はじめに

企業経営者の皆さまにとって、労働者との雇用契約は避けて通れない重要な課題です。雇用契約書を作成しないまま労働者を雇用した場合、どのようなリスクが生じるのでしょうか。また、契約書を作成することでどのようなメリットがあるのでしょうか。本稿では、雇用契約書がない場合のリスクや違法性、さらには契約書を作成することの重要性について解説します。

Q: 雇用契約書を作成していない場合、法的に問題はありますか?

A: 雇用契約書がないからといって、直ちに違法になるわけではありません。雇用契約自体は、労働者が働くことを約束し、使用者がその労働に対して報酬を支払うことで成立します。この契約は口頭でも有効であり、契約書がなくても法律上は契約が成立します(民法第623条)。しかし、企業には労働条件を明示する義務があり、この義務を怠ると労働基準法違反となる可能性があります。特に、労働条件通知書を交付しない場合や、必要な労働条件を明示していない場合、使用者は罰金を科されるリスクがあります(労働基準法第15条、第120条)。

雇用契約書の作成はなぜ重要か?

雇用契約書を作成しないことが違法でないとしても、労働者と使用者の間でトラブルを防ぎ、信頼関係を築くためには、雇用契約書を作成することが重要です。以下では、雇用契約書を作成することの具体的なメリットについて解説します。

1. 信頼関係の構築

労働者にとって、労働条件が曖昧なままでは不安が残ります。労働条件が明確に記載された雇用契約書を交付することで、労働者は安心して業務に取り組むことができます。これにより、労働者と使用者の信頼関係が強化され、労働者が安心して職務を遂行することが可能になります。信頼関係がしっかりと築かれることで、労働者のモチベーションが向上し、業務の効率も高まることが期待できます。

2. 企業のイメージ向上

雇用契約書がないことで、労働者に不満が生じやすくなります。この不満が広がれば、企業の評判に悪影響を及ぼす可能性があります。特にSNSが普及している現代では、労働者の不満が瞬時に広まり、企業のイメージダウンに直結するリスクがあります。契約書を交付し、労働者に対して誠実な対応を行うことで、企業の社会的評価が向上し、優秀な人材の確保にもつながります。

3. トラブル防止と企業のリスク管理

雇用契約書は、労働者と使用者の間で発生しうる誤解やトラブルを防ぐための重要なツールです。契約書に労働条件が明確に記載されていれば、後に「言った、言わない」の争いを防ぐことができます。さらに、業務内容や賃金、勤務時間、試用期間など、詳細な条件が契約書に記載されていることで、万が一のトラブル発生時に企業を守る役割も果たします。

例えば、特定の業務内容について労働者が拒否した場合、契約書にその業務が記載されていれば、使用者は業務命令としてその業務を指示することが可能です。また、試用期間の設定や固定残業代の取り決めについても、雇用契約書に明確に記載しておくことで、企業側のリスクを最小限に抑えることができます。

Q: 雇用契約書がない場合、企業にはどのようなデメリットがありますか?

A: 雇用契約書を作成しないことによって、企業には多くのデメリットが生じます。

1. 労働条件の曖昧さによるトラブル

口頭で労働条件を合意している場合、「言った、言わない」の争いが発生しやすくなります。このようなトラブルが発生すると、企業側にとって大きな負担となり、最悪の場合、法的な紛争に発展する可能性もあります。契約内容が曖昧であるため、使用者が意図した通りに労働者に指示を出すことが難しくなることもあります。

2. 業務命令権の制限

使用者は、雇用契約や就業規則に基づいて労働者に業務命令を出す権利を持っています。しかし、雇用契約書がない場合、その権利の範囲が不明確になり、労働者に対して適切な業務命令を出すことが難しくなります。結果として、業務の効率が低下し、企業全体の生産性にも影響を及ぼす可能性があります。

3. 試用期間の設定におけるリスク

試用期間とは、労働者が企業の業務に適しているかどうかを評価する期間ですが、これを明確に定めていないと、後々トラブルが発生することがあります。特に、試用期間が終了した後に労働者を解雇する場合、その理由が明確でなければ、労働者から不当解雇として訴えられるリスクが高まります。雇用契約書に試用期間の条件を詳細に記載することで、このようなリスクを回避することができます。

4. 配置転換や転勤に関する問題

労働者の職務内容や勤務地を変更する際に、雇用契約書にその可能性を明記していない場合、労働者の同意を得ることが難しくなることがあります。配置転換や転勤に伴うトラブルは、企業にとって大きな問題となり得ます。契約書にあらかじめこれらの条件を明記しておくことで、トラブルの発生を未然に防ぐことができます。

Q: 労働者にとって雇用契約書がない場合、どのようなデメリットがありますか?

A: 雇用契約書がないことで、労働者にもデメリットが生じます。

1. 労働条件の不明確さによる不利益

労働者にとって、労働条件が口頭でしか説明されていない場合、その内容が不明確であることが多く、不安が残ります。例えば、給与や勤務時間、休日、業務内容などが曖昧であると、後になってトラブルが発生することがあり得ます。このような状況では、労働者が自分の権利を主張する際の証拠が乏しくなり、不利益を被る可能性があります。

2. 権利主張時の証拠不足

労働者が企業に対して権利を主張する際、契約書がないと証拠として提示できるものが限られてしまいます。これにより、給与未払いの請求や残業代の請求が認められにくくなり、最終的には労働者が不利な立場に立たされる可能性があります。

3. 有利な労働条件の無効化

個別の雇用契約で、就業規則よりも有利な条件が定められていた場合、その内容が契約書に明記されていないと、その条件が無効となり、就業規則の範囲内でしか認められない可能性があります。これは、労働契約法第7条で定められています。契約書がないことで、労働者が享受すべき有利な条件が失われるリスクがあります。

Q: 雇用契約書の作成時期と変更について教えてください。

A: 雇用契約書は、通常、雇用契約が成立した時点で作成されます。契約書を作成しないまま就業を開始させるのは好ましくなく、早急に契約書を取り交わすことが重要です。契約内容を途中で変更することも可能ですが、労働者と使用者の双方が同意することが前提です(労働契約法第8条)。変更内容が労働者に不利益をもたらす場合は、その同意が自由意思に基づくものであることが必要です。こうした変更は、新たな契約書を作成するか、覚書として記録する方法が一般的です。

弁護士に相談するメリット

雇用契約書の作成は法律的に複雑な面も多く、特に企業独自の事情を考慮した内容を盛り込むには専門知識が求められます。弁護士に相談することで、法令に準拠しつつ企業のニーズに合った雇用契約書を作成でき、後々のトラブルを未然に防ぐことが可能です。弁護士法人長瀬総合法律事務所では、企業の雇用問題に関する豊富な経験を基に、最適なアドバイスを提供します。

まとめ

雇用契約書は、企業と労働者の間で信頼関係を築き、トラブルを防止するために不可欠なツールです。契約書がない場合、企業側には法的リスクが伴い、労働者側も不利益を被る可能性があります。雇用契約書を適切に作成し、法的に有効かつ実務的に使いやすい形にすることが重要です。弁護士法人長瀬総合法律事務所では、雇用契約書の作成や労働条件の見直しについて、専門的なアドバイスを提供しています。契約書の作成に不安がある場合は、ぜひご相談ください。


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