派遣元会社が受けるクレーム

派遣会社に寄せられるクレームは派遣社員からのものや派遣先会社からのものがあります。

派遣社員は、短期でも長期でも、これまでの自分の経験や能力・スキルを活かして時間単位で仕事をするという働き方であるため、働き方に対する主張が強くなりがちという傾向があります。

また、受入側である派遣先会社としても、派遣社員の場合は、即戦力として穴埋め的に人材を受け入れることが多く、自社の正社員を中途採用する場合とは異なり、教育・研修その他必要なケアを十分に行わないこともあります。

そのため、両者の間には溝ができることも珍しくはなく、派遣社員、派遣先会社双方からのクレームが派遣元会社に入ることになります。

派遣社員からのクレーム対応

派遣社員からのクレームは、派遣先での就業環境に関するもの、労働時間・休日・給与に関するもの、とほとんどが労務に関連するものになります。まずは日々派遣社員と接する機会の多い現場担当者が派遣法や労働法について正確な知識を持ち、説明できるようになることが大切です。また、派遣社員のよりどころは、雇用主である派遣元会社であることも忘れずに派遣社員の気持ちも受け入れるようにしましょう。日ごろからのコミュニケーションがクレームを減らすポイントになります。

派遣先会社からのクレーム対応

派遣先会社からのクレームは、派遣社員の就業態度や能力に関するものから、派遣社員が原因で派遣先会社に損害を及ぼしてしまったというものまで様々です。派遣社員の就業態度や能力についてクレームがあった場合は、派遣社員の選任監督義務を有する派遣元会社が派遣社員本人を教育指導したり、それでも改善しない場合は別の派遣社員を派遣するなどして対応します。深刻なクレームは、派遣社員の横領や、ミスにより派遣先会社に損害が生じてしまった場合です。こちらについて、以下詳しく説明いたします。

派遣先会社から損害賠償等を求められた場合の対応

派遣元会社の使用者責任

派遣社員を雇用しているのは派遣元会社になりますので、従業員である派遣社員が業務上第三者に損害を与えた場合は、民法715条の規定に従い、使用者である派遣元会社がその責任を負うことになります。

「過失相殺」の主張について

前述のように派遣社員を雇用しているのは派遣元会社になりますが、実際の業務は派遣先会社で行われており、派遣先会社の上司である指揮命令者や派遣先責任者の監督のもと業務を行っています。つまり、派遣元会社の関与は限定的であるため、何かあった場合に派遣元会社だけが責任を負うのは不適切です。

そこで、派遣元会社が派遣先会社から損害賠償を請求された場合には、過失相殺を主張し、損害賠償額を減額を求めることができます。

派遣社員の行為の類型による対応の違い

派遣社員が不正行為により派遣先会社に損害を発生させた場合

当然、不正行為を行った派遣社員が責任を負いますが、雇用している派遣元会社も責任を問われることになります。但し、その場合であっても過失相殺の主張により派遣元会社だけが損害を全額負担することにはなりません。東京地方裁判所平成15年10月22日の判例でも、派遣元会社の負う損害賠償の割合は、全損害の5割程度となっています。

派遣社員がミスにより派遣先会社に損害を発生させた場合

派遣社員のミスによって派遣先会社に損害が発生した場合については、参考にすべき明確な判例も出ていませんが、ケースにより、派遣元会社がある程度損害を負担する場合と全く負担しない場合に分けられるものと考えられます。

リスク対策とまとめ

派遣社員の行為により派遣先会社から損害賠償請求をされた場合に備えて、リスクを軽減するための対策をとっておきましょう。具体的には、①派遣先会社と派遣元会社とで締結する契約書内で、派遣元会社が責任を場合の金額の上限を定める等の対策をします。②派遣社員には金銭や有価証券を取り扱わせないことや、やむを得ず取り扱わせる場合には取り扱いの上限や管理方法、事故があった際の責任配分について契約を締結します。③派遣社員の責任を追及する際のことも念頭に置き、事前に住民票を確認したり、身元保証契約を締結したり対策をとっておきます。

実際に訴訟になった場合に、弁護士に対応を依頼するのはもちろんですが、顧問弁護士であれば、派遣先会社との契約締結段階から相談にのることができます。些細なことでも、不安なこと、お困りのことがあればぜひ当事務所にご相談ください。