二審判決を一部変更し、定年退職後再雇用された社員について、精勤手当の不支給等は労働契約法20条に違反するとした事例

定年退職後、嘱託社員(有期契約社員)として再雇用された社員らが、職務の内容は定年退職前の正社員時代と同一であるにもかかわらず、正社員(無期契約社員)と比べて3割程度低い賃金とされたことについて、労働契約法20条に違反し無効である旨主張していた事件について、平成28年5月13日、東京地方裁判所より、当該嘱託社員(原告、被控訴人、上告人)の主張を全面的に認め、会社(被告、控訴人、被上告人)に対して正社員に適用される賃金規程に基づいた差額合計約420万円の支払を命じる旨の判決が下されました(以下「本件一審判決」といいます)。詳細については、ニュースレター2016年8月号(NS News Letter Vol.5)をご参照下さい。

これに対して、平成28年11月2日、東京高等裁判所は、本件一審判決を覆し、原告らの請求をすべて棄却するという全面逆転判決を下しました(以下「本件控訴審判決」といいます)。詳細についてはニュースレター2017年2月号(NS News Letter Vol.11)をご参照ください。

本件一審判決と本件控訴審判決とでは真逆の判断が下されたために、労使いずれの立場からも、本件最高裁判決は非常に注目を集めていました。

そして、平成30年6月1日、最高裁判所第二小法廷は、本件控訴審判決を一部変更し、精勤手当の不支給、及び精勤手当を計算の基礎に含める超勤手当の扱いについては労働契約法20条に違反すると判断しました。

このように、本件では、本件一審判決と本件控訴審判決、そして本件最高裁判決で、それぞれ異なる判断が下されたことになります。

そして、このように3つの審級において判断が分かれた背景には、労働契約法20条が禁止する「不合理」な相違の判断基準が異なっていることが挙げられます。

すなわち、本件一審判決は、労働契約法20条の解釈について、パート労働法9条に言及し、①職務の内容並びに、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲が同一であれば、正社員と有期契約社員との労働条件の相違は原則として「不合理」な相違となるとの基準を定立しました。

一方、本件控訴審判決は、条文の文言どおり、①職務の内容並びに、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲に加えて、③その他の事情として①・②に関連する諸事情を幅広く総合的に考慮して判断すべきとする基準を定立しました。その上で、本件控訴審判決は、本件一審判決と異なり、高年者雇用安定法により義務づけられた高年齢者雇用確保措置として再雇用した点や、多くの企業では定年前に比べて再雇用者の賃金を3割程度引き下げられている実態等を考慮し、本件相違は労働契約法20条に違反しないとの判断を下したものです。

これに対し、本件最高裁判決は、本件控訴審判決を踏襲しながらも、本件最高裁判決と同日に言い渡されたハマキョウレックス事件最高裁判決において示された労働契約法20条の判断基準も引用しつつ、「有期契約労働者が定年退職後に再雇用された者であることは、当該有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かの判断において、労働契約法20条にいう「その他の事情」として考慮されることとなる事情に当たる」とする基準を定立しました。その上で、本件最高裁判決は、労働契約法20条違反の有無については各賃金項目に係る労働条件の相違が認められるかどうかで判断することとして、「有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である」という基準を定立しました。そして、本件最高裁判決は、精勤手当の不支給、及び精勤手当を計算の基礎に含める超勤手当の扱いについては労働契約法20条に違反すると判断しました。

本件最高裁判決は、同日に言い渡されたハマキョウレックス事件最高裁判決とともに、労働契約法20条の解釈に関して最高裁としての立場を初めて明らかにしたリーディングケースということができます。

両最高裁判決は、今後の労働実務にも大きな影響を及ぼし得る判決であることから、その要点を把握しておくことは極めて重要といえます。

事案の概要

本件は、セメント等の輸送会社を営む被告長澤運輸株式会社(以下「被告」「控訴人」又は「被上告人」といいます)を60歳で定年退職した後に、被告との間で1年間の有期労働契約(以下「本件有期労働契約」といいます)を締結して嘱託社員として再雇用された原告(以下「原告」「被控訴人」又は「上告人」といいます)ら3名が、被告に対して原告ら(有期労働契約社員)と無期労働契約の正社員との間の賃金格差(平均して、正社員より21%減)(以下「本件相違」といいます)は不合理であるとして、本件有期労働契約による賃金の定めが労働契約法20条に違反し無効であり、原告らには正社員に対する就業規則等が適用されることになるとして、被告に対して当該正社員に対する就業規則等により支給されるべきである賃金と、嘱託社員待遇で実際に支給された賃金との差額及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案です。

なお、正社員と原告ら有期契約社員の賃金体系は以下のとおりです。

正社員 有期契約社員(原告ら)
  • 基本給(在籍給+年齢給)
  • 職務給
  • 精勤手当
  • 役付手当
  • 住宅手当
  • 無事故手当
  • 能率給
  • 家族手当
  • 超勤手当
  • その他の手当
  • 通勤手当
  • 基本賃金
  • 歩合給(7~12%)
  • 無事故手当
  • 調整給
  • 通勤手当
  • 時間外手当

▼正社員に支給される以下の給料・手当は不支給であり、賞与・退職金も不支給

  • 職務給
  • 役付手当
  • 精勤手当
  • 住宅手当
  • 家族手当

争点

労働契約法20条は、「有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。」と規定しています。

整理すると、労働契約法20条は、同一の使用者に雇用されている有期契約労働者と無期契約労働者について、「期間の定めがあること」によって両者の労働条件に相違がある場合、(i)職務の内容、(ii)当該職務の内容及び配置の変更の範囲並びに(iii)その他の事情を考慮して、その相違が「不合理」なものであることを禁止した規定といえます。

もっとも、「期間の定めがあることにより」とは、有期か無期かという「期間の定め」に関連した相違でありさえすれば足りるのか、それとも有期だから賃金が低く抑えられているといった、「期間の定め」を理由とした相違でなければならないのか、条文の文言からは判然としません。

また、条文上、「不合理」性の判断基準について、いくつか考慮要素は掲げられていますが、具体的な判断基準は明確ではありません。

そのため、本件においても、かかる労働契約法20条の解釈を巡って当事者間で対立する主張がなされています。以上を踏まえ、本件における争点を整理すると、概要以下のとおりです。

  1. 本件相違について労働契約20条が適用されるか(「期間の定めがあることにより」の解釈)
  2. 労働契約法20条における「不合理」性の判断基準
  3. 本件相違は「不合理」なものとして労働契約法20条に違反するか
  4. 労働契約法20条違反の法的効果

なお、本件では、労働契約法又は公序良俗違反を理由とする不法行為の成否も主張されていますが、本件最高裁判決において判断された労働契約法20条違反の点を中心に検討いたします。以下、各争点に関する本件一審判決、本件控訴審判決及び本件最高裁判決の概要を整理するとともに、本件最高裁判決の判旨の内容について検討していきます。

本件一審判決、本件控訴審判決及び本件最高裁判決の概要

本件における争点に関する本件一審判決、本件控訴審判決及び本件最高裁判決の概要を整理すると、概要以下のとおりです。

争点 本件一審判決 本件控訴審判決 本件最高裁判決
労働契約法20条適用の有無 「期間の定めがあることにより」との文言は、期間の定めがあることに関連しての意味
→労契法20条の適用あり
同左 「期間の定めがあることにより」とは、有期契約 労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいうものと解するのが相当である(前掲最高裁第二小法廷判決参照)
→労契法20条の適用あり
「不合理」性の判断基準
  • (i)職務の内容、(ii)当該職務の内容及び配置の変更の範囲、(iii)その他の事情を考慮し、とくに(i)(ii)が重要な考慮要素
  • 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律9条に鑑み、(i)及び(ii)が同一である場合、賃金について有期・無期契約労働者間で相違を設けることは、特段の事情がない限り、不合理
  • (i)職務の内容、(ii)当該職務の内容及び配置の変更の範囲、(iii)その他の事情を考慮
  • 「とくに(i)及び(ii)が重要な考慮要素」とは言及せず
  • 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律9条に言及せず
  • (i)職務の内容、(ii)当該職務の内容及び配置の変更の範囲、(iii)その他の事情を考慮
  • 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律9条に言及せず
  • (i)及び(ii)には嘱託乗務員と正社員とに違いはない
  • (ⅲ)その他の事情に関し、「有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断する際に考慮されることとなる事情は、労働者の 職務内容及び変更範囲並びにこれらに関連する事情に限定されるものではない」

「有期契約労働者が定年退職後に再雇用された者であることは、当該 有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かの判断において、労働契約法20条にいう「その他の事情」として考慮されることとなる事情に当たると解するのが相当」

労働契約法20条違反の有無
  • 原告らの(i)及び(ii)は正社員と同一
  • 定年後再雇用者の賃金を定年前から引き下げること自体の合理性は認められるものの、企業一般において広く行われているとまではいえず、差別を正当化する「特段の事情」は認められない

労契法20条違反

  • 原告らの(i)職務の内容並びに(ii)当該職務の内容及び配置の変更の範囲はおおむね正社員と同一
  1. (iii)その他の事情として以下の点を考慮
    高年齢者雇用安定法に基づく高年齢者雇用確保措置としての継続雇用である有期労働契約は広く行われている
  2. 高年者雇用安定法による60歳超の雇用義務づけによる賃金コストの無制限な増大を回避し、定年到達者の雇用と若年層を含めた労働者全体の雇用を実現する必要
  3. 60歳超の者に在職老齢年金、高年齢雇用継続給付
  4. 雇用削減+退職金支給+新規の雇用契約締結
  5. 運輸業又は当該規模の企業では、大多数が定年前と同じ仕事・部署、同じ労働時間で、賃金は約7割(3割減)が広く行われている
  6. 基本給が最も高くなる在籍41年目以上で50歳以上の労働者と在籍1年目の賃金格差は64万余円だが、原告らとの差額はこれを大幅に上回る
  7. 本業において会社が大幅な赤字
  8. 定年後継続雇用における賃金減額は一般的で社会的にも容認
  9. 無期契約者の能率給に対応する歩合給率を有期契約者には高く設定、無事故手当増額、無年金期間に調整給支給
  10. 労組との協議・交渉後の労働条件改善

労働契約法20条に違反しない

  • 有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である。
  • なお、ある賃金項目の有無及び内容が、他の賃金項目の有無及び内容を踏まえて決定される場合もあり得るところ、そのような事情も、有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たり考慮されることになるものと解される。

→賃金項目ごとに労働契約法20条違反を検討

  1. 能率給:違反しない
  2. 職務給:違反しない
  3. 精勤手当:違反する
  4. 住宅手当:違反しない
  5. 家族手当:違反しない
  6. 役付手当:違反しない
  7. 超勤手当:違反する
  8. 賞与:違反しない

本件最高裁判決の内容

争点①~③に関する本件控訴審判決の判旨を要約すると、概要以下のとおりです。

争点① 本件相違について労働契約法20条が適用されるか

本件最高裁判決は、同日に言い渡されたハマキョウレックス事件最高裁判決の判示を引用して、「「期間の定めがあることにより」とは、有期契約 労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいうものと解するのが相当である(前掲最高裁第二小法廷判決参照)」と判示しました。

その上で、本件における被上告人の嘱託乗務員と正社員との本件各賃金項目に係る労働条件の相違は、嘱託乗務員の賃金に関する労働条件が、正社員に適用される賃金規定等ではなく、嘱託社員規則に基づく嘱託社員労働契約によって定められることにより生じているものであるから、当該相違は期間の定めの有無に関連して生じたものであるということができるとして、本件労働条件の相違には労働契約法20条の適用があることを肯定しました。

争点② 労働契約法20条における「不合理」性の判断基準

次に、本件最高裁判決は、労働契約法20条における「不合理」性の判断基準について、以下のように判示しました(再び、ハマキョウレックス事件最高裁判決を引用しています)。

労働契約法20条にいう「不合理と認められるもの」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいうと解するのが相当である(前掲最高裁第二小法廷判決参照)

そして、不合理性の判断に関し、本件最高裁判決は、本件控訴審判決と同様、「被上告人における嘱託乗務員及び正社員は、その業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度に違いはなく、業務の都合により配置転換等を命じられることがある点でも違いはないから、両者は、職務の内容並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲(以下、併せて「職務内容及び変更範囲」という)において相違はないということができる」として、①職務の内容、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲は同一である旨判示しました。

すなわち、本件最高裁判決は、不合理性の判断に関し、労働契約法20条の文言どおり、(i)職務の内容、(ii)当該職務の内容及び配置の変更の範囲、(iii)その他の事情を考慮するという枠組みをとりつつ、本件では(i)及び(ii)には嘱託乗務員と正社員とに違いはないという判断をしました。

その上で、本件最高裁判決は、(iii)その他の事情に関し、「有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断する際に考慮されることとなる事情は、労働者の職務内容及び変更範囲並びにこれらに関連する事情に限定されるものではない」と判示しました。

そして、本件最高裁判決は、(ⅲ)その他の事情に関し、「有期契約労働者が定年退職後に再雇用された者であることは、当該有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かの判断において、労働契約法20条にいう「その他の事情」として考慮されることとなる事情に当たると解するのが相当である」と判示しました。

このように、本件最高裁判決は、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が「不合理」と言えるかどうかの判断にあたり、有期契約労働者が定年退職後の再雇用者かどうかを考慮することを明示したのです。

有期契約労働者がどのような立場の者かによって、労働契約法20条にいう「不合理」性の判断が異なりうることを示したことは、今後の実務においても重要な判断要素といえます。

なお、本件最高裁判決では、本件一審判決と異なり、「不合理」性の判断に関し、短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律9条に言及していない点で、本件控訴審判決と同じ流れにあるといえます。

争点③ 本件相違は「不合理」なものとして労働契約法20条に違反するか

本件最高裁判決は、前記争点②の判断基準を示した後、賃金項目ごとの判断をせずに労働契約法20条違反の有無を検討した本件控訴審判決とは異なり、賃金項目ごとに有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の相違に関する「不合理」性を検討するという枠組みを示しました。

具体的には、本件最高裁判決は、「有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条 件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である。なお、ある賃金項目の有無及び内容が、他の賃金項目の有無及び内容を踏まえて決定される場合もあり得るところ、そのような事情も、有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たり考慮されることになるものと解される」という判断基準を示しています。

本件最高裁判決は、ハマキョウレックス事件高裁判決及び同最高裁判決と同様の流れをくみ、各賃金項目について労働契約法20条違反の有無を検討することを明確にしました。

その上で、本件最高裁判決は、各賃金項目について、以下のように判断しました(本件最高裁判決では、各賃金項目が労働契約法20条に違反するかどうかについて、詳細な検討を行った上で判断をしていますが、以下ではその判断の結論部分を抜粋いたします)。

①能率給及び ②職務給:違反しない

「嘱託乗務員と正社員との職務内容及び変更範囲が同一であるといった事情を踏まえても、正社員に対して能率給及び職務給を支給する一方で、嘱託乗務員に対して能率給及び職務給を支給せずに歩合給を支給するという労働条件の相違は、不合理であると評価することができるものとはいえない」

③精勤手当:違反する

「被上告人の嘱託乗務員と正社員との職務の内容が同一である以上、両者の間で、その皆勤を奨励する必要性に相違はないというべきである」

「正社員に対して精勤手当を支給する一方で、嘱託乗務員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、不合理であると評価することができるものであるから、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である」

④住宅手当及び ⑤家族手当:違反しない

「上記各手当は、いずれも労働者の提供する労務を金銭的に評価して支給されるものではなく、従業員に対する福利厚生及び生活保障の趣旨で支給されるものであるから、使用者がそのような賃金項目の要否や内容を検討するに当たっては、上記の趣旨に照らして、労働者の生活に関する諸事情を考慮することになるものと解される。被上告人における正社員には、嘱託乗務員と異なり、幅広い世代の労働者が存在し得るところ、そのような正社員について住宅費及び家族を扶養するための生活費を補助することには相応の理由があるということができる。他方において、嘱託乗務員は、正社員として勤続した後に定年退職した者であり、老齢厚生年金の支給を受けることが予定され、その報酬比例部分の支給が開始されるまでは被上告人から調整給を支給されることとなっているものである」

「これらの事情を総合考慮すると、嘱託乗務員と正社員との職務内容及び変更範囲が同一であるといった事情を踏まえても、正社員に対して住宅手当及び家族手当を支給する一方で、嘱託乗務員に対してこれらを支給しないという労働条件の相違は、不合理であると評価することができるものとはいえないから、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である」

⑥役付手当:違反しない

「被上告人における役付手当は、その支給要件及び内容に照らせば、正社員の中から指定された役付者であることに対して支給されるものである」

「正社員に対して役付手当を支給する一方で、嘱託乗務員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるということはできない」

⑦超勤手当:違反する(ただし精勤手当との関係)

「嘱託乗務員に精勤手当を支給しないことは、不合理であると評価することができるものに当たり、正社員の超勤手当の計算の基礎に精勤手当が含まれるにもかかわらず、嘱託乗務員の時間外手当の計算の基礎には精勤手当が含まれないという労働条件の相違は、不合理であると評価することができるものであるから、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である」

⑧賞与:違反しない

「賞与は、月例賃金とは別に支給される一時金であり、労務の対価の後払い、功労報償、生活費の補助、労働者の意欲向上等といった多様な趣旨を含み得るものである」「嘱託乗務員は、定年退職後に再雇用された者であり、定年退職に当たり退職金の支給を受けるほか、老齢厚生年金の支給を受けることが予定され、その報酬比例部分の支給が開始されるまでの間は被上告人から調整給の支給を受けることも予定されている」

「また、本件再雇用者採用条件によれば、嘱託乗務員の賃金(年収)は定年退職前の79%程度となることが想定されるものであり、嘱託乗務員の賃金体系は、前記アで述べたとおり、嘱託乗務員の収入の安定に配慮しながら、労務の成果が賃金に反映されやすくなるように工夫した内容になっている」

「これらの事情を総合考慮すると、嘱託乗務員と正社員との職務内容及び変更範囲が同一であり、正社員に対する賞与が基本給の5か月分とされているとの事情を踏まえても、正社員に対して賞与を支給する一方で、嘱託乗務員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、不合理であると評価することができるものとはいえないから、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である」

争点④ 労働契約法20条違反の法的効果

なお、本件最高裁判決は、上記争点③に関し、精勤手当と超勤手当については労働契約法20条に違反するとした上で、同法違反の法的効果について、ハマキョウレックス事件最高裁判決を引用し、以下のように判示しました。

有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が同条に違反する場合であっても、同条の効力により、当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではないと解するのが相当である(前掲最高裁第二小法廷判決参照)。また、被上告人は、嘱託乗務員について、従業員規則とは別に嘱託社員規則を定め、嘱託乗務員の賃金に関する労働条件を、従業員規則に基づく賃金規定等ではなく、嘱託社員規則に基づく嘱託社員労働契約によって定めることとしている。そして、嘱託社員労働契約の内容となる本件再雇用者採用条件は、精勤手当について何ら定めておらず、嘱託乗務員に対する精勤手当の支給を予定していない。このような就業規則等の定めにも鑑みれば、嘱託乗務員である上告人らが精勤手当の支給を受けることのできる労働契約上の地位にあるものと解することは、就業規則の合理的な解釈としても困難である。さらに、嘱託乗務員の時間外手当の算定に当たり、嘱託乗務員への支給が予定されていない精勤手当を割増賃金の計算の基礎となる賃金に含めるべきであると解することもできない」

本件最高裁判決の評価

本件最高裁判決は、同日に言い渡されたハマキョウレックス事件最高裁判決とともに、労働契約法20条の解釈に関して最高裁としての立場を初めて明らかにしたリーディングケースということができます。

また、本件最高裁判決は、本件控訴審判決が個々の労働条件ごとに不合理性を判断することをしなかったこととは異なり、ハマキョウレックス事件高裁判決及び同最高裁判決と同様の流れをくみ、各賃金項目について労働契約法20条違反の有無を検討することを明確にしました。

このような判断の流れは、平成24年8月10日基発0810第2号「労働契約法の施行について」(以下「施行通達」といいます。)第5の6(2)オによれば、「法第20条の不合理性の判断は、有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違について、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、個々の労働条件ごとに判断されるものであること。」と規定していることとも整合するものと評価することができます。

本件最高裁判決を踏まえた今後の対策

本件一審判決は、「職務の内容並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲が同一である場合には、特段の事情がない限り、有期契約社員と無期契約社員とで賃金に相違があることは不合理なものとして無効となる」と判示していたことから、有期契約社員の賃金の引き下げを検討していた企業の中には、有期契約社員と無期契約社員とで職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲に差異を設け、本件一審判決の射程が及ばないよう対策を実施ないし検討していた企業もあるかもしれません。

しかしながら、今回の本件最高裁判決及びハマキョウレックス事件最高裁判決によって、労働契約法20条違反の法的効果、同法違反の判断基準について、最高裁がどのような考え方をとるのかが明示されたことを受け、本件一審判決の判断枠組みは修正されることとなりました。

そして、本件最高裁判決やハマキョウレックス事件最高裁判決の枠組みに従えば、有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違は、各賃金項目に整理して判断されることになります。

有期契約労働者と無期契約労働者の双方の雇用形態を採用している企業では、各賃金項目に応じて労働条件の相違に問題はないか、詳細に点検を進めていくことが求められます。

引用・出典

こちらは、2018年7月に発行された「NS NEWS LETTER.vol24」に掲載されたものと同一の内容です。