はじめに

企業間取引において、売掛金が未回収となるリスクを最小限に抑えることは、ビジネスを継続するうえで極めて重要です。取引先が代金を支払えない、あるいは倒産してしまうと、企業のキャッシュフローに大きな打撃を与えかねません。そこで必要となるのが、与信管理信用調査です。取引先の財務状況や信用力を事前に把握し、どの程度の取引条件(限度額・支払条件など)を設定するかを決めることで、貸倒損失や連鎖倒産を防止する手段となります。

しかし、与信管理には手間とコストがかかり、また取引先との信頼関係をどう築くかという課題もあります。本記事では、与信管理・信用調査の基本的な仕組みや導入のメリット、効果的な手法を解説します。信用リスクを正しく把握し、企業が持続的に成長できるビジネス環境を整えるために必要な視点を学んでいきましょう。

Q&A

Q1:与信管理とは具体的に何をすることを指すのですか?

与信管理とは、取引先(債務者)の支払い能力信用力を調査・評価し、取引限度額や支払い条件、担保設定などを決定して貸倒リスクを抑える総合的なマネジメント手法をいいます。新規取引開始前の審査(与信調査)だけでなく、取引が継続する中でのモニタリングや、支払遅延・倒産リスクの早期発見・対策も含まれます。

Q2:どんな方法で信用調査を行うのですか?

代表的な方法として、

  • 帝国データバンク東京商工リサーチなど専門機関による企業信用調査報告書
  • 商業登記簿決算公告の確認
  • 取引先へのヒアリング取引実績、業界内の評判
  • 財務諸表(貸借対照表・損益計算書)の分析、キャッシュフローの検討
    などが挙げられます。状況によっては現地訪問や担当者へのインタビューを行い、経営実態を把握することも大切です。
Q3:与信管理を導入するメリットは?コストもかかりませんか?

確かに与信管理には調査費や人件費など一定のコストが伴います。しかし、未回収リスク倒産リスクを防いで多額の貸倒損失を回避できる効果は、長期的に見れば非常に大きいといえます。また、与信管理をしっかり行う企業は外部からの信用も高まり、資金調達取引拡大にもプラスに働きます。コストとリスク回避効果を比較したうえで、適切なレベルの与信管理を行うことが重要です。

Q4:取引先が倒産しそうな兆候はどうやって見極めればいいのでしょうか?

分かりやすい兆候として、支払い遅延が頻発する、分割払いの要請が増える、担当者が急に交代する、電話が繋がらなくなるなどが挙げられます。財務分析上は仕入先への支払いサイトが極端に伸びる、売上減少や赤字決算手形の不渡りなどが警戒サインです。こうした情報を日常的にキャッチできるようモニタリング体制を整え、リスクが高まったら取引条件を見直すことが一般的です。

解説

与信管理の基本プロセス

  1. 事前審査(新規取引)
    • 新しく取引を開始する企業について、信用調査報告書(帝国データバンク等)や登記簿決算書を入手し、財務内容や返済能力を確認。
    • 自社規定のスコアリングを行い、リスクに応じて取引限度額支払いサイトを設定。必要なら前払い保証金を要求する。
  2. 継続的モニタリング(取引中)
    • 定期的に決算情報新聞報道業界動向をチェックし、取引先の経営状況に変化がないか把握。
    • 支払いが遅れだしたり、担当者が不誠実な対応をするなどの兆候があれば、迅速にリスク評価を再度行い、取引条件を見直す(与信限度額引き下げ等)。
  3. フォローアップとトラブル対応
    • 期日を過ぎても支払いがない場合、督促を行い、相手の状況をヒアリング。悪化が顕著なら追加担保支払計画書(分割払い合意)を取り付ける。
    • 改善が期待できなければ、法的措置(内容証明、支払督促、訴訟、保全・強制執行)を視野に入れる。

信用調査でチェックすべきポイント

  1. 財務指標
    • 流動比率・自己資本比率・売上高や利益の推移などを見て、資金繰り倒産リスクを評価。赤字や債務超過が続く場合は危険度が高い。
    • ソフトウェア企業やベンチャーの場合、キャッシュフローを重視し、単年度赤字があっても資金調達状況から見て問題ないケースもあるので総合的に判断する。
  2. 商業登記簿・官報情報
    • 法人代表者や本店所在地、資本金などを確認し、登記上の実態と取引先の申告内容に相違がないかをチェック。
    • 官報や地方紙をウォッチして、破産手続きの開始公告などが出ていないか随時モニタリングする。
  3. 業界動向・評判
    • 同業他社や取引先の評判、ネット上の口コミ、業界誌記事などから、経営者の信頼性ビジネスモデルの安定性を推測。
    • 短期的に急成長している企業の場合、財務内容が追い付いていなかったり、粉飾の疑いがあるケースもあるため慎重に見極める。
  4. 資金繰りの状況
    • 取引先が手形ジャンプを繰り返したり、支払いサイトを無理に延ばそうとしている場合は資金繰りが逼迫しているサイン。
    • 取引先の仕入先や金融機関からの融資状況など、可能な範囲で調査するとリスクが見えてくる。

与信管理システム・契約書によるリスク軽減

  1. 契約書整備
    • 支払い期限遅延損害金所有権留保(製品の所有権は代金完済まで売主にある)、保証金などを定めておけば、未回収リスクを低減できる。
    • 商流が複雑な場合、個別ごとの注文書・請書をしっかり交わし、量や価格を明示。
  2. 保証や担保の設定
    • 取引先の信用度が低いと判断したときは、代表者個人保証連帯保証人不動産担保などを求める。
    • ただし、近年は個人保証の負担が大きいため、民法改正で様々な規定が導入され、保証契約時の書面交付義務などが強化されているため要注意。
  3. 分割納品・分割請求
    • 大型案件や長期プロジェクトでは段階的納品・段階的請求の仕組みを設けるとリスク分散が可能。
    • もし途中でトラブルがあっても、既に分割分を回収していれば一部貸倒で済む。
  4. ファクタリングや売掛債権担保
    • 売掛債権をファクタリング会社に売却し、早期に資金化する方法。多少の手数料がかかるが、相手先の倒産リスクから回収を守れる。
    • 銀行のABL(動産・売掛債権担保融資)を利用し、売掛金を担保に融資を受けるなども一種のリスクヘッジとなる。

よくあるトラブル事例

  1. 長期未払の放置で時効が完成
    • 取引先が代金を支払わず、企業側も催促をせず数年放置。気づいたときには消滅時効が成立しており、回収不可に。
    • 対策:定期的に請求書や内容証明郵便を送付し、債務承認を得ることで時効中断を図る。社内で一定期間以上の未回収案件をモニタリングする仕組みが重要。
  2. 取引先が倒産し大きな貸倒損失
    • 大口の売掛先が突如倒産し、数千万円の売掛金が回収不能。与信調査や担保設定をしていなかったため、配当がほぼ得られず損失が直撃。
    • 対策:大口取引では事前の信用調査や必要に応じた担保取得を検討。倒産リスク分散のために取引先を複数化する戦略も考慮。
  3. 契約書不備で支払い条件があやふや
    • 口頭発注が常態化し、支払い条件や納品内容が明確でない。取引先が支払いを拒否しても証拠が不十分で裁判でも勝てず。
    • 対策:注文書や契約書に金額・納品期日・支払期日を明確化し、デジタルで保管。メール等のやり取りも証拠として保存。

弁護士に相談するメリット

弁護士法人長瀬総合法律事務所は、与信管理・信用調査の強化や債権回収に関して以下のサポートを行っています。

  1. 契約書・注文書の見直し
    • 取引の実態やリスク評価に基づき、所有権留保支払い期日遅延損害金担保などを盛り込んだ契約書の作成・レビューを実施。
    • 口頭ベースが多い企業には発注書・請書のフォーマット化を提案し、社内フローを構築。
  2. 与信管理体制構築
    • 企業の取引先数や業種、リスク許容度に合わせた与信管理マニュアルを整備し、社員向けの研修を行う。
    • 必要に応じて信用調査会社との連携方法や、海外取引先のリスク評価手順を助言。
  3. 未回収債権の回収代理
    • 支払い遅延が生じた際に、内容証明や交渉での督促を行い、短期解決を図る。
    • 交渉が決裂したら支払督促訴訟で回収を試み、差押え可能な財産を調査し、強制執行までサポート。
  4. 倒産手続き対応
    • 取引先の倒産により配当を受ける場合、破産管財人との対応を行い、債権届出配当交渉をサポート。
    • 取引先の経営が危うい場合には早期退却担保取得など危機管理策をアドバイスし、連鎖倒産を防止する。

まとめ

  • 与信管理信用調査を行わずに大口の取引を進めると、取引先の資金繰り悪化や倒産による未回収リスクが大きくなり、企業経営に深刻な影響を及ぼす。
  • 取引開始前に信用調査報告書登記簿財務諸表を確認し、リスクに応じて契約書の支払い条件担保を設定するのがセオリー。
  • 長期継続取引中も定期的にモニタリングし、支払い遅延が増えたら迅速に対策を講じる。
  • 弁護士と連携すれば、契約書の整備から未回収時の督促・法的手続きまで専門的にサポートを受けられ、債権管理を徹底して企業のキャッシュフローを安定させられる。

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