はじめに
運送業においては、長時間労働や休日出勤が常態化しやすい一方、働き方改革関連法の施行に伴い、残業時間の上限規制や年次有給休暇の確実な取得などが厳しく求められるようになりました。とりわけ、36協定(サブロク協定)に基づいて労働時間を管理する仕組みは、運送事業者としては必須の対応です。しかし、運送業には特例措置も存在し、一般業種と完全に同じルールではありません。
本記事では、働き方改革関連法が運送業に与える影響と、労使協定(36協定など)の正しい結び方・運用方法を解説します。行政監督や罰則リスクを回避しながら、ドライバーの健康と安全を守るためのポイントを整理しますので、ぜひご参考にしてください。
Q&A
Q1.働き方改革関連法が運送業に及ぼす影響は?
働き方改革関連法の主なポイントとして、残業時間の上限規制、年次有給休暇の年5日取得義務、高度プロフェッショナル制度などが挙げられます。運送業では、時間外労働の上限規制について一部適用猶予がありましたが、今後は段階的に撤廃されていく方向です。また、36協定を締結していない状態での残業や休日労働は、違法状態となります。
Q2.36協定とは何ですか?
労使協定の一種で、労働基準法第36条に基づき、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える残業や休日労働を行う際に、労働者代表と使用者が締結する協定です。
- 協定には、残業や休日労働をさせることができる範囲や時間の上限などを具体的に明記。
- 締結したら所轄の労働基準監督署長に届け出る必要がある。
- 正しく締結・届出されていない場合、残業や休日労働自体が違法となり、罰則の対象となる可能性が高い。
Q3.運送業では36協定にどんな特例がありますか?
運送業のドライバーに対しては、一般的な上限規制と異なる特別条項が認められる場合がありますが、あくまで一時的な措置であり、無制限に残業が許されるわけではありません。たとえば、過度な長時間労働が常態化すると安全配慮義務違反が問われるおそれがあり、遅かれ早かれ規制強化が進むと予測されます。常に最新の行政通達やガイドラインを確認することが大切です。
Q4.労使協定を結ばずに運行させるとどうなるのでしょうか?
労使協定(36協定)を結ばずに従業員を残業や休日労働させると、労働基準法違反となります。行政から是正勧告や罰金などのペナルティが科されるだけでなく、重大な事故が発生した場合、企業の社会的信用が失墜するリスクもあります。万一、ドライバーが過労死や重大事故を起こすと、会社の経営を揺るがす事態に発展しかねません。
解説
働き方改革関連法の主要ポイント
残業時間の上限規制
- 一般業種の場合、月45時間・年360時間が原則(特別条項付きでも年720時間までなど)
- 運送業には段階的に特例猶予が設けられているが、将来的には同等の規制が適用される見込み
年次有給休暇の年5日取得義務
- 年10日以上の有給休暇を付与されているドライバーには、年間5日を確実に取得させなければならない
- 会社には取得状況を管理・報告する責任がある
同一労働同一賃金(パートタイム・有期雇用労働法)
- 正社員と非正規社員の間で、著しく不合理な待遇差を設けることを禁止
- 運送業でも、契約社員・パート・派遣社員など多様な雇用形態が混在している場合、適切な賃金・手当設定が求められる
36協定の締結・届出方法
労働者代表の選出
- 従業員全体の中から、公正な方法で労働者代表を選ぶ
- 管理職や会社の意向を代弁する者ではなく、従業員の意見を反映できる人物が望ましい
協定書の作成
- 協定書には、残業可能な業務内容や時間外労働の上限、休日労働の日数などを具体的に記載
- 特別条項を設ける場合、その適用条件や限度時間も明記
所轄労働基準監督署への届け出
- 作成した協定書を労働者代表と使用者が署名または記名押印し、労働基準監督署に提出
- 提出の期限は特に定められていないが、残業や休日労働を行う前に提出しなければならない
協定の周知
- 労働者全員が内容を確認できるよう、社内掲示やイントラネットなどで公開
- ドライバーが出先でも確認しやすいよう、電子データでの配信も検討する
運送業での実務上の注意点
長時間労働・過労運転防止
- 36協定で定めた時間を守るだけでなく、過度な残業が続いていないか定期的にチェック
- デジタコやテレマティクスを活用し、ドライバーの実働時間をリアルタイムで把握
インターバル制度の活用
- 終業から次の始業までに一定時間の休息を設けるインターバル制度は、ドライバーの疲労回復に有効
- 法的義務ではないが、安全配慮義務の観点からも導入を検討する会社が増えている
運送約款・荷主との契約内容
- 荷主側からの無理なスケジュールや荷待ち時間が原因で、長時間労働になるケースが多い
- 必要に応じて運送約款や契約書を見直し、待機時間の取り扱いや責任範囲を明確化
違反事例とトラブルリスク
- 協定未締結なのに残業させていた
労働基準監督署から是正勧告を受け、過去に遡って未払い残業代を支払うことに - 36協定の上限を超える残業が常態化
安全配慮義務違反や過労事故が発生し、会社に損害賠償責任が発生 - ドライバーが過労死
遺族から会社が提訴され、高額な賠償金や社会的信用の失墜につながる
弁護士に相談するメリット
協定書や就業規則のリーガルチェック
- 労使協定や就業規則の内容が労働基準法や関連法令に違反していないかを専門家が確認
- 運送業特有の実務や特例措置にも精通した弁護士がアドバイスすることで、行政対応リスクを軽減
行政監督・調査の対応
- 労働基準監督署が調査に入った際、弁護士のサポートを受ければ書類整理やヒアリング対応を円滑に進められる
- 違反が指摘された場合の是正報告書作成や、追加の協定締結なども弁護士が支援
労務トラブルの早期解決
ドライバーからの未払い残業代請求や、過労事故をめぐる紛争などが起きた場合、早期段階で弁護士が介入すれば和解交渉や訴訟対応をスムーズに行える
最新法改正情報の提供
- 働き方改革関連法をはじめ、労働法規は頻繁に改正される
- 専門家から最新のガイドラインや行政通達の情報を得ることで、遅滞なく対応策を取れる
まとめ
働き方改革関連法に対応し、36協定(労使協定)を適正に締結・運用することは、運送業の事業者にとって避けて通れない課題です。長時間労働や過労運転のリスクを放置すれば、重大事故・労災・訴訟につながり、経営基盤を揺るがしかねません。一方で、適切な労働時間管理を行うことで、ドライバーの安全と健康を守り、企業の社会的信用を高めることができます。
- 働き方改革関連法のポイント
- 残業時間の上限規制
- 有給休暇の年5日取得義務
- 運送業の特例猶予への今後の対応
- 36協定の締結・届け出
- 労働者代表の公正な選出
- 残業上限・休日労働の具体的範囲を明記
- 労働基準監督署への届出と社内周知
- 実務上の取り組み
- デジタコやテレマティクスで労働時間を可視化
- インターバル制度の導入や荷主との取引条件改善
- 弁護士への相談
- 労務リスクを最小限に抑える協定・規定の作成
- 未払い残業代や過労事故などのトラブル対応
運送業ならではの長時間労働や不規則な勤務形態は大きな課題ですが、これを機に労働環境を改善することで、ドライバーのモチベーション向上や人材定着にもつながります。法令遵守のための具体的なアクションや、最新の法改正動向を知りたい場合は、ぜひ弁護士法人長瀬総合法律事務所へご相談ください。
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2024年4月1日からの働き方改革関連法施行により、物流業界での働き方が今までと大きく異なっていきます。
違反してしまうと刑事罰の対象になってしまうので、運送・物流業を営む方の対策は必須です。
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