はじめに

ビジネスにおいて契約書は、取引の内容や権利義務関係を明確にし、トラブルを未然に防ぐ重要な書類です。しかし、「テンプレートを使っているだけ」「相手方に提示された契約書をそのまま署名してしまう」といった対応では、企業の利益法的リスクを十分にカバーできないケースも少なくありません。

本記事では、契約書の基本構造と押さえるべき必須条項を解説します。契約書に盛り込むべき事項を理解し、不備を残さないよう設計することで、ビジネスの安全性と信頼性を確保し、後日の紛争リスクを軽減できるようにしましょう。

Q&A

Q1:契約書には最低限どんな条項が必要ですか?

一般に、当事者契約期間目的・契約内容対価・支払い条件解除・更新条項担保責任・保証条項紛争解決方法などが基本の必須条項とされます。契約の種類によっては、秘密保持競業避止著作権・知的財産の扱いなどが必須になる場合もあります。特に金銭の支払いに関する条件は曖昧にせず、数量・単価・支払い期日・支払い方法を明確に示すことが重要です。

Q2:口頭合意だけでも契約は有効と聞きますが、なぜ契約書が必要なのでしょうか?

民法上、口頭合意でも契約は成立し得ますが、後で「言った・言わない」の争いになったときに証拠がないため、紛争解決が困難になるリスクが非常に高いです。また、契約書で明文化することで、当事者の意思を具体化し、法的紛争が起きた場合に裁判所が事実を認定しやすくなります。契約書があることで企業間取引の信頼性も高まり、後日の調整コストを削減できます。

Q3:契約書を取り交わす際に印鑑は必要ですか?

2021年の印鑑原則廃止の流れや、電子契約の普及により、必ずしも「実印押印が法的に絶対必要」というわけではありません。ただし、商慣習上や相手方との合意によって押印を求められる場合や、電子署名で締結する場合もあります。法的には、署名(サイン)や電子署名でも契約書として有効ですが、どちらを採用するかは合意とコンプライアンス要件に従って選択します。

Q4:契約書を自社で作成するとき、どんな点に注意すべきですか?

テンプレートを使う場合でも、自社の取引内容に合致しているかをよく検証します。特に、支払い条件契約解除事由損害賠償責任などは契約ごとに変動が大きいので、一律テンプレだとズレが生じることがあります。また、反社会的勢力排除条項準拠法裁判管轄なども忘れがちなので、万全を期すには弁護士のレビューを受けるのが安心です。

解説

契約書の基本構造

  1. 表題・前文
    「○○契約書」とタイトルを付し、当事者や作成日、契約の背景(前文)などを簡潔に記載する。前文で「甲」「乙」など当事者名と法人代表者名を定義しておくと、本文で混乱を防止できる。
  2. 定義条項
    契約で用いる専門用語や略語を列挙し、その意味を明確にする。これにより、契約文面の解釈で意見が食い違うリスクを減らせる。
  3. 契約目的・業務範囲
    この契約が何を目的としているか、どのような業務やサービスを対象とするかを明記。曖昧なままだと後から「対象外だった」「それは含まれていない」と争いになりやすい。
  4. 対価・支払い条件
    代金や報酬額、支払い方法(銀行振込、手形など)、支払い期日、遅延損害金の扱いなどを定める。金額を総額算定方法で記載し、消費税の表示方法(内税・外税)も明示する。
  5. 履行期限・納期
    物品納入やサービス提供の納期、検収方法などを定める。遅延が発生した場合のペナルティや契約解除権限を明確化する。
  6. 契約期間・更新・解除
    契約の有効期間や更新方法(自動更新の有無)、中途解除する場合の手順や違約金などを定める。特に有期契約か無期契約かで対応が異なる。
  7. 違反時の措置・損害賠償
    当事者の一方が契約違反をした場合、他方当事者が解除できるか、損害賠償請求できるか、賠償の範囲や限度はどうするかなどを具体的に規定。
  8. 秘密保持条項
    取引で得た秘密情報の管理・利用制限を記載。情報保護のレベルを詳細に定義し、違反時の罰則や除外事項(既に公知の情報など)を明文化する。
  9. 不可抗力・免責条項
    天災や戦争、法改正など企業の責任を超えた事由で契約履行が困難となった場合の扱いを定める。どの程度を不可抗力と認めるか、その際の通知義務や協議方法を規程化する。
  10. 準拠法・裁判管轄
    契約の準拠法(日本法など)や、万一訴訟になった場合どこの裁判所が管轄とするかを明確にする。国際取引の場合は仲裁機関を指定することもある。
  11. 署名・押印(サイン)欄
    当事者が合意した証拠として、署名・押印、または電子署名などで締結する。複数部作成し、各当事者が保管する形が一般的。

契約書作成時の注意点

  1. 曖昧表現の排除
    • 「可能な限り努力する」といった努力義務表現は、後から解釈が難しくなるため、具体的な基準数値目標で定義した方が争いを回避しやすい。
    • 例えば、納期に関する表現でも「なるべく早く」ではなく「契約締結日から30日以内」など明確に定める。
  2. バックデートの危険性
    契約締結日を実際より前の日付にする(バックデート)と、税務上や法的に問題が発生するリスクがある。実際の合意成立時点を正しく記載し、後から遡って書類を作るのは避けるべき。
  3. 契約書同士の不整合
    • 同一取引について複数の契約書を交わす場合(基本契約と個別契約など)、条項間の優先順位を明示し、矛盾が生じないようにする。
    • 基本契約書には「個別契約と抵触する場合、個別契約が優先する」と定めるなど明確化が大切。
  4. 相手方の信用調査
    契約書をどれだけ完璧に作っても、相手が支払能力や誠実さを欠けば意味が薄い。大きな取引や長期契約の前には信用調査財務状況の確認を行うことが推奨される。

法的リスクと管理

  1. 契約違反時の損害賠償請求
    • 相手方が支払いを滞納したり、商品を納入しないなど契約違反があれば、損害賠償を検討するが、契約書に違反時の対応が明記されていないと立証が困難に。
    • 違反が重度の場合は契約解除を行えるよう、条文で解除事由を定義し、解除手続き(相手方への催告期間など)を明確にしておく。
  2. 下請法・独禁法など他法令との整合
    • 取引形態が下請取引に当たる場合、下請代金支払遅延等防止法(下請法)の規制を受けるため、支払い期日や買い叩き行為などに注意。
    • 独占禁止法上の優越的地位の濫用にならないかも検討が必要で、大手企業が中小企業と契約する際は注意が必要。
  3. 裁判管轄と準拠法
    • 国際取引では、どの国の法律を準拠法にするか、裁判所をどこにするかを明記しないと、紛争時に複雑な国際裁判が発生するリスクが大きい。
    • 国内取引でも、裁判地を相手方本店所在地にしていると企業にとって不利になる場合がある。自社に近い地裁を合意管轄とするのが一般的。
  4. 電子契約・電子署名の有効性
    • 最近は電子契約クラウド署名の利用が増えており、紙の押印契約から移行する企業も多い。ただし、法的に有効な電子署名か(電子署名法適合)を確認し、電子データの証拠保全をきちんと行うことが必要。
    • 取引先が外国法人の場合、電子署名を認めない習慣があるかもしれず、事前に協議が必要となるケースもある。

弁護士に相談するメリット

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、契約書の基本構造と必須条項に関して以下のようなサポートを提供しています。

  1. 契約書レビュー・作成支援
    • 企業が自作した契約書や取引先から提示された契約書を法的観点からレビューし、リスク条項や不備を指摘・修正案を提案。
    • 新規取引や特殊な分野(IT、ライセンス、国際取引など)に対応したオーダーメイドの契約書作成が可能。
  2. 顧問契約での総合支援
    • 契約締結に関する日常的な相談から紛争時の代理まで、顧問契約で継続サポートを提供し、企業のコンプライアンス向上に寄与。
    • 必要に応じて英語など多言語対応の契約書作成・レビューにも対応し、海外取引をスムーズに進められる。
  3. 紛争対応・労働審判・訴訟
    • 契約違反や損害賠償トラブルが発生した場合、企業側代理人として交渉・労働審判・訴訟などで主張立証を行い、最善の解決を目指す。
    • 早期に相談すれば紛争になる前段階で対策を打てるため、リスクマネジメントが効果的に機能。
  4. 法改正や国際規格対応のアドバイス
    • 絶えず更新される法令(民法改正、下請法、電子帳簿保存法など)や契約実務の最新情報を踏まえ、企業の契約書を定期的に見直し
    • サイバーセキュリティや個人情報保護を巡る新規規格・ガイドラインに合わせた条文修正にも対応。

まとめ

  • 契約書はビジネス取引の根幹を担う文書であり、基本構造必須条項(当事者、契約期間、目的・報酬、解除・損害賠償など)を正しく押さえ、リスクを最小化することが大切。
  • 口頭合意やテンプレートの使い回しは紛争リスクが高く、契約締結前に弁護士レビューを受けることで不備を補正し、企業の利益保全を図れる。
  • 近年は電子契約押印原則緩和が進むが、電子署名の有効性やセキュリティにも留意が必要。国際取引では準拠法・裁判管轄の合意が極めて重要。
  • 弁護士との連携で、契約書作成・レビューから紛争対応まで一貫したサポートを受けられ、法改正や国際規格にも適応しやすくなる。

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