【ポイント】
- 事前に株主に開催場所の変更を通知する十分な時間がない場合において、株主総会の開催場所の変更は行うことができる。
- 株主の出席を確保する万全の措置を講ずることができるのであれば、当日の会場の変更も許されると考えられている。
- 株主の出席を確保する観点から、代替の会場として近隣の会場を確保し、開始時間を遅らせる対応を行うことが求められる。
- 代替の会場及び開始時間の変更については、ホームページ等で株主に周知を行い、変更前の会場に来場した株主を変更後の会場に誘導する措置を行うべきである。
【相談例】
株主総会の開催日の前日に、会場として予約を取っていた施設において、新型コロナウィルスの感染者が発見されたため、会場の使用が不能となってしまいました。前日ということもあり、今から株主総会を延期することもできません。どのようにすれば良いでしょうか。
【回答】
株主総会の前日に株主総会の開催場所を変更することは可能ですが、株主の出席を確保するために、代替会場の確保や開始時間の変更等の措置を取りましょう。また、開催場所の変更について必ず周知をしましょう。
【解説】
1 問題点
急に株主総会の開催を予定していた施設が使用できなくなくなり、かつ株主総会を延期することが不可能であったような場合には、直前に株主総会の開催場所や日時を変更することが余儀なくされます。もっとも、何らの理由なく、開催場所や開催時間を急に変更したといった場合には、株主総会の決議不存在事由にあたる恐れもあります。
そこで、株主総会の前日や当日に施設が使用できなくなった場合に、どのような対応をすべきかが問題となります。
2 株主総会の前日または当日における会場の変更について
株主総会当日に会場を変更する場合の要件として、やむを得ない事由があり、かつ株主等に対する適切な周知方法が取られていれば変更が可能だとする例があります[1][2]。
そこで、株主総会前日や当日に会場を変更するには、株主の出席の機会を確保し、適切な周知方法を取れば、変更は可能になるものと考えられます。
具体的には、近隣の会場の確保や開始時間を遅らせること、誘導員を配置すること等により株主の出席の機会を確保し、ホームページ上で周知を徹底すれば、株主総会前日または当日の会場の変更も許される場合がございます。
3 代替会場や入場株主の制限について
また、株主総会の会場が変更となる場合、代替会場の規模が小さかったり、会場に入場できる株主の数に限りがある場合があります。この場合に、株主総会を開催することは許されるかという問題がございます。
経済産業省及び法務省の見解[3]
経済産業省及び法務省は、上記の問題につきまして、以下のとおり回答しております。
新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、やむを得ないと判断される場合には、合理的な範囲内において、自社会議室を活用するなど、例年より会場の規模を縮小することや、会場に入場できる株主の人数を制限することも、可能と考えます。
現下の状況においては、その結果として、設定した会場に株主が出席していなくても、株主総会を開催することは可能と考えます。この場合、書面や電磁的方法による事前の議決権行使を認めることなどにより、決議の成立に必要な要件を満たすことができます。
なお、株主等の健康を守り、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために株主の来場なく開催することがやむを得ないと判断した場合には、その旨を招集通知や自社サイト等において記載し、株主に対して理解を求めることが考えられます。
経済産業省及び法務省の見解の解説
経済産業省や法務省の見解の重要なポイントは、無制限にではなく、新型コロナウィルス感染拡大防止のためにやむを得ない場合であり、かつ合理的な範囲内という限りにおいて、会場の規模の縮小や入場できる株主数の制限を認めている点です。
この点については、株主が会場に入場できず、議事に参加できない場合に株主総会の取消事由があるとした裁判例[i]があります。また、代替会場を複数用意するなどの方法を取れば、会場の規模の縮小や入場できる株主数の制限といった問題は解消されうる問題とも考えられるため、株主総会の会場変更により、株主数を制限する場合には慎重な判断が求められます。
[1]広島高松江支判昭三六・三・二〇下民一二巻三号五六九頁
[2] 株式会社法第7版p327
[i](大阪地裁昭和49年3月28日判決・判タ306号187頁)