相談事例

当社の労働者が加入したユニオンから団体交渉の申し入れが来ました。

当社としては、事業環境の悪化により、事業の存続自体が危うい状況が続いており、団体交渉をしている場合ではないため、団体交渉の申し入れを無視しました。

すると、今後はユニオンから、団体交渉を無視したことが、不当労働行為だと指摘されました。

そもそもユニオンがどのような団体かもわからない上、ユニオンが主張する不当労働行為とは何なのでしょうか。

また、これまでユニオンからの団体交渉の申し入れを無視していたのですが、当社の対応は問題だったのでしょうか。

解説

運送業界は、長時間労働・低賃金が常態化している上、自動車の長距離・長時間運転等に伴う労働災害等のために、労務トラブルが起きやすい傾向にあります。

個別の労務紛争だけでなく、なかには従業員が労働組合やユニオンに加入し、集団労使紛争に発展するケースもあります。

労働組合やユニオンによる集団労使紛争は減少傾向にあるとはいえ、現在も決してゼロになっているわけではありません。

そして、労働組合やユニオンによる集団労使紛争に発展した場合、団体交渉への対応や不当労働行為の懸念等、個別労務紛争とは異なる注意点があります。

本稿では、労働組合・ユニオンへの対応におけるポイントについて解説します。

1 労働組合とは

近時の労働紛争は、集団労働紛争から、個別労働紛争へと推移してきており、労働組合による集団労働紛争は減少傾向にあります。

もっとも、争議行為を伴わない集団労働紛争(団体交渉等)は、現在でも一定数は起きており、今後も労働組合からの団体交渉の申入等の対応が必要となることは変わらないことが予想されます。

特に、合同労組やユニオンからの団体交渉の申入に対しては、適切に対応する必要があります。

労働組合法では、労働組合とは、「労働者が主体となつて自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体」(労働組合法2条)と定義されています。

なお、労働組合法上の労働組合に該当しなくとも、労働組合として法的保護の対象となることにはご留意ください。

労働組合は、その性質に応じて幾つかの類型に分類することができます。

  • 職業別労働組合
    ・同じ熟練職種の労働者が地域別に結集する組織
  • 産業別労働組合
    ・同一産業に属する労働者が加入する組織
  • 企業別労働組合
    ・特定の企業に属する労働者を職種の別なく組織した労働組合
  • 一般労働組合
    ・職種・産業の別を問わず、広い地域にわたって労働者を組織する労働組合
    ・合同労組・ユニオン

2 合同労組・ユニオンとは

労働組合の内、合同労組(ユニオン)とは、企業別組合を組織しにくい中小企業労働者が一定地域ごとに個人加盟原則によって加盟できる労働組合をいいます。

合同労組(ユニオン)の特徴は、①一定の地域を活動の対象としている、②中小企業の労働者の加入が多い、③1人でも加入できる、④労働者であれば雇用形態に関係なく加入できる、等が挙げられます。

3 不当労働行為とは

不当労働行為救済制度は、憲法で保障された団結権等の実効性を確保するために、労働組合法に定められている制度です。労働組合法第7条では、使用者の労働組合や労働者に対する次のような行為を「不当労働行為」として禁止しています[1]

【不当労働行為として禁止される行為】

(1)組合員であることを理由とする解雇その他の不利益取扱いの禁止(第1号)

イ 労働者が、

・労働組合の組合員であること
・労働組合に加入しようとしたこと
・労働組合を結成しようとしたこと
・労働組合の正当な行為をしたこと

  を理由に、労働者を解雇したり、その他の不利益な取扱いをすること。

ロ 労働者が労働組合に加入せず、又は労働組合から脱退することを雇用条件とすること(いわゆる黄犬契約)。

(2)正当な理由のない団体交渉の拒否の禁止(第2号)

使用者が、雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを、正当な理由なく拒むこと。

※ 使用者が形式的に団体交渉に応じても、実質的に誠実な交渉を行わないこと(「不誠実団交」)も、これに含まれます。

 

(3)労働組合の運営等に対する支配介入及び経費援助の禁止(第3号)

イ 労働者が労働組合を結成し、又は運営することを支配し、又はこれに介入すること。
ロ 労働組合の運営のための経費の支払いにつき経理上の援助を与えること。

(4)労働委員会への申立て等を理由とする不利益取扱いの禁止(第4号)

労働者が労働委員会に対し、不当労働行為の申立てをし、若しくは中央労働委員会に対し再審査の申立てをしたこと、又は労働委員会がこれらの申立てに関し調査若しくは審問をし、若しくは労働争議の調整をする場合に労働者が証拠を提示し、若しくは発言したことを理由として労働者を解雇し、その他の不利益な取扱いをすること。

4 不当労働行為に対する罰則

使用者が不当労働行為に該当する行為をした場合、法律上刑事罰はありません。

もっとも、不当労働行為に対しては、労働委員会に対する「救済申立」という制度があります。

労働委員会に対する救済申立とは、不当労働行為を受けた組合や組合員が公的な機関である労働委員会において、不当労働行為に該当するかどうかを判断してもらい、該当する場合は、不当労働行為を中止するように会社側に対する命令を出してもらう制度です。

不当労働行為をした場合、組合や組合員が救済申し立て制度による救済申立てを行った結果、労働委員会から救済命令が出されたときはそれに従わなければならなくなります。

仮に、救済命令が確定したにもかかわらず、使用者が履行しない場合には、50万円以下の過料に処せられます。また、裁判所の行政訴訟により確定したものについては、1年以下の禁錮もしくは100万円以下の罰金という処分が科されます。

さらに、不当労働行為に対しては、会社が損害賠償責任を負う可能性もあります(サンデン交通貸切バス差別事件(広島高裁平成14年1月24日判決))。

ご相談のケースについて

ご相談のケースでは、会社は、労働組合からの団体交渉の申し入れを無視していることから、正当な理由のない団体交渉の拒否の禁止(労働組合法7条2号)に該当し、不当労働行為にあたることになります。

その後、労働組合が労働委員会に対して救済申立てを行い、労働委員会から救済命令が出された場合には、これに従わない場合、過料等の制裁を受けるリスクがあります。

したがって、労働組合から団体交渉の申し入れがあった場合、これを無視することは避ける必要があります。

引用・出典

[1] 厚生労働省|中央労働委員会 不当労働行為とは

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