解雇③—懲戒解雇と退職金の不支給

【質問】

当社の社員Xは、経理部に所属していることを利用して、会社の顧客預かり金を度々着服し、その金額は100万円弱に及んでいました。

そして、このような着服が発覚しないよう、顧客の名義や印鑑を無断で使用して偽造伝票まで作成していました。

当社としては、このような業務上横領に該当するような不正行為を働いたXに対して懲戒解雇するとともに、Xの退職金についても全額不支給にしようと考えていますが、Xの退職金を0とすることに法律上の問題があるでしょうか。

【回答】

退職金を減額ないし不支給とする旨の条項は一般的に有効と考えられていますが、退職金を一切支給しないことが許容されるためには、労働者の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要、と解されています。

ご相談のケースでは、Xは業務上横領に相当するような不正行為を働いていますので、かかる重大な不信行為があったものとして、退職金を0とすることも許容されうるものと思われます。

【解説】

1. 退職金の法的性質

退職金とは、労働契約の終了に伴い、会社が社員に支払う一定の金銭のことをいいます。

退職金には、賃金の後払い的性格があるだけでなく、功労報償的性格及び生活保障的性格があるとされています。

退職慰労金を規定するか否かは会社の自由ですが、就業規則等により退職金を支給すること及びその支給基準が定められている場合には、退職金は「賃金」として扱われることとなります(シンガー・ソーイング・メーシン・カムパニー事件(最高裁昭和48年1月19日))。

2. 退職金不支給・減額条項の有効性

前述のとおり、退職金も至急要件を具体的に規定することによって労基法上の「賃金」となるため、退職金の不支給又は減額をする場合、賃金全額払いの原則(労基法24条1項)と抵触しないかが問題となります。

もっとも、退職金請求権は、社員の退職後、具体的に金額が確定した時点で初めて発生することから、退職請求権が発生していない時点で退職金を不支給又は減額する旨の合意については、賃金全額払いの原則には抵触しないと考えられています。

また、前述のとおり、退職金には功労報償的性格が認められることから、退職金を不支給又は減額する旨の合意は、一般的に公序良俗に反するとまではいえないと解されています(三晃社事件(最高裁昭和52年8月9日))。

3. 不支給の基準

このように、退職金を不支給又は減額する旨の規定が有効であるとしても、退職金を不支給とすることが認められるためには、「労働者の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要」とされています(小田急電鉄(退職金請求)事件(東京高裁平成15年12月11日労判867号))。

たとえば、経理部長であった従業員が会社の仕入れ取引に際して、自己が代表を務める会社を介在させて利益を上げていたこと等を理由とする懲戒解雇及び退職金不支給等の効力が争われた事案において、他の会社の代表取締役となり、当該他の会社との取引で利益をあげることが、重大な職務専念義務ないし忠実義務違反になるとして、懲戒解雇及び退職金不支給をいずれも有効とした裁判例があります(東京メデカルサービス・大幸商事事件(東京地裁平成3年4月8日労判590号))。

4. ご相談のケースについて

退職金を減額ないし不支給とする旨の条項は一般的に有効と考えられていますが、退職金を一切支給しないことが許容されるためには、労働者の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要、と解されています。

ご相談のケースでは、Xは業務上横領に相当するような不正行為を働いていますので、かかる重大な不信行為があったものとして、退職金を0とすることも許容されうるものと思われます。

 

(注)本記事の内容は、記事掲載日時点の情報に基づき作成しておりますが、最新の法例、判例等との一致を保証するものではございません。また、個別の案件につきましては専門家にご相談ください。

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