はじめに

前稿に引き続き、賃貸建物の明渡しを実現するための、訴訟及び執行の問題について解説したいと思います。

訴訟提起を行う際の注意点

催告兼解除通知を送付した後の流れ

催告兼解除通知を送付したのち、相当の期間が経過すれば、賃貸借契約は解除されます。したがって、解除がされたのを確認して、訴訟提起の準備を進める必要があります。

訴状に記載する訴額の算定に必要になるため、まずは必要書類を集めます。具体的には、以下の書類の取り付けを行います。

  1. 明渡しを求める対象物件の全部事項証明書
  2. 明渡しを求める対象物件の固定資産評価証明書
  3. (賃貸人もしくは賃借人が法人である場合)法人の登記事項全部証明書

なお、後述する駐車場や庭、敷地なども賃貸借契約の対象となっている場合には、建物の登記簿のほか、土地の登記簿と固定資産評価証明書も取得する必要があります。

明渡の対象の確認

建物賃貸借契約の対象が何になるのか、すなわち明渡の対象がどこまでになるのかを明確にしておく必要があります。

たとえば、居住用建物としてアパートやマンションの一室を貸している場合、賃貸借契約の中に、駐車場の賃貸が含まれていないか確認する必要があります。また、建物を1棟貸す場合、駐車場や、建物の敷地などが賃貸借の対象になっていないかも確認する必要があります。

部屋や建物の明渡しを進めたとしても、駐車場や庭、敷地について明渡の対象にしないのであれば、最終的に執行の対象に含めることができないため、駐車場や敷地の明渡が実現できず、明渡しが功を奏しないということになってしまうリスクがあります。

執行を見据えた添付資料の作成

訴状を作成する場合には、執行を見据えて資料を作成する必要があります。

すなわち、明渡の強制執行執行を申し立てる際、獲得した判決には訴状の内容や当事者目録、物件目録が掲載されますが、このほか明渡の対象物件の図面を掲載し、明渡の対象を明示する必要があります。執行の段階になった時に、執行の対象を明らかにするためです。

したがって、建物の平面図などを添付し、賃貸している物件の場所(アパート等であれば、何階のどの位置にある部屋なのか)を明らかにする必要があります。

駐車場や敷地についても同様に、建物との位置関係、駐車区画の位置、駐車区画の番号などを図面化し、どの範囲の土地の明渡し行うのかを明らかにします。

土地・建物の状況や明渡しの対象によっては、どのような添付資料を作成すべきなのか変わるため、具体的には早い段階で執行官との打ち合わせをしておき、執行の段階で躓かないように準備をすることが重要です。

訴額の算定

訴状を作成するにあたり、建物の明渡請求は金銭の請求ではないため、訴額をいくらにすれば良いのかという問題に直面します。

基本的には、土地や建物の明渡請求の場合、訴額は以下のように計算することになっています。

【土地】

明渡の対象となる土地の面積 × 1/4 × 固定資産評価額

【建物】

明渡の対象となる建物の面積 × 1/2 × 固定資産評価額

そこで、取得した全部事項証明書に記載されている床面積や地積を確認しましょう。また、賃貸借契約書を確認し、賃貸借の対象となっている床面積や地積を確認します。あくまでも占有している面積の1/4ないし1/2の評価額が訴額となることに注意しましょう。

執行申立を行う場合の流れ

必要書類の取り付け

判決が出されたら、執行文付与の申立と送達証明書の交付申請を行います。

判決が確定したのち、訴訟記録のある裁判所書記官あてに執行文付与の申し立てを行うことができます。この時、仮執行宣言付判決である場合には、確定を待つことなく執行文付与の申立が可能です。

明渡の強制執行の申立てと断行までの流れ

対象不動産の所在地を管轄する地方裁判所宛に申し立てを行います。

申立てがされた後、予納金の納付や執行補助者の確定などの準備が進められます。そして、執行官は、原則として申立から2週間以内の日に「明渡しの催告」をすることができるとされています(民事執行法168条の2第1項、同規則154条の3第1項)。

引き渡しの期限は、原則として明渡の催告の日から1月を経過する日とされ(同法168条の2第2項)、当該日に明渡の断行が行われます。

断行の日の当日には、執行官が対象物件の占有を取得し、賃借人に明け渡すという方法で行われます。執行の際に残置された動産などは債務者に引き渡されますが、引き渡しができない時はその場で換価して処分するもしくは保管場所に保管するということになります。

執行の際に物件に立ち入るための解錠士、換価のための鑑定士、保管場所への動産移動のトラックなど多くの準備が必要になりますが、明渡の催告の日に執行補助者が現地に同行し、どういった準備が必要になるのか検討・準備してくれるため、執行補助者の存在は不可欠といえます。

おわりに

以上が明渡しを進める際の訴訟提起や執行の注意点と流れになります。

次回は、賃料を支払ってくれない場合に、賃借人ではなく保証人に対して行うことのできる請求とその問題点を解説したいと思います。