【ポイント】

  • 下請業者が任意に応じてくれるのであれば、直ちに独禁法に抵触するということにはなりません。
  • 任意に応じてもらう場合でも、その間の人件費等費用の負担や対応する作業内容などは、あらかじめ契約書に示しておく必要があります。
  • 相対的にみて下請業者に対して優越的地位にある業者が下請業者に対して従業員の派遣等を要請することは、「優越的地位の濫用」(独占禁止法2条4項5号)に抵触するおそれがあります。
  • 「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(公正取引委員会)、「優越的地位の濫用〜知っておきたい取引ルール〜」(公正取引委員会)などの資料も確認する必要があります。

【質問】

新型コロナウイルス感染症の拡大による在宅勤務の推奨や採用人数の縮小等により人手が足りない状況となっています。その結果、店舗の陳列作業等が回らなくなってしまったため、納入業者に協力を要請したいと考えています。

また、多くの消費者からの要望があったため、店舗販売以外にも宅配事業を始めようと考えているのですが、人手が足りないため、一部の商品については納入業者から直接消費者へ商品を届けてもらうように要請したいと考えています。このような要請をすることは可能でしょうか?

【回答】

従業員の派遣要請や配送の依頼を行っても、直ちに独禁法2条4行5号に違反することにはなりません。

もっとも、「優越的地位の濫用」により下請業者に不利な条件で要請を行う等不利益を与えると認められるような場合には、同号ロにあたり、独禁法違反となる可能性があります。

【解説】

納入業者が任意に協力してくれる場合

小売店が納入業者に対し、陳列作業が間に合わないため従業員の派遣要請を行ったり、商品の配送を行うことについて依頼し、納入業者が任意に行ってくれるのであれば、直ちに法的に違法となることはありません。

納入業者への陳列作業の協力要請について、経済産業省は「被災者の生活の糧を供給する拠点となる大規模小売業者の営業が迅速に開始されることは、 被災地の復興や被災者の生活支援にも資するものであり、大規模小売業者と納入業者との間で協議が行われた結果、被災した大規模小売業者の原状回復や再陳列作業への協力を行うことになったとしても、独占禁止法上問題となるものではありません。」との見解を示しています。[1]

もっとも、「震災を口実として大規模小売業者が納入業者に対し、不当に不利益を与えることとなるような場合には、独占禁止法上の問題が生じ得ますので、御注意ください。」との見解も示されています。

独占禁止法との関係

条文の確認

独占禁止法2条4項5号では、優越的地位を利用して相手に「不公正な取引」を行わせることを禁止しています。

独占禁止法2条

9 この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう。

五 自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること。

イ 継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。ロにおいて同じ。)に対して、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること。

ロ 継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。

ハ 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること。

どのような場合に公正な競争を阻害するのかは、「問題となる不利益の程度、行為の広がり等を考慮して、個別の事案ごとに判断することになる。例えば、①行為者が多数の取引の相手方に対して組織的に不利益を与える場合、②特定の取引の相手方に対してしか不利益を与えていないときであっても、その不利益の程度が強い、又はその行為を放置すれば他に波及するおそれがある場合には、公正な競争を阻害するおそれがあると認められやすい。」[2]とされています。

「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して」の意味

この意味については、「取引の一方の当事者(甲)が他方の当事者(乙)に対し、取引上の地位が優越しているというためには、市場支配的な地位又はそれに準ずる絶対的に優越した地位である必要はなく、取引の相手方との関係で相対的に優越した地位であれば足りると解される。甲が取引先である乙に対して優越した地位にあるとは、乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため、甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても、乙がこれを受け入れざるを得ないような場合である。」[3]と解釈されています。

従業員の派遣要請は独占禁止法2条4項5号ロに当たるか

「従業員等の派遣の要請」については、「取引上の地位が相手方に優越している事業者が、取引の相手方に対し、従業員等の派遣を要請する場合であって、どのような場合に、どのような条件で従業員等を派遣するかについて、当該取引の相手方との間で明確になっておらず、当該取引の相手方にあらかじめ計算できない不利益を与えることとなる場合や、従業員等の派遣を通じて当該取引の相手方が得る直接の利益等を勘案して合理的であると認められる範囲を超えた負担となり、当該取引の相手方に不利益を与えることとなる場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり、優越的地位の濫用として問題となる。取引の相手方に対し、従業員等の派遣に代えて、これに相当する人件費を負担させる場合も、これと同様である。」[4]としています。

具体例としては、「X社は、店舗の新規オープン及び改装オープンに際し、納入業者に対し、当該納入業者の納入に係る商品であるか否かを問わず、当該店舗における商品の陳列、商品の 補充、接客等の作業(以下「オープン作業」という。)を行わせることとし、あらかじめ当該納入業者との間でその従業員等の派遣の条件について合意することなく、オープン作業を行わせるためにその従業員等の派遣を受けることを必要とする店舗、日時等を連絡し、その従業員等を派遣するよう要請している。この要請を受けた納入業者の多くは、X社との納入取引を継続して行う立場上、その要請に応じることを余儀なくされ、その従業員等を派遣しており、X社は、当該派遣のために通常必要な費用を負担していない」[5]というケースでは、違法となると指摘されています。

そのほかにも、公正取引委員会発行のパンフレットでは、派遣要請について違反行為事例がいくつか紹介されております。[6]

納入業者へ直接商品を配送することが独占禁止法2条4項5号ロに当たるか

こちらについても、下請業者が任意に対応してくれるのであれば直ちに独禁法違反とはなりません。

もっとも、請負業者が「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して」下請業者に不利益を与えるものであれば、同号ロに該当しうるといえます。

したがって、従業員の派遣要請の問題と同様に、個別の事情に照らして独禁法2条4項5号ロに該当するのか検討する必要があります。

 

[1] 「新型コロナウイルス感染症により影響を受ける下請等中小企業との取引に関する配慮について」(経済産業省)問3

[2] 「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(公正取引委員会)3頁

[3]  前掲2 4頁

[4]  前掲2 11頁〜12頁

[5]  前掲2 13頁

[6] 「優越的地位の濫用〜知っておきたい取引ルール〜」(公正取引委員会)7頁