かつ十分に果たせる体制を構築することが必要です。


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