はじめに

前回に引き続き、本稿では賃貸借契約の保証人に対する請求について解説したいと思います。

保証人に対する建物明渡請求の可否

主債務者である賃借人が賃料未払いの状態である場合、賃貸人は契約を解除して賃借人に明渡請求をするのが一般的ですが、保証人に対しても請求できるのでしょうか。

これについては、大阪地判昭和51年3月12日において、保証人への明渡請求が棄却されています。

「明渡債務のように、主たる債務が債務者に一身専属的な給付を目的とし、保証人が代わってこれを実現しえないものである場合には、その保証債務は主たる債務が不履行によって損害賠償債務に変ずることを停止条件として効力を生ずるものとし、具体的には、明渡不履行に基づく住宅価格相当額の填補賠償債務を負担するにとどまり、保証人には、建物の明渡義務そのものは、ないといわざるを得ない」

よって、明渡の相手方はあくまでも賃借人ということになります。

保証人の責任の範囲

保証人に対しては未払賃料等を請求することができます。

では、賃貸借契約が更新された場合にも、保証人に対し未払賃料や未払賃料相当損害金、更新手数料などを請求することはできるのでしょうか。

更新された場合の未払賃料

保証人は原則として連帯保証契約の際に定めた期間について保証をします。もっとも、連帯保証人の責任期間を別途定めることは少なく、実際に期間が定められていない場合には、賃貸借契約期間中の債務一切を保証することになります。

賃貸借契約が更新された場合に更新後の賃料債務についても保証人は責任を負うかという点、最判平成9年11月13日が参考になります。

「期間の定めのある建物の賃貸借において、賃借人のために保証人が賃貸人との間で保証契約を締結した場合には、反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情がない限り、保証人が更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを負う趣旨で合意されたものと解するのが相当であり、保証人は、賃貸人において保証債務の履行を請求することが信義則に反すると認められる場合を除き、更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを免れないものというべきである。」

この判例から、賃貸借契約が合意更新及び法定更新された場合、更新後の賃料についても保証人が責任を負うことになります。

更新料の請求の可否

更新料の請求が認められるか

更新料の支払い規定については、賃借人の利益を害することから、消費者契約法10条によって無効であるという争いがされていましたが、賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載されており、その金額が高額に過ぎるものでなければ更新料の支払を定めた条項も有効」(最判平成23年7月15日)とされ、更新料の請求自体は可能です。

合意更新の場合

合意更新の場合には、合意によって支払い債務が発生するため、保証人に対しても更新料の請求が可能です。

法定更新の場合

法定更新された場合の更新料については、東京地判平成23年4月27日が参考になります。

この裁判例の事案では、賃貸借契約書に以下のような規定がありました。

第4条 第3条記載の賃貸借期間満了の場合は、XY協議の上この契約を更新することができる。前項によりこの契約を更新する場合には、乙は甲に対し更新後の賃料の1ヶ月分の更新料を支払うものとする。

もっとも、実際には法定更新がされたという事案で、東京地裁は、第4条は合意更新をする際に更新料の支払い義務を課したものと解するのが相当であり、法定更新の場合にまで同規定により更新料の支払い義務があると解釈することはできないと判断しています。したがって、法定更新の場合には、更新料の請求はできないということになります。

よって、保証人に対しても更新料の請求はできないことになります。

保証人に保証契約書が差し入れられていない場合

請求を受けた保証人の反論として、保証契約書を渡されていないため、保証契約は無効だという主張がなされることが想定されます。

保証契約は様式行為であることから(民法446条2項)、保証契約は書面によりなされる必要があります。これは、「保証約束が保証人によって安易かつ軽率になされることを防ぎ、またその意思を確認しようとするもの」と指摘されています[1]

もっとも、書面の交付義務自体は規定されていません。したがって、保証契約の内容を明確にするため、保証契約書の写しを交付するなどしておくことが望ましいですが、交付がされていないとしても保証契約が無効になるわけではありません。

したがって、保証契約書を受け取っていないから保証債務はないという主張は認められないことになります。

さいごに

保証人に対しては賃貸借契約に伴う金銭債務について請求することができますが、更新料の請求の可否など、細かい争点もあります。賃借人が行方不明になってしまったり、交渉ができないといった事情があり、保証人に請求をせざるを得ない場合、本稿が「請求できるものはなんなのか」を確認するきっかけとなれば幸いです。

 

出典・引用

[1] 我妻・有泉コンメンタール民法 総則・物権・債権 860頁(日本評論社)