はじめに

運送業界では、ドライバーの不足や過密スケジュールなどの事情から、有給休暇の取得率が低いという声をよく耳にします。あるいは、有給休暇を取得しようとしても代わりのドライバーが見つからず、結果的に休みを取れないといった問題も少なくありません。しかし、労働基準法で定められた有給休暇は、労働者にとって正当な権利であり、使用者(会社)には適切に付与し、取得を促進する義務があります。

一方で、運送業特有の「繁忙期」と「閑散期」によるシフト調整の困難さから、有給休暇の取得が難しいケースが発生しがちです。これを放置していると、ドライバー側からの未消化有給休暇の買取要求や、「休みを取らせないブラック企業だ」との評判につながるリスクがあります。そこで本記事では、有給休暇管理の基本ルールや、トラブル防止の具体策、運送業での実務上のポイントを解説します。

Q&A

Q1.ドライバーにも有給休暇は必ず与えなければならないのですか?

はい。運送業のドライバーであっても、労働基準法に基づき、有給休暇を付与する義務があります。入社後6か月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した場合、最低10日間の有給休暇が付与され、その後は勤続年数に応じて日数が増加します。

Q2.ドライバーの「休みたい日」に必ず有給休暇を認めなければいけませんか?

原則として、労働者が請求した時季に有給休暇を与える必要があります。ただし、運送業務に著しい支障が出る場合は、時季変更権を行使することができます。具体的には、どうしても避けられない繁忙期や、人手不足で配車が不可能な状況が重なっている場合など、会社が「この日に休みを与えると業務が回らない」と判断し得る場合です。ただし、あくまで正当な理由が必要であり、乱用は認められません。

Q3.有給休暇を買い上げる方法ではダメでしょうか?

労働基準法上、原則として有給休暇の買い上げは禁止されています。ただし、法定日数を超える部分(いわゆる「上乗せ有給」)については、会社の裁量で買い上げが認められる場合もあります。また、退職時に消化しきれなかった有給休暇を買い上げる慣行がある企業もありますが、これらはあくまで例外的な運用であり、法定の有給休暇を買い上げで済ませることは違法リスクを伴います。

Q4.運送業で有給休暇管理をスムーズに進める方法は?

計画的付与制度の導入や、シフト表の早期作成繁忙期・閑散期を見据えた休暇推奨期間の設定などが考えられます。たとえば、毎年春や秋など比較的荷動きが少ないシーズンを「計画的休暇取得期間」と設定し、従業員がまとめて有給休暇を取得しやすいようにする企業もあります。また、ドライバーの人数や配送計画をデジタル化し、効率的にシフト調整を行うシステムを導入するのも効果的です。

解説

有給休暇の基本ルール

付与要件と付与日数

  • 入社6か月経過後の出勤率が8割以上であれば、10日の有給休暇が付与される。
  • 勤続年数が増えると、付与日数は最大で年20日となる。
  • パートやアルバイトなど、所定労働日数が週5日未満の場合でも、比例付与という形で有給を与える必要がある。

有給休暇取得義務

  • 2019年4月より、年10日以上の有給休暇が付与される従業員には、年5日の取得が義務付けられた。
  • 事業者はこの取得を実施する責任がある。

時季変更権

  • 労働基準法第39条により、会社は請求された時季に休みを与えられない「正当な理由」がある場合に限り、他の日に振り替えさせることができる。
  • 運送業の繁忙期に集中して休みの申請が重なる場合は、業務に著しい支障があるかどうか具体的に検討し、必要に応じて時季変更権を行使する。

運送業特有の課題と対策

繁忙期と閑散期の差

  • 大型連休前後や年末年始、年度末など、配送需要が急増する時期は休みを取りにくい
  • 対策として、計画的付与制度休日の前倒し・後倒し人員の増強などで繁忙期の負担を分散させることが重要。

ドライバーの代替要員問題

  • 有給休暇を取っても、代わりのドライバーがいないため休めないという現実的な問題が存在。
  • 派遣社員や契約社員の活用や、協力会社との連携など、柔軟な人材確保策を検討する必要がある。

計画的有給休暇制度の活用

  • 会社主導であらかじめ有給休暇を割り振ることで、業務に支障が出ないよう調整。
  • 労使協定を結ぶ必要があるが、運送業の実態に合わせた休暇取得推進が期待できる。

トラブル想定事例

  • 有給休暇申請を全て拒否していた
    ある運送会社が「運送業だから有給は取れない」と一律に申請を認めなかった。
  • 未消化有給休暇の買取を巡る対立
    従業員が「休む暇がないので有給を買い上げてほしい」と要望し、会社がそれに応じていた。しかし、実態は法定有給休暇すら買い上げの対象にしていた。
  • 年5日の有給取得義務を放置
    従業員が年10日の有給休暇を付与されているにもかかわらず、会社側が年5日の取得を確保しなかった。

実務上の注意点

有給休暇管理表の整備

  • 各従業員の有給休暇の付与日・残日数・取得状況を正確に把握するために、管理表システムを導入。
  • 記録をしっかり残しておくことで、トラブルが起きた際の証拠となる。

周知と教育

  • ドライバー本人が有給休暇の権利を知らない、もしくは遠慮して申請しないケースがある。
  • 社内研修や説明会で、有給休暇制度の内容や手続き方法を周知徹底する。

労使協定の締結と計画的付与

  • 計画的付与制度を活用する場合は、労働者代表との協定締結が必要。
  • シフト表作成の際に、あらかじめ休暇取得日を設定しておくと混乱を防げる。

ドライバーの負担分散

  • 有給休暇を取得するドライバーの業務を、複数人でフォローできる体制を整備。
  • テレマティクスや運行管理システムを活用して、誰がいつ休んでも対応できるようにしておく。

弁護士に相談するメリット

  1. 労働基準法違反リスクの回避
    有給休暇の付与や管理を誤ると、罰則是正勧告を受けるリスクが高まります。弁護士に相談すれば、違法性の有無を事前にチェックし、適切な運用体制を整えられます。
  2. 就業規則や労使協定の整備
    運送業の特性を踏まえた就業規則計画的付与のための労使協定を作成する際、弁護士がアドバイスを行い、実務に即した規定を構築できます。
  3. トラブル対応の迅速化
    従業員との間で有給休暇取得をめぐるトラブルが発生した場合、早期の弁護士相談により、示談交渉行政対応をスムーズに進めることが可能です。
  4. 最新法改正情報の提供
    労働関連法は頻繁に改正されます。弁護士へ定期的に相談することで、最新のルールを踏まえた有給休暇管理を行い、不要なリスクを避けることができます。

まとめ

運送業における有給休暇管理は、ドライバー不足繁忙期対応といった業界特有の課題が多いため、簡単ではありません。しかし、労働者にとって有給休暇は法的に認められた重要な権利であり、会社にはこれを円滑に運用する義務があります。

  • 有給休暇の基本ルールを正しく理解
    付与要件、付与日数、時季変更権、買い上げの原則禁止
  • 運送業特有の事情への対処
    計画的付与制度やシフト調整、人員確保の工夫
  • トラブル防止策の具体化
    • 有給休暇管理表の導入、ドライバーへの周知・教育
    • 労使協定の締結と就業規則の整備
  • 弁護士への相談でリスク軽減
    • 労働基準法違反による罰則回避
    • トラブル発生時の迅速な解決

ドライバーが安心して休暇を取得できる職場環境を整えることは、離職率の低減安全運転の促進にもつながります。もし有給休暇管理に関して不安がある場合は、お早めに弁護士法人長瀬総合法律事務所へご相談ください。


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