はじめに
ビジネスで秘密情報を共有する際には、NDA(秘密保持契約)を締結することが一般化しています。製品の開発情報や顧客リスト、ノウハウなど、企業の競争力を支える情報が漏洩すれば大きな損害につながり、取引先との信頼関係も崩壊しかねません。そのため、NDAを結ぶ際には契約範囲や例外規定、違反時の責任を明確に定めておくことが重要です。
しかし、NDAが形骸化し、「単に書面にサインして終わり」という認識では、実際の情報管理や違反発生時の対応をフォローできないリスクがあります。本記事では、NDAの基本構造と、契約締結時に注意すべきポイントを解説します。万全のNDAで、企業の大切な情報を守りましょう。
Q&A
Q1:NDAではどんな情報が「秘密情報」として扱われるのですか?
NDAの定義条項で、技術情報(特許出願前の技術、設計書、ソースコード等)や営業情報(顧客名簿、価格表、販売戦略、経営データ等)、その他覚書の対象となる機密情報を包括的に示します。一般に「公知情報」や「既に受領者が保有している情報」は除外されるのが通常です。また、書面表示のみならず、口頭や視覚で得た情報も秘密対象に含めるかどうか明確にすると混乱を防げます。
Q2:NDA締結後、どれくらいの期間秘密保持義務が続くのでしょうか?
NDAごとに秘密保持義務期間を設定するのが一般的です。契約書には「本契約の有効期間中および終了後○年間」など具体的な年数を定めることが多いです。また、期限なし(無期限)としている例もありますが、あまりに長いと受領者の負担が大きいので、交渉で落としどころを探る場合もあります。技術情報などの競争力を左右する情報なら、長めの期間が望ましいです。
Q3:秘密保持義務に例外を設定する理由は何ですか?
NDAで秘密情報の定義を広く設定しても、全ての情報を完全に守秘するのは現実的でない場合があり、例外規定を設けておくと紛争を防げます。例えば、「公知となった情報」「相手方から既に知得していた情報」「裁判所や行政の要請で開示が必須な場合」は秘密保持義務が及ばない、とする条項を設けることで、受領者が不可避な開示を責任追及される事態を回避できます。
Q4:NDAを結んでいても情報漏洩が起きた場合、どんな対応が可能ですか?
契約違反となり、差止請求や損害賠償請求が可能です。NDAには違反時の賠償額の算定方法や違約金を設定することも多く、実際に情報漏洩が起きた際には契約書を根拠に法的手段を講じることができます。ただし、逸失利益などの立証が困難な場合もあるため、違約金条項で一定額を定めておく方法が有効です。また、予防としてはセキュリティ管理やアクセス制限を合わせて実施するのが重要です。
解説
NDAの基本構造
- 目的条項
「本契約は、甲および乙が相互に開示する情報のうち、秘密情報を保護するためのルールを定めることを目的とする」というように、本契約の趣旨を簡潔に述べます。 - 定義
- 「秘密情報」として保護される情報の範囲、定義を明確化する。書面のみか、口頭や電子データの情報も含むか。
- 「公知情報」「自社が既に保有していた情報」「第三者から合法的に取得した情報」などを秘密情報から除外する旨を記載。
- 秘密保持義務
受領者が秘密情報を第三者に開示または漏洩しないことを義務付ける。自社の従業員や関連会社、外部専門家(弁護士、会計士など)に開示する必要がある場合は、受領者が責任をもって同等の秘密保持義務を課す旨を定める。 - 使用目的限定
- 秘密情報を契約上の目的(製品開発検討、事業提携検討など)のためにのみ利用する旨を規定。
- 目的外利用や二次利用を禁止する条項を設けることで、勝手に新たなサービス開発などに転用されるリスクを回避。
- 例外規定
前述の通り、公知情報や法令・裁判所命令による開示の必要がある場合などを秘密保持義務の例外とし、その際の手続き(相手方への事前通知など)を定める。 - 権利帰属
情報の著作権や知的財産権はどちらに帰属するか、または閲覧や検討のために提供された情報の権利は移転しない旨を記載して、誤解を避ける。 - 契約期間・存続期間
NDA自体の有効期間を1年などと設定し、その後も秘密保持義務が○年間存続する形が一般的。無期限とする場合もあるが、相手方との交渉事項となる。 - 違反時の措置(差止・損害賠償など)
- 漏洩が起きた場合に速やかに情報の回収や差止を請求できることを規定。加えて、損害が発生した場合の損害賠償や違約金の有無を明確に。
- 実際の賠償額立証が困難なケースでは違約金条項が有力な抑止力となる。
- 契約終了後の取り扱い
NDAが終了した時点で受領者が資料を返却・廃棄する義務を定める。電子データの消去やバックアップの取り扱いも問題となるため、具体的に手順を明示すると安全。 - 準拠法・裁判管轄
国内取引なら日本法を準拠法とし、東京地裁など専属的合意管轄を設定。国際取引の場合は仲裁条項を加える選択肢もあり。
NDA締結時のポイント
- 情報開示範囲の明確化
あまり広範に「両社の一切の情報」とすると運用が大変になる。具体的なプロジェクトや分野に限定し、「本プロジェクトに関連する技術情報」「顧客情報」など特定領域に絞ると管理しやすい。 - 相互型か一方型か
NDAが相互機密保持(両社が情報交換する)なのか、片方のみが情報開示するのかで契約条文の構成が変わる。相互の場合はそれぞれの情報を同等に保護する条項を設け、片方のみの場合は受領者がメインで秘密保持義務を負う。 - 運用ルールの策定
NDAを結ぶだけでなく、実際に秘密情報を受領・管理・返却する社内フローを整備。担当者レベルで安易にファイル共有やメール送付をしないよう教育し、アクセス制限やログ管理を行う。 - 期間設定と更新
NDAを無期限で設定しても、相手方が嫌がる場合がある。事業提携が終了後○年までと決めるなどの折衷案も多い。プロジェクトごとに段階的に更新するかどうかも検討する。
NDA違反の紛争事例
- 競合他社への情報持ち出し
- 退職した従業員が、在職中に取得した設計図や顧客データを競合へ渡した。NDAで定めていたが企業が管理を徹底しておらず、漏洩が起きて大きな損失を受ける。
- 対策:従業員契約でも秘密保持義務を強化し、物理的・技術的セキュリティを充実させる。外部にも同様に適用。
- ベンダーに提供した技術仕様が転用
- ソフトウェア開発ベンダーが開発中のコードやノウハウを、別のプロジェクトで無断利用。NDA上違反だが契約でペナルティが明記されていなかったため、損害賠償が低額にとどまる。
- 対策:契約書に転用禁止や違約金などを明確に記載し、被害時には差止請求を行う流れを記載。
- 秘密情報の定義が曖昧で、開示先が法的に問題なしと主張
- NDAに「秘密情報」の定義が広範に書かれておらず、先方が「これは公知情報だ」として第三者に開示しても違反を認めない。
- 対策:契約の目的や具体的な資料名を列挙し、公知/非公知を明確に分ける。口頭で開示した場合は後日書面化する運用を徹底。
弁護士に相談するメリット
弁護士法人長瀬総合法律事務所は、秘密保持契約(NDA)に関して以下のサポートを提供しています。
- NDA雛形の作成・レビュー
- 企業の業務内容や取引形態に合わせてオリジナル雛形を設計し、相手方から提示されたNDA草案を法的観点でレビューし、リスクや修正案を提示。
- 分野特有の留意事項(IT、製造業、医薬品開発など)を考慮した条文を提案し、コンプライアンスを徹底。
- 機密情報管理体制のアドバイス
- NDAを結んでも実務で保護が甘い場合が多い。弁護士視点で情報管理規程やアクセス権限の見直し、従業員の教育など包括的な施策を提案し、漏洩リスクを低減。
- ベンダーや協力会社と結ぶ覚書、従業員向けの誓約書などもまとめて整備するワンストップサービスを提供。
- 違反発生時の調査・対応
- 情報漏洩が疑われる際、どのように事実調査し、証拠を確保し、差止や損害賠償を請求するかを具体的に指導。
- 必要なら弁護士が代理人として内容証明や訴訟手続きを行い、早期解決と企業の被害軽減を図る。
- 競合・技術転用トラブルの対策
- 競合他社への技術流用やノウハウ持ち出しのリスクを想定し、NDA条文の強化(転用禁止、違反時の高額違約金設定など)を提案。
- 既存のライセンス契約や共同研究契約との整合をチェックし、知的財産権の保護を万全にする。
まとめ
- NDA(秘密保持契約)は、企業が重要情報を外部と共有する際の基本かつ強力な防御策であり、その契約条項を綿密に設計しないと、情報漏洩や紛争が起きた際に十分な法的保護を受けられない。
- 契約書では「秘密情報の定義」「使用目的」「例外規定」「契約期間・存続期間」「違反時の措置」などが肝であり、双方のバランスを取りながら企業の利益を守る内容に仕上げる必要がある。
- NDAを交わすだけでなく、実務における社内情報管理やアクセス制限、従業員教育も徹底し、漏洩のリスクを最小限に抑えることが大切。
- 弁護士に相談すれば、NDAの作成・レビューや、実際に違反が起きた場合の対応まで専門的なサポートを受けられ、企業の機密保護体制を強化できる。
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