【ポイント】
- 契約関係を整理し、下請代金支払遅延防止法が適用されるか確認しましょう。
- 受領拒否をするとしても、「下請事業者の責に帰すべき理由」があるとして受領拒否が認められる場合に当たるか確認しましょう。
- 納期延長によって発生する費用は基本的には親事業者が負担する必要があります。
【質問】
新型コロナウイルス感染症の影響により、親事業者の販売計画等が狂い、倉庫等に在庫が溢れ、下請事業者からの納品を受領することができない状況となっています。そのため、当初定めた納期での受領を拒否したい(納期を延期したい)と考えていますが、可能でしょうか?
また、納期延長により倉庫代等の追加費用が下請事業者に発生することになりますが、当該費用について下請事業者に負担をお願いしても問題ないでしょうか。
【回答】
当初定めた契約時期に受領拒否する場合には、「下請事業者の責に帰すべき事由」がない限り、下請法4条1項1号に反します。
また、納期延長により追加でかかった費用は親事業者が負担すべきものであり、この負担を下請事業者に要請することは、不当な経済上の利益提供要請となり、下請法4条2項3号に反します。
【解説】
倉庫に在庫があることを理由とする受領拒否に関する規制
下請代金支払遅延防止法(以下「下請法」といいます。)4条1項1号では、下請業者からの納品の受領拒否を禁止しています。また、同項4号では、引き取らせる行為も禁止しています。
下請法4条
親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号(役務提供委託をした場合にあっては、第1号及び第4号を除く。)に掲げる行為をしてはならない。
一 下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の受領を拒むこと。
四 下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付を受領した後、下請事業者にその給付に係る物を引き取らせること。
公正取引委員会は、「下請事業者に責任がある場合を除き、発注済みの物品等について受領拒否したり返品したりすることは、下請法上、問題となります(下請法第4条第1項第1号及び第4号)。やむを得ず、受領日が到来する前に発注の取消しを行う場合でも、仕掛品など下請事業者に生じた費用を負担しない場合には、下請事業者の利益を不当に害することとなり、不当な給付内容の変更(下請法第4条第2項第4号)として、下請法上、問題となります。また、役務提供委託においては、受領の概念がありませんが、発注の取消しをする場合に、発注を取り消したことにより下請事業者に生じた費用を負担しないときは、下請事業者の利益を不当に害することとなり、不当な給付内容の変更(下請法第4条第2項第4号)として、下請法上、問題となります。」[1]との見解を示しています。
そこで、受領拒否が違法と判断されるか検討する上で、①下請法が適用されるか、②受領拒否が「下請事業者の責に帰すべき理由」があるといえるか、の2点が問題になります。
下請法が適用される親事業者
親事業者が取引先から荷物の配送を請け負ったことを前提に、請け負った配送サービスの一部又は全部を請け負った場合、「役務提供委託」(下請法2条4項)に当たります。例えば、「貨物自動車運送業者が請け負った貨物運送のうち一部を他の運送事業者に委託する場合」がこれに当たります[2]。
まずは、問題となる契約が「役務提供委託」に該当することを確認する必要があります。
「下請事業者の責に帰すべき理由」
この文言に該当する場合として、次のように紹介されています。
「下請事業者の責に帰すべき理由があるとして下請事業者の給付の受領を拒むことが認められるのは、次の⑴及び⑵の場合に限られる。⑴下請事業者の給付の内容が3条書面[3]に明記された委託内容と異なる場合又は下請事業者の給付に瑕疵等がある場合…⑵下請事業者の給付が3条書面に明記された納期に行われない場合」[4]
したがって、このような事情がないにもかかわらず、受領拒否を行なった場合には、下請法4条1項1号違反となるおそれがあります。
相談例のケース
相談例のケースでは、「親事業者の販売計画等が狂い、倉庫等に在庫が溢れ、下請事業者からの納品を受領することができない状況」であることを理由とする受領拒絶になりますので、上記3⑴⑵に該当しない可能性が高いといえます。したがって、受領を拒否することは下請法に違反することになります。
納期延長に伴う保管費用
追加でかかってしまう保管費用を下請事業者に負担させることについて、経済産業省は以下のような見解を示しています。
「下請事業者に対し、親事業者が支払うべき費用を負担させることは、不当な経済上の利益提供要請として下請法上問題となりますので、親事業者が追加費用を負担する必要があります。しかしながら、親事業者が被災し、客観的にみて震災の影響により発生した追加費用を直ちに負担することが不可能であると認められる場合に、例えば、両者間で十分協議の上、一時的に下請事業者が費用の一部を負担するときは、そのような事情を十分考慮して対応することとなります。なお、親事業者は、このような特別な事情や経緯について、事後的にも分かるような記録を残しておくことが望まれます。」[5]
したがって、「親事業者が被災し、客観的にみて震災の影響により発生した追加費用を直ちに負担することが不可能であると認められる場合」のような事情がない限り、追加費用は親事業者が負担しなければならない費用となります。
相談例のケースでは、納期延長に伴って発生する保管費用を下請事業者に負担させるものであり、下請法4条2項3号に反する可能性が高いといえます。
[1] 「新型コロナウイルス感染症拡大に関連する下請け取引Q&A」問1
[2] 「知って守って下請法」(公正取引委員会) 6頁
[3] 3条書面とは、「下請事業者の給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を記載した書面」で下請事業者に交付されなければならない書面をいいます(下請法3条1項本文)。
[4] 「独占禁止法・下請法—豊富な事例で分かる違反行為の判断基準と実務上の留意点—[初版]」(第一法規株式会社)597頁
[5] 「新型コロナウイルス感染症により影響を受ける下請等中小企業との取引に関する配慮について」(経済産業省、令和2年2月14日)問10