【質問】
(*本記事は、「資本業務提携①—資本業務提携の意義と手法」の続きです。)
当社X社は大手自動車メーカーへ自動車部品を納入している中小ゴム製品製造業者ですが、度重なる大手メーカーからのコスト削減要求のプレッシャーもあり、競業他社Y社との連携を強化すべく、業務提携を検討しています。第三者割当による資本業務提携について教えてください。
【回答】
資本業務提携の手法は、①新株を発行し、対象会社の資金調達が可能となる第三者割当増資と業務提携を組み合わせる方法と、②対象会社の株主からの発行済株式の取得と業務提携を組み合わせる方法の2種類に大別することができます。
②既存株式取得の方法としては、(i)市場における買付け、(ii)相対取引、(iii)公開買付けの3つに分類することができます。これらの手法を実施するに際しては、主に会社法、並びに上場株式等であれば金融商品取引法及び取引所規則等を遵守する必要があります。
【解説】
資本業務提携の手法
「資本業務提携①—資本業務提携の意義と手法」でご説明したとおり、資本業務提携とは、端的には資本提携+業務提携をいい、業務提携の手法としては様々なものが考えられる一方、資本提携として主に利用されている手法は、概要2つに整理することができます。
すなわち、対象会社に資金調達ニーズがある場合には、①対象会社が資本参加者に対して新株を発行紙、資本参加者から株の対価を払い込んでもらう第三者割当が用いられます(第三者割当による資本増強型)。
これに対して、既存株主に対象会社の株式を売りたいニーズがある場合には、②資本参加者による既存株主からの対象会社株式の取得が用いられます(既存株式取得型)。
それぞれの手法について、具体的な方法及び主な法規制について、以下、概要を説明していきます。
既存株式取得型資本業務提携の具体的な手法
既存株式取得型の資本(業務)提携を行う場合、大きく3つの方法があります。
(i) 市場における買付け
・数パーセント程度の取得に留まる場合
(ii) 相対取引(☆)
・特定の大株主から(公開買付規制に抵触しないよう)3分の1未満を取得する場合
(iii) 公開買付け
・上場会社等、継続開示義務がある会社の株式について、3分の1超を取得する場合等
これらのうち、資本(業務)提携の手法としては、(ii)相対取引又は(iii)公開買付けが用いられることが一般的です。
なお、公開買付規制とは、「上場会社等、継続開示義務がある会社の株券等を一定の態様で買い付ける場合に、投資家に対する情報開示と公平な売却機会の確保を求める規制」をいい、対象会社が非上場会社であり有価証券報告書等を提出したことなければ、とくに公開買付規制に留意する必要はありません。
既存株式取得に係る主な法規制
既存株式取得型の資本業務提携の手法として用いられることの多い(ii)相対取引又は(iii)公開買付けを行う場合、それぞれの手法に係る主な法規制及び留意事項は概要以下のとおりです。
実務上は、とくに株主間契約の締結によって、契約上、資本参加者の対象会社に対するコントロールを確保する手立ての構築が重要となります。
相対取引
- 対象会社の株式が譲渡制限株式である場合には、相対取引に際して対象会社の株主総会又は取締役会の承認を得る必要(会社法139条1項)
- 株主間契約の締結(☆)
- 公開買付規制の適用を回避すべく、相対取引では3分の1未満の取得に留まる場合が多い
- もっとも、3分の1未満の議決権だけでは支配権獲得に十分とはいえないため、対象会社との間で株主間契約を締結し、取締役について資本参加者に一定数の指名権を確保する、対象会社の一定の行為に対する拒否権を規定する等して、一定のコントロールを確保
- (上場会社の場合)売出し規制への対応(金商法2条4項)
- (上場会社の場合)インサイダー取引規制(金商法166条1項)
- (上場会社の場合)大量保有報告書・変更報告書(金商法27条の23、金商法27条の25)
- (上場会社の場合)臨時報告書(金商法24条の5第4項・開示府令19条2項4号)
- (上場会社の場合)企業行動規範に基づく少数株主にとって不利益ではないことの意見の入手(取引所規則)
公開買付け(対象会社が上場会社であることを前提)
- 金商法上の公開買付手続の遵守
- インサイダー取引規制
- (大株主が応募契約を締結している場合等における)対象会社における利益相反の回避又は軽減措置
まとめ
第三者割当による資本増強型資本業務提携、既存株式取得型資本業務提携それぞれについての関連法規制についてまとめると、概要以下のとおりです。
関連規制 | 第三者割当型 | 既存株式取得型 |
---|---|---|
会社法その他(☆) |
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(上場会社等の継続開示義務がある会社)金商法 |
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(上場会社等の継続開示義務がある会社)取引所規則 |
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江頭憲治郎「株式会社法第6版」(株式会社有斐閣)
(注)本記事の内容は、記事掲載日時点の情報に基づき作成しておりますが、最新の法例、判例等との一致を保証するものではございません。また、個別の案件につきましては専門家にご相談ください。