ポイント
  1. 製品偽装の疑いの報告を受けた後、迅速に事実関係の調査・確認を行います。
  2. 製品偽装に関する最初のリーガルリサーチとして、経済産業省のサイトが参考になります。
  3. 製品偽装は、初動対応により、企業の命運が別れます。

事実関係の調査・確認

工場に勤務している従業員から「実は、自社で製造している製品のデータは、実験もせずに都合の良いように数字を操作して表示しています。私は、良心の呵責に耐えられなくなって相談しにきました。」と言われた場合、あなたは、初動をどうすればよいと考えますか。

まずは、相談にきた従業員に対して、相談者の名前は口外しない等の守秘義務を負うことを説明し、相談者と信頼関係を構築することに努めましょう。

相談者は、自らが抱えている問題を話しても良い信頼に値する人物か否かを見極めています。したがって、信頼関係が醸成されていない最初の初回相談で、全てを執拗に尋ねることは避けるべきです。

最初の初回相談では、事案の概要を把握し、次回の相談のアポイントをとりましょう。次回の相談のアポイントを取る際は、会社のリーガルリスクを検討した上で、詳細に話を聞かせてもらいたい旨を伝えると相談者も真剣に話を聞いてくれると考えるため、好ましいでしょう。

相談者からヒアリングを終えた後、偽装に関連する人間関係図を把握し、調査に協力を得られるキーパーソンを選び出します。本当に偽装が現場で起きているならば、何とかしたいと考えている従業員は他にも大勢いると予測できるからです。

偽装に関連する客観的なデータの資料の収集と調査に協力してくれる従業員からのヒアリングを行い偽装の全体像を把握するように努めます。

また、偽装が行われている工場の現場に直接出向き、事実関係の調査・確認を行い、動かぬ証拠を掴めることが望ましいですが、現場に行くまでに集めた証拠で関係者に偽装に関する言い逃れできないように証拠を固めて置く準備が一番大切です。

リーガルリサーチ

事実関係を調査・確認するとともに、並行してリーガルリサーチも行います。リーガルリサーチを行うことで、法律要件に該当する具体的事実を念頭に置くことができ、どのような事実をヒアリングすべきかが判明します。

まずは、どのような文献をリサーチすることから始めればよいでしょうか。

経済産業省は、偽装表示と不正競争防止法のテキスト及びパンフレットを公開しています(https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/unfair-competition.html#h20)。

特に平成20年3月に経済産業省の調査委託により作成されたTMI総合法律事務所の「表示に係る不正競争行為に関する調査研究報告書」は、食品衛生法、薬事法、金融商品取引法等の法律を横断して表示の規制を説明するとともに、裁判例を多数紹介しています。

したがって、最初に製品偽装のリーガルリサーチをする場合には、経済産業省が作成した不正競争防止法のテキスト等を手がかりとして各種文献及び裁判例の調査を行い、リーガルリスクを検討することが望ましいです。

初動対応の大切さ

再度、製品偽装の不祥事事例で紹介したT社の刑事裁判の判決文を抜粋します。

調査の結果,偽装が発覚し,平成26年3月ころから順次,親会社〜にも伝えられたが,その後も出荷停止等の措置がとられることなく偽装が続けられ,本件犯行に至った。」

T社は、偽装が発覚しても何らの対応をしないまま放置していたということになります。なぜ何も対応をせずに放置していたのかと批判することは容易です。

しかし、重要なことは、製品偽装を放置したままの状態を続ければ企業として回復できないほどの損失を被ることになり、ただの問題の先送りにしかならないことを一人一人の従業員が自覚することです。

さらに、T社の民事裁判においても、製品偽装に対して迅速に各取引先と連携して対応をしていれば、数億円の損失を防げた可能性が大いにあります。

問題を放置した結果、特別損失として1134億円も計上し、いくつかの事業を売却せざるをえなかった結果からすると、初動対応を誤ったことで全て負の連鎖として企業の価値を毀損する物語へと繋がります。

製品偽装が起きた後、いかに企業としてのリーガルリスクを抑えた戦略を立案し、即座に実行に移せるかにより企業の命運が別れます。