質問

新型コロナウィルスの感染症の拡大により、マスクなどの供給不足に陥った商品が飛ぶように売れるため、売れ行きのよくない商品とセットにして販売したいと考えていますが、可能でしょうか。

回答

独占禁止法が禁止する不公正な取引方法一般指定第10項の抱き合わせ販売に該当するおそれがあることから、販売をしない方がよいと考えられます。

解説

公正取引委員会の見解

公正取引委員会は、令和2年2月27日に「新型コロナウイルスに関連した感染症の発生に伴うマスク等の抱き合わせ販売に係る要請について」と題する書面[1]において「公正取引委員会は、当該事業者が所属する関係業界団体に対して、商品の供給が不足しており、当該商品に代わる商品が存在しない状況の下で行われる抱き合わせ販売は、独占禁止法が禁止する不公正な取引方法(抱き合わせ販売等)につながるおそれがあることから、今後、同様の行為を行わないよう会員企業へ周知することを要請しました。」と公正取引委員会のホームページにおいて各企業に要請しています。

したがって、上記要請から、マスクと売れ残り商品のセット販売を控えた方がレピュテーションリスクも考慮すると望ましいと考えられます。

不公正な取引方法一般指定第10項の検討

他方で、上記要請は、「不公正な取引方法(抱き合わせ販売等)につながるおそれがある」という可能性の記載にとどまるため、抱き合わせ販売に該当するか否かを改めて検証します。

抱き合わせ販売は、不公正な取引方法一般指定第10項において「相手方に対し、不当に、商品又は役務の供給に併せて他の商品又は役務を自己又は自己の指定する事業者から購入させ、その他自己又は自己の指定する事業者と取引するように強制すること。」と定められています。

すなわち、抱き合わせ販売の要件は、「①主たる商品・役務と従たる商品・役務が別個の商品・役務であること、②取引の強制があること、③公正競争阻害性(「不当に」)が認められること」[2]となります。

以下、要件ごとに検討します。

別個の商品

「他の商品」とは、「本件各部品とその取替え調整工事とは、それぞれ独自性を有し、独立して取引の対象とされている」と判示する裁判例[3]から、①組み合わされた商品の独自性、②独立して取引の対象とされているかという観点から「他の商品」に該当するか判断されると考えられます。

本件では、例えば、マスクと売れ残りのゲーム機を組み合わせて販売する場合、①マスクと売れ残りのゲーム機はそれぞれが独自性を有しており、②マスクと売れ残りのゲーム機はそれぞれ独立して取引の対象となることから、「他の商品」に該当すると考えられます。

取引の強制

「購入させること」に該当するとは、「ある商品の供給を受けるのに際し、客観的にみて少なからぬ顧客が他の商品の購入を余儀なくされるような抱き合わせ販売であることが必要であると解するのが相当である」 [4]と示した審判例があります。

本件では、上記例でいえば売れ残りのゲーム機を買わなければ、マスクを購入できない態様であることから、「購入させること」に該当すると考えられます。

公正競争阻害性

「不当」とは、「公正な競争を阻害するおそれがあることを意味すると解されるが、右公正な競争を阻害するおそれとは、当該抱き合わせ販売がなされることにより、買手は被抱き合わせ商品の購入を強制され商品選択の自由が妨げられ、その結果、良質・廉価な商品を提供して顧客を獲得するという能率競争が侵害され、もって競争秩序に悪影響を及ぼすおそれのあることを指すものと解するのが相当である。」[5]と示した審判例があります。

本件では、上記例でいえば、売れ残りのゲーム機を買うか、マスクを買うかの商品選択の自由は、売れ残りのゲーム機を買わなければマスクを買うことができないことから、商品選択の自由が妨げられています。

商品選択の自由が妨げられた結果、売れ残りのゲーム機の価格設定においてより値段が安くなるよう努力を怠って顧客を獲得するという競争が侵害されることから、競争秩序に悪影響を及ぼすものと考えられます。

したがって、公正競争を阻害すると考えられることから、「不当」に該当します。

結語

上記の例では、不公正な取引方法一般指定第10項に該当することから、独占禁止法に反します。

したがって、質問事例のマスクと売れ行きのよくない商品をセットにして販売することも、コロナウイルス影響下での社会情勢を鑑みると不公正な取引方法一般指定第10項に該当する可能性が高いと考えられます。

以上より、マスクと売れ行きのよくない商品をセットにして販売するは、差し控えることが望ましいです。

 

[1] https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2020/feb/200227_yousei.html

[2] 菅久修一ほか「独占禁止法〔第2版〕」(株式会社商事法務、2015年、168頁)

[3]大阪高裁平成5年7月30日判決/平成2年(ネ)第1660号

[4] 公取委審判審決平成4年2月28日(審決集38巻41頁)

[5]公取委審判審決平成4年2月28日(審決集38巻41頁)