解説動画

こちらのコラムは、当事務所のYouTubeチャンネル「リーガルメディア企業法務TV」で解説動画が公開されております。

チャプター
  • この動画の視聴にかかる時間:約14分
  • 00:00:ごあいさつ
  • 00:39:本動画でお伝えしたいこと
  • 00:55:リーガルメディアのご案内
  • 01:11:相談事例
  • 01:52:解雇の法的性質
  • 02:42:整理解雇の4要件
  • 04:07:1 人員削減の必要性 整理解雇の4要件
  • 05:55:2 解雇回避努力義務 整理解雇の4要件
  • 07:14:3 被解雇者選定の妥当性 整理解雇の4要件
  • 08:54:4 手続の妥当性(労働者との協議・説明) 整理解雇の4要件
  • 09:39:コロナウィルス感染症対応による整理解雇の可否
  • 13:01:まとめ
  • 13:45:弁護士法人長瀬総合法律事務所のサポート内容

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ポイント

  1. 解雇には解雇権濫用法理が適用される
  2. 整理解雇が認められるためには、4要件を満たす必要がある
  3. 整理解雇の要件は厳しく、できる限り事業継続・雇用維持の途をさぐることが求められる

相談事例

当社はスポーツジムを経営しています。新型コロナウイルス感染症対応のために会員数の減少に歯止めがかかりません。

施設の賃料や人件費等、多額の固定費がかかっていることもあり、このままでは毎月大幅な赤字のために経営を継続できる見通しが立ちません。現在は従業員が数十名いますが、解雇せざるを得ないと考えています。

新型コロナウイルス感染症対応のための経営悪化についてはどうしようもなく、解雇もやむを得ないものとして認められるでしょうか。

回答

企業が採用内定通知を出した時点で労働契約が成立したと認められる傾向にあるところ、本件でも企業と内定者との間で労働契約が成立していると解される可能性が高いといえます。

企業と内定者との間で労働契約が成立している場合、内定取消を行うことは、内定取消の意思表示は解雇にあたり、解雇権濫用法理が適用されます。

企業は、安易に内定取消をできるわけではなく、この理はコロナウイルス感染症対応による経営環境悪化の場合でも変わりません。経営環境悪化による解雇の場合には、整理解雇に該当すると考えられますが、整理解雇の4要件を満たすかどうかを慎重に検討する必要があります。

企業としては、できる限りの経営努力を重ねることが求められますが、場合によっては内定者と協議し、内定の合意解約も視野に入れることになるでしょう。

解説

解雇の法的性質

解雇とは、会社が一方的に社員との労働契約を終了させることをいいます。

解雇は無制限に認められるものではなく、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と規定しています(解雇権濫用法理)。(労働契約法16条)

整理解雇の4要件

新型コロナウイルス感染拡大による経営状況悪化を理由とする解雇は、整理解雇に該当することになります。

整理解雇とは、会社が経営不振の打開等、経済的理由から余剰人員削減を目的として行う解雇のことをいいます(「整理解雇」の詳細については、下記の解説もご覧ください)。

整理解雇が認められるための要件については多数の判例が出されており、その中で整理解雇の正当性判断に関する4つの基準が確立されています。具体的には、以下の4つの基準が挙げられます。

  1. 人員削減の必要性
  2. 人員削減の手段として解雇を選択することの必要性(解雇回避努力義務)
  3. 被解雇者選定の妥当性
  4. 手続の妥当性(労働者との協議・説明)

上記4要件を詳述すれば、以下のとおりです。

1 人員削減の必要性

人員削減措置が企業経営上の十分な必要性に基づいていること、ないしはやむを得ない措置と認められることをいいます。

判例上、人員削減の必要性の程度は、①人員削減をしなければ企業が倒産必至または近い将来の倒産が予見される状況にあることまで要するとするもの、②客観的に高度な経営危機から人員削減措置が要請されることを必要とするもの、③そこまでは要せず、企業の合理的運営上の必要性があれば足りるとするもの、④業務の廃止による組織変更のため、ポストがなくなった者がいればよいとするもの等に分類されます。

人員削減の必要性の判断には、収支や借入金の状態、受注・生産量、資産状況のほか、人件費や役員報酬の動向、新規採用・臨時工などの人員動向、業務量、株式配当などが考慮要素となります。

また、人員削減計画等によって示された余剰人員を超えて整理解雇をした場合、その超えた部分の人員削減については必要性が否定される方向にあります。

2 解雇回避努力義務

使用者は、経費削減(役員報酬を含む)、新規採用の停止、労働時間短縮や賃金カット、配転、出向、一時帰休、希望退職募集など他の雇用調整手段によって解雇回避の努力をする信義則上の義務を負います。

希望退職募集をせずに指名解雇した場合には、解雇回避努力義務を尽くしていないと判断される傾向にあります。また、希望退職募集をしただけでは、誠実な解雇回避努力を行ったとはいえないことにも留意が必要です。

また、配置・出向がなされず、その検討もされていないことを理由に、解雇回避努力が尽くされていないと判断されることもあります。

その他、役員報酬の減額をしたかどうかが整理解雇の有効性に影響するとされた裁判例もあります。(日本通信事件・東京地判平24.2.29)

3 被解雇者選定の妥当性

被解雇者の選定は、客観的に合理的な選定基準を事前に設定し、公正に 適用しなければなりません。

なお、選定基準が設定された趣旨と当該選定基準が不整合である場合、選定基準の合理性が否定されることがあります。

具体的な人選基準選定基準には、①勤務成績や能力等の労働力評価を基準とするもの、②勤続年数などの企業貢献度を基準とするもの、③年齢を基準とするもの、④労働者の再就職可能性や家計への打撃など労働者の生活評価を基準とするもの、⑤労働者の雇用形態を基準とするものなどがあります。いずれの基準が合理的といえるかどうかは、事案の具体的事情に応じて、個別に判断することになります。

なお、雇用形態に着目して、正規労働者よりも非正規労働者を優先的に解雇する基準の合理性を肯定する裁判例もあります。

4 手続の妥当性(労働者との協議・説明)

使用者は、労働組合や労働者に対して、整理解雇の必要性とその内容(時期・規模・方法)及び解雇に対する補償内容などについて納得を得るために説明を行い、誠意をもって協議すべき信義則上の義務を負います。(労働契約法4条1項)

5 コロナウイルス感染症対応による整理解雇の可否

新型コロナウイルス感染症対応による経営悪化の場合であっても、整理解雇の4要件は妥当するものと考えられます。

新型コロナウイルス感染症による整理解雇に関し、厚生労働省は、厚生労働省が公表する「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」(令和2年4月17日時点)において、タクシー事業者のケースを引き合いに出しながら、以下のように見解を述べています。

問12 タクシー事業者ですが、乗客が減少して苦境にあります。この状況を乗り切るため、雇用調整助成金をもらって運転者の雇用を維持するのではなく、運転者を一旦解雇して失業手当を受給してもらい、需要が見込めるようになったら再雇用することを考えています。

タクシーは、日常の移動に欠かすことができない公共交通機関です。このため、タクシー事業者の事業継続は重要であり、運転者の雇用の維持を図ることは大変重要です。雇用の維持に向けた努力が十分になされることを期待しています。

<解雇について>
〇雇用の維持は社会的にも極めて重要であり、政府としては、需要の急減による経営不振等の場合であっても、事業主の雇用継続のための努力を全力で支える方針です。
〇司法でも、解雇が、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、解雇は無効になるとの考えで一貫しています。
〇やむを得ず解雇をする場合であっても、原則として、少なくとも30日前に解雇の予告をするか、解雇予告手当(30日分以上の平均賃金)を支払うことが必要です。

上記厚生労働省の見解は、新型コロナウイルス感染症対応による急激な経営悪化を理由に従業員を大量に解雇したタクシー会社の事例を念頭に置いているものと思われますが、整理解雇の可否については判断を示していません。

結局のところ、新型コロナウイルス感染症対応による経営悪化を理由に整理解雇を検討する場合には、上記4要件を念頭に置きながら、慎重に進める必要があることに変わりはないといえます。

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