解雇に関する留意点について、解説しております。

1 解雇—成績不良社員の解雇

【質問】

コンサル会社を営む当社では、将来の幹部候補として、2年前にXを中途採用しました。

しかし、この2年間、Xには5つのプロジェクトに従事しましたが、そのほとんどで期待される能力・適格性が平均に達しておらず、また、X自身、能力不足の自覚に欠け、改善が期待できません。

当社としては、Xが改善できるよう誠実に交渉を重ねてきたつもりですが、依然として改善の兆しが見られないことから、Xの解雇を検討しています。Xを解雇することに何か問題があるでしょうか。

【回答】

採用後2年間、Xは5つのプロジェクトに従事したものの、そのほとんどで期待される能力・適格性が平均に達していないこと、また、X自身、能力不足の自覚に欠け、改善が期待できないこと、会社として誠実に交渉を重ねてきたことを考慮すると、解雇権濫用法理に抵触せず、Xの解雇は有効と認められるものと思われます。

【解説】

普通解雇

労働契約は、社員が会社のために労働し、会社がこれに対して賃金を支払う契約をいう(労働契約法6条)ところ、普通解雇とは、労務の提供という債務の不履行状態にある社員に対して、会社が一方的に労働契約を終了させることをいいます。

かかる労務提供債務の不履行としては様々な事由が考えられますが、典型的なものとしては、①労働者の労務提供の不能や労働能力又は適格性の欠如、②労働者の規律違反、③経営上の必要性(整理解雇)、④ユニオン・ショップ協定に基づく組合の解雇要求、という4つの類型に分類することが可能です。

ご相談のケースでは、このうちの①が問題となります。

普通解雇に係る実体的規制(解雇権濫用法理)

前述のとおり、普通解雇とは会社が一方的に社員との労働契約を終了させることをいいますが、解雇は社員に多大な影響を与えるものであるため、会社による解雇を無制限に認めるべきではなく、一定限度の制限を加える必要があります。

そこで、普通解雇に係る最も重要な実体的規制として、過去の判例の集積に基づき、労働契約法16条は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と規定しています(解雇権濫用法理)。

もっとも、かかる解雇権濫用法理は抽象的な規範であるため、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」に該当するか否かは、事案及び解雇事由に応じて個別具体的に判断されることとなります。

具体的には、ご相談のケースのように、①労働者の労務提供の不能や労働能力又は適格性の欠如を理由に解雇する場合には、当該会社の業務内容、規模、当該社員の職務内容、雇用形態、採用理由、職務に要求される能力、勤務成績、当該社員の経歴、改善可能性の有無等を考慮し、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」に該当するか判断することとなります。

なお、解雇権濫用法理以外に、普通解雇に係る実体的規制として、たとえば、国籍、信条、社会的身分による差別の禁止(労基法3条)や、業務上災害や産前産後休業の場合、休業している期間及びその後30日間は解雇の禁止(労基法19条)といった規制があることにも留意が必要です。

普通解雇に係る手続的規制

解雇権濫用法理等の実体的規制に加えて、会社は、社員を解雇する場合、少なくとも30日前にその予告をするか、そうでない場合は30日以上分の平均賃金を支払わなければならない(労基法20条1項)といった手続的規制も遵守する必要があります。

かかる解雇予告義務に違反した場合、解雇通知後30日後に期間を経過するか、又は解雇通知後に予告手当ての支払をしたときは、そのいずれかのときから解雇の効力が生じるものとされています(細谷服装事件(最高裁昭和35年3月11日判時218号))。

ご相談のケースについて

ご相談のケースは、①労働者の労務提供の不能や労働能力又は適格性の欠如を理由に解雇する場合に該当するところ、採用後2年間、Xは5つのプロジェクトに従事したものの、そのほとんどで期待される能力・適格性が平均に達していないこと、また、X自身、能力不足の自覚に欠け、改善が期待できないこと、会社として誠実に交渉を重ねてきたことを考慮すると、Xの解雇は「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」とはいえず、解雇は有効と認められるものと思われます。

2 解雇—普通解雇と懲戒解雇の相違点

【質問】

当社の社員Xはいわゆる問題社員で、日常的に勤務態度が悪い上に、顧客本人の確認資料の不備をごまかすために、顧客から預かった運転免許証を改ざんしていたなど、刑事事件にもなりうるような不祥事を度々繰り返してきました。

Xに対して、普通解雇ではなく、懲戒解雇を検討していますが、どちらを選択してもとくに問題はないでしょうか。

【回答】

普通解雇と懲戒解雇は、いずれも会社が一方的に労働契約を終了させる点では共通していますが、懲戒解雇は解雇としての性格だけでなく、懲戒処分としての性格も併有していることから、解雇はより制限的にしか認められず、また、退職金の支給や失業手当の給付において不利に扱われると行った相違点があります。

【解説】

普通解雇と懲戒解雇

労働契約は、社員が会社のために労働し、会社がこれに対して賃金を支払う契約をいう(労働契約法6条)ところ、普通解雇とは、労務の提供という債務の不履行状態にある社員に対して、会社が一方的に労働契約を終了させることをいいます。

これに対して、懲戒解雇とは、重大な企業秩序違反行為をした社員に対して、制裁として、会社が一方的に労働契約を終了させることをいいます。懲戒解雇は懲戒処分の中でも最も重い処分であり、解雇としての性格と、懲戒処分としての性格を併せ持っているものといえます。

以上のとおり、普通解雇と懲戒解雇は、いずれも会社が一方的に労働契約を終了させる点では共通していますが、懲戒解雇は解雇としての性格だけでなく、懲戒処分としての性格も併有していることから、以下のような相違点があります。

普通解雇と懲戒解雇の主な相違点

普通解雇と懲戒解雇の主な相違点を整理すると、概要以下の図表のとおりです。

実務上、大きな相違点としては、懲戒解雇の方が解雇権濫用法理がより厳格に解釈されること、及び、退職金について全額不支給とされることが一般的であることが挙げられます。

  普通解雇 懲戒解雇
就業規則における懲戒事由等の規定の要否 不要。ただし、常時10人以上の社員を使用する場合、必要 必要
解雇の制限(☆) 規律違反の態様、違反の程度、違反の回数、改善の余地の有無及び改善の機会の付与を考慮 より厳格に解釈。行為の内容や態様、企業秩序違反の知恵度、懲戒処分の選択の相当性、他の懲戒処分との均衡等を考慮
解雇手続
  • 協議・同意条項がある場合、遵守が必要。
  • 即時解雇は不可
普通解雇と同様
退職金の減額・不支給(☆) 支給される 全額不支給とされるのが一般的
失業手当 3ヶ月の給付制限なく失業保険を受け取れる 3ヶ月の給付制限あり
就業規則における懲戒事由等の規定の要否

懲戒解雇の場合、懲戒処分の根拠が社員の事前の同意に求められることから、就業規則に懲戒事由及び懲戒処分の手段を明記することが必要となります(フジ興産事件(最高裁平成15年10月10日労判861号))。

これに対して、普通解雇の場合、債務不履行に基づく解雇であるため、本来就業規則の規定は必要ありません。ただし、常時10人以上の社員を使用する場合、解雇事由等を定めた就業規則の作成と届出が必要となります(労基法89条)。

解雇の制限

懲戒解雇、普通解雇、いずれの場合であっても社会通念上相当でない場合には、当該解雇は無効となります(労働契約法15条、16条)。

もっとも、懲戒解雇の場合、社会通念上相当か否かは、行為の内容や態様だけでなく、企業秩序違反の程度、懲戒処分の選択の相当性、他の懲戒処分との均衡等を考慮して判断します(懲戒権濫用法理)。

これに対して、普通解雇における解雇権濫用法理の場合、規律違反の態様、違反の程度、違反の回数、改善の余地の有無だけでなく、社員に改善の機会を付与したか否かを考慮して判断されます。

このように、両者では、社会通念上相当か否かの判断基準が異なるといえ、実質的には、懲戒解雇の方がより厳格に解釈される傾向にあるといえます(すなわち、解雇が無効とされる傾向にあるといえます)。

解雇手続

懲戒解雇、普通解雇、いずれの場合であっても、労働協約に解雇に際して労働組合と協議する、ないし労働組合の同意を得て行うといった、協議・同意条項が規定されている場合には、これを遵守する必要があります。

また、懲戒解雇、普通解雇、いずれも解雇の一種であることに変わりはないため、どちらも解雇予告制度の適用を受けることにも違いはありません。

このように、両者は解雇手続の面では特段の相違はないといえます。

退職金の減額・不支給

退職金不支給条項の有効性については争いがありますが、その内容が合理的である場合には、かかる条項も賃金全額払いの原則に反せず有効と解されています。そして、懲戒解雇の場合には、退職金を全額不支給としている企業が一般的かと思います。

これに対して、普通解雇の場合、退職事由によってその支給額が異なることが多いですが、支給されることが一般的です。

失業手当

雇用保険法33条は、「被保険者が自己の責めに帰すべき重大な理由によつて解雇され、又は正当な理由がなく自己の都合によつて退職した場合には、第二十一条の規定による期間の満了後一箇月以上三箇月以内の間で公共職業安定所長の定める期間は、基本手当を支給しない。」と規定しており、懲戒解雇の場合は、失業手当の給付を受けるまでに3ヶ月の給付制限期間があります

これに対して、普通解雇の場合は、特定受給者として、3ヶ月の給付制限なく、失業保険金の給付を受けることができます

3 解雇—懲戒解雇と退職金の不支給

【質問】

当社の社員Xは、経理部に所属していることを利用して、会社の顧客預かり金を度々着服し、その金額は100万円弱に及んでいました。

そして、このような着服が発覚しないよう、顧客の名義や印鑑を無断で使用して偽造伝票まで作成していました。

当社としては、このような業務上横領に該当するような不正行為を働いたXに対して懲戒解雇するとともに、Xの退職金についても全額不支給にしようと考えていますが、Xの退職金を0とすることに法律上の問題があるでしょうか。

【回答】

退職金を減額ないし不支給とする旨の条項は一般的に有効と考えられていますが、退職金を一切支給しないことが許容されるためには、労働者の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要、と解されています。

ご相談のケースでは、Xは業務上横領に相当するような不正行為を働いていますので、かかる重大な不信行為があったものとして、退職金を0とすることも許容されうるものと思われます。

【解説】

退職金の法的性質

退職金とは、労働契約の終了に伴い、会社が社員に支払う一定の金銭のことをいいます。

退職金には、賃金の後払い的性格があるだけでなく、功労報償的性格及び生活保障的性格があるとされています。

退職慰労金を規定するか否かは会社の自由ですが、就業規則等により退職金を支給すること及びその支給基準が定められている場合には、退職金は「賃金」として扱われることとなります(シンガー・ソーイング・メーシン・カムパニー事件(最高裁昭和48年1月19日))。

退職金不支給・減額条項の有効性

前述のとおり、退職金も至急要件を具体的に規定することによって労基法上の「賃金」となるため、退職金の不支給又は減額をする場合、賃金全額払いの原則(労基法24条1項)と抵触しないかが問題となります。

もっとも、退職金請求権は、社員の退職後、具体的に金額が確定した時点で初めて発生することから、退職請求権が発生していない時点で退職金を不支給又は減額する旨の合意については、賃金全額払いの原則には抵触しないと考えられています。

また、前述のとおり、退職金には功労報償的性格が認められることから、退職金を不支給又は減額する旨の合意は、一般的に公序良俗に反するとまではいえないと解されています(三晃社事件(最高裁昭和52年8月9日))。

不支給の基準

このように、退職金を不支給又は減額する旨の規定が有効であるとしても、退職金を不支給とすることが認められるためには、「労働者の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要」とされています(小田急電鉄(退職金請求)事件(東京高裁平成15年12月11日労判867号))。

たとえば、経理部長であった従業員が会社の仕入れ取引に際して、自己が代表を務める会社を介在させて利益を上げていたこと等を理由とする懲戒解雇及び退職金不支給等の効力が争われた事案において、他の会社の代表取締役となり、当該他の会社との取引で利益をあげることが、重大な職務専念義務ないし忠実義務違反になるとして、懲戒解雇及び退職金不支給をいずれも有効とした裁判例があります(東京メデカルサービス・大幸商事事件(東京地裁平成3年4月8日労判590号))。

ご相談のケースについて

退職金を減額ないし不支給とする旨の条項は一般的に有効と考えられていますが、退職金を一切支給しないことが許容されるためには、労働者の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要、と解されています。

ご相談のケースでは、Xは業務上横領に相当するような不正行為を働いていますので、かかる重大な不信行為があったものとして、退職金を0とすることも許容されうるものと思われます。

4 解雇−社員の整理解雇

【質問】

外資系投資銀行の当社では、マーケットの悪化に伴い、日本のエクイティキャピタルマーケッツ部門から撤退することとし、同部門の閉鎖を決定しました。

そこで、同部門に所属しているXに対して、再就職活動の援助や特別退職手当等の条件を提示した上で雇用契約の合意解約を申し入れましたが、Xはこれに応じてくれません。その後もXと交渉を重ね、報酬はカットすることになりますが、関連会社の一般事務職のポジションも提案しましたが、これについてもXは拒否してきました。

Xとの交渉を始めてから6ヶ月を経過しても解決に至らなかったことから、Xを解雇する旨の通知をしたところ、Xから当社に対して、地位保全等の仮処分を申し立てられました。当社によるXの解雇に問題があったのでしょうか。

【回答】

ご相談のケースでは、必ずしも事実関係が明らかではありませんが、マーケットの悪化に伴い①人員削減の必要性があったこと、Xに対して再就職活動の援助や特別退職手当等の条件を提示した上で雇用契約の合意解約を申し入れたり、別のポストを提案したりした上で解雇を選択しており、②人員削減の手段として解雇を選択することの必要性(解雇回避努力義務)も認められることからすると、③被解雇者選定の妥当性、④手続の妥当性が認められれば、Xの解雇は解雇権濫用法理に抵触せず、有効と判断されるものと思われます。

【解説】

整理解雇とは

整理解雇とは、会社が経営不振の打開等、経済的理由から余剰人員削減を目的として行う解雇のことをいいます。

整理解雇には、経営困難や不振を理由にその危機を脱するために行うもの(危機回避型)と、経営困難に陥る前に経営の合理化や競争力強化を目的として行うもの(戦略的合理化型)の2種類とがあります。

いずれの類型であっても、整理解雇は多数の労働者に大きな影響を及ぼすものであることが通常であるため、解雇権濫用法理(労働契約法16条)の適用を受け、正当と認められない場合には無効となります。

整理解雇の要件

整理解雇が認められるための要件については多数の判例が出されており、その中で整理解雇の正当性判断に関する4つの基準が確立されています。

具体的には、①人員削減の必要性、②人員削減の手段として解雇を選択することの必要性(解雇回避努力義務)、③被解雇者選定の妥当性、④手続の妥当性(労働者との協議・説明)の4つの基準が掲げられています。

かつては、上記4つの基準全てを満たさない限り、整理解雇は解雇権の濫用として無効とされてきました(4要件説。大村野上事件(長崎地裁大村支部昭和50年12月24日労判242号))が、近時の裁判例では、以上の4つの基準を総合考慮して個別に有効性を判断するようになってきています(4要素説。ワキタ事件(大阪地裁平成12年12月1日)、ナショナル・ウエストミンスター事件(東京地裁平成12年1月21日))。

もっとも、4要素説によっても、上記の4つの基準のうちどれか1つが欠ける場合には、かかる整理解雇は無効とされやすいことに変わりはありません。以下、各基準についてその中身を説明していきます。

(1)①人員削減の必要性

①人員削減の必要性については、裁判上、倒産必至といった高度の必要性までが要請されるものではなく、赤字があるなど高度の経営上の困難から当該措置が要請される、といった程度で足りる、と解されています。

なお、近時は①人員削減の必要性の要素については緩やかに判断しつつも、他の要素については厳格に判断する裁判例も多いといえます。

(2)②整理解雇の手段としての必要性(解雇回避努力義務)

人員削減の手段としての解雇は最後の手段であり、会社は指名整理解雇の実施の前に、採用募集の停止、配転、出向、一時帰休、希望退職の募集等の他の手段によって解雇回避の努力をする信義則上の義務(解雇回避努力義務)を負い、これを欠く整理解雇は無効とされます。

4要素の中でも中核をなす要素であり、裁判でも争点となることが多いといえますが、職種ごとの専門性が高く、配置転換ができない場合などには、例外的に同要素が緩和される場合もあり得ます。

(3)③被解雇者選定の妥当性

1人または複数人の整理解雇がやむを得ない場合であっても、会社は客観的で合理的な基準を設定し、これを公正に適用して被解雇者を選定する必要があります

したがって、そもそも基準を設定せずに行った整理解雇や、主観的で合理性を欠く基準による整理解雇は無効とされる可能性が高くなります。

(4)④手続の妥当性

会社は、労働組合ないし労働者(代表)に対して事態を説明して了解を求め、人員整理の時期・規模・方法等について労働者側の納得が得られるよう努力する必要があります(大村野上事件)。

たとえば、労働組合からの要求があるにもかかわらず経理関係資料等の公開、事業閉鎖の理由や必要性についての客観的資料を伴った具体的な説明を欠く場合には、④手続の妥当性に欠くものと評価される可能性があります。

ご相談のケースについて

ご相談のケースでは、必ずしも事実関係が明らかではありませんが、マーケットの悪化に伴い①人員削減の必要性があったこと、Xに対して再就職活動の援助や特別退職手当等の条件を提示した上で雇用契約の合意解約を申し入れたり、別のポストを提案したりした上で解雇を選択しており、②人員削減の手段として解雇を選択することの必要性(解雇回避努力義務)も認められることからすると、③被解雇者選定の妥当性、④手続の妥当性が認められれば、Xの解雇は解雇権濫用法理に抵触せず、有効と判断されるものと思われます。

5 解雇−営業成績不良社員に対する退職勧奨

【質問】

当社の業績低迷に伴い、営業部門の人員を削減することを検討しています。

人員の削減に当たり、できる限り公平な人選を心がけており、営業成績が低い者から順に候補として選別し、そのうち5名に対して個別に退職を促し、合意退職させる予定です。

このような退職勧奨を行うにあたり、注意すべき点があれば教えてください。

【回答】

退職勧奨による合意退職は、解雇の場合と比べて緩やかな要件で認められるといえますが、その具体的な要件については明確な基準は確立されていません。ご相談のケースでは、営業成績の低い者という客観的な基準に基づき人選をしているため、退職者の選定については合理的といえます。退職勧奨による合意退職について、社員の任意性が認められるよう、退職の勧奨については強圧的な言動をしないよう注意するとともに、退職金の支給についても通常の退職よりも優遇するなど、一定の配慮をすることが望まれます。

【解説】

退職勧奨とは

退職勧奨とは、会社の業績悪化に伴う人員削減のための手段として、会社が個々の社員に対して退職を促すことをいいます。

退職勧奨の結果、解雇という最終手段に至らず、社員と会社との合意による合意退職を実現させることを目的としています。

退職勧奨による合意退職の要件

前述のとおり、退職勧奨による合意退職は解雇ではないため、人員整理の目的ではあっても、整理解雇の4要件(ないし4要素)を満たす必要はない、と解されています(ダイフク(合意退職)事件(大阪地裁平成12年9月8日労判798号))。

もっとも、退職勧奨による合意退職も無制限に行えるわけではなく、社員の自由意志を尊重し、退職の合意形成に任意性が認められることが必要であり、社会的相当性を逸脱した態様での半強制的ないし執拗な退職勧奨行為は不法行為を構成し、当該社員に対する損害賠償責任を生ぜしめうることに注意が必要です(エール・フランス事件(東京高裁平成8年3月27日労判706号))。

なお、退職金の優遇は、上記任意性の判断に際して有力な事情の一つとして考えられており、会社としては、通常の会社規定の退職金に加えて、退職割増金の支払や、再就職支援制度の提供等、有利な退職条件を提示することが考えられます。

裁判例

前述のとおり、退職勧奨による合意退職は、解雇の場合と比べて緩やかな要件で認められるといえますが、その具体的な要件については明確な基準は確立されていません。

これまでに退職勧奨による合意退職の適法性が問題となった主な裁判例を整理すると、概要以下のとおりです。

裁判例 退職勧奨の態様 適法性
日本航空(雇止め)事件(東京地裁平成23年10月31日) 長時間、「いつまでしがみつくつもりなのかなっていうところ」、「辞めていただくのが筋です」、「懲戒免職とかになったほうがいいんですか」等の表現を用いた事例 違法
全日本空輸(退職強要)事件(大阪地裁平成11年10月18日) 30回にわたり、ときに8時間にわたる面談を行い、大声を出したり机をたたいたりした事例 違法
東光パッケージ(退職勧奨)事件(大阪地裁平成18年7月27日) 職場を閉鎖して仕事を奪うだけで、他への配転を検討しなかった事例 違法
サニーヘルス事件(東京地裁平成22年12月27日) 1週間に1回30分程度で7回面談を行い、会社に残っても居場所がなくなるから希望退職に応じた方がよいと繰り返し説得した事例 適法
ダイフク(合意退職)事件(大阪地裁平成12年9月8日) 5名に対して突然面談を行い、選定理由を伝えずに勇退をお願いしたい等と告げたが、回数はいずれも1回程度と少なく、時間も短時間で、従業員らも即答せず、後日回答した事例 適法
UBSセキュリティーズ・ジャパン事件(東京地裁平成21年11月4日) 一部適切さを欠いた言動はあったが、退職勧奨の理由を伝えたこと、従業員が退職を拒否したところ同日退職勧奨を打ち切り、合意退職に向けた話し合いをしたり、他部署への異動の面接を受けることを提案したりするなどしたこと、訴え定期後も給与を支払い続けた事例 適法

ご相談のケースについて

ご相談のケースでは、営業成績の低い者という客観的な基準に基づき人選をしているため、退職者の選定については合理的といえます。退職勧奨による合意退職について、社員の任意性が認められるよう、退職の勧奨については強圧的な言動をしないよう注意するとともに、退職金の支給についても通常の退職よりも優遇するなど、一定の配慮をすることが望まれます。

6 解雇−就業規則における解雇事由に該当しない場合の社員の解雇の可否

【質問】

このたび、当社の社員Xが、当社に無断でライバル会社の役員を兼務し、当社の営業機密等を流用していたことが判明したことから、Xを解雇することを検討しています。

ところが、当社の就業規則では、解雇事由として「業務に堪えられないとき」、「業務効率が著しく劣悪な者」など、社員の職務遂行の不能しか規定しておらず、Xのような競業行為をした場合や非行を行った場合を解雇事由として規定していませんでした。

Xの行為が当社の就業規則上の解雇事由に直接当てはまらない以上、Xを解雇することは認められないのでしょうか。

【回答】

近時の裁判例の動向に照らせば、就業規則上の解雇事由以外の理由で社員を解雇すること自体は可能といえます。

したがって、就業規則上の解雇事由として社員の職務遂行の不能しか規定がない場合であっても、Xの競業行為を理由として解雇することも、それが解雇権の濫用に該当しない限りは認められるものと思われます。もっとも、今後は就業規則の解雇事由に包括条項を追加することが望ましいといえます。

【解説】

就業規則上の解雇事由の意義

解雇事由は、懲戒事由の場合と同様に、就業規則において列挙されているのが一般的です。この点、2003年労基法改正において、企業において解雇事由をあらかじめ明示させるべく、解雇事由を就業規則の絶対的記載事項として規定しています(労基法89条3号)。

多くの就業規則では、具体的な解雇事由を列挙するとともに、「その他やむを得ない事由」や、「前各号に準ずる重大な事由」等の包括条項も解雇事由として規定していることから、通常は就業規則上の解雇事由が限定列挙(当該事由以外の解雇は認められない)なのか、それとも例示列挙(当該事由は例示に過ぎず、その他の事由に基づく解雇も認められる)のかが問題となることはあまりないかと思います。

しかし、ご相談のケースのように、包括条項の定めのない就業規則もあり、その場合、就業規則上の解雇事由の意義が問題となります。

裁判例

就業規則上の解雇事由の意義について、過去の裁判例においては限定列挙と解釈するものが多く見られましたが、最近の裁判例では例示列挙と解釈し、包括条項の定めがない場合でも解雇を認めるケースが増えています。限定列挙と解した裁判例は、以下のとおりです。

裁判例 概要
大阪フィルハーモニー交響楽団事件(大阪地裁平成元年6月29日労判544号) 就業規則の解雇事由として「業務に堪えられない者」など労働者の職務遂行不能のみを解雇事由と定めている場合において、使用者が労働者の競業行為を理由に普通解雇した事案において、解雇事由が限定列挙であると解すべき必然性はなく、また、限定列挙と解した場合、非行により使用者に重大な損害を与えた者ですら解雇できず、不都合な結果を招くことから、例示列挙と解した。
東洋信託銀行事件(東京地裁平成10年9月14日労判757号) 就業規則上、懲戒解雇の規定しかない場合において、従業員としての不適格を理由としてなした普通解雇について、就業規則に懲戒解雇に関する規定しか設けられていないことをもって、就業規則上普通解雇権を一切放棄したということはできないとして、普通解雇を認めた。
ナショナル・ウェストミンスター銀行(三次仮処分)事件(東京地裁平成12年1月21日労判782号) 就業規則の解雇事由として、労働者の職場規律違反行為、適格性の欠如等、労働者に何らかの落ち度があることを内容とする規定がある場合に、労働者に対して整理解雇を行った事案において、解雇自由の原則から、使用者は就業規則所定の普通解雇事由に該当する事実が存在しなくても、客観的に合理的な理由があって解雇権の濫用に当たらない限り雇用契約を終了させることができ、就業規則に普通解雇事由が列挙された場合でも、限定列挙の趣旨が明らかである場合を除き、例示列挙の趣旨と解するのが相当である、とした。

ご相談のケースについて

就業規則上の解雇事由として社員の職務遂行の不能しか規定がない場合であっても、Xの競業行為を理由として解雇することも、それが解雇権の濫用に該当しない限りは認められるものと思われます。もっとも、今後は就業規則の解雇事由に包括条項を追加することが望ましいといえます。

7 解雇−解雇同意約款・協議約款に違反した解雇の可否

【質問】

当社では、労働組合との間で、解雇について、「事前に組合と協議の上、同意を得た上で労働者の解雇を決定する」旨の労働協約を締結しています。このたび、当社の社員Xが当社の顧客情報を盗み、同業他社に転売するという不正行為を働いたことが判明したため、Xを懲戒解雇する方針で検討しています。

ところが、労働協約に従って労働組合との間でXの懲戒解雇について何度も協議を重ねてきましたが、労働組合からは「Xの諭旨解雇はともかく、懲戒解雇は認められない」の一点張りで議論は平行線を辿ってしまっています。

当社としては、社の引き締めを図る意味も含め、Xに対する懲戒処分を断行するつもりですが、労働組合との協議が調わずに行った解雇は無効になるのでしょうか。

【回答】

ご相談のケースにおいて、会社がXの懲戒解雇について労働組合に協議を申し入れ、Xの不正行為を理由に懲戒解雇する旨十分に説明し、協議を行ったにもかかわらず、労働組合が態度を変えずに議論が平行線を辿ってしまったような場合であれば、会社として労働組合の同意を得るよう十分に努力したといえ、解雇同意約款・協議約款に反しない特段の事情があるものとして、Xを懲戒解雇することは可能と思われます。

【解説】

解雇同意約款・協議約款の効力

解雇同意約款・協議約款とは、会社が社員を解雇する際に、労働組合の同意ないし協議を必要とする旨の労働協約条項をいいます。

なお、解雇同意約款が存在する場合でも、解雇の必要性等に鑑み、組合の同意を得るよう十分に協議を尽くせば足りる場合がある一方、協議約款が存在する場合でも、会社は組合の同意が得られるよう十分な協議をすることが必要となるため、両者において実質的な差はないといえます。

解雇同意約款・協議約款に違反した解雇の効力

裁判例に照らすと、解雇同意約款・協議約款に違反した解雇については原則として無効とする一方、①会社が組合の了解を得るよう最大限の努力をした場合、②組合が会社の提案を真剣に検討する姿勢を示さない等、同意権、協議権を濫用していると認められる場合、又は③協議約款に基づく協議を行う労使間の信頼関係が全く存在しない等、「特段の事情」が認められる場合には、組合の了解を得ずに行った解雇も有効とされています。

解雇同意約款・協議約款に違反した解雇の効力が問題となった主な裁判例は、概要以下のとおりです。

裁判例 判旨の概要 結論
ロイヤル・インシュアランス・パブリック・リミテッド・カンパニー事件(東京地裁平成8年7月31日労判712号) 就業規則に「会社が経営上やむを得ないと判断し、労働組合がそれを了承したとき」との解雇条項が規定されている場合において、同条項に定める手続要件を実践することが不可能であるかまたは同規定に定める手続要件の履践を求めることがかえって労働者に酷な結果を招来してしまうというような極めて特殊な事情が存在するなど特段の事情がない限り、労働組合の了承を得る必要があり、これを得ずになした解雇は無効となる。 無効(×)
大阪フィルハーモニー交響楽団事件(大阪地裁平成元年6月29日労判544号) 解雇協議約款の「協議」とは、労使が議論を尽くすことをいうとし、使用者が組合との間で6回協議を行ったものの、終始解雇に固執し、組合の復職要求に一顧だにしなかった事案において、いまだ議論を尽くしたとはいえない、とした。 無効(×)
洋書センター事件(東京地裁昭和61年5月29日労判489号) 労働協約において、労働条件の変更について事前に協議する旨の事前協議約款が規定されている場合に、全組合員3名のうち2名が組合の意思決定を主として行っていたところ、その2名が取締役に対する軟禁、暴行等を理由に解雇対象となっており、その後も旧社屋の不法占拠等を行っていたことから使用者と組合との間の信頼関係が欠如していることを理由に事前協議が到底期待できない特段の事情が存する、とした。 有効(○)
     

ご相談のケースについて

ご相談のケースにおいて、会社がXの懲戒解雇について労働組合に協議を申し入れ、Xの不正行為を理由に懲戒解雇する旨十分に説明し、協議を行ったにもかかわらず、労働組合が態度を変えずに議論が平行線を辿ってしまったような場合であれば、会社として労働組合の同意を得るよう十分に努力したといえ、解雇同意約款・協議約款に反しない特段の事情があるものとして、Xを懲戒解雇することは可能と思われます。

8 解雇−就業規則上の解雇手続の違反と解雇の可否

【質問】

このたび、当社の社員Xが社内で上司に対して暴力行為を働いたことから、Xを懲戒解雇しました。

もっとも、当社の就業規則では、「従業員の懲戒は、賞罰委員会の審査を経て社長がこれを行う」、「委員会が必要と認めた場合又は被審査者から申出があった場合は、被審査者を委員会に出席させて当該事件について陳述させることができる」旨の規定がなされているところ、Xから、「賞罰委員会を開催もせず、また、弁明の機会も与えられずに一方的に解雇されたものであって、超解雇は無効だ」として訴えを提起されてしまいました。

たしかにXの解雇にあたって賞罰委員会を開催しなかったのは事実ですが、賞罰委員会に替わって当社の人事役員等が審査を経た上で社長に報告しており、代替措置はとっていましたし、解雇処分の当時、Xから弁明の機会付与の申し出があったわけでもありません。Xの懲戒解雇処分は有効だったといえるでしょうか。

【回答】

就業規則上に賞罰委員会等への付議が必要とされ、また、弁明の機会を付与することが必要とされているにもかかわらず、かかる手続を経ずに懲戒解雇を行った場合、重大な手続的適正違反として、当該懲戒解雇は原則として無効となります。

もっとも、当該手続に実質的に代替する措置がとられていたのであれば、手続違反の程度が軽微なものとして、懲戒解雇が認められる可能性があります。

したがって、賞罰委員会に替わって会社の人事役員等が審査を経た上で社長に報告するという代替措置がとられており、また、解雇処分の当時、Xから弁明の機会付与の申し出があったわけでもないことも考慮すると、手続違反の程度が軽微なものとして、Xの懲戒解雇は有効と判断される可能性があります。

【解説】

解雇手続の適正

懲戒解雇を行う場合、解雇事由が存在するだけでなく、労働協約又は就業規則に定められた手続を遵守することが必要となります。

具体的には、就業規則上定められた労使代表から構成される賞罰委員会又は懲戒委員会の議を経ること、労働者本人に懲戒事由を伝え、弁明の機会を付与すること等があります。

賞罰委員会等への付議の要否

かかる賞罰委員会等への付議が定められた趣旨は、労働者に重大な不利益を及ぼす懲戒権の行使について手続的適正を及ぼし、慎重を期すことにあります。

したがって、就業規則等に賞罰委員会等への付議が規定されているにもかかわらず、これを経ずに解雇を行った場合、重大な手続違反として、原則として懲戒解雇は無効となります(東北日産電子事件(福島地裁会津若松支部昭和52年9月14日労判289号))。

もっとも、賞罰委員会等への付議が必要的とされていない場合には、かかる委員会での審査を経ずになされた解雇であっても無効とはならない、と解されています(エス・バイ・エル事件(東京地裁平成4年9月18日労判617号))。

また、賞罰委員会等による審査に実質的に代替する手続がとられた場合や、賞罰委員会等に付議しなかったことに合理的な理由がある場合等、当該処分の手続違反の程度が軽微である場合には、当該処分の手続規定違反の程度、当該解雇それ自体の適法性・相当性等を総合的に考慮し、懲戒解雇処分の有効性が判断されることとなります(中央林間病院事件(東京地裁平成8年7月26日労判699号)、東京医療生協事件(東京地裁平成2年12月5日労判575号))。

弁明の機会の付与の要否

また、就業規則等に、使用者が労働者に対して懲戒解雇処分を行う場合、当該労働者に対して弁明の機会を付与する旨の規定があるにもかかわらず、当該弁明の機会を与えずに懲戒解雇を行った場合の有効性についても、前記2.「賞罰委員会等への付議の要否」における議論が同様に妥当します。

なお、使用者が労働者に対して弁明の機会を付与する旨の規定がない場合に、弁明の機会を与えずに解雇した場合、そのことのみで手続上の瑕疵があるものとはいえず、解雇は有効である、とされています(東洋リース(解雇)事件(東京地裁平成10年4月28日労判749号)、日本電信電話事件(大阪淡路支店等)事件(大阪地裁平成7年5月12日労判749号))。

ただし、上記裁判例も、告知聴聞の手続自体を不要とまでしたわけではなく、告知聴聞の手続を欠くことにより解雇が無効となりうる場合があることに留意する必要があります。

ご相談のケースについて

就業規則上に賞罰委員会等への付議が必要とされ、また、弁明の機会を付与することが必要とされているにもかかわらず、かかる手続を経ずに懲戒解雇を行った場合、重大な手続的適正違反として、当該懲戒解雇は原則として無効となります。

もっとも、当該手続に実質的に代替する措置がとられていたのであれば、手続違反の程度が軽微なものとして、懲戒解雇が認められる可能性があります。

したがって、賞罰委員会に替わって会社の人事役員等が審査を経た上で社長に報告するという代替措置がとられており、また、解雇処分の当時、Xから弁明の機会付与の申し出があったわけでもないことも考慮すると、手続違反の程度が軽微なものとして、Xの懲戒解雇は有効と判断される可能性があります。

9 解雇−懲戒解雇事由に基づく普通解雇の可否

【質問】

このたび、当社の社員Xが取引先からの売上げの一部を不正に着服していたことが判明したことから、Xに対する処分を検討しています。

もっとも、Xは退職を間近に控えた、勤続年数40年超に及ぶベテラン社員であり、着服した金額も小額で、全額返還していることから、懲戒解雇ではなく、普通解雇にしようと考えています。

ところが、当社では、就業規則上、懲戒解雇に関する規定はありますが、普通解雇に関する規定がないことが判明しました。このような場合でも、Xを普通解雇することは問題なく認められるでしょうか。

【回答】

裁判例上、就業規則上、懲戒解雇に関する規定しかない場合であっても、普通解雇の要件を満たす場合には、懲戒解雇をせずに普通解雇に留めることも認められています。

したがって、会社は、Xを懲戒解雇せずに、普通解雇することも認められるものと思われます。ただし、以後同様の事態が生じないよう、就業規則を見直し、普通解雇事由も規定することが望ましいでしょう。

【解説】

懲戒解雇と普通解雇の相違

懲戒解雇とは、社員の企業秩序違反を理由に、当該社員を懲戒する目的で行う解雇をいいます。

懲戒解雇も普通解雇も、いずれも使用者が一方的に雇用契約を解約する旨の企業の意思表示という点では同じものといえますが、懲戒解雇の場合、①退職金規程等において退職金を不支給とする旨の規定がある場合が多いこと、②懲戒解雇は、「労働者の責に帰すべき事由」(労基法20条1項但書)に該当するものとして、解雇予告手当を支払わなくてよい場合があること、③実務上、再就職に際して大きな障害となることがあること、という違いがあります。

もっとも、懲戒解雇も懲戒の一手段ですから、就業規則等において具体的に規定する必要があり、就業規則等に規定がない場合には、社員が重大な企業秩序違反行為を行った場合であっても懲戒解雇は認められないこととなります。

懲戒解雇事由に基づく普通解雇の可否

就業規則上、懲戒解雇事由と普通解雇事由が規定されている場合に、社員の行為が懲戒解雇事由及び普通解雇事由双方に該当するときに、会社が当該社員を普通解雇することは問題なく認められています。

この点、就業規則の普通解雇事由に包括条項の定めがある場合に、懲戒解雇事由に該当する社員に対する普通解雇が問題となった事例において、最高裁判例は、「就業規則所定の懲戒事由にあたる事実がある場合において、本人の再就職など将来を考慮して懲戒解雇に処することなく、普通解雇に処することは、それがたとえ懲戒の目的を有するとしても、必ずしも許されないわけではない」と判示しています(高知放送事件(最高裁昭和52年1月31日労判268号))。

これに対して、就業規則上、普通解雇事由の定めがない場合に、懲戒解雇事由に該当することを理由に普通解雇をすることが認められるかは争いがあります。この場合の普通解雇の可否に関する裁判例は、概要以下のとおりです。

裁判例 判決内容
千葉県レクリエーション都市開発事件(千葉地裁平成3年1月23日労判582号) (就業規則の普通解雇事由を限定列挙と解した上で)「就業規則において懲戒解雇事由をもって通常解雇をなし得ないと明確に定められている場合を除いては、懲戒解雇に該当する事由がある場合には通常解雇することができる旨を定めているものと解するのが相当である」
関西トナミ運輸事件(大阪地裁平成9年11月14日労判742号) 「懲戒解雇に該当する事由を根拠に普通解雇にとどめることも当然許される」
東洋信託銀行事件(東京地裁平成10年9月14日労判757号) 就業規則に懲戒解雇に関する規定以外には解雇に関する定めがない事案において、「解雇自由の原則に照らし、(解雇権濫用となる場合を除き)解雇は自由になし得る。」とし、就業規則には懲戒解雇に関する規定しかないからといって、「就業規則上普通解雇を一切放棄し懲戒解雇権しか行使しないこととしたということはできない。・・・懲戒解雇事由に該当する行為があっても懲戒解雇という手段を採らずに普通解雇することはできると解される」

以上のとおり、裁判例においては、普通解雇事由の定めがない場合に、懲戒解雇事由に該当することを理由に普通解雇をすることも認められるものと解している傾向にあるといえます。

ご相談のケースについて

裁判例上、就業規則上、懲戒解雇に関する規定しかない場合であっても、普通解雇の要件を満たす場合には、懲戒解雇をせずに普通解雇に留めることも認められています。

したがって、会社は、Xを懲戒解雇せずに、普通解雇することも認められるものと思われます。ただし、以後同様の事態が生じないよう、就業規則を見直し、普通解雇事由も規定することが望ましいでしょう。

10 退職−留学補助金を返済せずに転職した社員に対する対応

【質問】

当社では、社員の能力開発の一環として、海外留学を希望する社員に対する支援制度を設けています。支援制度の内容は社内規程に盛り込まれており、留学費用及び生活費及び生活費・渡航費全般を会社が負担する一方、留学終了後5年以内に自己都合退職した場合には当該費用を全額返済しなければならない、というものです。

このたび、当該留学支援制度に基づき、2年前にアメリカのロースクールに留学した社員Xから、「新たな職場で自分の能力の限界に挑戦したい」「お世話になりましたが、退職します」との退職希望を受けました。Xが退職するのは止められませんが、当社留学支援規程に基づき、Xに対して会社が負担した留学費用等全額を返還してもらいたいと考えていますが、何か問題があるでしょうか。

【回答】

裁判例上、いかなる場合に留学費用返還契約が労基法16条に違反するかについては、当該海外留学が会社の業務と関連性を有するかがポイントとなります。

ご相談のケースでは詳細な事実関係が明らかではありませんが、たとえばXに留学先選択の自由があり、留学先での専攻科目についても自由に選択でき、留学支援制度への応募もXの自由意志に委ねられており業務命令ではなかった等の事情が認められれば、留学と会社の業務との関連性が否定され、会社はXに対して留学金返還契約に基づき、留学費用等の返還を求めることが可能と思われます。

【解説】

留学費用返還制度と労働法上の問題点

会社が費用を負担して社員に海外留学をさせる場合に、留学後直ちに止められてしまう事態を防止すべく、留学費用を会社が社員に貸与する形式をとり、ただ、留学後一定期間勤続した場合にはその返還を免除する旨の契約・合意を整える場合があります。

この点、労基法16条は、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償を予定する契約をしてはならない」と規定していることから、上記留学費用返還契約が、「労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約」に該当し、同条に違反しないかが問題となります。

労基法16条違反の判断基準

裁判例上、いかなる場合に留学費用返還契約が労基法16条に違反するかについては、当該海外留学が会社の業務と関連性(「業務性」)を有するか否か、が重要な判断基準となっています。

かかる留学費用返還契約と労基法16条違反が問題となった主な裁判例を整理すると、概要以下のとおりです。

裁判例 退職勧奨の態様 適法性
長谷工コーポレーション事件(東京地裁平成9年5月26日労判717号) 留学からの帰国後2年半弱で退職した元従業員に対する留学費用の返還請求に関して、当該留学が業務に直接関係ないことから業務性を否定した事例 適法(○)
野村證券事件(東京地裁平成14年4月16日労判827号) 留学から帰国後、5年以内に退職した場合には留学費用を返還する旨の合意に関して、「弁済・返却」という用語を用いていること、留学が業務に直接関係ないこと等から、業務性を否定した事例 適法(○)
富士重工海外企業研修派遣費用返還訴訟(東京地裁平成10年3月17日労判734号) 留学から帰国後、5年以内に退職した場合には留学費用を返還する旨の合意に関して、海外企業での研修制度について、社員の海外研修が会社の業務遂行のための社員教育の一態様とみられること、研究期間中も業務を行っており、派遣費用は本来会社が負担すべきこと等から、業務性を肯定した事例 違法(×)
新日本証券事件(東京地裁平成10年9月25日労判746号) 留学から帰国後、5年以内に退職した場合には留学費用を返還する旨の留学規程に関して、会社の留学規程中に海外留学は会社による留学派遣命令に基づくものである旨の規定をしていたこと、会社が専攻学科を業務に関連するものに限定していたこと、社員が帰国後には実際に専攻学科で学んだデリバティブの知識を生かした業務に従事していたことから、業務性を肯定した事例 違法(×)

ご相談のケースについて

ご相談のケースでは詳細な事実関係が明らかではありませんが、たとえばXに留学先選択の自由があり、留学先での専攻科目についても自由に選択でき、留学支援制度への応募もXの自由意志に委ねられており業務命令ではなかった等の事情が認められれば、留学と会社の業務との関連性が否定され、会社はXに対して留学金返還契約に基づき、留学費用等の返還を求めることが可能と思われます。

11 解雇−解雇予告義務違反の解雇の効力

【質問】

当社は、配管設備のメンテナンスを中心とする会社ですが、即戦力として2ヶ月前にXを中途採用しました。

しかし、Xは採用時に提出してきた書類や面接時の応答では、過去に配管設備のメンテナンスの実務経験が豊富にあると申告していたものの、実際にはほとんど経験がなく、満足に当社の仕事を回せないことが判明しました。そのため、採用から2ヶ月を経過した時点でXを即時に解雇しました。

ところが、Xは、当社から解雇前に通知も手当てもないまま解雇されたのは法律違反であり、解雇は無効だと主張してきています。当社によるXの即時解雇は無効でしょうか。

【回答】

Xは、会社の業務遂行の上で重要な過去の経歴について詐称しており、その結果会社はXの採用の判断を誤ったといえるため、会社によるXの解雇は「労働者の責に帰すべき事由」によるものとして、解雇予告手続は不要であり、Xの即時解雇は有効と思われます。

なお、仮にXの経歴詐称が「労働者の責に帰すべき事由」に該当しないと判断された場合であっても、会社が即時解雇に固執する趣旨でなければ、解雇通知の日から30日を経過したとき、又は適法な予告手当てを支払った場合には、そのときからX解雇の効力が生じます。

【解説】

解雇予告義務

労基法20条1項本文は、「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも三十日前にその予告をしなければならない。」と規定しており、会社は社員を解雇しようとする場合、原則として少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金を支払う必要があります(労基法20条2項)。

解雇予告義務の除外事由

もっとも、①「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」又は②「労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合」は、例外的に解雇予告若しくは予告手当ての支払は不要とされています(労基法20条1項但書)。

なお、①「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」とは、(a)天災事変等やむを得ない事由があり、かつ、そのために(b)事業の継続が不可能となった場合でなければならず、(a)(b)いずれかしか満たさない場合(たとえば、(a)天災事変等のやむを得ない場合であっても、事業の継続が可能な場合)は、①の例外に該当しないことに注意が必要です。

また、②「労働者の責に帰すべき事由」とは、労働者において、解雇予告手続により保護されるに値しないほど重大又は悪質な服務規律違反あるいは背信行為を意味し、いかなる場合にかかる「労働者の責に帰すべき事由」に該当するかは、個別事案ごとに判断されることとなります。明確な判断基準は確立されていませんが、給排水設備の維持管理を業とする会社に、給排水工事についてあまり経験がなかったにもかかわらず、経験豊富かのような虚偽の申告をし、これを信用した会社が経験者として採用したところ、当該労働者が十分に仕事をこなせなかった事案において、裁判所は、「X(労働者)はY(使用者)において雇い入れをするかどうか、あるいはどのような条件で雇用するかを決するための重要な判断根拠となる事項について虚偽の申告をし、これを信用したYに、労働条件の決定を誤らせたものであるが、このような事情は、労基法20条1項但書の労働者の責に帰すべき事由に当たるというべきである」と判示しています(環境サービス事件(東京地裁平成6年3月30日労判649号))。

なお、上記解雇予告の除外事由については、行政官庁(労働基準監督署長)の認定を受ける必要があります(労基法20条3項、19条2項)が、除外事由に該当する事実があれば、たとえ行政官庁の認定を受けなかったとしても解雇の効力に影響はないものと解されています(ただし、罰則の対象とはなります(労基法119条))。

解雇予告義務違反の解雇の効力

問題は、解雇予告手続の除外事由に該当する事実がなかったにもかかわらず、解雇予告又は予告手当てなしに即時解雇がなされた場合の当該解雇の効力です。

この点、最高裁判例は、使用者が労基法20条1項の解雇予告義務に違反した場合の解雇の効力について、「使用者が労働基準法20条所定の予告期間をおかず、または予告手当の支払をしないで労働者に解雇の通知をした場合、その通知は即時解雇としては効力が生じないが、使用者が即時解雇を固執する趣旨でない限り、通知後、同条所定の30日の期間を経過するか、または通知の後に同条所定の予告手当の支払いをしたときは、そのいずれかのときから解雇の効力を生ずるものと解すべきであ」る、と判示しています(細谷服装事件(最高裁昭和35年3月11日))。

ご相談のケースについて

Xは、会社の業務遂行の上で重要な過去の経歴について詐称しており、その結果会社はXの採用の判断を誤ったといえるため、会社によるXの解雇は「労働者の責に帰すべき事由」によるものとして、解雇予告手続は不要であり、Xの即時解雇は有効と思われます。

なお、仮にXの経歴詐称が「労働者の責に帰すべき事由」に該当しないと判断された場合であっても、会社が即時解雇に固執する趣旨でなければ、解雇通知の日から30日を経過したとき、又は適法な予告手当てを支払った場合には、そのときからX解雇の効力が生じます。

12 解雇−懲戒解雇に係る訴訟係属中に予備的に普通解雇を主張することの可否

【質問】

このたび、当社の社員Xが通勤経路を偽って申告し、過大に通勤手当てを受け取っていたことが判明したことから、Xを懲戒解雇することとしました。ところが、懲戒解雇されたXから、懲戒解雇は無効であるとの訴訟が提起されてしまいました。

Xは通勤手当てをだまし取っていただけでなく、日常の勤務態度も著しく不良であったことから、普通解雇事由にも該当するものとして、予備的に普通解雇も主張しようと思いますが、このような主張は認められるでしょうか。

【回答】

裁判例上、懲戒解雇を普通解雇へと転換することは否定的に解されていますが、懲戒解雇が争われた訴訟の係属中に、懲戒解雇事由をもって普通解雇事由に該当するものとして普通解雇を予備的に主張することは認められています。

ただし、普通解雇がなされるまでは雇用関係は継続していたこととなるため、会社は社員に対してその間の賃金を支払う必要があることに注意が必要です。

【解説】

懲戒解雇と普通解雇の相違

懲戒解雇とは、社員の企業秩序違反を理由に、当該社員を懲戒する目的で行う解雇をいいます。

懲戒解雇も普通解雇も、いずれも使用者が一方的に雇用契約を解約する旨の企業の意思表示という点では同じものといえますが、懲戒解雇の場合、①退職金規程等において退職金を不支給とする旨の規定がある場合が多いこと、②懲戒解雇は、「労働者の責に帰すべき事由」(労基法20条1項但書)に該当するものとして、解雇予告手当を支払わなくてよい場合があること、③実務上、再就職に際して大きな障害となることがあること、という違いがあります。

もっとも、懲戒解雇も懲戒の一手段ですから、就業規則等において具体的に規定する必要があり、就業規則等に規定がない場合には、社員が重大な企業秩序違反行為を行った場合であっても懲戒解雇は認められないこととなります。

懲戒解雇を普通解雇へ転換することの可否

前述のとおり、懲戒解雇と普通解雇とは相違点があるものの、いずれも使用者が一方的に雇用契約を解約する旨の企業の意思表示という点では同じものとして、懲戒解雇を普通解雇へと転換することが認められるとも思われます。

もっとも、近時の裁判例の多くは、懲戒解雇を普通解雇に転換することを否定しています。

裁判例 内容
硬化クローム工業事件(東京地裁昭和60年5月24日) 就業規則の懲戒解雇事由に「無断欠勤14日を超えるもの及びはなはだしく職務に不熱心な者」との定めがある場合において、17日間欠勤した労働者を懲戒解雇した事案について、無断欠勤14日を超える者には該当するが、それだけでは職務不熱心であるとは認められず、懲戒解雇事由には該当せず無効であるとした上で、懲戒解雇は無効であるとしても普通解雇としての効力を有するとの主張に対して、「解雇の意思表示は使用者の一方的な意思表示によってなされるものであるから、これに右のような無効行為の転換のごとき理論を認めることは相手方の地位を著しく不安定なものにすることになり許されない。」とした。
与野市社会福祉協議会事件(浦和地裁平成10年10月2日労判750号) お茶汲み拒否等の軽微な言動を理由とする懲戒解雇が争われ、使用者が予備的に普通解雇への転換を主張した事案について、懲戒解雇は懲戒権の濫用として無効とした上で、普通解雇への転換の主張については、「制裁としての懲戒解雇と普通会ことでは趣旨が異なり、かような無効行為の転換を認めれば、相手方の地位を著しく不安定なものとするばかりか安易な懲戒解雇を招来することにもなりかねず、本件懲戒解雇をもって普通解雇の意思表示に転換することは許されない」として、普通解雇への転換を否定した。
予備的に普通解雇を主張することの可否

以上のとおり、裁判例に照らすと、懲戒解雇を普通解雇へ転換することは否定的といえますが、一方で、懲戒解雇と普通解雇は、その要件・効果が異なることから、懲戒解雇事由に該当するとしてなした懲戒解雇について、処分として過大であり懲戒解雇としては無効であるとしても、当該事由が普通解雇事由に該当するとして、予備的に普通解雇を主張することは認められています。したがって、懲戒解雇が争われて訴訟になっているケースにおいて、訴訟係属中に、懲戒解雇とした事由をもって、普通解雇事由に該当するものとして普通解雇とすることも可能とされています(三菱重工相模原製作所事件(東京地裁平成2年7月27日労判568号))。

ただし、普通解雇がなされるまでは雇用関係は継続していたこととなるため、会社は社員に対してその間の賃金を支払う必要があることに注意が必要です。

 

参考文献

菅野和夫「労働法第十一版」(株式会社弘文堂)

(注)本記事の内容は、記事掲載日時点の情報に基づき作成しておりますが、最新の法例、判例等との一致を保証するものではございません。また、個別の案件につきましては専門家にご相談ください。